概要
MARVEL社(以下、マーベル社)のアメリカン・コミックスを原作としたスーパーヒーローの実写映画・テレビドラマ化作品のシリーズ名称である。これらの一連の作品は同一の世界観を共有している(=ユニバース)のが大きな特徴。
第1作目である映画『アイアンマン』(2008年公開)を皮切りに次々とヒットを飛ばしており、現在もマーベル・スタジオのもとで継続している一大プロジェクトである。
当初は配給会社がパラマウント・ピクチャーズ・コーポレーションとユニバーサル・スタジオに分かれていたが、2009年に本社であるマーベル社がディズニーの買収を受けたことによって、2012年の『アベンジャーズ』以降は、スパイダーマン単独作品を除くすべての作品において、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが配給している。
全ての作品の製作はマーベル・スタジオの社長であるケヴィン・ファイギがプロデューサーとして取り仕切っている。また、スパイダーマンやX-MENの原作コミックの生みの親であるスタン・リー(2018年11月死去)が『アベンジャーズ/エンドゲーム』まで毎回必ずカメオ出演をしていた。
特徴
概要にもあるように、MCUは一連の映画・テレビドラマが一つの世界観を共有しているシリーズである。このようなそもそも異なるシリーズの作品が一つの世界観を共有し、各々のキャラクターが相互の映画に登場する手法を「ユニバース」と呼ぶ。この手法はクロスオーバーの発展形ともいえる。
しかしながら、それまでの映画には単純なシリーズものやスピンオフがあったとしても、ここまで大規模で拡張性に富んだシリーズは存在しなかった(かの著名な『スター・ウォーズ』シリーズですら、構造という面においてば、これまでのスタイルからは脱し切れていないと言える)。また、アメコミの実写化という点でも、サム・ライミ版『スパイダーマン』シリーズや「X-MEN」の映画化シリーズ(X−MENユニバース)は既に始まっていたものの、マイナーなキャラクターがメインを張って実写化を行うというのは、当時からすると考えられなかった。
それだけに、第1作である『アイアンマン』が、当時はマイナーなキャラクターに留まっていたアイアンマンの実写映画化、そしてラストにニック・フューリーを登場させることによる全てを貫くより大きなストーリーの示唆、という二点において革新的であったにも関わらず、批評(2018年現在においても、未だに最も評価が高い一作とする人も多い)・興行収入の両方で成功を収めたことは、いかにMCUがそれまでの映画の構成の枠に捉われなかったかを示すのに十分であろう。
※今となっては信じられないことだが、X−MENやスパイダーマンに比べれば決して有名では無く、当時「なんでアイアンマンから始めたんだ?」「アイアンマンなんてマーベルの中ではB級、C級のキャラクターじゃないか」といった意見が存在していた(参考リンク)。
そして、マーベル・スタジオが映画一つ一つを超えたユニバースとしての連続性を重視し、『アベンジャーズ』において見事にそれを結実させてみせた手法は、それまで無かった画期的な取り組みだった。
こうしたユニバースの手法も、MCUが成功していなければおそらくここまで一般的なものとはならなかったし、逆に現在のユニバースの流行も、全てこのMCUから始まったと言える。
MCUの作品が優れているのは、決してユニバースの手法だけではない。常に笑いとユーモアを忘れていないだけでなく、新進気鋭の監督たちのインスピレーションを重視し、それぞれのスタイルを尊重した結果様々な作風の映画が誕生しているが、これ自体もマーベル・スタジオの特徴の一つといえるだろう。例を挙げると、
- 『マイティ・ソー』:シェイクスピア劇
- 『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』:戦争映画+冒険活劇
- 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』:政治サスペンス+アクション
- 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ:スペースオペラ
- 『アントマン』:クライム+コメディ
- 『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』:サイコ・スリラー
- 『スパイダーマン:ホームカミング』:青春映画
また『アベンジャーズ』・『エイジ・オブ・ウルトロン』のジョス・ウェドン、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のルッソ兄弟、『マイティ・ソー/バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティ、といったように、元々ホラーやコメディの分野で活躍していた人物たちが大胆に起用された結果、監督として一躍著名になる事も起きている。
作品一覧
インフィニティ・サーガ(フェイズ1~3)
インフィニティ・ストーンを巡る物語から、こう称されている(詳しくは後述)。
