概要
一般的に、人気の高い商品にそうでない商品を組み合わせてセット販売する事を指す。
在庫処分のためや、不人気商品の販売実績を稼ぐといった目的で行われる事が多い。
物品以外にも、映画や芸能人の売り込みなどで人気の高い方に、人気のない無名なものや新人を付け加えて行われる事もあるが、こちらの場合はどちらが人気が出るかは世に出てみないとわからないため、期待薄だと思われていた方が逆に人気を博すというケースもある。
なお、こうした商法は日本では独占禁止法で不公正な取引方法として定められており、公正取引委員会によって度々指摘・是正が行われてきたという歴史がある。
余談
いつからこのような商法が横行していたかは不明だが、
「抱合せ販売で欲しくもない商品を売りつけられた」という人の話をまとめると1980年代初頭のガンプラブーム時に「ガンプラと売れないプラモデルのセット」を買わされたという証言が多い。
また、同じく80年代にはファミコンブームが到来し、社会現象となるタイトルが多数登場したが、ここでも「ドラゴンクエストとクソゲーのセット」を買わされたという案件が非常に多く発生した。
どちらも主に子供をターゲットにしており、非常に悪質性が高いのだが、当時小売店を営んでいた人の話を聞くと「小売店も問屋から『〇〇をn本仕入れないと××は仕入れさせない」という格好で実質抱き合わせ商法を食らっており、泣く泣く問屋の段階で不良在庫化している欲しくもない商品を仕入れたり、破産しない為に悪い事と知りながらも子供たちに売りつけざるを得ないという事情もあったようである。
また、サブカルチャー分野においてはこうした抱き合わせ販売に関する法律整備が追いついておらず、ほぼ業界の自主規制・良識任せになっていたということもこうした商法が大っぴらに行われる背景にあった。
度々公正取引委員会による警告や注意喚起が行われたことで徐々に減少傾向にあるが、近年では転売や買い占めなどで品薄が発生する→特定商品だけが異常に買われ在庫バランスが崩れるのを嫌がった小売が抱き合わせを始めてしまうというケースも存在しており、根深い問題となっている。
代表的な事例
ドラクエブームにおける「藤田屋事件」
テレビゲームの卸売業者である藤田屋が、「取引実績に応じた納品」と称し小売店に対して人気作DQ41本の仕入れに対し他ゲーム3本の仕入れを強要した事例。人気作を利用し、不良在庫のファミコンソフトを3本捌くというとんでもない高レートを強要したために公正取引委員会がすっとんでくる事態となった。非常にわかりやすい事例であることから、現在でもしばしば独禁法や抱合せ販売の例として示されることが多い。
ゲームセンター、パチンコ業界における事例
パチスロ業界においては、人気機種が欲しかったら絶対に不人気機種も入れなければならないという販売形態が2000年代まで当たり前のように存在していた。パチスロ業界を健全化するために大手メーカーがそうした販売方法はしないという合意を形成したが、その後もこの協定を破って次に販売する機種との抱合せを行っていたメーカーがあり、スキャンダルになったことがある。
同じくゲームセンター、アーケードゲーム業界においては古くから行われ続けている。特に対戦格闘ゲームブーム時代は、取引実績のないゲームセンターに対しては格闘ゲームの最新版を売らなかった事例や、必ず他の基盤も買わないといけないという販売体系になっていた。もちろん独禁法に引っかかるが、前者に関してはアーケードゲーム業界における海賊版問題(データが違法コピーされ、コピー基盤が出回る)対策という一見もっともらしい理由があったことや、セット販売であるという言い逃れなどがあった。現在でもしばしば行われるほか、高額な専用筐体でなければ稼働しないゲーム、ネットワーク使用料として収益の数割が持っていかれる料金体系になる…などの新しい形態が生まれている。
一方で、こうした人気作を抱き合わせで購入しなければならない風潮を逆手にとって中小や個人経営のゲーセンという市場を味方に付けたメーカーもあった。
- SNKはMVS筐体と基盤をレンタルしその収益の一部を徴収するというビジネスモデルを展開していた。人気格闘ゲームを買う体力のない店舗でもKOFなどの人気作を導入することができるかつ、場所と電気代だけで済むため町の玩具屋や駄菓子屋、文具店などもこぞって筐体を設置。若年層におけるSNKキャラ人気にも繋がっていた。
- なお、旧SNK末期の基盤ネオジオ64では抱き合わせに近い超高額セットを展開したが、当然全く売れずに大失敗した。
- 格ゲーブームに乗り遅れた一部のメーカーは全く抱き合わせ販売をしておらず、これが逆に売上貢献に影響したという例もある。基盤が安価かつ見栄えがし、それなりにインカムが良いタイトルは中小ゲーセン側から見ると優良物件であり、一部のメーカーが支持されることに繋がった。
音楽業界における事例
近年では、近年では不況著しい音楽業界において握手券(選挙券)やシリアルコードを封入して、CD等を複数買わせるように仕向けているケースも存在する。
ただし、これに関しては「直ちに違法ではない」という結論が出ており、法的には抱き合わせ商法の範疇には入っていない。
しかしながら、握手券や投票券欲しさにCDを大量購入し、そのCDはもはや中古店でも「タダでも引き取らない」という状況になってしまっているために、大量にゴミとして捨てたり、ひどい場合は不法投棄などを行い逮捕される者も出ており、法的にはセーフでも本質的に抱き合わせ販売に変わりはないと批判を受ける事がある。
