機体データ
型式番号 | 抹消 |
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所属 | ジオン公国軍技術本部・第603技術試験隊 |
開発 | ジオン公国軍 |
生産形態 | 少数生産機 |
全高 | 17.9m |
本体重量 | 51t |
ジェネレーター出力 | 976kW |
スラスター総推力 | 47,800kg |
携行武装 | 135mm対艦ライフル、120mmマシンガン、バズーカ、対艦成形炸薬弾、シュツルムファウスト、チェーンマイン、シールド |
概要
地球連邦軍のMSジムとして誤認させる為だけに製造されたMS、『GM Camouf.』(ジムのドイツ語読みにカモフラージュの短縮の組み合わせ)の名が示す通り『偽ジム』と呼べる機体である。
武装はヅダで試験されていた135mm対艦ライフルの他、ザクマシンガン、ザクバズーカ、スパイクシールドがそれぞれビームライフル、ハイパーバズーカ、ガンダムシールドに似せた、ハリボテじみた改造を施されたうえで用意されている。なお、ランドセル左のビームサーベルはダミーである。
ミノフスキー粒子を散布した下での戦闘ではレーダーが使用出来ない為、有視界での戦闘が前提とされる事から、形状による欺瞞を用いて連邦軍艦隊に接近・潜入・後方撹乱する事を主な目的としている。作中では、偽装によって相手に近づいた上で友軍機と誤認させ、油断させた後に、攻撃・破壊している。
その運用上の理由から本機は正式な型式番号を与えられておらず、その特殊な活動の為すべての公式記録は削除されている。
本機の生産数も少なく、鹵獲したジム(通称ゲファンゲナー・ゲム)との混成で用いられている。
また、この機体のパイロットは、地球連邦軍から亡命したアースノイドの義勇兵によって構成されており、元から整備もろくに行われていない旧ザクを使用すると言う捨て駒的な扱いを受けておりこちらの公式記録も削除されている。
原型MSの判別が困難なほど全身に渡って改造が施されており、後方も股間ブロックで左右に分断されたスカート周辺やスリムな脚部はヅダを、ランドセルから伸びる動力パイプはザクⅡやグフを彷彿とさせるものとなっており、装甲も強引にボルトで固定している。
元々内装部品の容積が大きくなりがちなジオン系の流体パルス駆動方式においてジムに似るまでシルエットを絞るということは装甲を極限まで削減していることを意味し、耐弾性能は望むべくもなくパイロットの生存確率を著しく低下させている。
一方でこの無茶な装甲削減は機体の軽量化による運動性の向上という副次効果を生み出している。極限まで装甲を削り回避性能を重視するというスタイルはグリプス戦役期には当たれば必殺のビーム兵器が主流となっていく中で、百式のように実用的な意味を得ている。ただしあれらは初めから回避を前提とした設計思想となっているため、あくまで副次的なものであり用途が用途であるゲム・カモフの構造が後の時代の設計思想に影響を与えた可能性は低い。
作戦行動を行う際は僚機のゲファンゲナー・ゲム共々識別信号を無効にしているため、これについて追及された際は通信での会話によって誤魔化す必要がある。
また、その形状から友軍からも攻撃される危険性も伴っている。その為、作中でもパイロットのエンマ・ライヒ(ライチェ)中尉は、この機体を「戦場の狂気そのもの」と呼んでいた。
作中でも、その擬態により連邦軍艦船を撃沈し、ジムとの誤認率が高い事を証明するものの、事情を知らない友軍のムサイから攻撃され機体は大破、パイロットのライヒ中尉も戦死している。
設定資料集に掲載されている3Dモデルでは連邦宇宙軍の標章(EFSF)がマーキングされており、このように所属を偽って奇襲を仕掛けることを「戦争犯罪」としている宇宙世紀の作品も多い(後述)。また、現行の国際法でも敵軍の標章を用いて戦闘する行為は「禁止される奇計」として扱われている。ただし、宇宙世紀において現実の国際法がどのように扱われているかは明確にされていない。
