ミヤビ「世界でひとりアイツだけが本当に救助隊としてエクリプスに乗っていたのよ」
タツミ「エクリプス……お前は……最速なんだろう! なら…今度は…”間に合わせて”みせろ!」
機体データ
概要
オーブ連合首長国のモルゲンレーテ・エアロテック社が極秘裏に開発したワンオフ仕様のモビルスーツ(MS)。所属はオーブ国際救助隊「ODR」、専属パイロットはタツミ・ホーリ。
機体名の「エクリプス」とは、「日食」や「月食」など天文現象における「蝕」を意味する英語であり、「オーブのシンボルである太陽が陰る」ことになぞらえて、「もし表沙汰になればオーブを闇に落とすもの」というニュアンスが込められている。
そのため、ヤキン・ドゥーエでの終戦後、戦後の混乱に介入し大規模化する前に「紛争の火種自体をなかったことにする」ことを目的とした一騎当千の機体として開発されたが、その過剰戦力のために書類上は存在しない機体とされた。
戦闘機型MA形態への変形機構を持つ可変機で、最高速度は音速を超えるほどであり、C.E.72年までのMS・MAにおいて比類ないほどの圧倒的な最速である。一方、MS形態ではエールストライクのようにホバーや短時間の対空こそ可能だが、第一次連合・プラント大戦後期に登場したハイエンド機らのように空中を自在に飛行することはできない。また、MA形態時の最高速こそ最速だが、そこまで加速するには時間を要するため機動性と加速性に優れた一部の機体には加速前に追い付かれる。
フェイズシフト装甲と両腕部のビームシールドによって高い防御力を持ち、多彩な任務に対応するため背部にストライカーパックシステムに対応したコネクタを備えている。さらに、ビームシールドによる物理的な盾の廃止や、大型装備の非搭載により、高速飛行のための軽量化が図られており、ZGMF-Xシリーズのフレームによる機体強度の確保もあって大型な機体でありながら重量はむしろ他のMSより軽くなっている。
一方、一騎当千の任務内容に対して武装面が貧弱という矛盾点が生じており、この点はストライカーパックを必要に応じて追加装備できることで対処された。そのためか、ストライカーパックは基本装備ではなく追加のオプションの位置付けとなっており、ストライクやインパルスとは異なり本体の標準装備もそれらよりは充実している。
生産性がはじめから無視されており、代替パーツを含めて2機分しか存在しない。この代替パーツは政治的パフォーマンスとして核エンジンを組み込んだ2号機として組み立てられて保管されていた。
本記事では特筆しない場合1号機に関して記載する。
開発経緯
オーブは中立の島国として領空を限られた軍事リソースで守り切る必要性があり、「敵先制攻撃の本土到達前の迎撃」のための航空戦力の増強がC.E.60年代から検討が続けられて来た。それと同時に、「敵国が攻撃姿勢を整えた段階で攻撃を開始する、超長距離、超高速度、超高高度からの敵基地攻撃能力」が強調され、その運用方針には「敵国への核攻撃」の可能性すらも含まれていた。それは、オーブの中立国としての理念を根底から揺るがす思考だったが、「いかなる国とも結ばない」を国是とした方針を守るために研究開発が進められた。上述した「エクリプス」という名前はこれに由来している。
従来は、MSではなく戦略爆撃機として計画されたものであり、その存在が明らかになれば、オーブの基本理念すら失墜するとして最高機密の一つに指定された。それでも、長らく仮想戦略の領域において研究が進められており、C.E.70年以降の動乱とC.E.71年6月15日のオーブ解放作戦により主権を奪われ、実質的に占領下に置かれるという国家的屈辱を味わったことを契機として、本格的な開発が行われた。なお、開発時のオーブは連合による支配下にあったため、表沙汰には「救助隊の特殊機体」の名目かつ、五大氏族のキオウ家の管理下のもと、軍部ではなく外務省(こちらもキオウ家担当)の管轄で行うという念の入ようで秘匿されていた。また、元が戦闘機として開発されたものだったため、開発はモルゲンレーテ社ではなく航空機を専門とするモルゲンレーテ・エアロック社の受け持ちとなった。
同国の量産機であるMVF-M11C ムラサメとは開発元が異なるため技術的な繋がりこそ無いが、可変機の強みを示した先輩的な存在とも言える。
操縦性
多彩な機能を持つ上にOSも専用設計なことから、開発人曰く「とてつもなくクセのある機体」となっている。そのため、専用の操縦者適合試験用シミュレーターが存在しており、これを用いてパイロットの選定を行った。