No. | タイトル | 公開日(米国) | 公開日(日本) | 監督 |
---|---|---|---|---|
フェイズ1 | ||||
1 | アイアンマン | '08年5月2日 | '08年9月27日 | ジョン・ファヴロー |
2 | インクレディブル・ハルク | '08年6月13日 | '08年8月1日 | ルイ・レテリエ |
3 | アイアンマン2 | '10年5月7日 | '10年6月11日 | ジョン・ファヴロー |
4 | マイティ・ソー | '11年5月6日 | '11年7月2日 | ケネス・ブラナー |
5 | キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー | '11年7月22日 | '11年10月14日 | ジョー・ジョンストン |
6 | アベンジャーズ | '12年5月4日 | '12年8月14日 | ジョス・ウェドン |
フェイズ2 | ||||
7 | アイアンマン3 | '13年5月3日 | '13年4月26日 | シェーン・ブラック |
8 | マイティ・ソー/ダーク・ワールド | '13年11月8日 | '14年2月1日 | アラン・テイラー |
9 | キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー | '14年4月4日 | '14年4月19日 | ルッソ兄弟 |
10 | ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー | '14年8月1日 | '14年9月13日 | ジェームズ・ガン |
11 | アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン | '15年5月1日 | '15年7月4日 | ジョス・ウェドン |
12 | アントマン | '15年7月17日 | '15年9月19日 | ペイトン・リード |
フェイズ3 | ||||
13 | シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ | '16年5月6日 | '16年4月29日 | ルッソ兄弟 |
14 | ドクター・ストレンジ | '16年11月4日 | '17年1月27日 | スコット・デリクソン |
15 | ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス | '17年5月5日 | '17年5月12日 | ジェームズ・ガン |
16 | スパイダーマン:ホームカミング | '17年7月7日 | '17年8月11日 | ジョン・ワッツ |
17 | マイティ・ソー バトルロイヤル | '17年11月3日 | (同日) | タイカ・ワイティティ |
18 | ブラックパンサー | '18年2月16日 | '18年3月1日 | ライアン・クーグラー |
19 | アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー | '18年4月27日 | (同日) | ルッソ兄弟 |
20 | アントマン&ワスプ | '18年7月6日 | '18年8月31日 | ペイトン・リード |
21 | キャプテン・マーベル | '19年3月8日 | '19年3月15日 | ライアン・フレック&アンナ・ボーデン |
22 | アベンジャーズ/エンドゲーム | '19年4月26日 | (同日) | ルッソ兄弟 |
23 | スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム | '19年7月5日 | '19年6月28日 | ジョン・ワッツ |
マルチバース・サーガ(フェイズ4以降)
ドラマ作品は★印、アニメ作品は☆印。いずれもディズニープラス配信で、日付は第1話のもの(こちらも参照)。監督は全話共通でない場合は割愛。
No. | タイトル | 公開日(米国) | 公開日(日本) | 監督 |
---|---|---|---|---|
フェイズ4 | ||||
★1 | ワンダヴィジョン | '21年1月15日 | (同日) | マット・シャックマン |
★2 | ファルコン&ウィンター・ソルジャー | '21年3月19日 | (同日) | カリ・スゴグランド |
★3 | ロキ | '21年6月9日 | (同日) | ケイト・ヘロン |
24 | ブラック・ウィドウ | '21年7月8日 | (同日) | ケイト・ショートランド |
☆1 | ホワット・イフ...? | '21年8月11日 | (同日) | ブライアン・アンドリュース |
25 | シャン・チー/テン・リングスの伝説 | '21年9月3日 | (同日) | デスティン・ダニエル・クレットン |
26 | エターナルズ | '21年11月5日 | (同日) | クロエ・ジャオ |
★4 | ホークアイ | '21年11月24日 | (同日) | |
