サトノクラウン
さとのくらうん
ずぶ濡れを恐れるな
今、歩み行く雨道は
己が授かった
かけがえのない道なのだから
《土曜名馬座◆第二百二十四夜「雨よ降れ」より》
- 日本の競走馬・種牡馬。
- 『ウマ娘プリティーダービー』にて1をモチーフとして登場するウマ娘についてはサトノクラウン(ウマ娘)を参照のこと
母ジョコンダIIがアイルランドから輸入された際に受胎していた父マルジュのラストクロップとしてノーザンファームにて2012年3月10日に誕生。いわゆる持込馬である。また、後に同世代のライバルとして7度に亘り激突するキタサンブラックも同日に生を受けている。
全姉はイギリスのスプリンター・ライトニングパール(引退後輸入)。
父マルジュは欧州で有力産駒を多く輩出した名種牡馬であり、日本では99年ジャパンカップで人気薄から2着にくい込んだ香港馬インディジェナスが産駒として知られるが日本調教馬では実績が少なく、日本では馴染みの薄い血統である。
里見治オーナー曰く「セリの下見でひと目ぼれした馬」「どうしても欲しかった馬」とのことで、2013年のセレクトセール1歳の部で金子真人氏らと競った末に5800万円(税抜)で購入。
なお、里見オーナーは他に1歳の部では6600万円でトゥーピーの2012(サトノラーゼン)、当歳の部では2.3億円でマルペンサの2013(サトノダイヤモンド)を落札している。
その後、サトノラーゼン共々、サトノ冠御用達のノーザンファーム空港牧場R厩舎で後期育成を受ける。
後期育成終了後、美浦トレセンの堀厩舎へ入厩する。
クラシックまで
デビュー時から頭角を現し、弥生賞まで無敗の3連勝を飾り、クラシックへ挑戦。
初戦の皐月賞では上述した実績一番人気に支持されるものの、同厩舎の僚馬ドゥラメンテが勝者となったのに対し、ゲートで出遅れ6着。
続くダービーも直線で先頭に抜け出したドゥラメンテを猛追するも及ばずに、2着サトノラーゼンに続く3着に終わる。
秋は菊花賞ではなく天皇賞(秋)に出走するも、前走のダメージもあったか直線で馬群に囲まれて失速し17着と大敗。
というのも、サトノクラウンは仙腸関節(骨盤と背骨をつなぐ関節)に大きなズレがあるというハンデを生まれつき持っていた。腰関節のズレは体全体のゆがみを生み、それを無意識にかばうことで疲れが蓄積する。そのため、ダービー後は1カ月たっても疲れが抜けず、天皇賞(秋)へぶっつけ参戦せざるを得なかった。今夏に関節周りの筋肉が鍛えられたことで改善自体はみられたものの、現役時代を通じてこのハンディキャップとクラウンは向き合っていくことになる。
4歳シーズン
結果としてドゥラメンテやキタサンブラックが活躍する中、期待されたG1タイトルは一つも取れず、3歳シーズンを終えることとなった。
そして迎えた2016年初戦の京都記念は3馬身差で完勝するも、香港のクイーンエリザベス2世カップでは12着と惨敗。
帰国後は、ドゥラメンテと共に宝塚記念へ挑戦することとなる。
しかし、結果はドゥラメンテ2着、サトノクラウン6着。
秋は同じサトノ冠の1歳下の後輩サトノダイヤモンドが菊花賞を制し、サトノ初のGI馬になる中、天皇賞(秋)に挑み14着と大敗。
2016年香港ヴァーズ
負け続きの日々を送る中、2016年12月、サトノクラウンはラストランを迎える同厩舎の先輩モーリスと共に香港国際競走に遠征し、香港ヴァーズに出走することとなる。
立ち塞がるのは、前年覇者にして、同年2016年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスとBCターフを制し、凱旋門賞2着と、当時の世界最強馬の一頭として君臨していたハイランドリール。
ハイランドリールが単勝1.3倍という圧倒的一番人気に支持される一方、クラウンは単勝11.4倍の4番人気となった。
レースが始まると正確なラップを刻んで逃げるハイランドリールを後方で見定めながら最終コーナー直前からじりじりと加速。
最終直線では先頭を独走するハイランドリールが後続を引き離しにかかると、馬群から抜け出し、これを唯一追ったサトノクラウンとの一騎打ちの展開へ。
そして、ゴール寸前でサトノクラウンが驚異的な末脚でハイランドリールの逃げを捉え、半馬身差で差し切った。
遂にサトノクラウンは初のG1戴冠を海外で果たした。
先輩モーリスもまた、香港カップを完勝し、有終の美を飾り、堀厩舎は今回の香港国際競走にてGIを2勝するという快挙を果たした。
