ドーラナルシス
どーらなるしす
「我が名はドーラナルシス。私は美しくあるために生まれて来た。もっともっとエネルギーを吸い、大宇宙で最も美しい存在となるのだ。」
CV:てらそままさき
第32話「ゲキよ涙を斬れ」に登場するプリプリカンが作り上げたドーラモンスター。
最初は球根の姿をしているが、美人女性を養分として根で吸収することにより成長し、やがて人型の怪人の姿になる。
開花した直後は球根の上に頭が乗っているだけで、そのまま球根を変化させて胴体を形成する。
怪人としての姿はその名の通り白い水仙型の植物人間と言うべき物であり、両足の下も植物の根っことなっている。人型の形態になれば根っこは背中からも伸ばせるようになり、戦闘では武器としても使用可能。他にも目からの光線を放て、これには他者に生命を与える能力も併せ持っている。
性格も名前通りのナルシストであり、劇中では巨大戦で原典のナルキッソス同様ビルに映った自分に見惚れてしまう程。そして劇中では上記のやり方で成長に成長を重ねた上で、自らの根の力による地球の破壊を目論んだ。
なお、実は球根の状態では一切の抵抗手段がないという致命的な弱点がある。
実際にはバンドーラの扇動とゲキの迷いにより攻撃はされなかったが、ジュウレンジャーに発見された時点で相当なピンチに陥っていた。
都心のとある植物研究所にて球根の形態から街中に根を下ろし、水を飲もうとした蛇口を捻った少女や電話ボックスの傍にいた女子大生と言ったルックスの良い人間を襲っては吸収し、己の糧にして成長し続けていた。
そこへ、自身が起こした一連の事件の中心が潜伏先の植物研究所だと突き止めたゴウシにより、ジュウレンジャーが駆けつけ、ゲキに始末されそうになる。
だが、そこへ「お待ち、ゲキ。ナルシスを殺しても良いの?」と言うバンドーラの制止の声が響く。
バンドーラ「このドーラナルシスは、全ての物に命を与える魔力があるのよ。勿論、お前の愛する兄・ブライにだって!」
メイ「嘘……嘘よそんなの!」
バンドーラ「じゃあ、見ててご覧?」
立体映像で現れると、息を吹き掛けて近くにあった花を吹き飛ばす。枯れてしまった花が、ドーラナルシスの体に付着したかと思うと、ドーラナルシスの光を浴びた花が見事に生き返るのだった。
一連のデモンストレーションを見せた上で、
「信じるも信じないも、お前達の勝手。でも、1つだけハッキリしてるわ。このドーラナルシスを倒せば、もう永遠にブライは助からない!アッハハハハハハ…!」
とゲキを惑わす言葉を投げ掛けて姿を消した。
前回の大サタンやサタンフランケとの戦いにおいて、ブライに残された命が14時間しかないこと、そもそも彼は大獣神の願いによって一時的に蘇った死者であることを知ったゲキは、その事で強い迷いが生じていたのである。
兄を救いたいいう強い想いと地球を守る使命の間で葛藤するゲキは、どうしてもドーラナルシスを斬れない。
槍を突きこもうとしたダンを思わず制止したゲキが膝を付いた時、遂にドーラナルシスは球根から怪人としての第二形態へと成長してしまう。
身構える5人に対して冒頭の台詞を投げかけ、笑いながら姿を消すと、ドーラナルシスは次のターゲットとして噴水の前で化粧をするOLの女性を吸収。
同じころ、迷いに振り回されるように駆けるゲキの脳裏には、バンドーラとゴウシの言葉がリフレインしていた。
バンドーラ「ナルシスを倒せば永遠にブライは助からない!」
ゴウシ「ナルシスを放っておけば、やがて地球は……!」
ゲキが足を止めたその場所にちょうどナルシスが鉢合わせ、斬りかかられそうになったナルシスは「ブライを助けたくはないのか!」と挑発して手を止めさせる。
そのまま思うように戦えないゲキを一方的に痛めつけ、止めを刺そうとするが、不意にどこからか飛んできた剣がナルシスをかすめる。
両者が見上げた近くの工場の屋根から、漆黒の鎧で全身を覆った謎の騎士が登場し、剣を取り直すとそのままゲキに襲い掛かった。
バンドーラからの新手と思しき黒騎士がゲキを工場へと突き飛ばしたのを受け、ドーラナルシスもゲキにキックを見舞った上で根を伸ばして止めを刺そうとするも、黒騎士に阻まれる。
黒騎士「今のお前には、ゴーレム兵すら倒せん。ナルシスが手を出す価値もない……俺がやる!」
だが、黒騎士は止めを刺すどころか、ゲキからダイノバックラーを取り上げた後もナルシスを制止しつつゲキへと攻撃を加え続ける。
見兼ねたドーラナルシスは「私の邪魔をする者は、たとえ味方とて許せん! 貴様のエネルギーを吸い取ってやる!」と言って黒騎士のエネルギーを奪いにかかる。
ドーラナルシスにエネルギーを吸われつつも、黒騎士は
黒騎士「今のお前にとっては、戦いも仲間も忘れ、ただ血を分けた兄との安らぎを求めることこそ幸せなのだ! この俺が、お前を兄と同じ闇の底に叩き落としてくれる!」