27 | スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム | '21年12月17日 | '22年1月7日 | ジョン・ワッツ |
★5 | ムーンナイト | '22年3月30日 | (同日) | |
28 | ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス | '22年5月6日 | '22年5月4日 | サム・ライミ |
★6 | ミズ・マーベル | '22年6月8日 | (同日) | |
29 | ソー:ラブ&サンダー | '22年7月8日 | (同日) | タイカ・ワイティティ |
(以下、予定) | ||||
☆ | アイ・アム・グルート | '22年8月10日 | (同日) | ジェームズ・ガン |
★7 | シー・ハルク:ザ・アトーニー | '22年8月17日 | (同日) | |
★ | ハロウィンスペシャル(仮題) | '22年10月 | ||
30 | ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー | '22年11月11日 | (同日) | ライアン・クーグラー |
★ | The Guardians of the Galaxy Holiday special | '22年12月 | ジェームズ・ガン | |
フェイズ5 | ||||
☆ | ホワット・イフ...? シーズン2 | '23年初頭 | ||
Ant-Man and the Wasp: Quantumania | '23年2月17日 | ペイトン・リード | ||
★ | SECRET INVASION | '23年春 | ||
Guardians of the Galaxy Vol.3 | '23年5月5日 | ジェームズ・ガン | ||
★ | ECHO | '23年夏 | ||
The Marvels | '23年7月28日 | ニア・ダコスタ | ||
★ | ロキ シーズン2 | '23年夏 | ||
Blade | '23年11月3日 | バッサム・ターリク | ||
★ | IRONHEART | '23年秋 | ||
☆ | X-MEN’97 | '23年秋 | ||
★ | Agatha: COVEN of CHAOS | '23年冬 | ||
★ | Daredevil: BORN AGAIN | '24年春 | ||
Captain America: New World Order | '24年5月3日 | ジュリアス・オナー | ||
Thunderbolts | '24年7月26日 | |||
フェイズ6 | ||||
Fantastic Four | '24年11月8日 | |||
☆ | Spider-Man: Freshman Year | '24年 | ||
☆ | Marvel Zombies | '24年 | ||
Avengers: The Kang Dynasty | '25年5月2日 | デスティン・ダニエル・クレットン | ||
Avengers: Secret Wars | '25年11月7日 |
時期未発表
- 『デッドプール3』(仮題)
- ★『ARMOR WARS』
- ☆『ホワット・イフ...? シーズン3』(仮題)
- ☆『Spider-Man: Sophomore Year』
スピンオフドラマ
フェイズ2,3と同時期に、ABC、ネットフリックス、フリーフォーム、Huluの4つの媒体でそれぞれドラマシリーズが制作されている。
詳しくは上記リンク参照。
※フェイズ4以降のアニメ作品
テレビ制作部門がマーベル・スタジオに統合されたことで、以降の全ての作品は各「フェイズ」に入ると思われていたが、2022年のサンディエゴ・コミコンで公開された各「フェイズ」の図に入っていない作品がある(フェイズ4、フェイズ5)。
例えばフェイズ4の図では、『ホワット・イフ...?』シーズン1は『ブラック・ウィドウ』と『シャン・チー』の間に、『アイ・アム・グルート』は『ミズ・マーベル』と『シー・ハルク』の間に配信されたが、含まれていない。(前者は、2019年のコミコンでの図では含まれていた)
フェイズ5の図では、『X-MEN'97』と『ホワット・イフ...?』シーズン2が入っていない。
正式に明言されたわけではないが、「MCU作品でありながら、フェイズには属さない」という扱いなのかもしれない。
成績
興行収入という面でもMCUは成功を収めた。
順位 | 題名 | 興行収入 | 最高順位 |
---|---|---|---|
2 | エンドゲーム | $2,797,501,328 | 1 |
5 | インフィニティ・ウォー | $2,048,359,754 | 4 |
8 | アベンジャーズ | $1,518,815,515 | 3 |
11 | エイジ・オブ・ウルトロン | $1,402,809,540 | 5 |
12 | ブラックパンサー | $1,347,597,973 | 9 |
20 | アイアンマン3 | $1,214,811,252 | 5 |
