曖昧さ回避
- 上遠野浩平のデビュー作。
- 1を第1作とする小説シリーズ「ブギーポップシリーズ」の通称の一つ。
- 1または2を原作とする2つのアニメシリーズおよび実写映画のタイトル。
本記事では上記3つ全てについて記す。
概要
電撃文庫から刊行のライトノベル。著:上遠野浩平、イラスト:緒方剛志。第4回電撃ゲーム小説大賞受賞作品。
作品名およびシリーズ名の通称はブギーポップ。pixivのタグでもブギーポップでの登録が多い。
現代ライトノベルの方向性を定めた作品の一つであり、セカイ系の源流の一つとなった小説。後進に与えた影響は大きく、西尾維新、時雨沢恵一、奈須きのこなどが上遠野の影響を受けた作家としてあげられる。
この作品のヒットともに、それまで異世界ファンタジーが主流であったライトノベルは
エブリデイ・マジック・異能バトルものを中心に変化・発展していくこととなる。
また西尾や奈須を中心に伝奇としてのライトノベルを確立する契機にもなった。
これらの意味では先述の通りこれら諸ジャンルの元になった作品と呼ぶこともできよう。
『ブギーポップは笑わない』とは1作目のタイトルだが、そこから始まるシリーズ全体を指す場合もある。シリーズは現在(2024年11月)、25巻まで刊行されている。上遠野浩平作品は一般に作品間で世界設定につながりを持っているが、特に『ビートのディシプリン』シリーズと『ヴァルプルギスの後悔』シリーズはほぼ完全に登場人物が共通する。2000年にテレビアニメ化と実写映画化が同時に行われた。主題歌は共通して、スガシカオの「夕立ち」である。
物語は県立深陽学園という高等学校を中心に、日本、時には全世界を舞台にして展開する。”MPLS”と呼ばれる超能力者、そして主にそのMPLS能力を巡って出現する世界そのもののあり方を変えてしまう”世界の敵”、それと対峙して暗躍する”死神”ブギーポップあるいは統和機構等の裏世界の勢力、そして何よりもそういった戦いに巻き込まれていく一般の人々と少年少女たちを描いていく。主人公はブギーポップであるが、視点を提供する語り手は一般に別の人物であり、各巻、時に各章各節において語り手も異なっている。
怪物を人に変える出会いもあれば、人を怪物に変える出会いもある。
特別な力を持った誰かが特別な考えを持つ誰かと出会うことで始まる群像劇。
その特異な物語の構成とブギーポップのキャラクターの問題から他の電撃文庫作品とコラボが難しい作品である。
登場人物
群像劇であり、なおかつ長く続いているシリーズであるため、登場人物は非常に多い。ここではpixivにイラストの存在する者を抜粋(一部を除く)。
主人公
県立深陽学園高校の二年生(初登場時)である少女。竹田啓司というボーイフレンドがおり素直で明るい性格だが、その無意識下にはブギーポップという存在が眠っている。ブギーポップとは、深陽学園女子の間で伝えられている伝説の死神であり、その人が一番美しいときに現れて殺しに来てくれるという。実際は人間の道を外れる一歩手前、人の道を外れ闇に堕ちる寸前の魂を刈り取る行為を行っている。
県立深陽学園
宮下藤花が通う高等学校。いくつかの事件の舞台となって、死者や行方不明者も出ている。
近隣高校にも名の知れた不良であり、いわゆる”正義の味方”的な活動を続ける少女。高い戦闘力を有し戦術眼にも優れている。『ヴァルプルギスの後悔』シリーズにおいては主人公でもある。詳細は → 霧間凪
宮下藤花の先輩であり恋人。彼とブギーポップの出会いが物語の始まり。ブギーポップにとって数少ない「友人」。
凪のクラスメイトで藤花とも交友を持つ。ブギーポップが関わる事件に何かしら関わってしまうが、彼女自身は直接ブギーポップに出会うことはなく、傍観者になることが多いが事件解決の糸口を見出すことも多く、凪にも信頼されている。