選定時、偶然シミュレーター(厳密には流出したシミュレーションデータを実装した別用途のシミュレーター)を使うことになったタツミ・ホーリの神経網適合率が98%だったことから、80%のケン・ノーランド・スセを差し置いて専属パイロットとして選抜されるに至った。タツミは「エクリプス操縦という一点のみに特化した天然のコーディネイター」とも評され、自身の身体を動かすのと同じ感覚で本機を操縦できる。
また、MA形態時には音速さえ超えるほどの速度が出ることからパイロットへ多大な負担をかける。この負担に対して身体的には一般ナチュラルであるタツミは対Gスーツと投薬込みでも耐えきることができておらず、本機を唯一自在に動かせる専属パイロットが本機の性能を発揮するに際して最大のボトルネックとなっている。これをウミト・ミツ・キオウは「完全でありながら完璧ではない」、ジョエル・ジャンメール・ジローは「その機体の最大の弱点はキミなんだよ」と評した。
機体構成
モルゲンレーテ社がフリーダムを修復した際に採取したデータを基礎としており、フリーダムとはパーツ単位にて高い互換性を有する。劇中では、これを活かしてフリーダム修復用のパーツを流用して修復を行っている。
全高22.18m、頭頂高19.8mとC.E.72年までに開発されたMSの中では最大級の大きさだが、これは一回り長い脚部と頭部の補助翼によるものであり、胴部周り(特に腹周り)は大きさも形状もフリーダムと似ている。
フレーム構造
フリーダムが持つ、MSにおける一つの到達点とされたフレーム構造を徹底的に検証、再現したことによりMA形態、MS形態のどちらにおいても高い耐久力を誇り、可変MSの欠点である近接戦闘時の脆弱性を克服するほどの強靭さを実現した。また、その洗練された構造は同年代でも最高クラスの動きを可能とした。
コックピット
フレーム同様設計を流用しており、フリーダムと同じく胸部に位置しており、同様の昇降形式となっている。さらに、ZGMF-Xシリーズとは同一規格になっており、マルチロックオンシステムにも対応している。
耐衝撃対策が施されており、要塞を破壊するほどのリニアガンを撃ち込まれてもパイロットが失神することはない。
OS
本機用に専用設計されたものを搭載している。OSの起動画面は、アカツキに採用されたオーブ製OSに類似している。
機密保持および悪用防止の一環として自壊プログラムが組み込まれており、1週間ごとにマスタープログラムから再インストールしなければシステムそのものが自己崩壊するようになっている。仮に、システムが自己崩壊すると運動性はよちよち歩きが精々となり、火器管制も機能しなくなるため固定砲台にさえなれなくなる。このマスタープログラムはキオウ家の管理の下、ミヤビ・オト・キオウに委ねられている。
頭部
GAT-XシリーズやZGMF-Xシリーズのように、走査性能に優れたツインアイとV字型アンテナを採用している。特にアンテナは3対にもなっている。
また、人体でいう耳部分にインテーク・ダクトを備えており、そこから斜め上方向に大型の補助翼が伸びている。この補助翼の存在により全高が20mを超えている。
肩部
変形してMA形態時の主翼となる大型アーマーを備えている。このアーマーは肩上面を覆っておらず、ハードポイントが露出しており、ランチャーストライカーやソードストライカーのような肩部のハードポイントを用いる一部ストライカーパックにも対応している。また、前後にはMA形態時に主翼とする翼が前掛けのように折り畳まれている。
MA変形では主翼となる重要なアーマーなため、これが損傷するとフレームが無傷だとしてもMA形態に変形できなくなる。
背部
可変機構とストライカーパックの兼ね合いから後方に突き出しており、下面にメインスラスター、後面にストライカーパック用のコネクタを備えている。
脚部
足先はハイヒールのような形状をしており、巨大なアンクルガードにより大部分が隠されている。そのため、一見すると常爪先立ちをしているように見える。
一般的なMSと比較して脚部が一回り長く、それが19.8mもの頭頂高に繋がっている。
特殊機能
隠密性を高めるためにミラージュコロイド・ステルスを搭載している。そのステルス能力は「目の前にいても視覚認識できない」ほど高度である。
変形
前述した通り、戦闘機型MA形態への変形機構を持つ。さらに、ストライカーパックを接続する関係上、背部を塞がないようにしつつ後方へ向くような可変機構を採用している。
変形手順は以下の通りとなる。
- 肩部アーマー展開しつつを前方へ向けて、展開されたアーマー内に腕を折り畳む。さらに、MS形態時は機体後方に位置していた肩部の翼を展開して主翼とする。
