概要
商船改造空母とは、読んで名のごとく、商船(民間船)を改造してつくられた空母のことである。
そもそも空母らしい全通飛行甲板を持つ最初のものであるイギリスのアーガスが商船改造空母である。アメリカ最初の空母ラングレーも、給炭船ジュピターを改造したものであり類似と言えよう。
しかし、大々的に作られたのは第二次世界大戦時である。空母を急いで入手しようと考えた列強諸国のほとんどがこれに手を付けた。ただし速力・防御力などの性能は一から空母として作られたものと比べるとどうしても劣るので、対潜・護衛や、航空機輸送を任務とすることが多かった。
中でも日本は、軍縮条約でアメリカ・イギリスに対して空母保有量で差を付けられていること、そもそもの国力から建造能力に劣ることから、平時から空母予備船を準備しておいたことに特徴がある。
一方で、アメリカ、イギリスでは徴用した一般商船をベースにした「簡易空母」を多数運用した。日本のような大型高速の旅客船改造の空母と比べるとスペックでは劣ったが、カタパルトの装備で必要最小限の艦上機の運用は可能であり、数の力と運用の妙で、大きな戦果を上げた。
イギリスのMACシップのように、商船(貨物船)としての機能を残しつつ、空母の機能を追加した船もあった。MACシップのベースには、荷役にクレーンなどを必要とせず、甲板がフラットな、タンカーや穀物運搬船が選ばれた。
日本でも同様の発想で、タンカーをベースとした特TL船(しまね丸、山汐丸)の例があるが、時機を逸し、全く活躍できなかった。
戦後
大戦後は、航空機が発達して空母に必要な能力が高くなり改造のハードルが高くなったことや、そもそも必要とするシチュエーションが出現しなかったことによりその例は少ない。
ただし、フォークランド紛争時にイギリスはコンテナ船アトランティック・コンベアー及びアトランティック・コーズウェイをVTOL戦闘機ハリアーやヘリコプターの輸送艦として現場で発艦させている。あくまで輸送のみが目的で、実際の運用は空母ハーミーズ及び空母インヴィンシブルで運用することが前提で、無改造で運用しており、排気熱対策は耐熱マットを敷いて使い捨てるだけである。これは乗せ変えのための寄港や大型クレーの追加等をせずに済ませるためである。
またフォークランド紛争後に導入したヘリ空母機能を備える病院船アーガスも紛争中に航空機輸送船として徴用したコンテナ船コンテンダー・ベザントを改造したものである。
旧ソ連でも貨物船アゴスティニョ・ネトにYak-38Mの搭載が行なわれたが、これは実験のみで終わっている。
海上自衛隊でも、復員船として使われた鉄道連絡船の興安丸を空母に改造できないか検討したようだが、結局実現しなかった。仮に実現しても、全長126.5mと小型な興安丸に乗せられる艦載機があるのか甚だ疑問だが(ヘリでも載せるつもりだったのだろうか)、検討で終わった辺り最初から不可能と判っていたのかもしれない。
一方、2020年代の前後からイラン海軍ではタンカーを改造してヘリ空母化するケースがみられている。
例えば2021年には排水量約12万トンの日本製石油タンカーを改造した「マクラン」が就役している。同艦はヘリ甲板を備え、最大7機のヘリと短距離離着陸のできる無人機を海上運用可能。ただし、艦種的には海上基地とでもいうもので、元がタンカーなので石油などの物資を大量運搬したり、甲板に野砲やロケット砲などの陸上装備を展開するなど多用途な運用ができる。
他にもコンテナ船に飛行甲板を設置した「シャヒード・マフダビ」と、同型艦だがアングルドデッキのような斜め飛行甲板と短距離発艦用のスキージャンプ台を追加で設けた「シャヒード・バゲリ」が2023年ごろから確認されており、恐らくは無人機空母として運用するのではないかとみられている。
なお、イラン海軍は過去にも民間船を軍艦に魔改造したケースが多々あり、日本の税関で使用されていた取締船をミサイル艇に、日本製のカーフェリーを戦車揚陸艦兼機雷敷設艦に改造したことがある。
また、架空戦記では船型が平たく巨大なタンカーを改造すると言うギミックがしばしば登場している。
主な商船改造空母
日本海軍
日本の商船改造空母は、すべて「~鷹」という名前であった。
その他各国
関連タグ
護衛空母(米英で主に対潜用とされた小型低速の空母。商船改造空母の代名詞)
特設空母(民間船を徴用して空母としたもの、商船改造空母とだぶる)