この記事は『HUNTER×HUNTER』蟻編の根幹にかかわるネタバレが含まれます!!!
お前さんは何にもわかっちゃいねえよ
人間の底すら無い悪意(しんか)を…!!
その爆弾は低予算で小型の上、驚くほどの殺傷能力を誇り
技術さえ確立してしまえば、短期間での大量生産が可能なことと
爆炎の特異な姿から
貧者の薔薇(ミニチュア・ローズ)と呼ばれ、独裁小国家に好まれた。
概要
超小型かつ超廉価にして超威力を誇る時限爆弾。
爆発の際に生ずるキノコ雲の姿(メイン画像奥)が薔薇に酷似していることからこの名が冠せられた。
のべ250もの国でその10倍の爆炎を起こし、既に512万人もの命を奪っている。コストの低さと持ち運びの簡単さから独裁小国家やテロリストに好まれ、とある国での爆発事件では首都で11万人もの死者を出した。この事件を機に新規生産を禁ずる国際条約まで作られたが、保有国の8割は廃棄に難色を示しているという実情を前に、使用禁止と廃棄まで踏み込む事が出来なかったのだからタチが悪い。
一撃で広大な兵器実験場を蒸発させ、岩盤をマグマに変えるほどの熱と爆風のエネルギーもさることながら、起爆時には膨大な毒をまき散らし、爆発を直接受けていなくても、その付近にいただけで毒を盛られ、被害者が別の生物と出会う度に毒が伝染していくという救いようのない大量破壊兵器である。
その上恐ろしいのは、上述の「テロリスト」とされる犯人はどう見てもテロリストというよりただの難民であり、これが変装でなければ(大都会のど真ん中に難民丸出しの格好で現れるのは正直不自然であるため、恐らく素)、そのどう見ても難民なテロリストでも盗み出せるガバセキュリティでの保管、或いはそんなテロリストに売り付けるロクでもない商人が存在するのどちらかである事になる。
軽く持ち運びやすいという特性から、恐らくモチーフは核弾頭に使用されるブースト型核分裂兵器「強化原爆」と思われるが詳細は不明。なお、余談であるが東ゴルトーのモデルとなった朝鮮民主主義人民共和国でも2016年に開発に成功、核実験を行った。
この兵器が現実の核・細菌兵器と明確に異なるのは、薔薇によってまき散らされるものはあくまで「毒」であり、ある一定の範囲にまで拡大はするが最終的に無害化するという特徴があること。
細菌兵器や核兵器であれば、使用した箇所からどんどん汚染地域が拡大したり、半永久的に汚染が残ったりという事があるが、薔薇は毒であるために最初に仕込まれた毒の総量以上には増えない。死体が連鎖的に被毒者を増やすが、広がれば広がる程毒の量は減り、最終的に致死量を下回るようになる。結果、それ以上の範囲に汚染は拡大せず、また毒であるために増殖もせず、恐らく除去・解毒も可能なはずなので汚染が残り続けることも無いのである。
安価で容易に作れる大量破壊兵器でありながらその後の処理にもさほど困らないという、「生命体を死に至らしめる事『だけ』に特化している点」こそ、薔薇が「この上なく非人道的な悪魔兵器」と呼ばれる理由と言えるだろう。
作中ではハンター協会会長アイザック=ネテロがキメラアントの王(メルエム)との最終決戦で死を覚悟した際に使用し、自らの命と共に兵器実験場諸共メルエムを吹き飛ばした。幸い、護衛軍のモントゥトゥユピー&シャウアプフが駆け付けたことにより、火達磨となったメルエムは彼らの細胞を補給するという方法で一命をとりとめた。しかし解毒までは間に合わず、ユピーやプフも、そして最後の軍儀相手となったコムギも王の身体より発せられる毒に蝕まれ命を落とす。(むしろユピーとプフの細胞を補給したことで、二人の身体にあった毒が王の身体に更に蓄積されるという皮肉な結果を生んだといえる。)
今際の王の手に握られていたのは、ただ一人心許した「人間」の小さな掌だった。
作中における意義
インフレし過ぎた最強のモンスターを倒すのに貧者の薔薇のような(戦略規模の)兵器を用いることは、少年漫画においての禁じ手かデウス・エクス・マキナともとれる。しかし、視点を変えると人間とキメラアントの立ち位置が大きく異なってくる。
読者やキメラアントから見れば、人類はキメラアントに捕食される「弱者」と言う立場に思われていたが、それは描写される人類が「個体」であって「種族」ではなかったからであると同時に、描写が「個体」の延長ゆえに、一個人の戦闘能力に依存する視点でしか「人類の価値」を測れなかったからだ。
キメラアントにとって、王の存在は「個」であると同時に「種」でもあり、メルエムが死ねばそれでキメラアントは終わってしまう。キメラアントは他種族のメスと交尾を行うことで子を増やせるがそれは雑兵でしかなく、大量の兵や王・護衛軍を産む女王蟻は王の性行為を経てしか誕生しないからである。
しかし人間は、トップが倒れても新たな人間がトップに立ち、「種」や「組織」は継続されていく。さらに、戦地である東ゴルトーはHUNTER×HUNTERの世界観では小国であり痛くないとまではいかなくても切り捨てても人類全体で見れば致命傷にすら至らない程度で済む犠牲でしかない。
そのため、人類が東ゴルトーの犠牲とその責任問題に目をつぶれば、キメラアントなどその気になれば簡単に潰せる害虫でしかなかったと言う訳である。
(実際作中でメルエムの圧倒的なオーラを感じ取ったナックルは「もう自分たちではどうにもならない。」とは感じているが、人類が存亡の危機にあるとは考えていない。また「国家レベルの武力がいる」と感じているが、それはつまり人間社会の中の一組織では事態を収拾できないが、国の軍事力クラスの力を使えば解決できるとしか感じていないという事でもある。)
解説
先の通り少年漫画においては禁じ手だが、超人的な人間に政府や国が平頭するというのもおかしな話であり、バトル漫画のインフレに対する作者からのメッセージや皮肉なのかもしれない、と現在では考えられている。確かに
何せ作者こそが終わらない戦闘力のインフレに嫌気が刺したために幽遊白書の連載をやめた過去を持つ張本人であり、だからこそ描けた展開であるとの確かな説得力に繋がっている。
余談
この兵器の犠牲者数だが、実際より少なく計上されている可能性が高い。
というのも国民大会における選別で謎の体調不良で死亡した人間がおよそ四万人おり、その付近には毒で死したプフが倒れていたのだが、
この爆弾の性質を考えるとこの体調不良の原因は毒が原因とみられ、その場合この爆弾は毒のみで4万人(半数はプフの鱗粉が原因としても2万人)を殺れると考えられる。
またこの爆弾の禁止条例が提唱される発端となったテロにしても犠牲者は11万人であり、これだけのポテンシャルを秘めた爆弾の使用量と犠牲者の割合を考えると、一つにつき2000人の犠牲者はいくらなんでも少な過ぎる。
乱射したなら話は変わるが一発でもオーバーキルなこれを乱射などする意味はないと思われる。ただし、アニメ版では11万人の犠牲者を出したと思われる事件は複数のバラ型雲が至近距離で発生していたため、この事件は至近距離で貧者の薔薇を同時使用した事件だったと思われる。