- アンクルガードをスライドさせて爪先を収納し、そのまま足裏同士を合わせて機首とする。
- 長座位の姿勢を取りつつ、胸部装甲を展開して、その中に180度回転させた頭部を収納する。
- 両腰部に懸架しているジンライ(ビームライフル)の補助翼を展開する。
武装
「72式」という名前の通り、全てC.E.72年に開発されたものであり、本機専用の設計となっている。
72E4式ビームライフル「ジンライ」
専用のビームライフル。両腰部に1丁ずつ懸架している。
形状は既存のビームライフルとは大きく異なり流線的であり、「長銃身のビーム砲」といった印象を受ける。上面と下面には小型の補助翼が折り畳まれており、MA形態には安定翼としての役割を果たす。MS形態で手持ち火器として使用する際にはグリップを引き出す。
72式ビームサーベル
ジンライのグリップおよびストックの一部を兼任しているビームサーベル。その構造上、鞘から抜刀するように使用することになる。
従来の筒状のビームサーベルより大型となっており、刃の向きが存在する。また、ビームの色も桃色ではなく緑色となっている(他に緑色なのはソードカラミティのシュベルトゲベール程度)。
PS-02 ビームシールド
両腕部に装着されたガントレット状の大型追加装甲に組み込まれているビームシールド発生器。
ガントレットから発生器をポップアップさせて楔状のビームシールドを展開する。さらに、特徴的な形状から、シールドだけでなくアームソードとしても使用できる。
構造的にはインフィニットジャスティスの「MX2002 ビームキャリーシールド」に近く、ビームシールドの展開範囲は狭いながら防御性能は極めて高い。
光波シールドは一年前に流出したばかりの技術であり、ジョエル・ジャンメール・ジローは「ここまで実用化にこぎつけるとはさすがはメインドインオーブ」と評していた。
専用ストライカーパック
オーブにて開発された本機用の試作ストライカーパック。どれも未完成であり、本来のスペックに達していない。
オーブでは戦場においてフレキシブルな運用を実現するため、ストライカーパックの自律飛行化を進めており、その一部として採用されたものである。型式番号の「EW」は「エレクトリック・ウォーフェア」を意味し、無人機としても活動出来る「広義の意味での電子戦機」を示す。この系譜では、1年後にEW454F オオトリや、オオトリから発展させたオオワシとM2X32E フォランテスが開発された。
EW452HM マニューバストライカー
高機動戦闘用のストライカーパック。
正式な名前も付いてないほど試作段階であり、アンティ・ファクティスに対抗するため急遽持ち出された。正式導入後は「フウジン(ストライカー)」と命名される予定である。
多軸構造の可動アームにより接続された4基のブースターユニットを備えており、MS形態でも空中を自由に飛行可能になるだけでなく、高速飛行状態においての変幻自在な高機動戦闘を可能し、さらにはMA形態に大気圏離脱能力まで付与する。各ユニットには追加武装としてビームキャノンが付属している。なお、ビームキャノンはユニットの可動を用いて射角を取るため、構造的にブースターもビームキャノンと同じ方向に向いてしまうため、射撃姿勢を取ると高機動性が失われる。
砲門数が4門増えることからマルチロックオンシステムの真価を発揮できようになる。
無人機として自律飛行も可能だが、コックピットも備え付けられており有人飛行も行うことができる。また、このコックピット下部にはビーム砲が懸架されており、単機における戦闘能力も考慮されている。
EW453R ライジンストライカー
長射程攻撃用のストライカーパック。全長26.31m、重量30.22t。
P204QX ライトニングストライカーのコンセプトを活かし、これに自律飛行機能を付与して再設計した。なお、実戦投入時は自律飛行機能が未完成だったためか、「使用も可能」程度の互換性しかないスカイグラスパーに装着して本機の下へ搬送した。
装備時には本体の頭部にバイザー型の頭部ユニットが接続され、機体左右のコンポジットポッドと連動することでセンサー系を強化する。さらに、スラスターが増えたことで推力が増加し、MA形態の基本性能を底上げにもなっている。スラスターを全開にして瞬間的に推力を高める「オーバードライブ」機構も原型機から引き継いでいるが、使用は短期間に限られ機体とパイロットにかかる負担も大きいため使用の判断は慎重に行われる。