上記のとおり、「アベンジャーズ」のタイトルを含む4作品はすべてTOP20にランクインしており、中でも『エンドゲーム』は一時的にとはいえ歴代1位になった(その後、『アバター』が再上映したため、2位に転落した)。
また『ブラックパンサー』は黒人主演・黒人監督作品としては異例の大ヒットとなった上、第91回アカデミー賞(2019年)において、スーパーヒーロー映画として初めてとなる作品賞を含む7部門にノミネート、作曲賞・美術賞・衣装デザイン賞の3部門を受賞した。
世に映画シリーズは数あれど、これほどの数の作品で成績を残しているシリーズは他にないと言える。
キャラクターの権利関係について
プロジェクトが展開した当初は、過去にMARVEL社が深刻な経営危機に陥っていた際にいくつかのキャラクターの実写映画権を他社に売却したため、以下のように権利が分散していた。
- ユニバーサル・ピクチャーズ:ハルク、ネイモア・ザ・サブマリナー
- 20世紀フォックス:X-MEN、デッドプール、ファンタスティック・フォー
- ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメント:スパイダーマン、ヴェノム他、スパイディ関連キャラ
そのため、マーベルスタジオ以外の会社が権利を持っているキャラをMCUに登場させられないという問題が生じていたが、徐々に状況が変わってきている。
ユニバーサル関連
2003年に映画『ハルク』を制作するもシリーズ展開等はなく、2006年にマーベルスタジオへ「映画出演権」を再譲渡した。ただし「配給権」は未だにユニバーサルにあるため、単独映画『インクレディブル・ハルク』はユニバーサルが配給会社として設定された。この関係で同作はディズニープラスで配信がされていなかったが、2022年6月に遂にラインナップに追加された。なお、何故か日本語字幕と吹き替えについては数日の実装空白期間が設けられていた。
2020年初頭にマーベルスタジオが「ハルク」の配給権を取り戻したという噂との関連性は不明。
またネイモアに関してはユニバーサルでは映像作品は制作されず、そのままマーベルスタジオに戻って『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』に登場。
20世紀FOX関連
2017年12月にマーベル・スタジオの親会社であるウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズが、21世紀フォックスのテレビ・映画部門(=20世紀フォックスとFOXネットワーク・グループ)の買収を発表した。
MCUの方でそもそも『エンドゲーム』までの戦略に変更予定がなく(というより、変更する隙間がない)ファイギ自身が合流の目処が立っていないと明言している上に、企業買収に関わっている弁護士たちが両社のプロデューサー達に交渉を行うことにGOサインを出していない状態だと明かされた為、それ以降の共演がどのように実現されるかについて期待が集まった。
その後、アメリカのテレビ会社であるコムキャスト(日本ではあまり知られていないが、USJの運営会社であるユー・エス・ジェイを2015年に買収したり、『怪盗グルー』シリーズや『ミニオンズ』を製作しているイルミネーション・エンターテインメントの株を保有しているなど、結構な影響力を持っている)がディズニーが提示した以上の金額を21世紀フォックスに提示し、買収劇に再参入した。これに対し、ディズニーは裁判でコムキャストと争う準備も進めており競争が激化する可能性もあったが、2018年7月にコムキャスト側が事業買収を断念したため、ディズニーによる買収がほぼ確定。
2019年3月に事業買収が完了した。
そして2022年5月公開の『マルチバース・オブ・マッドネス』に、これまでの舞台とは別宇宙という設定ではあるが、X-MENのプロフェッサーXとファンタスティック・フォーのミスター・ファンタスティックがサプライズ登場。特に前者はX−MENユニバースと同じパトリック・スチュワートが演じていたこともあり、海外では本人から事前に仄めかされていたものの大きな反響を呼んだ。
ソニー関連
MCUより前に、サム・ライミ監督による三部作や、そのリブートである『アメイジング・スパイダーマン』シリーズが展開されたが、双方とも諸事情により打ち切りとなってしまった(詳しくは各記事を参照)。
その後、ソニーとマーベル・スタジオ/ディズニーとの業務提携が成立したことにより、2016年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』よりスパイダーマンがMCUに参戦。『インフィニティ・ウォー』『エンドゲーム』にも登場した他、主役映画としていわゆるホーム三部作が製作されている。
また、ディズニープラスでの配信は一部アニメ作品を除き一切配信されていなかったスパイダーマン関連タイトルだが、2022年6月にはサム・ライミ三部作、マーク・ウェブ版、ノーウェイホーム除くホーム三部作、果てにはヴェノムやスパイダーバースといったソニー・ピクチャーズタイトルが全て配信ラインナップに追加された。
