概要
1966年12月18日放送。
実相寺昭雄監督によるウルトラマン第4回監督作品。
ウルトラマン全39話の中で救いのなく、後味が悪い話で有名。
STORY
東京で行われる国際平和会議に、出席する各国の代表者が乗った飛行機や船が、謎の攻撃によって次々と破壊される事件が発生していた。
科学特捜隊は、パリ本部から派遣されたムッシュ・アランと共に調査に乗り出した。
ある夜、老人と子供をひき逃げしてパトカーに追われていた自動車が見えない何かに衝突するという事件が発生する。現場を調査していた科特隊はそこで『見えないロケット』と遭遇する。
『見えないロケット』の目的は国際平和会議の妨害と判断した科特隊は、イデの開発したスペクトルα・β・γ線をジェットビートルに装着し、見えないロケットを撃墜することに成功した。すると中から巨大な怪獣が出現した。
その怪獣を見たアランは顔色を失い、
「やっぱりジャミラ…ジャミラ、お前は…」と呟く。
イデ達は熱線重機関砲やマッドバズーカで怪獣に攻撃を加えるが、仕留めきれずにそのまま逃亡されてしまった。
その夜、ムラマツとハヤタがアランに怪獣の正体を質問したところ、アランは躊躇しつつも衝撃の事実を語った。
「諸君、あれは怪獣なのではありません。
あれは……いや、彼は我々と同じ人間なのです」
その正体は、かつて宇宙開発競争時代に某国が打ち上げた有人衛星に搭乗していた宇宙飛行士ジャミラ。彼の乗っていた宇宙船は遭難し、宇宙を漂流した末に空気も水もない惑星に不時着したが、某国は実験失敗による国際社会の批判を恐れてこの事実を隠蔽してしまった。ジャミラはその惑星の過酷な環境が影響して、棲星怪獣ジャミラへと変貌し、自分を見捨てた地球に復讐しに現れたのだった。
そのことを知ったイデは同情し、戦いを放棄。
アラシに「自分達もジャミラと同じ運命になるかもしれないじゃないか!」と不安を吐露する。
だがアランは科特隊に、パリ本部からの非情で苦渋の命令を伝える。
「ジャミラの正体を明かすことなく、宇宙から来た一匹の怪獣として葬り去れ!」と。
翌日、ジャミラは自分を見捨てた者達に復讐するため、国際平和会議会場ヘ進撃。
その復讐の魔手は、何の関係もない通りすがりの小さな村にも伸びてきた。
民家を破壊し、口から出す100万度の高熱火炎で、村を火の海にするジャミラ。
その姿は、もはや人間ではなく怪獣そのものだった。
飼っていた鳩を逃がそうとした少年を助けに向かうハヤタとイデ。
その途上でイデはジャミラを見上げ、あまりの惨状に思わず叫んだ。
「ジャミラてめぇ!人間らしい心はもうなくなっちまったのかよーーーーっ!!!」
その叫び声に一瞬、我を取り戻すジャミラ。
だがその復讐の行軍は止まることなく、科特隊と防衛軍の人工降雨弾攻撃を受け、苦しみながらもジャミラはついに国際平和会議場に到達。世界各国の国旗をへし折り、憎悪を込めて踏みにじる。
ハヤタはジャミラの暴走を食い止めるべく、ウルトラマンに変身。
国際平和会議場前で、泥まみれになりながら戦うウルトラマンとジャミラ。
ウルトラマンは、手からジャミラに向けてウルトラ水流を発射した。
大量の水を浴びたジャミラは、たちまち体が崩れ始め断末魔をあげ、泥まみれになりながらもがく。
それでもなお最後の復讐の炎を燃やすがごとく、既にズタズタになった各国の国旗を叩き続けるが、その動きはやがて弱まっていき、とうとううつ伏せに倒れ動かなくなった。
ここに棲星怪獣ジャミラは絶命した。
夕陽の中、科学特捜隊によって墓標が立てられた。
一様に暗い顔の隊員達が見つめる中、ムラマツキャップが墓標に語りかけた。
「ジャミラ、許してくれ……。だけどいいだろう、こうして地球の土になれるんだから。
お前の故郷、地球の土だよ……」
後日、国際平和会議は無事に開催された。会場にもジャミラの墓碑が立てられていた。
そこにはこう記されていた。
『A JAMILA (1960-1993)
ICI DORT CE GUERRIER QUI S'EST
SACRIFIE EN QUETE D'IDEAL POUR L'HUMANITE AINSI QUE
POUR LE PROGRES SCIENTIFIQUE』
(人類の夢と 科学の発展のために死んだ戦士の魂 ここに眠る)
この名誉に隠された悲しき真実を知るのは科学特捜隊だけである。
