概要
『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』ドン5話「たてこもったイヌ」において雉野つよし/キジブラザーが発した台詞。
前回のおにぎり屋の一件のお礼をするために桃井タロウに会いに、彼の務める会社を訪れたつよしだったが、そこで指名手配犯の犬塚翼がいることに気づく。慌てて、何も知らぬまま彼の『人質』としてその場に居合わせていた少女・鬼頭はるかに翼が指名手配犯である事を教えるが、何故か彼女は怖がるどころか、「漫画のネタにできる」と、逆にテンションを上げてしまう。
更には110番通報を試みるつよしの邪魔をするばかりか、無関係のつよし達をこれ以上巻き込むのを良しとしなかった翼が解放しようとしたのに、反対に「最後までやり遂げてください!」と鼓舞する始末。
そんなはるかの破天荒な言動を目の当たりにしたつよしは思わず、心の中で一言ボヤく……
(モンスターより人間の方が、生々しくて怖い…)
この時は、完全に巻き込まれただけの不幸な被害者であるつよしの心の叫びとして、視聴者の笑いと同情を誘うボヤきに過ぎないものと思われていた。
ところがその3週間後の放送にて、この台詞が思わぬ形で視聴者の心に刺さる。
ドン8話「ろんげのとりこ」において、妻のみほがヒトツ鬼に憑かれた画家・榊に誘拐される事件が起きる。
どうにか逃げてきたみほが目の前で意識を失い、尚も彼女を追ってくる榊の姿に気づいたつよしは、今までにない激しい怒りを暴発させながら、キジブラザーへアバターチェンジする。
「あんたが……みほちゃんを!」
「許せない……許せない許せない許せない許せない許せない!許せないッ!!」
その戦い方は柄にもなく荒々しく、魔進鬼の援護に現れたアノーニ達に「離せぇ!」と普段なら口にしないはずの荒い口調で怒鳴りつけるなど、怒りを越して半ば狂気に駆られていた。
そしてドンモモタロウ以下、他のドンブラザーズのメンバーが合流し、同じく魔進鬼を殺そうとするソノイも乱入する中、タロウは魔進鬼を人間に戻すべく、必殺技『狂瀾怒桃(きょうらんどとう)・ブラストパーティー』を繰り出そうとしたが、それを見たキジブラザーは何とソノイの手で魔進鬼を確実に殺させるべく、意図的にタックルを敢行してタロウの攻撃を妨害した。
キジブラザーの意図どおり、魔進鬼はソノイの一撃を受け、素体となっていた榊もろとも消去されてしまった。
その後、再びみほとの日常に戻ったつよしだったが、その脳裏には、今まで見せていた温和な人柄や言動からは考えられない冷徹非情な思想が過ぎっていた。
「あの男はみほちゃんを襲った……そんなヤツはこの世にいちゃ……いけないんだ」
直接手をかけたわけではなく、被害者の榊も決して無辜の人間ではなかったものの、有り体に言えば『ヒトツ鬼になった不幸な一般人を、意図的に死に追いやった』のみならず、その行いに微塵も後悔や罪悪感を抱く様子を見せないつよしは、みほが幸せで平穏な生活を送れるためにある決意を固める。
「みほちゃんは僕が守る。絶対に……!たとえ相手が誰でも……何をしても……!」
愛する妻の為ならば、ヒーローとしてはおろか人としての道も外れる行為さえも厭わぬ、“狂気”同然の決意を固めたその心の闇を暗示するかの様に、風で靡いて陽の光を遮るカーテンをバックに、いつもの優しい笑顔から徐々に不穏さを感じさせる歪んだ笑顔に変わっていくつよしの表情を観た視聴者の中には、真っ先にこの台詞を思い浮かべた者も多かった事であろう……
「モンスターより人間の方が、生々しくて怖い…」と……
まさかの、この台詞を発した本人が、台詞の趣旨を自らの行動を以て証明する事となってしまった。
この展開に、それまでつよしの事を今作屈指の常識人と信じていた視聴者からは、改めてこの『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』……そして、その脚本を手掛ける鬼才・井上敏樹の子供に向けた妥協や忖度など一切ないストーリー構成や人物設定の手腕に、戦慄とドン引きする声が上がったのは言うまでもなかった。
挙げ句にドン15話において、つよし自身が人間と比較していたモンスターへ成り果ててしまうという、更に皮肉な展開が起きてしまった。
そして、それからしばしの時が過ぎて、物語も佳境に入りつつあったドン34話。
再びつよしの“モンスターより生々しくて怖い”一面が顕になるが、その矛先となった相手は、事もあろうに同じドンブラザーズの仲間にして、個人的にも奇妙な友情を築いてきた犬塚翼であった……
同時に、つよしが狂気同然の決意を抱き、挙げ句に2度もモンスターになってまでも、守ろうとしてきた妻みほもまた、つよしの手から離れつつあり……
関連タグ
みほちゃんのセコム超怖い:件の行動をしでかした雉野に対して。
はなたかえれじい:ドン20話のサブタイトル。同話ではつよしは勿論、はるかや真一、そしてジロウの『生々しい』一面や『怖い』一面が描かれた一話となっている。
井上キャラ:人間を綺麗な存在として描かない作風を一言で表現したもの。ドン8話の一件をもって、つよし自身もその代表的な一人として名を刻む事となった。