これはソニーが独自ストリーミングサービスを運営していないことも大きな理由と考えられているが、これを以てMCUのほぼ全作品がディズニープラスのみで網羅できるようになった。
なお、ノーウェイホームについては完全版の公開が控えている為か、配信ラインナップには加えられていないが時間の問題だろう。
…しかし、キャラクターの映画化の権利はソニーが依然保持しているままであり、それどころかMCUやX−MENユニバースとは別の映画化プロジェクトとなるスパイダーマン・ユニバースを始める予定であり、2018年公開の『ヴェノム』を皮切りに、『モービウス』や『シルバー&ブラック(原題)』(シルバーセーブルとブラックキャットのバディムービー)といった作品の公開が発表されているので、全てのMARVELのキャラクターがスクリーン上で一堂に介するのはまだまだ先になりそうだ。
今後の展開等
『エンドゲーム』公開前、ファイギをはじめ関係者からは
- フェイズ1から3までの映画をインフィニティ・サーガと呼称(ファイギ)
- 「『アイアンマン』から始まった10年間の物語に結論が出る」
- これ以降には「非常に劇的な」違いが出現(ルッソ監督)
ジェームズ・ガンの解雇問題
2018年7月、ディズニーは「新旧のマーベル・キャラクターを次の10年、それ以降へと押し出す助けになる」(参考リンク)と明かされていた『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』のジェームズ・ガン監督を、過去の不適切ツイートを理由に解雇した。
なお時期は彼がMCUに関わる前であったが、日頃よりドナルド・トランプを批判していた彼のツイートをトランプの支持者が調べ、槍玉にあげた形で表沙汰になった。
これにより『Vol.3』の制作状況は不透明となり、無期限延期となる。
だがこれにシリーズの出演者を始めとしたMCU関係者やファンが猛反発、ガンを復帰させるよう活動を開始した。
結果的にディズニーが翻意し、ガンが『Vol.3』の監督・脚本に復帰することになったものの、DCEUの『ザ・スーサイド・スクワッド』に関わることになったため、こちらの制作が当初より延期された。
フェイズ4以降
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』をもってフェイズ3が終了。その次となる「フェイズ4」では未知の領域に入っていくことになった。
なおここまで変化がおこる背景には、インフィニティ・サーガの終結によって多くのキャストが卒業・参入することが理由としてある(いわゆる"ビック3"の俳優も卒業をそれぞれ明言・示唆していた(外部リンク1・2・3))。
それから2週間後に行われた「サンディエゴ・コミコン」では2020~2021年の公開作品予定が発表。
このうちフェイズ4に入るのは10作品で、ドラマ・アニメなども含まれていた。
そして(複数のヒーローがアッセンブルする)アベンジャーズの映画が存在しないフェイズでもあり、これに対してファイギは
「『エンドゲーム』は多くのキャラクターにとっての“エンディング”でした。だから、フェイズ4は始まりであることが大切なんです。」
とコメントしている。
なお前述の『Vol.3』はラインナップには含まれていないため、フェイズ5の作品になると思われる。
フェイズ4以降の特色として、映画のみならずドラマでもユニバースの主軸が展開していくことが挙げられる。
これまでMCUに属するドラマはいくつも制作されたが、あくまでスピンオフ程度の扱いであり、映画の内容がドラマに影響することはあっても、その逆はなかったため、ドラマを見なくても映画シリーズを理解できないということはなかった。
だがフェイズ4以降に製作されるドラマは、映画と同等にユニバースのメインになることが明かされており、ドラマを見ないと全貌がわからないことになっていく。
スパイダーマン問題
発表から2か月後、新たにシリーズを牽引することが明確になっていたスパイダーマンについて、ソニーとマーベル・スタジオ/ディズニーとの間で問題が発生していた。
詳しくはホーム三部作の該当部分にて。
COVID-19の影響
2020年に、中国に端を発する新型コロナウイルスのパンデミックが発生、世界レベルで映画やドラマ等の映像作品の撮影や、映画館での公開が困難な事態に直面している。
当然MCU作品も例外ではなく、当初の予定ではフェイズ4の最初の公開作品となるはずだった『ブラック・ウィドウ』は延期に延期を重ね、代わりに映画館の営業状態に左右されないディズニーの動画配信サービス「Disney+」において、ドラマシリーズが『ワンダヴィジョン』を皮切りに先行公開された。
また映画についても、公開から少し経った時期でのディズニープラスでの有料配信を計画している。
訃報
そして2020年8月29日にさらに衝撃的なニュースが飛び込んでくる。
『ブラックパンサー』で主演を務めたチャドウィック・ボーズマンが大腸癌とそれに伴う合併症で43歳の若さで死去した。
