この男が、世界を変えてしまった
概要
第二次世界大戦中にマンハッタン計画を主導して原子爆弾の開発を成功させ、後に「原爆の父」と呼ばれた理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの生涯を描く伝記映画。
製作の経緯
2005年に発表され、翌年にピュリッツァー賞を受賞したカイ・バード、マーティン・J・シャーウィン共著のノンフィクション『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』をもとにクリストファー・ノーランが脚本を執筆した。
ノーランの映画では初めてユニバーサル・ピクチャーズによる製作で、ノーランが率いるシンコピーを含めた米英の制作会社により共同制作された。
ノーラン作品の常連であるキリアン・マーフィーが初主演を務めたほか、ハリウッドを代表する豪華キャスト陣が顔をそろえている。また、ノーランの実子が重要な役で出演している。
日本での公開
日本では全米公開から8か月後の2024年3月29日に、ビターズ・エンドの配給で劇場公開された。
世界公開のハリウッド映画は本国アメリカと同時期か、遅くても数か月後に公開されるのが通例であり、大コケしたならまだしも大ヒット作かつ、日本でもファンの多いノーラン監督の新作がここまで遅れたのは異例の事態であった。長らく公開の動きがなかった理由は公にされていない。
なお、日本語吹替版は公開されず、上映はすべて字幕版となる。
あらすじ
今作はオッペンハイマーの半生をカラー映像で語った「FISSION」と、原子力委員会でオッペンハイマーと対立したストローズの視点で描かれるモノクロ映像「FUSION」による二種の映像が時間軸を交錯させながら展開していく。
FISSION
1954年、かつて「原爆の父」と称されたロバート・オッペンハイマーはソ連のスパイ疑惑をかけられ、聴聞会での追及を受ける。世にいう「オッペンハイマー事件」である。
ロバートの脳裏にこれまでの半生が蘇る。精神的に不安定だった学生時代、恩師ニールス・ボーアと出会い、理論物理学に転向してのめりこんでいったこと。やがて教授となり、「オッピー」の愛称で親しまれる人気講師になったこと。多くの共産党員とかかわりを持ち、その中でジーン・タトロックと激しい恋に落ちたこと。しかし彼女を捨ててキャサリンと結婚したこと。
やがて第二次世界大戦が激化する中、アメリカ陸軍のレズリー・グローヴスがロバートに接触、原子爆弾を開発する極秘プロジェクト「マンハッタン計画」のリーダーに抜擢する。すでにナチスは核分裂の発見に成功しており、ユダヤ人であるロバートにとってもナチスの凶行は他人事ではなかった。
マスコミなし、傍聴人なし、弁護士には十分な資料も与えられないという圧倒的に不利な聴聞会で、ロバートは過去の優柔不断な言動や不倫の過ちを次々に暴かれ、追い詰められていく。
FUSION
1959年、商務長官に指名されたルイス・ストローズは、上院の承認を受けるための公聴会に出席する。
その中で原子力委員会の委員長であったストローズと、五年前の「オッペンハイマー事件」で失脚したロバートの確執について触れられ、ストローズの視点からロバートの人となりが語られることとなる。
水爆開発を推進したストローズは、戦後核軍縮を訴え始めたロバートと対立を深めていったが、ストローズはそれだけに及ばずロバートに対して一方的な私怨をたぎらせていた。さらに「オッペンハイマー事件」自体が、そもそもストローズの謀略であるとする告発がなされ、公聴会は紛糾していく。
キャスト
J・ロバート・オッペンハイマー(アメリカの理論物理学者、後の「原爆の父」◎) | キリアン・マーフィー |
キャサリン(キティ)・オッペンハイマー(ロバートの妻、植物学者●) | エミリー・ブラント |
レズリー・グローヴス(アメリカ陸軍将校◎) | マット・デイモン |
ルイス・ストローズ(アメリカ海軍少将) | ロバート・ダウニー・Jr. |
ジーン・タトロック(ロバートの恋人、精神科医●) | フローレンス・ピュー |
イジドール・ラビ(ロバートの友人、アメリカの物理学者◎) | デヴィッド・クラムホルツ |
