エブリデイ・マジック
えぶりでいまじっく
ファンタジーに含まれる多種多様な物語のうち、普通の世界にいる不思議な人々の物語を一般にさす(長尾 1994)。舞台を日常生活が営まれる普通の世界とし、そこに魔法使いやドラゴン、人語を解する動物といった魔法的な存在が入ってくることで不思議な物語が展開するもの、それがエブリデイ・マジックである(長尾 1994; 白須 2011)。
場合によってはローファンタジー(ハイファンタジーの対義語)と呼ぶこともあるが、ローファンタジーが「現代の要素が混ざるファンタジー」の意味で使われているのに対し、エブリデイ・マジックは「現代の日常ドラマを基盤に、ファンタジーを織り交ぜた話」という「現代の出番が異世界の出番よりも多い」点がより強調される。
一般に発祥として挙げられるのはイーディス・ネズビットの『砂の妖精』(1902)である(白須 2011)。子供たちが砂の中に住む妖精に出会い、願い事をするというプロットである。またパメラ・トラバースの『メアリー・ポピンズ』(1934)、メアリー・ノートンの『床の下の小人たち』(1952)などもこの類型で取り上げられる(白須 2011)。
また米国ではそれらエブリデイ・マジック文学の流れを元にテレビドラマとして『奥さまは魔女』(1964)年が大ヒットした。しかしやがて、ル=グウィン(2009)が「ファンタジー」は一般に「中世的異世界を舞台とする」と述べているように、エブリデイ・マジックは欧米文学の主流からは外れてしまう。
しかし近年日本からの逆輸入で『魔女の宅急便』“Kiki's Delivery Service”の表題でヒットし、またホグワーツという異世界を内包する形で現実の英国も舞台にした小説『ハリー・ポッター』がヒットするなど、変化の兆しも見られるようだ。
日本では一般に佐藤さとるの『だれも知らない小さな国』(1959)、いぬいとみこの『木かげの家の小人たち』(1959)が最初期のエブリデイ・マジック文学とされる(日本の子どもの本100選 2012閲覧)。また、『奥さまは魔女』や『メアリー・ポピンズ』の影響を元に『魔法使いサリー』が生まれ、エブリデイ・マジックは魔法少女アニメとしても新たに発展していった。
こうした中で宮崎駿は、魔法少女の伝統を継ぎながらも「田舎から都会に出てきた女性の物語」という現実的なコンセプトで『魔女の宅急便』をヒットさせ、新たな日常の中にあるファンタジーの可能性を提示する。
また荒木飛呂彦が『ジョジョの奇妙な冒険』で近代の英国に復活した吸血鬼と仙道、また現代日本における超能力の戦いといったテーマを取り上げたことは、後に大きな影響を与える。
荒木の影響下で『ブギーポップは笑わない』がヒットしたことが転機となった。ここから『月姫』、『化物語』といった伝奇系創作が誕生するとともに、『灼眼のシャナ』を始めとした日常の中のファンタジックな戦いを描くライトノベルの成立につながっていったからである。
現代の日本では、普通の世界における超自然的な存在の物語というのは、実に多い。それらは必ずしもエブリデイ・マジックというカテゴリでは呼ばれず、ファンタジーというカテゴリで呼ばれないことすら多くなってきている。それは、SFやホラー、エピックファンタジー(ハイファンタジー)等他ジャンルとの境界が厳密に意識されていないことも大きい。そこでここでは、普通の世界を主な舞台とし超自然的存在を扱う作品が、頻繁にみられるという点で関連性の高い各ジャンルを列挙しておくことにしよう。
歴史で先述したように伝統的な魔法少女ものは、普通の世界に住む普通の少女が何らかの理由で超自然的な魔法の力を手にするという設定、あるいは、魔法の国のお姫様が普通の世界に来て、魔法の修業をする為に人間の少女として暮らす設定であり、正しくエブリデイ・マジックの伝統を継ぐとともに、日本における主流をなしてきた。
魔王ものも、普通の世界に魔王が来る、あるいは普通の人間が魔王の力を手にするといったエブリデイ・マジックの設定が付与されることが多い(ただし、異世界ファンタジーとして展開することもある)。
伝奇あるいは異能バトルものにも、普通の世界を舞台として超自然的な何らかの力を持ち込む設定は多くみられる。また普通の世界を舞台とするため、学園モノや日常系といった要素が持ち込まれるケースも多くなっている。
以上の定義においてエブリデイ・マジックの手法を用いていると見なせる作品の一覧。
ただし重複を避けるため、上記関連性の高い各ジャンルで挙げられているものは除く。
メタフィクションとの関係
メタフィクションの多くは、作中作や劇中劇がある現実世界=我々の住む世界という定義である。
ところが、エブリディ・マジックは(現実と異世界の交流を描いていても)現実側の人間がメタ発言をすることが多々ある。
現代人と異世界人が、どちらも同じ絵柄(アニメ絵、萌え絵など)で描かれていることも多々ある。
この為、エブリディ・マジックの人間界=観客席や舞台裏とは限らない。
また、異世界が出ない完全な現代ものにもメタ発言が出る作品が沢山ある。
メタフィクションも、社会風刺と一緒で発表する時期と場所を選ばないと手法が意味をなさなくなってしまうことが多々ある。
Le Guin, Ursula K., Cheek By Jowl, Aqueduct, 2009,谷垣暁美訳『いまファンタジーに
できること』河出書房新社,2011.
長尾剛『ファンタジーRPGの宝物が100!』富士見書房,1994.
日本の子どもの本100選(1946~1979)「木かげの家の小人たち」財団法人大阪国際児童文学館,2012年11月閲覧.
白須康子「『魔よけ物語』に反映された ネズビットの子ども時代と社会主義思想」『人文研究』No.175,2011.
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