実は、ボーズマンは2016年頃に癌が発見され(恐らく『シビル・ウォー』の撮影が終わって少し経ってからであったと思われ、その時点で既にステージ3まで進行している状態だったという)、それ以降は闘病生活の合間を縫って撮影に臨んでいた。当然、『ブラックパンサー』~『エンド・ゲーム』のMCU各作品も例外ではなく、病気と闘いながらあの激しいアクションを伴う撮影を行っていたとみられる。
ネット上では、ボーズマンのファンはもちろん世界中のアメコミファンからも「今まで本当にお疲れさまでした」「病気と闘いながら素晴らしい演技を見せてくれて本当にありがとう」という彼の死を悼むメッセージが多く寄せられた。
なお、ボーズマンは『ブラックパンサー』の続編にも主演する予定であったが、今回の死去を受けて、第1作のキャラクターをより掘り下げる内容になったと報じられている。
不幸はまた続き2022年1月には『ムーンナイト』にてミッドナイトマンことアントン・モーガンを演じたギャスパー・ウリエルがスキー事故により37歳という若さでこの世を去ってしまった。ドラマは彼の死後に公開され、実質的にこの作品が遺作となっている。
そして更に同年3月には、最初期の『インクレディブル・ハルク』からサンダーボルト・ロスを演じてきたウィリアム・ハートが前立腺癌による合併症で71歳で急逝。『ブラック・ウィドウ』がMCUにおける最終出演となった。コミック同様にレッドハルクとなることを希望していたハートだったが、叶わぬままとなってしまった。
こちらの2名に関しては代役を立てるかどうかは決まっておらず、今後どんな扱いになるかは現時点では不明。
ただ、マルチバースが本格的に展開し始めたので、レッドハルクに関しては何かしらの形で登場する可能性は十分ある。
時系列について
同じようにアメコミを原作としたシリーズの一つであるX−MENユニバースに比べると、MCUは映画が公開された時期と劇中での時期がほぼ一致する為、そもそも第二次世界大戦時の物語である『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』やそれぞれの作品の回想シーン、例えば特に古い時代である『マイティ・ソー』と『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』の冒頭部分を除けば、非常にスッキリとした時系列を持つシリーズである。
……と思われてきたのだが……
2017年5月、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』は前作の直後の物語であることが明らかになると、この2本が両方とも2014年内の物語ということになったため、ファンの間では『ザ・ファースト・アベンジャー』以来となる「劇中の時系列と公開順のギャップ」がちらほらと話題になった。
が、この時点ではまだ大きな問題ではなかった。
同年7月に公開された『スパイダーマン:ホームカミング』の冒頭、全てのMCUファンは(おそらく)驚愕した。
『ホームカミング』が『アベンジャーズ』(2012年公開)の8年後だと、映画館のスクリーンに大きく映し出されたからである。
劇中で『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の2ヶ月後だということも明らかになっていることもあって大きな話題となり、いわゆる「8年後問題」としてファンの間では盛んに議論がなされた。果ては「マーベル・スタジオのミスじゃないのか?」と訝しむ声まであったが、ファイギは
「新聞があったり、あるいは年号を言葉で示したりと特別なことをしていない限り、それぞれの映画に年代を定めたことはありません。“この映画は2017年11月公開だから、2017年11月が舞台に違いない”という仮定があるかと思いますが、それは違うんです」
と述べており、密かに存在するMCU全体のタイムラインもいずれ公開する予定だと明かされた。
その後も、
- 続けて11月に公開された『マイティ・ソー/バトルロイヤル』は『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の2年後だということが明らかになっており、一方で『シビル・ウォー』と同時期だということも示唆されている。
- 18年2月に公開された『ブラックパンサー』は『シビル・ウォー』の直後の物語と考えられる(あくまで劇中のニュースなどによる考察)。
- 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は『シビル・ウォー』の(およそ)2年後だと明かされていた一方で、『マイティ・ソー/バトルロイヤル』のポストクレジットや予告編の内容から、『バトルロイヤル』の直後だということも示唆されていた。
……といった具合にどんどん複雑になっており、今や本当のMCUの時系列を把握しているのは(おそらく)関係者だけだとも思えるような状態であった。
果たして混沌としている時系列問題に答えが出るのかと、全てのMCUファン(というより、筆者)が気を揉む中、ひとつの集大成となる『インフィニティ・ウォー』が遂に公開されたのだが……
以下『インフィニティ・ウォー』以降の作品のネタバレを含みます。未鑑賞の方は注意!!