と叫びながら鬼気迫る勢いで尚もゲキに襲い掛かろうとする。
だが、振り下ろされた一撃をゲキは伝説の武器で受け止め、覚悟と共に吼える。
ゲキ「違う……違う! 俺の幸せはそんなことじゃない! 俺の幸せは……バンドーラを倒し、自分のこの手で、兄さんを救うことだ!!」
そして、跳ね上げた返しの唐竹割りが、黒騎士の鎧を真っ二つに両断した。
そこから現れた素顔は、なんとゴウシだった。ゴウシはゲキの迷いを断ち切るため、敢えて敵として立ちはだかり、リーダーを再起させようと一芝居打っていたのである。
だが、ナルシスにエネルギーを吸われたことやゲキの攻撃を受けたことが元で笑顔と共に倒れるゴウシ。それを他所に彼のエネルギーを吸収したドーラナルシスは一気に巨大化を果たす。
そのまま地上の二人に攻撃を仕掛け、吹き飛ばしたかに見えたが、爆炎の中から残る3人の乗った大獣神が姿を現す。
その手の上、気絶したゴウシを抱えるゲキは取り戻した正義の心と共にティラノレンジャーに変身(ダイノバックラーは手放されていたが、後のブライのケースを考えると大獣神が力を貸したと思われる)。
コクピットに移動すると、そのまま巨大戦を開始した。
前回のエピソードで真の力を取り戻したとはいえ、5体合体の大獣神はあくまでも不完全形態。
ナルシスは格闘戦で大獣神を突き放すと根でビルに縛りつけ、目からの光線で痛打を叩き込んだ。
だが、衝撃で目を覚ましたゴウシは一瞬で状況を理解し、ゲキに打開のアドバイスを送る。
ゴウシ「ゲキ、奴の弱点は鏡だ! 自分が一番美しいと思い込んでいるナルシスは、鏡に映った自分に弱い!」
ゲキ「鏡? そうか!」
大獣神が拘束されている背後のビルは、ちょうどその面全てがガラス窓だった。
これに気づいたゲキはゴッドホーンを召喚、蔦の拘束を破ると、大獣神がナルシスの追撃を回避。これによって鏡面と化したビルに対面することになったナルシスは、ゴウシの目論見通り映り込んだ自分に夢中になってしまう。
ドーラナルシス「おお……なんと美しい。ううむ……」
バンドーラ「間抜け!! 自分に見とれてる場合じゃないでしょ!?」
大獣神に背中を向けてしまったナルシスが気づいた時には既に遅く、超伝説・雷光斬りをまともに受けてそのまま爆散することになった。
なお、吸収された女性達が解放されたか、または死亡したのかは劇中で明らかにされていない。生存している場合、一般的には何らかのフォローが描かれることが多い(例として、第44話では人間を吸収してパワーアップしたドーラモンスターが登場し、ラストのナレーションで吸収された人々が解放されたことが示されている)。しかし、今回のエピソードでは女性達のその後が全くフォローされておらず、救出を試みる描写もない。また、吸収されたエネルギーが怪人の成長に利用されてしまった描写を踏まえると、吸収された時点で女性達の生存は絶望的と見なされた可能性が高い。そのため、本作においては非常に珍しい一般人が怪人の手で命を落としたケースとなった。さらに、犠牲者の中には少女も含まれており、これも東映特撮作品では異例の子供が殺害されたケースとして捉えられる可能性がある(当時の戦隊シリーズの放送時間がCMを除いて20分程度と短かったことや、ゲキの葛藤を克服する展開がメインだったこともあり、この点が十分に描かれなかったことが影響しているとも考えられる)。
また、ブライに命を与えることが出来たかどうかは定かではないが、ブライ本来の命は既に尽きており、クロトの力で一時的に蘇ったに過ぎなかった(=そのためにあらゆる命に力を与える「命の水」も無意味だった)ことを考えると、不可能だった可能性が高い。
ギリシャ神話において絶世のイケメンだったナルキッソスは水に映った自分に恋い焦がれた末にやつれ果て、そのまま衰弱死した。そして後に生まれ変わったのが水仙とされるため、妥当なチョイスである。
声を演じるてらそま氏は守護獣サーベルタイガーの声も兼任している。また同時期に放映されていた「特捜エクシードラフト」の3代目のナレーションも担当していた。
ナルシスの登場したエピソードは実質1か月ぶりの1話完結エピソードだが、内容的にはゲキが31話でブライの寿命のことを知り、そこで生じた迷いを振り切り再起するというものであり、28話から続く一連のストーリーの締めくくりに当たる。
登場回の脚本を執筆したのは荒川稔久、監督を務めたのは渡辺勝也。後に多数の特撮作品でタッグを組む2人が初めてタッグを組んだのは実はこの回である。当時荒川は28歳、渡辺も27歳と共に20代だった。荒川は44話でも人間を吸収してパワーアップする怪人の回を執筆したが、この時はきちんとナレーションで救出されたことがフォローされた。