概要
ハシリグモ(走蜘蛛)とは、キシダグモ科のうちハシリグモ属に分類される蜘蛛のこと。
世界中から100種ほど知られ、日本には13種ほどが分布する。
水田地帯や河川敷、渓流沿いなどの水辺で暮らす種が多い蜘蛛であり、潜水もするため、よくミズグモと見間違えられるが、ミズグモと異なりあくまで半水棲である。
水面に浮かび、たまに魚を捕食することから、英語では「fishing spider」(釣りグモ)や「raft spider」(筏グモ)などと呼ばれている。ギリシャ語で「悪賢い」を意味する学名「Dolomedes」は水面で獲物を待ち伏せる捕食方法に因んでいる。
形態
体長2cm前後、脚を広げて最大8cmもある中大型蜘蛛。茶色の体の背面に白い縦筋模様を2本持つ種が多い。頭と腹はほぼ同じ大きさで、8本の脚は全て長大である。パッと見ではコモリグモに似ているが、目の形が異なる。コモリグモは4対の目のうち中央1対が特に大きいが、ハシリグモが属するキシダグモ科はそれほど極端ではない。
生態
網を作らない徘徊性蜘蛛である。(幼生期のみ棚網を張る)基本的に水辺に生息し、水面に後脚以外の脚を広げ、獲物が動くことで発生する波を感知すると水面を走って獲物を捕まえる。脚に生える大量の毛は表面張力で沈まないようにするのと振動を感知するもの。基本的には昆虫が餌だが、種によっては水中の魚やオタマジャクシ、甲殻類なども捕らえて食べる。
危険を感じると水中に逃げることもあり、この時に体毛が空気を捉え体を包む幕のように着く(この点ではミズグモ等と似ている)。この空気の幕で酸素を取り込めるので思うより長い間潜っていられる。水中の岩や植物から脚を離すとこの空気で浮き上がり、一切濡れることなく水面に出る。
水中には一時間ほど滞在可能とされる。
アメリカに生息する一種 Dolomedes albineus は例外的に前述したような半水棲ではなく、樹上で暮らしている。
メスが卵嚢を口で運び、孵化が近くなると天幕のような巣を作ってそこに卵嚢を置き、生まれた子供が成長し出ていくまでメスが守るというキシダグモ科らしい育児スタイルのものが多い。
主な天敵は大型の魚や甲殻類、カエル、ムカデ、水生昆虫、狩り蜂などだが、逆に捕食してしまう事もある。
主な種類
日本
(Dolomedes sulfureus)
水辺の草原や林縁、街中の公園まで幅広く見られ、おそらく最も普通に見られるハシリグモ。
硫黄色の体色から名付けられたが、種内変異が多く、様々な色彩の個体が存在する。
(Dolomedes fontus)
限られた地域の良好な湿地や休耕田で見られる希少種。
スジブトハシリグモによく似ている。
(Dolomedes angustivirgatus)
白く細い2本の線が特徴。
水田地帯でよく見られる。
(Dolomedes silvicola)
白い筋と赤い体が特徴。
森林渓流沿いの木や草の葉の上で獲物を待ち伏せる。
(Dolomedes saganus)
白く太い2本の線が特徴。
水辺の草地を好む。
(Dolomedes horishanus)
南西諸島の池などで見られるハシリグモ。
本土で見られるスジブトハシリグモに似ている。
(Dolomedes zatsun)
沖縄島の固有種。
渓流沿いや林道脇で見られる。
(Dolomedes japonicus)
渓流沿いや用水路で見られ、東アジアに広く分布する。
放射状の斑紋が特徴。
(Dolomedes raptor)
黒褐色の体色と脚の白紋が特徴的な大型のハシリグモ。
日本本土の渓流沿いで見られる。
(Dolomedes yawatai)
先島諸島固有種で、渓流沿いで見られる。
アオグロハシリグモに似ているが、より大型になる。
- オオハシリグモ/オキナワオオハシリグモ
(Dolomedes orion)
琉球列島に分布する大型のハシリグモで、アシダカグモ、オオジョロウグモと並ぶ日本最大級の蜘蛛である。
渓流沿いで見られ、マダラゴキブリやアメンボなどの昆虫を捕食し、時にはトカゲやカエル、サワガニやテナガエビ、小魚なども捕食する。
同じく半水生のリュウジンオオムカデとは、餌を取り合い互いに捕食し合うライバル関係にある。
脚の白紋には餌の誘因機能があるらしい。
(Dolomedes pegasus)
東北地方に分布する。
イオウイロに似ているが、本種の方が短足。
(Dolomedes senilis)
北海道の湿原で見られる希少な種。