ハンク・ピム
はんくぴむ
MARVELコミックのキャラクター。1962年の『Tales to Astonish #27』で初登場。
物体の大きさを変える「ピム粒子」の発見者にして、スーパーヒーロー「アントマン」の初代変身者。
来歴
"ハンク"は愛称で、本名は「ヘンリー・ピム(Dr. Henry "Hank" Pym)」。
元は科学者として活動しており(そもそもデビュー誌も短編SFがメイン)、宇宙生命体との戦いの中でジャネット・ヴァン・ダインと絆を深め、彼女にもピム粒子を託し「ワスプ」とし2人で冒険を行った。
苦悩
同時に、彼は多くの精神的な病との戦いを経たヒーローとして有名である。
「ゴライアス(Goliath)」という名で活動していた時、コレクターというヴィランとの戦いの中でピムは自分の体を巨大化から元に戻せなくなってしまう。のちに治療されるも、この時に負った心の傷が始まりとなり、彼の精神はどんどん傷ついていくことになる。
ある日ピムは、高度な知能を持った助手ロボットの開発実験に着手する。そう、あのウルトロンである。後に悪の破壊者となるウルトロンは目覚めるとピムを洗脳して研究所を脱走し、アベンジャーズの前に立ちはだかった。この時にウルトロンの製作の責任により、ピムは長く苦しい後悔と罪悪感を胸に秘めることとなった。
ピムの不幸はこれでは終わらない。ジャネットとの淡い恋愛関係を秘めていた日々のある日、彼は研究所で実験中に事故でガスを浴びてしまう。このガスは精神に作用するもので、ピムに精神分裂症を引き起こし彼の中に新たな人格を生んだ。イエロージャケットと名乗るピムの中にいるピムではない彼は、ピムの精神を殺し、完全に取って代わったと主張する始末である。
普段の温厚なピムとは似ても似つかぬ良く言えば豪胆、悪く言うと粗暴な彼はなんとその勢いでジャンと結婚してしまったのだ。
その後、イエロージャケットとジャネットとの結婚式で起こった「サーカス・オブ・クライム」との戦闘の中でピムは自らの人格を取り戻すことに成功する。ジャネットもそれを喜び、イエロージャケットの時に結んだ結婚をそのまま続けることを提案し彼らは幸せな結婚を迎えた。
結婚後、復帰したピムはヒーローとして活動を続けるも、ウルトロンと再戦した際に再び洗脳され、アベンジャーズを襲うという事態となってしまう。洗脳を解きウルトロンを破壊するも彼はアベンジャーズからの脱退を言い渡されてしまう。この事件は再びピムに強い精神ダメージを与え、また洗脳によるショックも小さなものではなかった。
それでも、しかる後、ピムは再びアベンジャーズに晴れて復帰し、これでまたヒーローとして胸を張った活動と、ジャンとの幸せな結婚生活とを得られる……はずだった……
しかし、度重なる精神へのダメージにより、ピムの心は既にボロボロだったのだ……
彼の本分はそもそも研究者である。ピムはもう、ヒーローとして犯罪と戦うことに惑いを感じていた。
ピム粒子の発見以降、自分の科学者としての科学への貢献は何もないと彼は思いつめ躁鬱病を発症し、さらにウルトロンを生んでしまった罪悪感が彼の心をズタズタにしていた。
そんな一方、妻のジャネットはファッションデザイナーとして世界で大活躍を収め巨万の富を得ていた。生活面ですら妻に頼る生活。これがピムの心をさらに不安なものにさせた。荒れに荒れて歯止めが利かなくなったピムはヒーロー活動の中でも粗暴を極め無抵抗のヴィランを攻撃し、ついにキャップからアベンジャーズ追放命令が下されようとした。
しかし、ピムはこれに反抗するため自作自演でロボットにアベンジャーズを襲わせ、自分がそれを助けることでアベンジャーズに残ろうと試み、計画を止めようとする妻ジャネットにまで暴力を振るった。
このシーンが元でよく「DVをしたヒーロー」として引き合いに出されるが、彼がジャネットに暴力を振るったのは後にも先にもこの一度のみである。
(ただし、あくまでもコミック版の正史世界である【アース616】における話であり、別のユニバースでは「作り手もギャグでやってるだろ」レベルのとんでもないDVを繰り返している)
精神分裂症や躁鬱、洗脳での精神ダメージが重なり遂に自分を見失ってしまったのだ。ピムの計画はジャネットにより阻止され、アベンジャーズからは正式に追放命令が下り、離婚も成立した。
アベンジャーズを抜けた後にはエリハス・スター / エッグヘッド、および彼が再編した「マスターズ・オブ・イーヴィル」との事件などを越えて、ピムは「ウエストコースト・アベンジャーズ(W.C.A)」のサポートスタッフに就任。この間は決してピムにとって楽なものではなかったが、長い努力が認められジャイアントマンとして前線に復帰するまでに至った。
熟練した科学技術者として、アベンジャーズの創設メンバーとしてW.C.Aを助ける彼はもはやもう昔のピムその人で、ヒーローとして復帰することがようやく叶ったのである。また、この頃にはもうジャネットとも昔ほどではないにせよ、関係を取り戻していた。
