概要を忘れないでくれ
『ウルトラマンA』最終回の第52話のラストにおいて、地球を去る時にエースが子供達に残した言葉。或る日、ヤプールに追われる遊牧宇宙人であるサイモン星人が子供達に虐められている所をTACが保護した矢先、街にヤプールの操る超獣・ジャンボキングが出現して破壊活動を開始した。
サイモン星人が北斗やそれまで虐めていた子供達に匿われる中、ジャンボキングはTACの攻撃を物ともせずに暴れ回り、街を半壊させてしまう。そしてヤプールがサイモン星人の引き渡しを要求すると同時に姿を消すのだった。
TACは一時サイモン星人の引き渡しも検討したが、子供達の思いを無駄にしないためにも、「家や街は、また建て直す事もできます。しかし、あの少年達の気持ちは、一度踏みにじったら簡単には元には戻りません」と北斗は主張する。
翌日、再び現れて暴れ回るジャンボキングに対し、TACは新兵器の「細胞破壊ミサイル」で対抗するもバリアで無効化されて為す術が無い。一見するとこれまで通りヤプールが超獣による破壊活動を行っているだけに見えるが、この悪魔の狙いは其処では無かった。
北斗と2人だけになった所を見計らい、ヤプールはテレパシーで自分こそが子供達が守ろうとしているサイモン星人の正体だと告げて自らを殺させようとする。全ては子供達の目の前で北斗に友達になったサイモン星人を殺させる事で北斗が子供達に説いた『優しさ』の理論を、北斗自身に踏みにじらせる事で、北斗への信用だけでなく、彼が教えた『優しさ』を奪わせ、あわよくば地球から追放してしまおうという、ヤプールの下衆以下の鬼畜な奸計だったのだ。
意を決した北斗によりサイモン星人はタックガンで射殺されるが、当然子供達は、サイモン星人と友達になるように諭してくれた筈の北斗が、いきなりサイモン星人を殺してしまった事にショックを受け、北斗を非難。
北斗はサイモン星人の正体がヤプールで、テレパシーで自分にだけ正体を打ち明けてきた事を説明するが彼らのテレパシーによる会話など知る由もなかった子供達はテレパシーが聞こえるのはウルトラマンだけのはずに、なぜそれがわかったんだと信じようとしないばかりか、「もう“優しさ”なんか信じない!」と子供達の心には北斗への強い不信感が芽生え、ヤプールの目論見通り『優しさ』を失いそうになってしまう。
そんな状況を前に進退窮まった北斗は、子供達の心を救うべく、「ボクがヤツのテレパシーをわかったのは……それはボクが…ウルトラマンエースだからだ」だと彼らに打ち明ける。
衝撃的な事実を前に愕然とする子供達に、北斗はこれがエース最後の戦いであると宣言した上で変身し、その正体を現すと同時に、残る最後の超獣 ジャンボキングを倒した。
ヤプールの思惑通り、自らの正体を明かしてしまったことで地球にいられなくなり、光の国に帰還する事となったエースだが、去り際に子供達へ最後の言葉を残した。
「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえその気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後の願いだ」
時が流れ、後の『ウルトラマンメビウス』では第36話「ミライの妹」でエースが残した言葉として触れられている他、第44話「エースの願い」においても心無い地球人に散々虐げられたメビウスことヒビノ・ミライに対して、エースが今もその願いは変わっていないことを語っている(そのため、最後の願いというフレーズが「それが私の変わらぬ願いだ」となっている)。
どんな余談も記そうとする気持ちを失わないでくれ
北斗役の高峰圭二氏は、放送でこの名言を聞いて深く感銘を受けると同時に、この台詞を言ったのがA役の納谷悟朗氏であった事に、「どうしてこんないい台詞を自分に言わせてくれなかったんだ」と番組スタッフに憤りを覚えたという。そして後年、メビウス出演を打診された際に、出演の条件として「あの名言(『優しさを失わないでくれ~』)を自分に言わせてくれる事」を提示し、メビウス第44話客演時にようやくそれを実現できた。
しかし、その文面から勘違いされがちだが、この台詞の本質は、『自らのこれまでの経験を踏まえ、すぐに相手の言うことを疑ったり、ちょっとしたきっかけで簡単に信頼関係を損なってしまう地球人達(特にこの人達)と、そんな信頼関係の脆さが一因となって自らが地球を去る羽目になったエース=北斗からのあてつけな皮肉』であり、今回のヤプールとの対決は本質的には北斗の完全敗北でもある点から、所謂捨て台詞であり、負け惜しみでもある。
このため、『メビウス』での使用はお世辞にも適切とは言い難いのである。
そして、メインライターであり最終回を執筆し、これを最後にウルトラシリーズから去った脚本家・市川森一氏自身も、そのような認識で書いたともされる。
通説では、ある日ウルトラマンエースごっこで遊ぶ子供達を見た市川氏であったが、その内容が『“宇宙人”役とした一人の子供を他の“ウルトラマン”役の子達が寄ってたかって袋叩きにする』というとても正義のヒーローとはいえない野蛮なものであり、「自分が(ウルトラシリーズの)脚本を通して伝えたかった事が、肝心の子供達に伝わっていないのでは?』と痛感した市川氏は、ウルトラシリーズから手を退く決心を固め、最後に視聴者に対し、自分が本当に伝えたかった想いの全てを込めて、52話の脚本、そして「優しさを失わないでくれ~」という名言を書いたと言われている。52話冒頭でウルトラマン、セブン、ゾフィーのお面を被った子供達がサイモン星人を寄ってたかって虐めようとするシーンも、市川氏が実際に見た光景を元にしている。
関連タグが私の、最後の表記だ
ゼラン星人:弱者を装い、人の優しさを利用してウルトラマンを挑発してきた「弱いものをいたわる優しさを裏切る」という「帰ってきたウルトラマン」に登場した宇宙人。脚本は同じく市川森一氏。