また、本体のバッテリー残量をほぼ全快にするほどの大容量バッテリーパックが搭載されている。
71-XX式曲射型ビーム砲
メイン武装となる大型ビーム砲。カラミティの「シュラーク」のように肩越しに構える。
実体弾による超長距離に特化した武装は高速・高機動を主眼に置いたエクリプスに不要と判断され、大型ビーム砲となった。ビームに変更されたことにより、高性能の大容量バッテリーとミラージュコロイド制御能力を活かして曲射も行える。
ただし、設計スペックには達していない開発中のテスト兵器であり、型式番号も「XX」の仮番号となっている。
バリエーション
MVF-X08R2 エクリプス2号機
ケン・ノーランド・スセが搭乗する黒いエクリプス。
詳細はエクリプス2号機を参照。
1号機との最大の違いとして、ニュートロンジャマーキャンセラーと核エンジンを搭載している。
ZGMF-X10A フリーダム
本機の基礎となったザフト製の最新鋭機にして、C.E.71年時点にて最強とされたMSの一機。
エクリプス2号機強奪の際に中破した本機を修復する際にフリーダムの修復用パーツを製造途中に仕様変更して流用しており、修復後の本機と修復後のフリーダムは文字通り血(パーツ)を分けた兄弟的関係にある。
立体物
2021年8月に「MG 1/100 エクリプスガンダム」が発売。
別売のストライカーパックシステムに当然対応しているが、本体単体での発売であり、マニューバストライカーはプレミアムバンダイによる別売りとなっている。
外伝機体がいきなりMGという破格の待遇であるが、これはSEEDの商品展開においてストライカーパックはMGが中心で展開されており、その互換性を活かすためと思われる。
また、シルエットシステム、ウィザードシステムに対応させられるジョイントパーツがそれぞれ付属する。
一部のサイトで如何にもシルエットシステムとウィザードシステムを作中でも使用するような記述も見られるが、プラモオリジナルのギミックであるとも明記している記述もある。
開発時期の設定を考慮すると、インパルスやザクウォーリアよりも前の開発であるため、現時点ではプラモオリジナルの可能性が高い。(作中で時間経過により登場する可能性は否定できない)
SEED関連の様々な企画が大量告知される中での目玉の一つとしての高速商品化であったが、情報解禁と発売の近さのために、「名称も出典も不明の謎のMGキット」として数ヶ月前に予約されており、時勢柄の事情もあって、情報解禁時にはすでに予約終了している事態となってしまった。そのため、発売直後に再販が発表されている。
「MG 1/100 エクリプスガンダム2号機」は2023年9月発送でプレミアムバンダイより発売。
新規装備としてR2-W1 ビームライフルとR2-W2 実体剣が付属する。
マニューバストライカーは2021年11月発送、ライジンストライカーは2022年11月発送でそれぞれプレミアムバンダイより限定発売された。ライジンストライカーはMS本体とのセット版も発売されている。
余談
情報解禁時に絶賛公開中であった『閃光のハサウェイ』の主役機であるΞガンダムとは、特徴的な三角形の肩前面や張り出した胸部、全体的に尖ったシルエット、高機動タイプの主役ガンダムである等、共通点が指摘されている(実際はそこまで似ているわけではないが、ぱっと見ではよく似ていると思う人が多かったようだ)。
ザクウォーリアや、同陣営のムラサメの可変機構等、SEEDの機体には宇宙世紀の機体をリファインしたようなデザインや構造のものも少なくないため、意識した可能性もあるが、詳細は不明。
度々、『キラ・ヤマトがオーブにもたらした』と言う話になるが、厳密に言えばキラはフリーダムの修理を依頼したわけでも無く、モルゲンレーテがフリーダムの持ち主から依頼されて修理の際の解析を行った、と言うのが実態である。ちなみに、この持ち主と呼ばれるのもキラでは無い。話しの流れとDestinyでフリーダムの封印を解く鍵の所持から、フリーダムの持ち主と呼ばれているのはラクス・クラインの事だろう。
オーブ内でも存在が秘匿されたMSであるため、ビジュアル初公開時に「またカガリの知らないMSが増えてる…」と思われたのはご愛嬌。
「核兵器を積んだステルス爆撃機」として開発されているが、2号機は核エンジンを積んでることを除けば核攻撃が可能な武装は積まれていない。もっとも、地球連合軍に核ミサイルを運用可能なマルチランチャーと言うストライカーパックが存在するので、本機用の核ミサイル運用オプションを開発すれば解決する話でもある。
