ミックファイア
みっくふぁいあ
性別 | 牡 |
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生没年 | 2020.4.5-(3歳) |
血統 | 父:シニスターミニスター/母:マリアージュ(byブライアンズタイム)(母父) |
毛色 | 鹿毛 |
オーナー | 星加浩一 |
調教師 | 渡辺和雄(大井) |
生い立ち
3代母は凱旋門賞馬オールアロングで、近親にリトルビッグベアがいる。
母はオールアロングの11番仔アーミールージュの初仔にあたり、本馬は母の8番仔。
しかし、父と母父はダート種牡馬として実績を積んでいた経歴があったが、母に関しては、自身の戦歴が良くなかったことや繁殖馬の実績も目立つものがなかった。
そうした経緯もあってか当初の評価は決して高くなかったようで、2021年の北海道サマーセール会場で競りにかけられるも終盤まで入札はゼロ。ハンマーが降りる寸前に同馬の馬主となる星加浩一氏が手をあげたことで危うく主取りを免れ、そのままスタート価格の500万円(税抜)で落札された(この年のサマーセール落札平均価格は約630万)。
オーナーとなった星加浩一氏は個人馬主資格を取得したのが2019年と比較的最近であるものの、その際、知り合った大井競馬場の渡邉和雄調教師とセイカメテオポリスで重賞を制覇していた経歴から、同厩舎に入厩し正式に競走馬としての生活をスタート。
2022年9月23日、大井・1600mの新馬戦で矢野貴之騎手を鞍上にデビュー。好スタートを切ってそのままハナを切ると、直線でも後続を悠々と突き放してまずは5馬身差で新馬勝ちを飾る。
続いて2戦目は11月1日、同条件の2歳戦。ここも矢野騎手とともに好スタートからハナを切り、そのまま5馬身差で勝利。
3戦目は12月7日、大井1800mのひばり特別2歳選抜。矢野騎手が3番人気サベージに回ったため本田正重騎手に乗り替わりとなったが2.0倍の1番人気に支持されると、ここもハナを切って逃げ、直線ではサベージの猛追も全く寄せ付けず、悠然と3馬身差で逃げ切り。3戦3勝で2歳シーズンを終えた。
記録上は、ここまで無敗で勝利し続ける強い馬と思われていた……だが、その裏ではミックファイアはソエ(骨膜炎)を発症しており、快勝したこの3戦はまともな状態ではなかった。
それでありながらも、あれだけのパフォーマンスを発揮するのだから恐ろしいものである。
そのため、全日本2歳優駿などの交流重賞は使わずに休養へと入った。
3歳上半期
年が明けて3歳となったミックファイア。羽田盃(SI)に向かうことは内定していたが、ここまで稼いだ賞金額の兼ね合いやそれまでに前哨戦を経て羽田盃に向かう計画でもあったため、当初は雲取賞(SⅢ)から始動の予定だった。だが、調整中に裂蹄が発覚しそれを回避。その次の始動戦としてオーナーとの間で候補に挙がっていた京浜盃(SⅡ)を視野に入れていたが、思った以上に状態がひどかったらしく、その出走も断念。そのため、渡邉師は後述の賞金の話もあり、一時春全休も考えるほどの状態だった。
それでも、茨城県のミッドウェイファームでの調整に専念した結果、どうにか羽田盃の2週間前にはレースに使える状態まで回復したため、この年で最後の開催となる「南関東三冠」の第一戦・羽田盃(SI)に予備登録。地方競馬では着内賞金の合計額(通称:番組賞金)で登録の優先順位が変わるため、極端に言えば、勝利数より5着以内に入った数が多い馬のほうが登録の優先順位の点では優位になる可能性があった(例えば、羽田盃で共に出走し、11着となったサムタイムアゴーは、羽田盃までの戦歴は10戦中3勝しか挙げていないがその3勝も含め7戦で5着以内に入っており、賞金上ではミックファイアを上回っていた羽田盃の登録順一覧)。実際、登録順では過半数の順位より下の位置であり、むしろ除外覚悟であったが、その条件を突破。出走することができることになったが、3歳の初戦は重賞への初挑戦でもあった。
羽田盃