2017年宝塚記念
2017年の年内始動戦ほ京都記念では2着に1馬身差をつけ勝利し、京都記念2連覇を達成するも、大阪杯は6着に終わる。続いて、宝塚記念では、大阪杯、天皇賞(春)を勝利し、春古馬三冠に王手をかけたキタサンブラックが単勝1.4倍の圧倒的1番人気に支持される中、かつての戦友・ドゥラメンテの主戦騎手であったミルコ・デムーロを背に挑戦。
レースでは逃げで主導権を握るかと思われたキタサンブラックだったが、武豊騎手は控える策を選択。
押し出されるようにシュヴァルグランが先頭に立ち、2番手にシャケトラ、3番手キタサンブラック、中団6-7番手でサトノクラウンとゴールドアクターが続いた。
キタサンブラックを見ながら後ろを進んでいったデムーロ騎手とサトノクラウンだったが、向こう正面にてレースが動いた。「ペースが遅い」と感じたデムーロ騎手が外からサトノクラウンのペースを上げたことで先行集団が凝縮。結果的にプレッシャーがかかることになったキタサンブラックは早くも前の2頭に並びに行く形となった。一方、ペースが上がったことで3コーナーでは再び6番手にサトノクラウンは控える。
そして、その策は見事に当たり、キタサンブラックが直線で失速する一方、レースの流れを支配したサトノクラウンの末脚が炸裂。内からしぶとく食い下がるグランプリ王者ゴールドアクターを振り切って悲願の国内G1初制覇を果たした。
引退後は社台SSにスタッドイン、19年から種牡馬として種付け開始。20年に初年度産駒が誕生し、22年から産駒デビュー。全姉にスプリンターがいる血統背景もあってか、特に芝の短距離に勝ち上がり馬を多く輩出していたが、クラシック路線に名乗りを上げていたタスティエーラが東京優駿を制したことで、いきなり評価が急変することになった。初年度産駒がダービーを制した種牡馬はグレード制定後では7頭いるのだが、そのすべてが輸入種牡馬か東京優駿を制したかのどちらかを満たしていた。サトノクラウンはこの両方に該当しない初めてのダービー馬の父となったのである。(制定前まで遡ると、73年ダービーで3着だった、かのアイドルホースハイセイコーの初年度産駒から、79年ダービー馬となったカツラノハイセイコという例はある)
また、サトノクラウンは日本競馬に多大な影響を与えたサンデーサイレンスの血が一滴も入っていない。この事もあり、実績を得た今後はサンデーフリーの種牡馬として人気を博する事になるのかも知れない。
これにより15世代の種牡馬はキタサンブラック、ドゥラメンテ、サトノクラウン三頭の産駒成績だけで八大競走完全制覇を達成した。
以下制覇順
タイトルホルダー →菊花賞2021 天皇賞春2022
スターズオンアース→桜花賞2022 オークス2022
イクイノックス →天皇賞秋2022 有馬記念2022
ソールオリエンス →皐月賞2023
タスティエーラ →東京優駿2023
この間わずか1年と8ヶ月弱。
今後も産駒の活躍に胸が高まる。
ドゥラメンテとサトノクラウン
同厩舎の同期には二冠馬ドゥラメンテがおり、調教で頻繁に併せ馬をするなど、堀調教師から「一番のライバル」と評される間柄であった。冒頭の言葉は皐月賞前のドゥラメンテとの追い切りのニュース記事のものである。
デビューから無敗の3連勝を決めたクラウンに対し、ドゥラメンテは皐月賞まで勝ちきれない日々が続き、皐月賞では賞金不足であったもののフルゲートにならなかったことでギリギリ出走できた。一方、皐月賞、ダービーと立て続けにG1を制するドゥラメンテに対し、4歳の12月までG1を勝ちきれない日々を過ごしたクラウンと、対照的な戦績となった。
クラシック以来の対決となった2016年宝塚記念では、ドゥラメンテ2着、サトノクラウン6着。
更にドゥラメンテはそこで左前脚故障により競走能力を喪失。2頭はここでお別れとなる。
翌年、ドゥラメンテの主戦騎手ミルコ・デムーロを背に挑んだ2017年宝塚記念。
サトノクラウンはレースを支配し、勝利を収め、昨年の悪夢を振り払った。
レース後にデムーロ騎手は次のように語った。
「ドゥラメンテは故障して全部夢がなくなった。リベンジができてうれしい」
「(サトノクラウンとのコンビで)凱旋門賞に行きたい。どこでも行きたい」
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