アーネスト・ローレンス(ロバートの友人、アメリカの核物理学者◎) | ジョシュ・ハートネット |
フランク・オッペンハイマー(ロバートの弟、素粒子物理学者◎●) | ディラン・アーノルド |
エドワード・テラー(ハンガリーの理論物理学者、後の「水爆の父」◎) | ベニー・サフディ |
ヴァネヴァー・ブッシュ(アメリカの技術者◎) | マシュー・モディーン |
ボリス・パッシュ(アメリカ陸軍将校) | ケイシー・アフレック |
ケネス・ニコルス(グローヴスの部下、アメリカ陸軍技官◎) | デイン・デハーン |
エンリコ・フェルミ(イタリアの物理学者◎) | ダニー・デフェラーリ |
デヴィッド・L・ヒル(フェルミの助手◎) | ラミ・マレック |
ニールス・ボーア(ロバートの恩師、デンマークの理論物理学者) | ケネス・ブラナー |
ハーコン・シュヴァリエ(ロバートの友人、文学教授●) | ジェファーソン・ホール |
ウィリアム・ボーデン(JCAE元事務局長) | デヴィッド・ダストマルチャン |
アルベルト・アインシュタイン(物理学者) | トム・コンティ |
ハリー・S・トルーマン(アメリカ合衆国大統領) | ゲイリー・オールドマン |
- ◎はマンハッタン計画参加者、●は共産主義者(元を含む)。
スタッフ
脚本・監督 - クリストファー・ノーラン
原作 - カイ・バード / マーティン・J・シャーウィン『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』
製作 - エマ・トーマス / チャールズ・ローヴェン / クリストファー・ノーラン
音楽 - ルドウィグ・ゴランソン
撮影 - ホイテ・ヴァン・ホイテマ
編集 - ジェニファー・レイム
製作会社 - シンコピー・インク / アトラス・エンターテインメント
配給 - ユニバーサル・ピクチャーズ(アメリカ) / ビターズ・エンド(日本)
公開 - 2023年7月21日(アメリカ) / 2024年3月29日(日本)
上映時間 - 180分
製作国 - アメリカ合衆国
言語 - 英語
レイティング - R-15
予告編
日本公開に当たって『インセプション』に出演した渡辺謙が予告のナレーションを務めた。
反響
興行収入
2023年7月の全米公開から2024年1月までの世界興行収入は9億5千万ドル超。すべてのジャンルでは歴代62位、伝記映画としては歴代1位となっている。
2024年3月に公開された日本では公開3日間で23万人を動員、3.7億円を達成。
その後、7月18日時点で18億4100万円を達成。
2024年公開の洋画で最高の成績を収めている。
受賞
2024年開催の第81回ゴールデングローブ賞にて8部門にノミネート、うち最優秀作品賞(ドラマ)、最優秀主演男優賞(ドラマ)、最優秀助演男優賞、最優秀監督賞、最優秀作曲賞の計5部門を受賞した。
第96回アカデミー賞では13部門ノミネート、うち作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、作曲賞の計7部門を受賞した。
備考
第96回アカデミー賞では、今作のほかに『君たちはどう生きるか』(長編アニメ映画賞)、『ゴジラ-1.0』(視覚効果賞)、『関心領域』(国際長編映画賞、音響賞)ら、第二次世界大戦に関連する映画が賞レースを席巻することとなった。
そのうち『ゴジラ-1.0』の監督である山崎貴は受賞後の記者会見で「映し鏡のような作品では?」と記者から質問され「アンサーの映画を日本人としては作らなきゃいけないんじゃないかな」と答えている。
日本公開時にはノーランと山崎の対談も企画され、その中で山崎は今作について「知的好奇心を刺激されると同時にショッキングでもあった」「栄光と悲惨さが同じフレームに収められているという作り方がすごく面白かった」「特定の誰かを断罪するわけではなく公平(フラット)に撮られている」と評している。
なお、両者は以前にも『ダンケルク』公開の際に対談を行ったことがある。
関連タグ
映画 / 洋画 / アメリカ映画 / 戦争映画 / 映画の一覧
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