そして迎えた羽田盃。だが、出走が内定していなかったため、2歳戦で手綱を握った二人は京浜盃で騎乗かつ優先出走権を得ていた馬の継続騎乗を選択済み。そこで三冠戦線へ向けてのお手馬がなかった有力な騎手の御神本訓史騎手へ騎乗依頼を出し鞍上を確保。出走ができることになったため、正式に御神本騎手が鞍を務めることとなった。
しかし、1番人気は雲取賞でアメリカのG1・サンタアニタダービーでハナ差2着に入ったマンダリンヒーローを下したヒーローコール。続く2番人気には京浜盃を勝ったサベージ。
ミックファイアはここまで無敗で、サベージに3馬身差をつけて勝った馬という注目点はあったが、2歳重賞が不出走のため実力が不明、5ヶ月の休養開け、-16kgという馬体重の大幅減少、鞍上がテン乗り(初騎乗)という不安要素が重なり、4番人気に落ち着いた。また、後日談によれば、陣営は同レースの上位5頭に与えられる東京ダービーの優先出走権狙いで、どちらかと言えば、それへ向けての前哨戦という意識のほうが強い状況であった。
しかし、本番ではそんな不安を嘲笑うかのように、2番手追走から直線で抜け出しを図り、最終的にヒーローコールから6馬身を突き放す大圧勝。加えて時計は1:50.9のレースレコード。重賞初勝利をつかみ取り、無敗の羽田盃馬となった。
陣営はこの結果には非常に驚き、鞍上の御神本騎手も「こんな強い競馬をする馬とは思わなかった」と語るほどであった。
東京ダービー
この圧勝劇を受けて、一躍クラシックの最大候補となったミックファイア。
次走は勿論東京ダービー。2000mへの距離延長、レコード勝ちの前走の反動などが心配されていたが、前走の圧勝ぶりが評価されてダントツの1番人気に支持された。
しかし、引き続いて鞍を務める御神本騎手は東京ダービーでの優勝経験がなく、「前走のような走りができるのか?」とかなり弱気だった。
…が、本番ではそんな不安もどこへやら。逃げるボヌールバローズを二番手から追走し、3コーナーで捉えるとそのまま直線で後続を突き放してゴールイン。まるで前走の再現かのように2着ヒーローコールを6馬身突き放す大楽勝。
時計は2:04.8のレコードタイム。この勝ち時計は同条件の3冠目であるジャパンダートダービーのタイムと比較しても上位に入る。
この勝利で御神本騎手は東京ダービーを初勝利。ミックファイアはトーシンブリザードに続く無敗での2冠達成となった。
ジャパンダートダービー・夢の三冠へ
こうなれば誰もが願うのが三冠の達成。最終戦・ジャパンダートダービーへの期待は高まっていた。
しかし、ジャパンダートダービーはJpnⅠの交流重賞。強豪が揃う中央馬との対決となる。
過去、2冠を達成しながらもジャパンダートダービーで返り討ちになった馬は多い。かのアジュディミツオーやハッピースプリントも中央勢の壁に阻まれ、3冠を取り逃している。
今回出走する中央勢は7頭。地方勢はわずか4頭の11頭での出走となった。
しかし、ヒーローコールは秋を目標に見据えて回避。ケンタッキーダービーへと挑んだマンダリンヒーロー、中央のデルマソトガケは疲労の面から回避と有力馬の回避が相次いだ。
だが、中央勢には兵庫チャンピオンシップを持ったまま逃げ切ったミトノオー、新馬戦こそ2着に終わったが3連勝で青竜ステークスを勝ち抜いたジャスティファイ産駒の2億円ホース・ユティタム、ダート交流重賞での勝ち馬も2頭(オマツリオトコ、ゴライコウ)おり、油断の出来ない強豪が出揃っていた。
そんな中でも3冠への期待は大きく、ミックファイアは中央勢を押しのけ、単勝2.0倍の1番人気に推されていた。
加えてジャパンダートダービーは翌年実施される全国的なダートグレード競走の体系整備に伴い、この年(2023年)をもって廃止(翌年秋新設のジャパンダートクラシックへ移行)される事が決まっており、地元大井の意地としてのプレッシャーものしかかった。
ゲート入りが終わり、いざ本番。日が沈んだ暗闇の中、三冠に向けての最後の戦いが始まった。
スタート直後からミトノオーがハナを切って逃げ、テーオーリカード、オマツリオトコ、ユティタムらが追走。ミックファイアはユティタムの後ろに位置をつけた。
…しかし、ミトノオーは掛かってしまい、暴走気味にペースを上げ、最初の3ハロンを34.9という超ハイペースの展開となった。