『インフィニティ・ウォー』中盤、所持しているインフィニティ・ストーンの1つであるタイム・ストーンを狙ってサノスの部下の1人であるエボニー・マウに誘拐されたドクター・ストレンジ。彼を救出する為、トニー・スターク/アイアンマンとピーター・パーカー/スパイダーマンは宇宙船「Qシップ」に乗り込む。
トニー発案の作戦によってマウを宇宙に放り出し、ストレンジを救出することに成功するが、そこからの方針を決めようとする中でトニーとストレンジは口論になる。
そして、その会話の中でトニーの口からNYの戦い(=『アベンジャーズ』)から6年が経ったことが言及される……
………
マーベル・スタジオさん、やっぱり、ミスだったのでは……
※実際に『インフィニティ・ウォー』の監督であるルッソ兄弟はこんな発言もしている。
なおその後も、
- 『アントマン&ワスプ』は『シビル・ウォー』と『インフィニティ・ウォー』の間の物語になるとされている。
- 『キャプテン・マーベル』に至っては1990年代が舞台になると明らかになっており、『リミックス』以来となる公開時期よりも過去の時代の物語。
ただし「インフィニティ・サーガ」の完結編である『エンドゲーム』は『インフィニティ・ウォー』『アントマン&ワスプ』『キャプテン・マーベル』後であり、その後日談である『ファー・フロム・ホーム』は8か月後である事が本編で判明しているため、時系列もここで一旦区切りがついたと言える。
ちなみに『エンドゲーム』で『アベンジャーズ』が2012年、『ダーク・ワールド』が2013年、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が2014年の出来事と明言されたが、それぞれの公開年と一致するため、やはりフェイズ3から複雑化していったと思われる。
フェーズ4の作品については、『シビル・ウォー』と『インフィニティ・ウォー』の間の『ブラック・ウィドウ』を除けば、ドラマを含め概ね『エンドゲーム』後の物語である。
※やや複雑な作品については記事の最後に公開/配信・シリーズ・本編基準の時系列の前後をまとめているので、そちらも参照してほしい。
幸い、X−MENユニバースで起きたような、二つの時代を舞台にして、タイムラインのリセットを行うといった事態にはなっていないが、(まさに)時間の問題なのかもしれない……
1アースとして
番号は【アース199999】。
これは2012年出版の公式解説本『Official Handbook of the Marvel Universe A-Z Volume 5』が初出だが、作中ではコミックの基本世界と同じ【アース616】が用いられている。
- 『ダーク・ワールド』:エリック・セルヴィグの講義
- 『ファー・フロム・ホーム』:ミステリオが【アース833】出身と偽った時の説明
- 『ロキ』:ロキが見た映像のビデオテープに記載
- 『マルチバース・オブ・マッドネス』:【アース838】側からの呼称
基本世界以外の世界
特にフェイズ4以降は「マルチバース・サーガ」と称されており、様々な世界が舞台として登場している。
- ミラー・ディメンション、ダーク・ディメンション
- ドクター・ストレンジ関係
- 量子世界(クァンタム・レルム)
- アントマン関係
背景をよく見ると街があるが、コミックでは同様の世界が複数あり、まとめて「マイクロバース」と呼ばれている。
- 【アース96283】ライミバース、【アース120703】ウェブバース
- 『ノー・ウェイ・ホーム』
諸事情で打ち切りになった作品を別世界扱いにしてリブート先で活用する、という革新的な手法だが、ある意味ではマーベルらしいと言える。
- 【アース838】、インカージョンで崩壊した世界
- 『マルチバース・オブ・マッドネス』
同作では他にも、一瞬だが「恐竜の世界」「ドローンの世界」「身体がペンキ状の世界」「白黒の世界」などが登場した。
- ヌール・ディメンジョン
- 『ミズ・マーベル』
なおソーの出身であるアスガルドなどは惑星として、シャン・チーと関係が深いターローは山奥の秘境としてそれぞれ描かれているが、コミックではポケットディメンション。
余談
pixivではこの方達の影響なのか、腐向けの作品が多い傾向にある。(まあ、アメコミ全体に言えることなのかもしれないが……)
演者関係
- 俳優陣
何名かは過去に『SWAT』シリーズ等で共演している。
また「モンスターバースシリーズ」にアーロン・テイラー=ジョンソン、エリザベス・オルセン、トム・ヒドルストン、サミュエル・L・ジャクソン、ブリー・ラーソンの5名がメインキャストとして出演したことから、中の人繋がりでネタにされることがある。