オンスロート事件が勃発した際にはジャネットと肩を並べオンスロートと戦い、最後には自らの力をエネルギーとしてオンスロートにぶつけるため特攻し、ヒーローズリボーンの世界へ旅立った。
正史世界に復帰した後、'00年代の展開ではジャネットがホークアイといい感じになったり、『シビルウォー』以前からスクラル星人に拉致され成り代わられるなどまたもや不幸っぷりを見せる。
ちなみに「『あまりに酷い人生を送ってきた地球有数の天才科学者』だったせいで、成り代ったスクラル人が次々と発狂していく」というギャグのようなオマケ付き。
自分がスクラルにより拉致されていた間にジャネットが死亡した(後に生存していたことが発覚)と知るとまたもや深い悲しみを背負うも、自らが「ワスプ」の名を冠しヒーローとして活動することを選択した。
その後アベンジャーズアカデミーで後進の育成に力を入れたりなど、アベンジャーズとして第一線で活躍しているわけではないもののヒーローとして活動しており、2010年代になってからはウルトロン絡みの大型クロスオーバーが二度も起こり脚光を浴びた。
アントマン、ハンク・ピムというと、ドメスティックバイオレンスばかりが一人歩きしてしまったが、そこに至るまでの深い悲しみを背負っているヒーローである。精神的な病を主体にして描かれるエピソード以外ではかのトニー・スタークすらピムの天才ぶりを認めるほどのアベンジャーズのイニシアチブであり、ヒーローとしても確かな実力と経験を持ち、何度も世界を救うことに貢献をした男である。
実際、コミック版の『エイジ・オブ・ウルトロン』では未来のウルトロンが現代に侵略し、ウルトロン軍団の前にヒーローも人類も滅亡しかけるという事件が発生。これをウルヴァリンが過去に飛び、ウルトロンを作り出す前にピムを殺すことで回避しようとしたが、その結果今度の未来は科学が魔法に敗北し、モーガナ・ル=フェイによりヒーローたちが追い詰められているという世界になってしまっていた。
そしてまた、不幸が重なりながらもピムは、人類最悪の兵器となりうるピム粒子を絶対に悪用せず、それをまた悪人たちから守っていたことも特筆すべきであろう。(とあるIfストーリーにおいて、本当の意味で発狂してしまったデッドプールがヒーローの虐殺を行った際、ピム粒子を使うことでアベンジャーズを全滅せしめたことがある。それほどまでにピム粒子は凶悪な兵器でもあるのだ。)
超人ばかりが軒を連ねるアベンジャーズで抱えてしまった闇を乗り越えた男、それがハンク・ピムでありアントマンなのである。
しかし2015年、『Rage of Ultron』の展開により……
その他関係者
- マリア・トロヴァヤ(Maria Trovaya)
ジャネットの前に結婚したハンガリー人女性。しかし正体は東側のスパイであり、新婚旅行中に誘拐され消息不明に。
後年、M.O.D.O.K.の女性版「M.O.D.A.M.」が登場した際に、当初はその正体が彼女という設定だったが、よく似た別人に変更。
一説では、上記の精神的苦難に追い打ちをかけるのはいくら何でも不憫と判断されたらしい。
- ナディア・ヴァン・ダイン(Nadia Van Dyne)
2016年に登場した、妊娠中だったマリアがソ連で産んだ女児。
本人は「ワスプ」として活動しているが、周りからは区別のために「アンストッパブル・ワスプ(Unstoppable Wasp)」と呼ばれる。
- ホープ・ピム / レッド・クイーン(Hope Pym / Red Queen)
正史世界【アース616】ではジャネットとの間に子どもはいないが、別アース【アース982】においては生まれている。
この世界の「ヤングアベンジャーズ」にあたる「A-Next」のヴィランとして登場。
なお、ロシア語の"nadia"は「希望」、すなわち英語の"hope"なので、この2人は別宇宙の同一人物と言える。
- ビル・フォスター / ブラック・ゴライアス(Bill Foster / Black Goliath)
「ゴライアス」から戻れなくなった際の治療を手伝った生化学者。
ルーク・ケイジの協力者であるクレア・テンプル女医とは元夫婦で、彼女の愛を取り戻すためにピム粒子を複製して活動を始めるが、意図せずヴィランチーム「サーカス・オブ・クライム」に協力してしまい、ルークに敗北。ハンクの励ましでヒーローとして再起し、「ディフェンダーズ」などで活躍した。
しかし『シビルウォー』ではハンクとは違って登録反対派に入り、さらに中盤、ソーのクローン「ラグナロク」に倒され死亡。両陣営で初だったため、対立の様相を変えるきっかけとなった。
コードネームと彼の遺したピム粒子の組成は甥のトーマスが受け継ぎ、復讐のためにワンダーマン率いる「リベンジャーズ」に加入、アベンジャーズと戦ったが敗北している。
演:マイケル・ダグラス、日本語吹替:御友公喜