こうなってしまっては先行勢には辛い。苛烈な消耗戦となる中、先行勢の大半は3コーナーで脱落。4コーナーに差し掛かって残ったのは力任せに押し切ろうとするミトノオー、それを追うユティタム、そして…ミックファイア。
あの地獄のようなハイペースの中、ミックファイアは先行勢に喰らいついていたのだ。
最後の直線。逃げるミトノオーとそれを追うユティタムをミックファイアは追撃する。
残り200。ぐんぐんと加速してゆくミックファイアはユティタムを競り落とす。
残り100。ついに逃げ切りを図るミトノオーを捕えた。外からはキリンジが迫る。しかし、ミックファイアは失速せず、キリンジに対し2馬身半の差をつけて、栄光のウイニングポストを通過した。
ミックファイア、無敗三冠達成。灼熱の砂上に猛炎が駆け抜けた。
ウイニングランを終え、ホームストレッチへと帰還したミックファイアは大歓声に迎えられ、「御神本コール」が送られる中、鞍上の御神本騎手は、かのシンボリルドルフの岡部幸雄のように3本指を立て、3冠達成をアピールした。
これによりミックファイアは2001年のトーシンブリザード以来22年振り史上2頭目(※)かつ来年からのダート三冠の整備により現行制度では最後となる無敗南関東三冠馬となった。
また、地方所属馬のJDD制覇は2021年のキャッスルトップ以来2年振り史上7頭目、大井所属馬としては1999年の第1回JDDを制したオリオンザサンクス以来24年振り2頭目の制覇となる。
※トーシンブリザードが三冠を達成した当時は東京王冠賞(2001年を最後に休止)を含めた旧・南関東三冠であり、JDDを三冠目とする2002年〜2023年までの新・南関東三冠としては最初で最後の達成馬となる。
3歳ダートの頂点に立ったミックファイア。
JDD後、茨城県のミッドウェイファームで休養に入り、8月3日に陣営から秋の予定が発表された。始動戦としては戸塚記念(9月14日)も候補にしていたが休養期間を重視し、左回りと長距離輸送の経験も兼ねて、10月1日のダービーグランプリ(盛岡2000m、岩手MI)が初戦となることを発表(ちなみに候補にされた2レースは3歳限定戦である)。その後、古馬との初対決にもなるJBCクラシックへ経て、年内最終戦としてチャンピオンズカップか東京大賞典へ向かう予定としている。
3歳下半期
予定通り、ダービーグランプリへ出走。
ジャパンダートダービー同様に今年が開催最終年となる同レースは7頭立ての少頭数ながら、道営三冠馬のベルピット、同レース全て2着のニシケンボブをはじめ、不来方賞でミニアチュールの岩手三冠を阻んだルーンファクター、帰国以降の2着続きから巻き返しを図るマンダリンヒーローらが出走を表明。概ねヒーローコールを除いた3歳東日本地方馬トップクラスの面々であったが、ミックファイアはその中で単勝1.1倍という元返しレベルの支持を集めることになる。
レース本番大外7枠7番からスタートしたミックファイアはハナを切って1コーナーへ進入。2番手としてマンダリンヒーローが追撃する。しかし、ミックファイアが若干先行するが、マンダリンヒーローと競り合う展開となる。4コーナー付近ではマンダリンヒーローが一瞬先行するも直線に入ると再び先頭に立ち、最後は遠征も他場も左回りも何も問題ないとばかりに2着のマンダリンヒーローに1馬身差をつけてゴール。同レース史上初の無敗馬による勝利を手向けに、時代の変遷の中で役割を終えつつあるダービーグランプリへと別れを告げた。
勝ち時計は2:03.0。これは2004年にパーソナルラッシュが出したレコードに対しコンマ2秒差という記録。しかし、鞍上の御神本騎手曰く、これでも7割5分の出来で、むしろ、初の長距離輸送という事もあり盛岡到着後は疲労から飼い葉をほぼ食べなかったそうで、馬体重も500kgを切るなど想定以上の馬体重減で陣営としては不安の気配もあったにもかかわらず、この記録を出すというとんでもない結果でもある。だが、不良のダート馬場で出た勝ち時計、今まで最後の直線で振り切って大差をつけてゴールしてきたレースに比べれば苦戦した印象もあり、古馬との対決に向けては課題も残した。