科学特捜隊と関係者達が会場へ向かう中、イデは一人立ちつくし墓碑を見ていた。
「犠牲者はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど」
イデを呼ぶハヤタ、ムラマツ、アラシの声。
そして彼の脳裏に、悲しげなジャミラの声がよぎるのであった……。
あれこれ
事件の内容が内容だからか、『ウルトラマンメビウス』の時代では、GUYSが有するアーカイブドキュメント「ドキュメントSSSP」のジャミラに関する記録が大幅に削除されているらしい事が示唆されている。
隊長以上の権限がなければ閲覧できない最重要機密「ドキュメントフォビドゥン」に詳細な記録が残されている可能性はあり、後述の『アンデレスホリゾント』でもそれらしき描写がある。
また、『メビウス』の外伝小説である『アンデレスホリゾント』では、後年、
- 一連の騒動の根幹をなす某国の悪事がジャミラの正体諸共封印され長い間明かされなかったこと
- 科学特捜隊を辞めてジャーナリストとなったアランが暴露本『故郷は地球』を出版したものの、このことを疎ましく思った某国関係者が執拗な妨害を繰り返し、アランを冤罪で起訴・投獄した挙句、この本を絶版に追い込んだこと
などが明かされている(ただし、この小説は映像作品とはパラレル扱いになっている点には留意)。
この小説の描写と本編での墓碑銘の言語から、ジャミラを裏切った某国とはフランスではないかと考察されている。
『ウルトラ怪獣擬人化計画 feat.POP Comic code』では、54話で訓練生時代の親友から
「君の存在は国に消されてしまった。地球に戻れば殺されてしまうんだ…!!
生きるという選択をしてくれ!!その星で生きていけるのならば…どうか!!」
という悲痛な警告のメッセージを受け取るシーンがあり、彼は母国に存在そのものを抹消されてしまったどころか、万が一地球に帰還することができたとしても、歓迎されるどころか国家の最重要機密の根幹を揺るがす厄介者として殺害されていた可能性があったことが描写された。
ちなみに、この作品でも生前のジャミラの様子が断片的に描かれているのだが、彼と友人の着用していた訓練服には架空の国旗(白と何か別の色のツートンカラーで、アルファベットのAのような文字が刻まれている)が描かれており、本作ではフランス人だったかどうかは曖昧にされている。
なお、この作品も本編とはある程度の繋がりはあるが、映像作品とはパラレル扱いである点には注意が必要。
終盤のイデが発した「犠牲者はいつもこうだ~」の台詞は、「為政者は~」「偽善者は~」など様々な説があったが、後に実相寺監督所蔵の台本に「犠牲者は~」と書き加えられていたことが判明し、HDリマスター版の字幕において「犠牲者は~」と表記されている。
おまけ
ひき逃げ犯が運転していたプリンス・スカイライン1500は当時の実相寺監督の愛車で、実相寺監督作品に多く登場する。ひき逃げ犯を演じているのも実相寺監督である。
鳩を逃がす少年アキラを演じたのは吉野謙二郎。後に雷門ケン坊として『チビラくん』などに出演した。
アキラの母役は中村富士子、アキラの母を制止する警官役は飯田和平。
アランは脚本上では「ハンク」という名前で、ジャミラ抹殺指令を伝えた後に涙を流す描写があった。
アランがジャミラの正体を打ち明ける場面は河口湖で撮影されたが、夜間に逆光で撮影したことからロケの必然性が薄く(実相寺監督曰く「近所の空き地で撮ったと誤解された」)、上層部の不興を買ったという。
このほか脚本上ではイデがジャミラの弱点が水であることに気付く描写があったとされる。
実相寺監督は尺の都合でカットされたシーンが多かったと触れ、肩の力が入りすぎて台本の良さを殺してしまったと述懐している。
後年宣弘社が「打倒ウルトラ」を目指して製作した『シルバー仮面』の主題歌も同じタイトルの「故郷は地球」である。
同作を手掛けたのは本話と同じ実相寺監督であり、主題歌も佐々木守が作詞している。
また第18話「一撃!シルバーハンマー」(脚本:市川森一)は本話と同じく宇宙飛行士が怪獣化するエピソードであり、一種のオマージュと言える内容となっている。
かつてフジテレビ系列で放送されていたバラエティ番組『トリビアの泉』でこのエピソードが「ウルトラマンは手からスペシウム光線を出すが水も出す」と紹介されたことがある。トリビアNo.326、78へぇ獲得。