正美は深陽学園の一年生で風紀委員会に所属する、さして目立たない少年。しかしとある研究施設から逃れてきたマンティコアという存在と出会って、その運命は捻れていく。
怪物は食べるために人を殺し、少年は快楽のために人を怪物に捧げる。
怪物は食欲による終わりのある殺意を抱き、少年は人の死に終わりのない快楽を見出す。
やがて少年の狂気が怪物の本能すら飲み込み、終わりのない殺意の連鎖が生まれようとしていた。
早乙女正美とマンティコアの出会いの一年前に自殺した女子高生。初登場時には既に故人。
人の生き死にを自由に決定する能力<ストレンジ・デイズ>を操る少女。
力の一部を他人に授けることも可能であり、この能力で多くの仲間を従えてきた。
彼女の目的は人類の精神を一段階先に進めるための“突破”であり、それにより人類全てがあらゆる感情を共有できる優しい世界を築こうとしていた。
しかし、自分の能力の域を超えた存在である死神ブギーポップにより死の運命を決定され、自殺する未来を選ぶこととなる。
その後も霊体として現世に留まり計画を続行していたが、霧間凪の弟の谷口正樹の活躍により、計画は破綻してしまう。最期は敵である彼の中に“突破”の可能性を見出し、その精神も消滅した。
…ように見えたが、遥か未来の世界で仮想空間の管理者AIのバグによる偶然により、AIとして復活を果たす。
谷口正樹(たにぐち まさき)と織機綺(おりはた あや) / カミール
正樹は凪の義理の弟(凪の実母の再婚相手の連れ子)。格闘家榊原弦の弟子であり、東南アジアの裏路地社会からの帰国子女のため喧嘩の実戦にも強い。何よりも芯が強い青年。綺は元・統和機構の合成人間。その壮絶な過去から無感情な少女であったが、次第に本当に重要なものを見つけていく。炎の魔女と統和機構の接点という恐ろしい立場で互いに惹かれあった二人は、過酷な人生を歩む。
深陽学園に通う凪の友人。両親を借金苦による夜逃げで失ってから、後述する統和機構の監視下におかれるようになった。
ただの女子高生でありながら、他人を煙に巻くことにたけ、その範疇は予知や洗脳能力者さえ舌を巻くほどである。
その才覚と指揮能力の高さから普通の人間でありながら、合成人間たちの指揮官を任せられている。
統和機構
世間に潜んでいるMPLSと呼ばれる超能力者を探し、その中で危険な存在を抹消することを目的とする巨大組織。全貌は不明だが、全世界に組織の末端が存在するという。また、その実態は組織というよりも”システム”であるという。合成人間という人外の構成員を無数に有しており、中枢(アクシズ)と呼ばれる存在の指令によって動く。作中では「VSイマジネーター」から登場。
スプーキーE(スプーキーエレクトリック)
統和機構の合成人間で人間離れした巨体の持ち主。深陽学園の近辺でMPLSの捜索を中心とした諸活動を行っている。手から電磁波を発生して他人の記憶を操作する能力を有す。
統和機構で”最強”と呼ばれている、体にフィットした紫の服を纏った(少なくとも外見は)少年。空間を断ち切る能力によってあらゆる攻撃を防ぎ、また体表から一定範囲のあらゆる存在を破壊することができる。文字通りいかなる合成人間あるいはMPLSも敵わない最強の存在とされている。外伝では世界の創造主である“魔女”相手に『見下す』という暴挙を披露している。
とある事件をきっかけにブギーポップのほぼ追っかけ状態になる。(外伝では見た目小学生の女子高校生、才牙そらに大好き認定されたうえで、追っかけをされる立場になっている)
白米と鮭と味噌汁好きだったりする。
統和機構の合成人間であり、未来の出来事が体に痣となって現れる<スティグマ>という能力を偽装して超能力者狩りをしている下級クラスの暗殺者。本来の能力は相手の血液を爆発物に変える能力<リキッド>。それにプラスして人体を貫通するほどの手刀。