CDの場合、単純に販売数を上げる目的以外に、オリコンなどの音楽チャートで上位入賞する事を目的にこのような商法が行われる場合もあり、問題視され続けてきた。
こうした事情から、アメリカの音楽チャートであるBillboardでは2020年1月をもって、グッズとの抱合せ販売やまとめ販売を集計の対象外とし、ランキングに反映されるのは「CD本体を目的に1人の購入者が購入した1枚ぶんだけ」に限定した。
ただし、この改正にも抜け穴が存在しているため、今後もあの手この手でその抜け穴を突いて自社のアーティストを音楽チャート上位に入賞させようとする企業は出続けるだろうとも言われている。
食玩・ガシャポン商品などにおける事例
食玩やガシャポンにおいては、1つの商品に複数の中身が存在する事が多い都合上、
その中の1つだけが極端に人気が高い(または、立体化・商品化の機会が少なかったなど)場合に、模型店やホビーショップなどでセット売りという名目で事実上の抱き合わせ販売になるケースもある。ただ、食玩やガシャポンの場合コンプリート、大人買いの需要が少なからずあったり、店頭で欲しい物が既に買われているケース、確実に出るとは限らないケース等がしばしばあるため、逆に1箱に入っているn個分の値段で揃うのであれば逆に消費者にとっては助けとなり、小売にとっては不人気商品が残るリスクを避けられてWIN-WINになっているという皮肉な面も存在していたりする。
オンラインゲーム・ソーシャルゲームにおける事例
オンラインゲーム、ソーシャルゲーム等では手に入るのが、物品ではなくゲーム内のアイテムやキャラクターという事で、事実上脱法状態となっており、完全に企業の倫理観任せとなっている。
- 関連グッズやスピンオフ作品を買うと限定アイテムのシリアルコードが付いてくるが、当該商品があまりに出来が悪い
- コラボと称して特定企業の商品にシリアルコードを付け、実質大量に買わないと入手できない、しかも不人気商品である
- ピックアップガチャ、パック販売などにおける人気キャラと不人気キャラの抱き合わせ
- ガチャやルートボックスをn個買うと○○が手に入るが、その要求数があまりに多い
- 割引アイテムパックかと思いきや、中身の大半がゴミで有用な物が少ない
- セットになっているアイテムの価格換算が不当(普段よりも高い値段で換算されている、ほぼ常時割引販売しているがここでだけ定価換算されているなど)
…というようなケースの場合、事実上の抱き合わせ商法であると指摘される事がある。
また、コラボ商品(特に食品)にシリアルコード付属というパターンは当該商品の出荷先が
首都圏に極端に偏っており、地方では入手機会が極端に少ない事があるという機会不均等性、
付属するアイテムやキャラがとても強力・高価値で所持しているプレイヤーは著しく有利になる事をちらつかせて購入を煽る事もあるなど、別の問題も内在しているため、運営・開発陣が下手を打てばゲーム内外で炎上案件となり、外部のゲームニュースサイトなどで報じられるケースもある。
品薄に起因して抱き合わせが行われた事例
1993年に発生した米不足においては、国産米にタイ米を抱き合わせて販売しようとする米問屋が存在し問題となった。米が不足→タイなどからインディカ米を輸入することで補おうとしたものの、インディカ米は食味が大きく異なることや日本の炊飯器では上手く炊けないことが多く、消費者が国産米を奪い合う状況は変わらなかった。結果として、不良在庫化したタイ米をなんとかして処分しようとした問屋が抱き合わせ販売に走った…という背景がある。
また、近年ではCOVID-19に際して、転売屋がマスクなどを大量に買い占めてオークションサイトで高額転売するに留まらず外国製マスクやゴミとの抱合せ高額販売を行っている事例も多数見受けられ問題となった。また、小売の側も肌ざわりが悪く不人気のマスクを売れ筋と抱き合わせており、これを防ぐために国民生活安定緊急措置法という暫定法が設けられたことがある。
なお、オークションサイトにおいて何の申請も必要なく個人が商品を販売して良いのは「不用品の処分・再活用」という名目で特例として許可されているという理由のため、利益を得るために特定商品を仕入れて転売している、第三者が仕入れを行っているなどの条件も絡むと、古物商取引法などにも抵触する可能性がある。
こうした営利目的転売・抱き合わせ転売が横行しているせいで、本当に偶然同一商品を複数所有した人が不要だからと2個3個セットで出品、関連するものをまとめて出品→悪質な転売・抱き合わせ販売として通報されてしまうケースもあり、まっとうな利用者からすればはた迷惑な話である。
OSプリインストールのアプリ・付属品など
コンピューターやスマートフォンなどにプリインストールされているアプリに関して、ユーザーに他アプリを使う選択肢を与えないことは不当な抱き合わせ・独占であるという指摘。古くはWindwsにプリインストールされているInternet ExplorerやMedia PlayerがOSと切り離されていないことに対する指摘などから始まり、近年ではユーザーにSafari以外のブラウザを使う自由を与えていないAppleなどが批判対象となっている。