初登場となる映画『アントマン』時点では、白髪と白髭をたくわえた初老男性。
同じくジャネット・ヴァン・ダインと結婚し、彼女との間に一人娘「ホープ・ヴァン・ダイン」がいる。
1963年に原子間距離を操作する亜原子粒子「ピム粒子」を発見し、初代アントマンとして活躍した昆虫学者兼物理学者。
またS.H.I.E.L.D.に所属していたことになっており、エージェント時代はジャネットと夫婦で様々な戦場を駆け回っていたが、1987年のICBM解体任務にて彼女が分子レベルにまで縮小し、任務に成功したものの、ジャネットを失うこととなり、真相を告げなかったホープとも解決困難な確執が芽生えてしまった。
1989年、ハワード・スターク、ペギー・カーターたちと決別しS.H.I.E.L.D.を退職。
その後、自分の会社「ピム・テック」を設立するも、元助手のダレン・クロスに会社を追われ、以降は研究に没頭して隠居状態となった。
科学者であるが理性的とは言えず、一時的な感情で手を挙げることもある。
自分優先な部分もあり、他者に対してはおざなりで、ダレンやホープとの確執もそれが一因のところがある。
それでも家族のことは愛しているが、その愛情の示し方も下手。
目的のためなら犯罪もいとわないが、老齢のため、スコットを利用する。
アントマン&ワスプ
スコットが前作で量子世界から帰還したことを受け、妻ジャネットを救い出す研究をホープと始める。そのために、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』を経て自宅軟禁状態となったスコットを、ピム粒子とアリを悪用してチームに引き入れる。
最終的にはジャネットと量子世界で再会、現実世界へ戻ってくる。
しかし、ポストクレジットシーンにて、遠く離れた場所で起こった戦いの果ての惨劇に巻き込まれ、妻子とともに消滅してしまう…
アベンジャーズ/エンドゲーム
スティーブ・ロジャースとトニー・スタークがタイムスリップした1970年のSSR基地にいる、当時のハンクが登場(ダグラスが演じているが、CG処理により若くなっている)。
既に開発されていたピム粒子をラボに置きっぱなしにしていたため、それをスティーブにこっそり盗まれてしまった。
ちなみに近くにあったアントマンのヘルメットは、コミック版初期のそれを再現したような外見。
現代では、アベンジャーズの活躍により復活。戦いに参戦しなかったものの、かつての戦友の息子の葬儀に、スコットや妻子とともに参列する。
ホワット・イフ...?
IFの世界を描いたアニメシリーズでは、複数のエピソードに登場。
第3話では、ニック・フューリーが愛娘ホープを「母ジャネットの遺志を継いでS.H.I.E.L.D.のエージェントとして活躍してほしい」と勧誘した結果、彼女が任務中の事故で死亡。死の原因を作ったフューリーに復讐するべく、アベンジャーズの候補者を次々と謀殺する。
その手段として、正史ではダレンが装着していたイエロージャケットで縮小化して犯行を行なった。
最後には、犯人がハンクだと推理し、ホープの墓へと訪れたフューリーの前に現れ、彼を殺そうとする。
が、フューリーは格闘術と幻術でハンクを翻弄。実は、ロキがフューリーに化けていた。
偽フューリーに倒されたハンクに本物のフューリーが「ホープは他のエージェント同様に、死を覚悟して任務に臨んでいた」と告げると、ハンクは「ならば彼女に敬意を払え」と吐き捨てるのだった。
第5話では、『アントマン&ワスプ』同様、量子世界にジャネットを助けに行くが、彼女がゾンビウイルスに感染してゾンビ化してしまったため、彼女に噛まれてゾンビ化。彼女ともども現実世界へ戻り、多くの人々へゾンビウイルスを感染させることになる。
アントマン&ワスプ:クアントマニア
引き続き登場。
スコットの娘キャシー・ラングからは実の祖父のように慕われており、彼女にアリ科学の助言をしている。
引きずり込まれた量子世界では妻子と行動。
中盤、ジャネットが現地の有力者・クライラー卿といい雰囲気を醸し出したため、当てつけのように彼女が不在の時にマリアという女性と浮気をしたと2人の前で告白。しかし「お前じゃなかったので本気になれなかった」と続け、改めて夫妻の強い絆が描写された。
コミック版では上記のナディアやビルを始め、複数の人間がピム粒子の複製または再現に成功している一方、MCU版ではスターク家をして「奇跡」と言わしめるほどの数々の事象を起こしている、非常に重要なアイテムの1つだが、ハンクは早々にS.H.I.E.L.D.及びスターク家と縁を切り、ピム粒子を世間の目から守っていた。
スコットを新たなアントマンに選んだことも含めたこの判断は、「インフィニティ・サーガ」での一連の事件、そして別の世界線で起きた悲劇も併せて省みると、世界にとっても彼自身にとっても正に「英断」だったと言える結果をもたらしている。