能力は合成人間の中でも平凡なものであるにも拘らず、上層部での評価は相当に高く、作中最強存在であるフォルテッシモ曰く「俺と対等な強さ、隙を見せたら殺される」と云わしめるほどの実力者である。
フォルテッシモ以外他人と親しい関係性を持たない孤独な人生を送っていたが、超能力者狩りの任務中、標的だった5人の予知能力者たちと親密になり自分のアイデンティティを見つめ直すこととなる。
前途の任務中、5人が予知した殺人ウィルスによる人類滅亡危機を回避するべく自らの全てを犠牲にしてその身を掲げることとなる。その際、他の5人に自分の正体と課せられた任務を明かした。
最終的に生死不明のまま行方知れずとなってしまう。
作者によると一応、生存はしている模様。
統和機構のエージェントで、圧倒的な破壊能力で知られる。手から射出した物体に最大では巡航ミサイル以上の破壊力を持たせることができる。表の顔は警察庁の上層部であり、裏の統和機構においても幹部の一人である。
統和機構の合成人間で『ビートのディシプリン』シリーズにおける主人公。鼓動を読む能力を持つ、戦闘用というより情報探索用の合成人間である。しかし、己の技術によって他人の鼓動を操ることもできる。戦闘技術は高いが一般社会的な常識にはどこか疎いところがある。
統和機構の戦闘用合成人間。空気を操る能力を持ち、主に裏切り者や危険な存在の処分を担当している。フォルテッシモを先生と呼んで、目標にし、かつ慕っている。見た目はどう見ても幼女である。
裏切り者の居場所を探る鍵をブギーポップが持っていると踏んで、ブギーポップの写真を撮ったことのある高校生3人組を脅迫し、自分の作戦に強制的に巻き込む悪童っぷりを見せるが、高校生一同からはマスコット的扱いをされてしまう。
やがて高校生3人の思い出話が3人とも違うという奇妙な点に疑問を感じ、過去を探った結果彼女等の過去に眠る“世界の危機”と対面することとなる。
用語
人類の進化した姿といわれている、何らかの特殊能力をもつ人間、またはその能力名そのものを指す。 まだこの世に存在していない可能性を秘めたもの。
わかるはずのないことがわかり、ありえないはずのことをするもの達のこと。世界を変革するもの。
MPLSは主に精神操作系が多く、抗うことそのものが難しい。稀に発火能力系や氷結能力系のMPLSも存在する。 その力は一世代の突然変異のものが多い。
世界全域を支配するシステムである統和機構が生み出す合成人間もMPLS研究によって生まれた副産物である。
合成人間(改造人間や強化人間)に付与される能力は科学的に説明できるものだが、MPLSの能力はまだ解明できていないモノのほうが大半であり、強力な能力を持つMPLSに、身体能力を強化しているだけの合成人間は基本的に不利であるため、狙撃や暗殺術で敵性MPLSの処理を行う。
統和機構は合成人間、その他端末(一般人)等を利用してMPLSの捜索・監視を行い、
可能ならば統和機構に引き入れ、危険過ぎる場合は前途のような手法で排除等を行う。
しかし、逆に水乃星透子や飛鳥井仁などのMPLSに端末を手駒として取り込まれてしまうこともある。
ブギーポップシリーズにおいては世界の敵として登場するのは専らMPLSであることが多い。
MPLSは世界の見方等が普通の人間と大きく異なり、その「意志」と「能力」が彼らを世界の敵に変貌させるのだとされる。
合成人間が後天的にMPLS能力を発現させることも稀にある。
MPLS=超能力者という考えは誤り。
MPLS系統の攻撃に対して抵抗力を持つ、幸運だけで危機を脱する、予知された運命を変えるなど人という枠を超えた存在。
谷口正樹や新刻敬のような自分の運命を理解し戦うべき相手、行くべき場所を知ることが出来る人間、そこに辿り着ける人間もまたMPLSである。