当初、渡邊師は次の目標として地元大井開催のJBCクラシック(JpnI)を目標とし、出走登録の時点でも名を連ねていた。しかし、開催の前週に「中途半端な状態で出走させてはいけない馬だと思いますので苦渋の決断をさせて頂きました。12月には元気な姿をお見せ出来ると思いますのでまた応援して頂けたら嬉しいです。」というコメントが発表され、JBCクラシック出走を断念。そのため、最終戦の候補としていたチャンピオンズカップと東京大賞典の両にらみとしつつも、古馬との初対決はそれまで持ち越されることとなった。陣営としては中京のチャンピオンズカップ参戦を前提に調整していた。だが、盛岡への遠征から体調を整えるのに想定より時間がかかった経緯から、その状況を再度起きることになることを懸念してそちらへの参戦を回避。チャンピオンズカップは回避したものの、もう一つの候補東京大賞典へ調整するとコメント。東京大賞典の最初の出走登録の時点でも名を連ねて出走が内定。そのメンバーには地方勢の有力馬となるマンダリンヒーローとヒーローコールも登録していた。
ところが、東京大賞典の出走登録の内容が最初の内容から更新された際に回避が続出。東京大賞典の前週の木曜日に行われた名古屋グランプリも含めた近い時期にあるレースとの両にらみの登録馬の存在、地方馬の場合、登録後に取り下げることが珍しくない影響もあるが、同世代のマンダリンヒーローとヒーローコールが回避。最終的な出走馬は2013年以来となる9頭立てのレースとなり、その内訳は中央勢が7頭で、地方勢は2頭のみ。その結果、地方の有力馬の一頭としてではなく、名実ともに地方馬の総大将としてミックファイアは歴戦のダート古馬たちとの対決に挑むこととなった。
迎えた東京大賞典本番では前年覇者にしてドバイワールドカップを制したウシュバテソーロ、チャンピオンズカップ2着のウィルソンテソーロ、同レース3着のドゥラエレーデ、JBCクラシック覇者キングズソード、前年JDD覇者のノットゥルノ等といった顔触れの中、8枠8番で3番人気に支持された。
だが、レースではスタート前にゲート内で暴れて出遅れてしまい、道中は5番手あたりを追走。第3〜第4コーナーで追い出されるも反応悪く、直線で力尽きてしまいウシュバテソーロの連覇の前に8着に終わる。一応、地方馬のマンガンが9着のおかげで最下位は免れたが、大井競馬場の馬場の砂入れ替え影響などの不安要素が的中し、中央勢を一頭も上回れないという結果で終わった。これにより連勝記録は7でストップ。デビュー8戦目にして初めての古馬との戦いで苦い初黒星となった。
年が明け、サウジカップへの予備登録を行ったことが判明。また、サウジカップの招待がなかった場合、中央のフェブラリーステークスへ向かう計画であることも判明した。招待がなかったこともあり、フェブラリーステークスを選択し、スピーディキックと共に南関東代表として出走する事になると同時に中央GⅠ初挑戦となった。ただ、鞍上については御神本訓史騎手はスピーディキックとのお手馬被りとなる見込みだったことから、2歳時に騎乗経験のある矢野貴之騎手に変更となった。結果はペプチドナイル(藤岡佑介)の7着に終わったものの地方馬では最先着(園田代表イグナイターは11着、スピーディキックは13着)となり、前走の東京大賞典の2着馬ウィルソンテソーロ(8着)と3着馬ドゥラエレーデ(12着)には先着し、地方の代表、南関無敗三冠馬として中央勢に一矢報いる事は出来た。
次走として選んだのはJPNIのかしわ記念。鞍上は金沢競馬場所属の吉原寛人を起用。地方馬の中では最上位となる7番人気となる。本番はスタートで出遅れ、後方よりの位置でレースを進め、最後の直線で足を伸ばしたものの5着。ただ、掲示板入りが精いっぱいではあったが、地方馬では最先着という結果を残している。
夏場は出走せず休養を選択。秋初戦としては日本テレビ盃を候補にし、マイルチャンピオンシップ南部杯かチャンピオンズカップへの出走を大目標としていた。だが、日本テレビ盃への予備登録も行わずに回避。その後、南部杯出走予定の選定馬の枠に登録されたことが確認されたため、秋初戦は南部杯となる見込みである。
迎えた南部杯本番ではレモンポップの連覇の前に4着となったもののまたしても地方勢最先着となった。