声優
横沢啓子(のぶドラ版)
かないみか(映画「のび太とふしぎ風使い」)
渡辺菜生子(わさドラ版1回目)
東山奈央 (わさドラ版2回目)
概要
漫画「ドラえもん」TC第6巻に収録されたエピソード「台風のフー子」、及び映画「ドラえもん のび太とふしぎ風使い」に登場したキャラクター。
両者ともに「台風の子供」であり、悲劇的な結末を迎えた点も共通するが、設定が大きく異なるため本記事では別個に解説を行う。
「台風のフー子」版
ペットに憧れるのび太のため、ドラえもんが出した「台風のたまご」と呼ばれるひみつ道具(サッカーボール大の球形をしている)をのび太が温めて孵す事で生み出した「生きた台風」。元は気象学の実験のために作られた物らしく、暖かい空気を食べて育つ。なおドラえもんは最初は何の卵だか忘れてしまっていたようで、卵を出した際はのび太に「何が孵っても可愛がるんだよ。いじめたり捨てたりしちゃダメだぞ」と言っていたが、途中で思い出し「思い出した、その卵孵しちゃダメだぞっ」と制止に入っていた。
外見は中心部に人間のような一つ目がついたつむじ風のように描かれている(のぶドラ版アニメ(1980年4月6日放送)ではほぼ原作版と同じ外見だが、わさドラ版アニメではより可愛らしいつぶらな目になっており、体色は1回目(2007年10月26日放送)はピンク色、2回目(2022年4月23日放送)は灰色。共に「ふしぎ風使い」版とも異なる外見になっている)。また言葉を話す事はできず、「フーン、フーン」という鳴き声を発する。
時既に遅く孵ってしまった台風の子供を見たドラえもんは「危ないから捨てよう」と言うが、のび太は「せっかく生まれたんだから可愛がって育てる」と言って「フー子」と命名。のび太からは非常に可愛がられフー子もまたのび太に懐いたが、台風であるため内に秘めたエネルギーは凄まじく、ジャイアンとスネ夫を吹き飛ばす、軽いイタズラで家の中がメチャクチャになるなど、徐々に飼育が困難になっていった。
そんなある夜、関東地方に超大型台風が接近してきて…。
「のび太とふしぎ風使い」版
スネ夫の家に落ちてきたサッカーボール大の黄色い球体から生まれた、台風の子供というべき未知の生命体。原作版と異なり、つぶらな2つの目がありつむじ風を纏ったオレンジ色の雲のような外見。偶然出会ったのび太に懐いたため、「フー子」と名づけられ彼の下で暮らす事になった。原作同様、暖かい空気を主食にしており(のび太はドライヤーや蝋燭の火を使って暖気を与えていた)、逆に冷気には弱いという弱点がある。やはり「フーン」という鳴き声しか発しないが、人間との意思疎通は充分に可能。
またメイン画像に使用されている外見は、「ドラコッコ」というのび太が好きな漫画(劇中劇)に登場するキャラクターをモデルにひみつ道具の「フリーサイズぬいぐるみカメラ」で製作した着ぐるみである。フー子をこの着ぐるみに納める事で風の力が制御できるようになったため、原作のように意図せず周囲に被害をもたらす事はなかった。
のび太からはペットというより妹や娘のように可愛がられるが、やがてその正体が、遙か昔に呪術で生み出され、風の民が持つ封印の剣の力で3つに切り分けられて封印された、世界を滅ぼす力を持つ嵐の怪物・マフーガの一部である事が判明。もう一つのマフーガの一部である凶暴な青い台風の子供・ゴラドも交え、マフーガを復活させて世界征服を企む「嵐族」やその長であるストームと呪術師ウランダーの亡霊にその身を狙われることになる…。
- ゴラドは不気味に赤く光る目をした、青いドラゴンの頭部を象った雲のような外見で、やはりつむじ風を纏っていて「ゴーン」と鳴く。ゲストキャラクターのテムジン曰く「ジメジメして嫌な風」。マフーガは前述の通り3つの宝玉に分けられて封印された嵐の怪物で、不気味に赤く光る目をした灰白色の龍のような外見をしている。遙か昔の戦いの末にマフーガから切り分けられたフー子とゴラドはそれぞれ黄色と青色の宝玉に封じられ、最も邪悪な部分は赤いスイカ大の宝玉に封じられた上で封印の剣を突き刺されて厳重に管理されていた。
結末(以下ネタバレ)
「台風のフー子」版