『インクレディブル・ハルク』でブルース・バナーことハルクを演じていたエドワード・ノートンが『アベンジャーズ』からマーク・ラファロに、後にウォーマシンになるジェームズ・ロディ・ローズを演じていたテレンス・ハワードが『アイアンマン2』からドン・チードルへと諸事情により別の俳優に交代されている。
- 日本語吹き替え陣
またナターシャ、ホークアイ、フューリーは初めてのアッセンブルである『アベンジャーズ』からいわゆる芸能人声優に交代となっており、その後も何キャラか芸能人が起用されているが、フェイズ4から始まった配信作品では当該キャラは専業声優が演じている。
なお色々あったこの人はどちらも変更になっているが、この人とは違って法に触れてはいないためか、出演した全5作は新録されずそのまま配信されている。
ただしそのうちの3作を含めた、主にフェイズ3以降の映画のほとんどが地上波放送されておらず、様々な憶測を呼んでいる。
コミックとの相互影響
MCU世界はコミックの世界とは平行世界と云う設定だが、コミックでも比較的近年に起きた出来事がMCU作品にも取り入れられたり、MCUの設定がコミックに逆輸入される事も有る。
以下にその例を示す。
- チタウリは元々、コミックの別アースでのスクラルに相当する種族だったが、名前だけ借りた変身能力などの特殊能力が無い種族がいわば悪役側の雑魚戦闘員としてアベンジャーズに登場。更に、MCU準拠のチタウリががコミックの正史世界であるアース616にも逆輸入される。
- MCUにワンダ・ピエトロの姉弟が登場。⇒コミックでも「実は2人はミュータントではなく改造人間だった」と云う新設定になる。
- NetflixのMCUと世界観を共有するドラマシリーズに2大超人種族の片方であるインヒューマンズが登場。⇒コミックでもインヒューマンズが優遇され、逆にもう片方のミュータントは絶滅の危機に陥る。
- ソー:ラブ&サンダーのヴィランであるゴア・ザ・ゴッド・ブッチャーは、コミックでは2010年代(早い話がMCUの人気が出て以降)に登場した比較的新しいキャラクター。
- ソー:ラブ&サンダー公開の少し前である2020年代初頭にも、ムジョルニアが一度破壊され、継ぎ接ぎされたような外見になって再生されると云う出来事がコミックでも起きる。
- 映画版のエターナルズ公開後に、コミックでもエターナルズ達が倒すべき敵である「ディヴィアンツ」を単なる種族名ではなく「セレスティアルズの予定・想定から逸脱(deviation)した者達」と考え、ミュータントもディヴィアンツの一種と見做す展開が起きる。
- 2010年代にコミックに登場した比較的新しいキャラであるアイアンハートがMCUにも登場する。
- ワカンダの王位とブラックパンサーの称号の継承が描かれると見られる「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」公開直前にコミック版の正史世界においても、ワカンダの民主化により、ティ・チャラがワカンダの王位とブラックパンサーの称号を失なう。
- コミック版の正史世界において、アフリカ系アメリカ人の間で、アメリカを「偽りの自由と平等の国」と見做し民主化されたワカンダに移住しようとする「ワカンダ・フォーエバー運動」が起きる。
小ネタ
出演者や出演キャラが余りに多いため、2022年時点で名前被りが割と多い。
関連動画
10周年感謝映像(2018年)
動画を見れば分かるが、ここに写っているキャスト・スタッフの量・質は、ともに並々ならないレベルである。2008年に公開されたたった一本の映画から始まったプロジェクトがここまで発展した事を考えると、感慨深いものがある。
※関連記事はこちら
スタン・リーの言葉とともに贈る特別映像(2021年)
『ファー・フロム・ホーム』以来、コロナ禍によって延期してきたフェイズ4映画作品が劇場公開されることを記念した映像。
『ブラック・ウィドウ』『シャン・チー』『エターナルズ』『ノー・ウェイ・ホーム』『マルチバース・オブ・マッドネス』『ラブ&サンダー』『ワカンダ・フォーエバー』『マーベルズ』『クォンタマニア』『ガーディアンズ3』のタイトルのあと、「4」(フェイズ4と『FF』を意味すると思われる)が現れる。
関連タグ
MARVEL アベンジャーズ ユニバース クロスオーバー
ホーム三部作:本ユニバースに属するスパイダーマン映画3作の総称。最初は国内ファンによる愛称だったが、いまでは公式も使用している。
X−MENユニバース:X-MENやウルヴァリン、デッドプールが登場する映画シリーズ。
スパイダーマン・ユニバース:ヴェノムやブラック・キャットといったスパイダーマンの関連キャラクター達が登場する映画シリーズ。なお、途中からMCUとリンクする。
アローバース:ドラマ『ARROW/アロー』から始まったDCコミックスのドラマシリーズ。MCUよりも先に平行世界を扱っている。
DCEU:MCUの後追いで始まったDCの映画シリーズ。
BCU:インドネシア版MCU。