解釈
本来の意味は「お前が剣を振るうより前に、処刑執行文書にサインをする方が早い」という権力の絶対性を示した格言である。
あまり知られていないものの、前置きとして「完全に偉大な人物の支配下では~」という言葉が付いている。
発言者のリシュリューはフランス王国宰相、つまり権力側の人間であり、この場合のペンとは令状や許可証(への署名)を指す。参考記事
しかし、近年においては「言論の力は武力に勝る」という誤解が一般解釈として広まっている。
特にマスコミやジャーナリスト、SNSアカウントなどが、言論の自由を大義名分として権力を批判する際のスローガンに用いることが多い。
権力者が作った格言が、逆に権力者の攻撃に使われるというのは何たる皮肉か。
関連格言
- 「『ペンは剣よりも強し』といった人は自動小銃を見たことがなかったのだろう」:ダグラス・マッカーサー
自動小銃は現代戦の暗喩。機関銃、大砲、爆弾、数多の兵器により数千の人命が一瞬で吹っ飛ぶ現代の戦場は、言葉では簡単に止まらない。
しかしこの発言を行ったマッカーサーは決してペンを軽視してはおらず、日本の占領政策においては徹底した報道管制と検閲が行われている。皮肉なことに、彼はペンによって連合国軍最高司令官の地位を解任された。
むしろこの言葉は「学校での銃乱射を阻止するため教員も銃で武装すべき」などという迷言すら生まれる昨今のアメリカ銃社会を極めて端的に表す言葉と化している。
- 「ペンの一撃は剣の一撃より重い。故にペンが剣より残酷であることは明白である」:ロバート・バートン
『憂鬱の解剖学』の著者で、うつ病について文芸、医学の両面から研究した人物。言論は時に下手な剣よりも人を傷つけ、被害を与える。
ブログ、掲示板、SNS等での誹謗中傷が当たり前のように行われて言葉のナイフ(筆舌の刃)が飛び交っている現代において、現代人が心に留め置かなければならない言葉だろう。
香港民主派、言論の自由、報道の自由の敗北
2021年6月24日、香港の民主派日刊新聞・リンゴ日報が中国共産党の度重なる弾圧により廃刊に追い込まれた。
創業者・黎智英氏をはじめとするリンゴ日報編集部は中国共産党の腐敗、民主派を圧迫する香港政府を「ペン」の力で断罪、香港民主派のシンボルとして26年にわたって報道しつづけた。
しかし、2020年7月1日、香港国家安全維持法が成立し、適用にされるにおよんで黎智英しをはじめとする香港民主派は次々に逮捕・起訴され、実刑判決を受けることとなった。
2021年5月27日、中国全人代により議決された「(中国政府に忠誠を誓う愛国者だけを選ぶ)選挙制度条例案」が香港立法会(議会)で成立。
そして、2021年6月17日、リンゴ日報の編集幹部5人が逮捕、資産も凍結されるに及んで、6月24日、ついに廃刊、世界は「ペンは剣よりも強し」がまったくのウソであることを知らされることとなった。
だが、本来の意味に立ち返ればあながち嘘ではないのかもしれない。
権力者のペンが折れる日は来るのだろうか。
ペンは剣よりも強し(物理)
漫画範馬刃牙の番外編においては、中国拳法の名手である烈海王が自分の命を狙った暴漢(ナイフを所持していた)に対して、傍にいた少年から万年筆を借りて撃退している。
勇者であるシリーズの横手茉莉に至っては自他共に認める凡人でありながら、持っていたペンで武道経験を有する大人の左腕を刺し、打ち負かす事に成功している。
これらはまさに、ペンは剣よりも強し(物理)としか言いようがない。
…銃は剣よりも強し? ペンは剣よりも強しという名セリフを知らないのかよ
実際にタクティカルペンという護身具があり、ペットボトルはおろか、本気を出せば自動車のガラスを割れる他、暗殺器具として毒針や刃、果ては銃が仕込まれたペンというのも存在している。人を殺すのに大層な武器など必要なく、やろうと思えば手近なものでも殺せるという意味の格言とも取れる。グリザイアシリーズの風見雄二やジョン・ウィックシリーズのジョン・ウィックは実際にそれをやってのけた。
この他、サブカルチャーでは武器に変形するペン、描いたものが実体化するペンや巨大なペン(または筆)が武器として登場していたり、戦う文豪なんてのも登場し始めて来たり剣もペンも使いこなす設定の人まで登場し始めた。この格言の意味も複雑化してきているのかもしれない。
関連項目
法務大臣:死刑執行の命令書に署名するペンを持つ、日本で唯一の人物。この格言の本来の意味に最も近いと言える立場。
ジャーナリスト:報道で人命を左右することも。マスゴミも参照。
暴力は全てを解決する - ほぼ対義語。