なお、初期のブギーポップは「エコーズ」、「マンティコア」など海外アーティストのピンク・フロイド、「カミール」、「スプーキー・エレクトリック」などプリンスのネタが多く使われている。
MPLSはプリンスの作曲スタジオがアメリカのミネアポリスにあることが元ネタ(ミネアポリスの略称がMPLS)。
またVSイマジネーター編で登場する「四月に降る雪」という言葉もプリンスがミネアポリスのスタジオで作曲した「Sometimes It Snows in April」のタイトルから引用されている。
ミネアポリスは多くのアーティストが拠点を置いている街で音楽の聖地と呼ばれている。
アニメ
これまでに2度アニメ化している。
2000年版
タイトルは『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』。
2000年1月から3月までテレビ東京系列6局とテレビユー福島、SBSにて放送。全12話。制作はマッドハウス。
本来は深夜アニメとして制作されたが、テレビせとうちとテレビ北海道は週末朝6時台の番組として放送された(深夜30時台と言えば深夜アニメにあたろうが)。
原作小説の映像化ではなく、その裏や隙間で起こったことを描いたオリジナルの内容になっている。後述の実写映画版を補完する意味合いもあった。
スガシカオが手掛けたOP曲「夕立」は独特の声質や曲調も相まって、本作に漂う何処か退廃的で乾いた雰囲気によく合っていた。
キャスト
宮下藤花 / ブギーポップ - 清水香里
霧間凪 - 浅川悠
百合原美奈子 / ブギーポップ・ファントム - 浅野まゆみ
早乙女正美 / マンティコア・ファントム - 福山潤
如月真名花 - 小林沙苗
殿村望都 - 能登麻美子
来生真紀子 - 伊藤美紀
末真和子 - 長沢響
エコーズ - 松野太紀
2019年度版
タイトルは『ブギーポップは笑わない』。
2018年3月、再アニメ化が公式より発表された。制作は引き続きマッドハウスが担当するが、スタッフはワンパンマン(第1期)を担当したスタッフが参加と総入れ替えになる様子。
キャストに関しても旧アニメとは変更される。
2000年版のネット局はテレビ愛知のみで、関東圏はTOKYO MX、関西圏はサンテレビ・KBS京都に変更され、BS11とAT-Xが追加された。
イラスト担当者と現在の版元であるKADOKAWAとの間でトラブルが発生してしまい、一時アニメプロジェクト凍結が噂されたが、結局KADOKAWAがイラスト担当者に詫びを入れた事で事なきを得ている。
ただし前アニメ化からかなり時間が経っている為か、イラスト担当者の作風に寄せていた旧作とはキャラデザインも大きく異なっている。
2019年1月から同年3月(テレビ愛知は4月始め)まで放送された。
第1話と第2話は1時間特番(ただしテレビ愛知はさらに第3話も加えての90分特番)、10話から13話に関しては別枠で2時間特番(テレビ愛知は第10話・第11話と第12話・第13話とした上で1時間レギュラー枠延長特番)として放送された。
大筋は原作小説の「笑わない」「VSイマジネーター」「夜明けのブギーポップ」「歪曲王」をベースにしている。一方で、原作小説の時代が明確になっていないことから、一般社会の風俗や技術が放送年(2019年)に合わせて変更されている。
キャスト
実写映画
タイトルは『ブギーポップは笑わない』。
2000年3月11日公開。
実は作者の上遠野がカメオ出演を果たしている。
キャスト
宮下藤花 / ブギーポップ - 吉野紗香
霧間凪 - 黒須麻耶
百合原美奈子 / マンティコア - 酒井彩名
紙木城直子 - 三輪明日美
エコーズ - 寺脇康文
末真和子 - 清水真実
竹田啓司 - 川岡大次郎
早乙女正美 - 高野八誠
新刻敬 - 広橋佳以
田中志郎 - 笠原秀幸
木村明雄 - 沢木哲