ちなみに、ネット上でゲム・カモフの話題になった際に言葉の響きからか「便衣兵」という単語が使用されることが多いが、これは「軍人が一般市民に偽装する」ことを指す南京事件における用語であり、兵器であるゲム・カモフおよびジオン軍から正式に制服と階級章を支給されているエンマ・ライヒ中尉には該当しない。
ライヒ中尉は機体に蝙蝠をあしらったエンブレムを描いており、これが、題名「蝙蝠はソロモンにはばたく」の由来となっている。
このエンブレムは、連邦を裏切り、ジオンからも認められない自分たち義勇兵を、イソップ寓話の一つ『卑怯なコウモリ』に重ねたものである。
一年戦争における所属偽装
一年戦争時において、鹵獲した兵器を使って敵軍に対し奇襲を仕掛ける描写がいくつかの作品で確認できる。
連邦軍
セモペンテ隊(OVA『機動戦士ガンダム MS IGLOO』)
第2話「遠吠えは落日に染まった」において、生粋の連邦軍人であるフェデリコ・ツァリアーノ率いる連邦軍コマンド部隊「セモベンテ隊」が、連邦軍が鹵獲したザクの外見を変更せずに使用し、ジオン軍に誤認させる戦法で戦果を挙げている。小説版では一人の生存者も残さず、生身に対して直接ザクマシンガンを撃ち込むなど、苛烈な戦法が描写されていた。
最終的にセモベンテ隊はジオン軍のモビルタンク「ヒルドルブ」と相討ちの形で壊滅を遂げる。
このザクは連邦軍が鹵獲したザクを研究・解析した後に、改めて戦力として投入されたものである。
IGLOOを含めてこのようなザクによる攻撃が行われたのは主に連邦にまだMSが量産化されていない時期で、場所も地上であり連邦が追い詰められていた状況であった。
一年戦争終盤に宇宙で運用されたゲム・カモフの登場は偽装機での戦闘という一年戦争の勢力の逆転を表しているとも言える。
なお、鹵獲機を使っての戦闘自体は敵軍のエンブレムを使用するなどして所属を偽らない限り戦争犯罪行為には当てはまらない。
機動戦士ガンダム0080のイラスト集「MS ERA」では盾にジオン軍章が描かれザク同様のグリーン系にリペイントされた鹵獲ジムの画像が掲載されている。
第二次大戦でもソ連、ドイツ、フィンランドなどが鹵獲兵器に自軍のマークを描き(友軍からの誤射を防ぐためでもある)、多数使用していた。
フェデリコ・ツァリアーノは連邦軍の軍服を着用しており、偽名を名乗ってもいないが、ザクにはジオン軍のマークをつけたままで、物資集積所の警備兵にあたかも味方であるかのように声をかけてから襲撃していたため、その点で「所属を偽った」と見做せるだろう。
場所が敵地だったため「鹵獲したザクを自軍拠点へ持ち帰る途中だった」などと言い訳できた可能性はあるが、仮にそうであるなら攻撃を仕掛けずに拠点への帰還を優先すれば良い話であり、加えてセモペンテ隊のザクは傍受を防ぐために通信機器を連邦製に換装するなどの改造を施していたためこのような言い訳を通すのは難しいと思われる(メタ的な話をすればツァリアーノのモデルはグライフ作戦を指揮したオットー・スコルツェニーなので、確信犯だったと考えるのが自然だが)。
鹵獲ザクによる騙し討ち部隊(ゲーム『機動戦士ガンダム バトルオペレーション Code Fairy』)
第1話において、主人公アルマ・シュティルナーが所属するジオン軍の機密拠点「ティルナノーグ」の領地にザクⅡが侵入。アルマ率いるノイジー・フェアリー隊はザクⅡへ引き返すように勧告するが応答はなく、接近したアルマに対して警告無しに発砲、アルマはザクのパイロットが味方ではないことを事前に察知し攻撃を回避している。同部隊のヘレナ・ヘーゲルは「鹵獲機を使った騙し討ちかよ!戦争犯罪ってやつじゃねーか、やることが汚え!」と憤っていた。その後、同じく鹵獲されたと思われるザクⅠ、ザクⅡが現れフェアリー部隊と交戦する。また鹵獲ザクの騙し討ち部隊の情報はジオン軍でも噂という形で流れていたようである。
偽装チベによるグラナダ基地破壊工作(漫画『機動戦士ガンダム 黒衣の狩人』)
