ロングシート
ろんぐしーと
概要
その名の通り、車体側面に沿って横一列に座席を並べたものである。製造・ランニングコストを低く抑えられることが特徴。
座席間の通路が広いため立席乗車人数を最大に出来て1両あたりの定員数を稼ぐことが可能で、乗降のしやすさはクロスシート(進行方向に直角の座席)に勝る。混雑の激しい路線では着席よりも収容力や乗降のしやすさを優先し、ロングシートを採用することがほとんどである。地方路線では、クロスシートとロングシートを混在させるセミクロスシートが用いられることが多い。
主に混雑が激しくなる通勤形電車に採用される形式だが、中には地方路線で使われる例もあり、2ドア・ロングシートでやたら長い「スーパーロングシート」なるものも存在する。(123系、吉備線などのキハ47等)
乗客にとっての利点
正面に着席している乗客との距離が離れるという点においては快適であり、車両の幅が狭かった大正時代初期以前には、一等車や二等車といった上級車両に多く採用されていた。今でも、「着席時などに隣の乗客との接触が多くなるクロスシートを敬遠する」という理由でロングシートを好む乗客もいる。
クロスシートの場合、奥の座席の人が出にくくなる。見知らぬ人に声をかけることが躊躇される日本の文化もあり、乗り降りが多い路線ではロングシートが一般的。
かつては、クロスシートに見られる閉鎖空間性からくる「治安の問題」を解決するため有効である側面があった。
というのも、喫煙率が高かった時代は閉鎖空間ゆえ喫煙者が座ることが多く、さらに窓が開く車両では学生などが窓からカバンを投げ入れて席を取る行為も横行し、こうしたことから、地域の自治体の要望もあってクロスシート車をロングシート車に改造したり、ロングシート車を新投入する例もあった。
根本的に解消するには当時すでにJR東海が行っていたような下段の固定化・灰皿の撤去しかなかったが、当時の50系客車などは国鉄財政の悪化のつけで冷房および電源装置が装備されていなかった。以後使用に必要とされる、省略されていた冷房化・給電装置・ブレーキのフルスペック化・汚物処理装置などの取り付けを行った場合、改造費が膨大なものとなったと想定される。
乗客にとっての欠点
基本的に多くの人と向かい合わせに座ることとなるため、不特定多数が視界に入ること、あるいは不特定多数の視線に晒されることで落ち着けず、クロスシートと比べると長時間の乗車は精神衛生上あまり良くないとされる(一方でクロスシートも「狭い空間で長時間他人と一緒に座る」ことに苦痛を感じる人もいる)。
閑散時や中〜長距離の乗車(都市間連絡や観光目的での利用など)では通常好まれない。とりわけ、駅弁文化などが華々しい日本では、名物駅弁を買ってもロングシートでは周囲の目が気になって食べられないという文化的な弊害も出てくることになる。
また構造上どうしても背もたれが低くなる為、シート自体の座り心地はクロスシートに劣る。ただし人口密度的に余裕の無い関東地方はともかく、密度の少ない関西地方では奥行きを持たせて座り心地に配慮したものが多い傾向にある。
扉周りが開放的になっているということはラッシュ時の乗り降りが容易になっている反面、冬季では寒気の入り込みが大きく、特にドア周りの乗客は入り込む寒気をまともに受けてしまうことになる。寒冷地で運用される701系や731系・733系・735系が不評(?)な理由は主にこういった所がある(731系・733系・735系はドア横にエアカーテンを設置してはいるが)。
とりわけ、東北地方に投入された701系は東北一帯の旅行において「旅情を台無しにする戦犯」の代表格扱いされてしまうことになり、地元住民からクレームが多数来たこともあってセミクロスシートに改造された例もある。特に中〜長距離の利用者、お金を多く払う人たち(18きっぱーはアレなところだが)がとばっちりを喰らうというのはたまったものではなかった。国鉄の放漫経営と内部腐敗がまわりまわって時間差で乗客に払わせられたともいえ、極めて理不尽である。困るのは主に普通の人たちであり、これは鉄道においても例外ではないことがわかる。
また、閑散時にロングシートをベッド代わりにして寝転んでしまうという(C寝台)ロングシート特有の治安問題もある。ちょうどこんな感じ。
日本では首都圏など人口の多い地域にて、夜間の空いている列車ではかなりの確率で酔っ払いが寝転んでいるのだが、ロングシートの開放性ゆえに、この状態で混雑すると車内全体のムードが一気に悪化する(エスカレートして口論や暴力沙汰に発展するケースも実際に発生している)。
このほか、山手線に代表される環状路線では夏冬の暑さ寒さをしのぐ目的でホームレスが車内に入り込み、下手をすると始発から終電まで寝転んでいる(一時追い出しても、後続の列車でまた同じことを繰り返す)こともままある。
加えて、このような行為を行うホームレスは極めて不衛生で近寄りがたい手合いが多く、ラッシュ時にも関わらず、そのホームレスが寝転んでいる座席の周辺だけ海を割ったモーセのように人が避けて奇妙な空間が出来ていることも少なくない。
現状
日本では基本的に通勤型車両に使用されているが、オールロングシート車の一部は製造・ランニングコストの安さもあって長距離運用やローカル線にも投入されており、
等々、「ツメコミ電車」(あるいはツメコミ気動車)と大顰蹙を買っている。
オールロングシート車は詰め込みが効くことから、地方部において車両と冷暖房費をケチるため編成長を極限まで減らすことが横行しており、混雑を嫌った乗客による鉄道離れ→さらなる編成減・便数減という悪循環、車椅子やベビーカー利用者等へのバッシングムードの醸成を引き起こしている。
国鉄時代でもキハ35系が投入路線の電化によって地方のローカル線に転用されたが、オールロングシートであるため乗客の評判は良くなかった。そのため、JR四国などは「鉄道は、(他の)鉄道や自家用車・バスを相手に輸送モード間の競争をしている」という理由でオールロングシート車を新造しなくなった。
また首都圏の中距離列車も例外ではなく、一時期211系などの3扉のオールロングシート車が主流となった時期があったが、中長距離の利用客からの評判は好ましくなかったため、E217系以降の一般形近郊タイプでは編成中のうち数両だけセミクロスシート車が復活している。
ただし、扉数は4扉に増やした上での措置であり、乗車定員をロングシート車と同じになるようクロスシートの配置を工夫したものとなっている。しかし新型車両の置き換えで捻出された211系ロングシート車が地方に転属し、不評を買っているという問題も引き起こしている。
ただJR東日本としては「一般乗客に高級なシートは不要(要約)」の立場は崩していないと見え、E217の後継である総武・横須賀線用E235系普通車は再びオールロングシート化されることとなった。
海外のうち、旧西側諸国系の地下鉄では、通勤路線でもクロスシートやセミクロスシートが用いられる場合が多い(ただしこれはヘッドレストを欠いたベンチ並のものが大半)。
逆に言えば、多くの乗客を捌けるロングシート車の多さは、日本国内における鉄道利用人口の多さを象徴するものとも考えられる。