超大型台風が接近する中、野比家の家の屋根は傷んでいて修理も済んでおらず、台風に耐えられる状況ではなかった。次第に風雨が強まって停電まで発生し、「このままでは屋根を剥がされてしまう」と焦る野比家の一同を見たフー子はのび太の制止を振り切って家を飛び出し、太平洋上で超大型台風と激突した。
「超大型台風と突如日本から現れた小型台風がぶつかり合った」という天気予報からフー子が台風に戦いを挑んだ事に気づき、必死に応援するのび太たち。その甲斐もあってか超大型台風は消滅した(わさドラ版アニメの1回目では進路が逸れて日本から離れていった)が、同時に小型台風も気象図から消えていた。のび太はフー子が超大型台風と共に消滅してしまった事を悟り、嵐が収まった夜空を見上げ一人涙を浮かべるのだった。
その後、外で小さなつむじ風を見るたびに、ついフー子の事を思い出すのび太だった。
「のび太とふしぎ風使い」版
時間犯罪者ストームやウランダーとの熾烈な戦いの末、かつてマフーガを封じた赤い宝玉から封印の剣が引き抜かれた事により、遂にマフーガが覚醒。フー子とゴラドもその一部として取り込まれてしまう。封印の剣を手にしたのび太の活躍でフー子を切り離す事には成功したものの、マフーガは弱体化しつつも邪悪さを増して復活し、のび太に襲いかかった。
その様子を見たフー子は火山の熱気を吸収してパワーアップし、マフーガとは逆向きの風の渦巻きを起こしてその力を相殺しようと試みる。のび太はそれがフー子もマフーガと共に消えてしまう事を意味すると知り、最初は必死に制止するが、その後はフー子の意思を尊重して彼女を応援した。
激闘の末にマフーガは消滅、嵐が収まった空からは陽光と共に穏やかな微笑みを浮かべたフー子の着ぐるみだけが落ちてきた。それを受け止めたのび太はフー子と出会ってからの事を思い出し、一人涙に暮れる。その様子を見たドラえもんたちには彼を遠くから見守る事しかできなかった。
当然ながらのび太の悲嘆は大きく、漫画版に至ってはストーム逮捕後もテムジンたちと別れる際にもずっと泣き通していたが、やがて彼は吹き渡る風を通じて「フー子はいつも僕らのそばにいる」という悟りに達した事で立ち直り、抜け殻となった着ぐるみはその後ものび太の部屋に飾られていた。
余談
- 「のび太とふしぎ風使い」のアフレコ当時、のび太の声を担当した小原乃梨子のペットの猫が危篤状態に陥っており、小原氏は「フー子の最期に呼びかける姿は自分そのものだった」と述懐している。
- 星野源の楽曲「ドラえもん」(映画「のび太の宝島」主題歌および2019年10月以降のアニメ版オープニングテーマ)には「台風だって心を痛めて 愛を込めてさよならするだろう」という、フー子を思わせる歌詞が存在する(星野氏自身もインタビューでフー子について言及している)。
- のぶドラ版アニメではこの話を基にしたオリジナルエピソード「太陽たまご(★)」(1999年1月8日放送)がある。展開はほぼ同様で、「太陽のたまご」から生まれた太陽の子供・サン太がのび太に懐くが、太陽ゆえボヤ騒ぎを起こすなど徐々に飼育が困難になっていく。最後は地球に接近する巨大隕石を破壊するため宇宙へ飛び出し、目的を果たした後も消滅せず宇宙の彼方へ旅立った。そしてのび太とドラえもんは満天の星空を見ながら、宇宙のどこかにいるサン太に思いを馳せていた。
- 「ふしぎ風使い」でフー子が着た着ぐるみのモデルとなった「ドラコッコ」はF先生も出演した映画「未来の想い出」の主人公の漫画家・納戸遊子が3周目の人生で生み出した同名漫画の主人公が元ネタ(①②)。なお、ここでのドラコッコは「ふしぎ風使い」版よりやや頭が大きくて後頭部のリボンがなく、体色が緑色で両腕が蝙蝠の翼のようになっていて、両脚も鳥の脚のような形状をしており、ワイバーンを思われる外見になっている。
- ゲームボーイ用ゲーム『あるけあるけラビリンス』3面では「台風のたまご」から生まれた台風がボスとして登場する。フー子がボスとして襲ってきた、と捉えかねられない状況だが、ゲーム上での表記は「巨大な台風」となっているので、あくまで別個体と思われる。ドラえもんも「台風の目玉をやっつけろ!」とノリノリで攻撃し、特に和解はしないまま撃破している。