地球連邦軍の情報部であるサイモン・ヒューズが立案した作戦で、鹵獲したジオン軍の巡洋艦チベに大量の爆弾や電磁パルス弾を搭載し、航行不能を装い救助される形でグラナダ基地に潜入、その後チベを爆破することにより基地の機能を麻痺させ補給線を分断し、戦争を早期に終結させることを目論見としている。乗員はジオン軍の制服を着用し言葉の訛りにも気を払い、通信を求められた際も映像を使わず音声のみで会話するなど徹底していた。しかし、「黒衣の狩人」ことヴォルフガング少佐のムサイと接触した際に不審な点を見抜かれ戦闘に突入する。
また、この作戦には過去に民間船を盾にして攻撃し、ヴォルフガングに民間人殺しの汚名を着せた「エースダック」ことブランドン・ロウ中尉が参加しており、油断してチベに接近したヴォルフガングの部下の学徒兵を格納庫からの不意打ちにより一撃で仕留めている。
鹵獲ザクⅠによる偽旗作戦(漫画『機動戦士ガンダム FAR EAST JAPAN』)
連邦軍の部隊から中隊ごと離脱した、骸骨の魔女(Death Witch)のエンブレムを掲げる部隊が運用するザクⅠで、ジオン軍のエンブレムを額にマーキングしている。主人公であるランディ・メネンデス准尉、リンゼイ・シミズ軍曹、ゴードン・レノックス少尉がコムサイでニホンに不時着した際に、識別信号を出さずに接近し、警告無しの射撃によってコムサイを破壊する。ランディ達は既にコムサイから離れていたが、鹵獲ザクによってこれ以上の被害を出さないために連邦の部隊を追跡。その後、連邦の部隊はジオンのコロニー落としへの復讐として、核兵器を鹵獲ザクで使用し南極条約違反の罪をジオン軍に被せようとしていることが判明する。
ジオン軍
ジオン軍の偽装貨物船(漫画『機動戦士ガンダム MS IGLOO 603』)
エピソード『南海に竜は潜む』で、ジオン軍の偽装貨物船「フォルケッシャー号」の艦長デューラーとMSパイロットのギュンター・ローズマンが、過去に運用していた偽装貨物船と搭載機のザクⅠを用いてジオン軍の制海権内に侵入した連邦軍の貨物船から積み荷を奪っていた。この際、民間の貨物船を装って接近し、正体を現した後に敵対行為を行うという手法を取っており、これは現実の国際法においても私掠船から続く流れとして認められている。
余談
鹵獲した友軍のジムをジオンの前線ではゲムと呼称しているという設定は『MS IGLOO 603』のみで用いられている。
鹵獲ジムをジオン軍の公式記録上でゲファンゲナー・ゲムとしているのも本作のみである。
OVAであるIGLOOの漫画版にしか登場していないためマイナーMSと言えるのだがゲーム作品への登場とインパクトのある見た目からそれなりの知名度がある様子。
『戦場の絆』ではレーダーで判別できるため見た目の偽装はそこまで役に立たないが遠目にはジムっぽく見えるので見逃されたり逆に混戦時には味方に誤射されるという原作のような話も見られる。
『機動戦士ガンダムバトルオペレーション』シリーズでは偽装伝達装置によってレーダー表示を誤魔化すことが可能となっている。
関連項目
ヨルムンガンド ヒルドルブ ヅダ ゼーゴック オッゴ ビグ・ラング
ザニー…地球連邦軍がジオニック社から入手したザクのパーツを用い開発したMS。主にMSの研究、パイロット訓練用として使用。見た目はGMに近いが頭部はガンキャノン初期型のものを流用。中身はジオン系MS、見た目は連邦系MSという意味ではゲム・カモフと同様の機体。
パーフェクト・ガンダム…南洋同盟がサイコ・ザクマークⅡのフレームにガンダムのパーツを取り付けた機体。ジオン系MSが素体で相手を騙すという思想もそのままだが、こちらの装甲の一部や頭部などは本物であり、リユース・P・デバイスの恩恵も手伝い性能も非常に高い。
バルジの戦いでグライフ作戦の為にM10ウルヴァリン駆逐戦車に偽装された車両が存在する。用途もアメリカ軍の目をごまかして敵地に潜入し、かく乱、奇襲する為の用途である。