外伝の高性能主役機にしては珍しく本編時系列でも稼働している。もっとも、ブレイク・ザ・ワールドの事後対応に追われて世界各地を飛び回っており、第2次連合・プラント大戦には参戦できなかった。
関連タグ
フリーダム:基礎。コックピットが胸部にあることから腹部を貫かれてもパイロットを生還させたという妙な共通点も持つ。
ムラサメ:開発国が同じもの同士かつ、型式番号にも類似性が見られる。
ストライク:CEにおける、武装換装システム搭載機の代表的MS。
ブリッツ:CEにおける、光学ステルス搭載機の代表的MS。
イージス:CEにおける、可変機の代表的MS。
トールギス ユニオンフラッグカスタム:他シリーズにおける「加速によりパイロットに多大な負担を強いる」機体繋がり。特にフラッグとは可変機という共通点もある。
※ここから先は本機及び機動戦士ガンダムSEED ECLIPSEのネタバレになります
真のエクリプス計画
本機は上述した通りODRが秘密裏に作戦を行うべく開発したとされているが、実はそれは本来の目的を隠すための建前である。
そもそもODRで運用されているエクリプス1号機はとある理由で意図的に作られた欠陥機である。というのも劇中で運用されているエクリプス1号機は最新技術を過剰なほど盛り込んだ高性能機にもかかわらず、搭載されている動力が何故かバッテリー駆動という矛盾した機体となっている。更にその機体の性能上、高い能力と身体を持つパイロットが必要にもかかわらず、選ばれたのは完璧に近い適合率だったとはいえ軍属ですらないナチュラルの民間人という、普通に考えればまずありない人選であり、その欠点を付かれたことで敗北を喫したこともあった(実は、タツミが現れるまで搭乗が内定していたハーフコーディネイターのケンの方が機体性能を引き出せている)。
このようなあまりにも矛盾した運用方法こそが『真のエクリプス計画』の本体であり、その目的とは地球連合及びザフトに対する一種の抑止力である。
オーブは中立の理念の関係上、連合やザフトのように強力な兵器を持つことは難しかった。しかし、たとえ兵器を有していなくとも、それを開発できる技術・資材・設備がありすぐにでも運用できる状況ならば実質有しているのと同義である。後に判明したエクリプス2号機の仕様を加味すれば、エクリプスの存在理由とはつまり技術的な抑止力である。
なお、事実上の抑止力としながらも、実機として1号機を製造して実際に運用している理由もこれに関連しており、あえて間違った使い方をすることで各陣営にエクリプスを調べさせ、あえて本機の正しい使い方を察しさせることであった。
オーブが国として存在する限りエクリプスは本来の使い方(2号機)はされない。しかし、万が一オーブが滅ぼされ生き残った国民が報復を行えば、エクリプスは恐ろしい殺戮兵器となりかねない。こうした脅威を各国の為政者に植え付け疑心暗鬼に陥らせることで、結果として国家を守る……これが真のエクリプス計画なのである。ODRの存在とはつまりエクリプス計画を隠す為の隠れ蓑にして各国をおびき寄せる餌である。
このオーブの理念を踏みにじり人の悪意を押し固めたような冷酷な計画は、カガリはもちろんウズミすら知らせないように極秘裏に進められており、計画者であるウミトの意向により公式記録だけでなくメモの走り書きレベルに至るまで最後には必ず「ウミト・ミツ・キオウ」の名が出てくるように工作しており、万が一計画が露呈した場合は「全ては奸賊ウミト・ミツ・キオウの独断で行ったものである」となるよう仕向けていた。
なお、このエクリプス計画が"言葉どおり"なら2号機は「架空の存在で無ければならない」はずだが、何らかの伝手でオーブはニュートロンジャマーキャンセラーのベースマテリアルを入手しており、核動力の実験機かつ政治的パフォーマンスとして実機を製造した。あくまでパフォーマンスなため組み上げた段階で役目を終えており、一号機のパーツ取り用に終始する予定だった。
もっとも、知らされていなかったカガリも、数年の後にはエクリプス2号機と比べてもなおもっとずっとやばいものを複数機制作し、更にそのうち一機を"一番うまく使える"コンビに運用させるほど清濁併せ持つ当主に成長している。
72年当時のカガリは清濁併せ持つ器ではなかったであろうが…少なくとも、あえて実体を伴わせずに十分な抑止力を作ろうというこの計画は、オーブの理念と国防の両立を目指した計画であったことは間違いない。
結果的事実として、73年の大戦で、オーブは再び亡国の危機に立たされたわけで、このときに、何らかの強大な抑止力があれば存亡の危機は事前に回避できた可能性もなくはない。