概要
テレビアニメ『ポケットモンスター』(第7シリーズ)放送中にネット上で起こった炎上騒動。
放送前は全シリーズの集大成を謳い期待されていた。しかし、序盤の時点で物語の着地点が分からず、迷走しているという意見が存在していた。
本格的に炎上するようになったのは終盤となるマスターズエイト編からだが、それ以前にもゴウのポケモンに対する倫理観の描写も視聴者の間で反発を生んでいた。
主な問題点
ゴウの経験と釣り合わぬ成果
新無印で初期から問題視されていた点。
本シリーズのもう一人の主人公であるゴウは、トレーナーになりたての精神・実力ともに未熟な面が目立つルーキーでありながら、「明らかに手に余る数のポケモンをコレクター感覚で採集し集めていく」という実力に見合わないそのスタンスが「鼻に付く」と受け入れられない視聴者が多かった。
シゲルも最初期のポケモンが151種しかいない時代に200匹以上ゲットしたりしていたが、これは彼が嫌味なライバルとして描かれていた故にむしろ反感を抱く人が少なかったのかもしれない(なお図鑑によれば「出会った数」はサトシより少なかった)。
ゲーム作品ではポケモンをたくさんゲットするのは当たり前で、むしろゴウのモチーフ元である「ポケモンGO」自体もそういうゲームなのだが、
アニメでのポケモンは一つの生物としての側面が強く描写されており、アニメでポケモンを乱獲するのは道具のように扱っている悪役ばかりで、タブー視される考え方が根付いていたためである。
「各地方のポケモンを4~6種捕獲し、旅仲間の一員として大事に育てる」というスタンスを続けてきたサトシとは、色んな意味で対照的なキャラとしてデザインされた背景もあるが、それをプラスの方向に活かしきれなかったと言える。
これらのことを当初問題視していなかった人の間でも、彼が伝説のポケモンすらも運良く捕まえてしまったことで炎上し、
ポケモン側の意志はちゃんと尊重しているというフォローを幾度入れても、彼への反感やヘイトが消えることはなかった。
ゴウ自身の身勝手な言動が多い未熟者というキャラも、ゼロから立派に成長したという経緯なら許容出来たのだが、20年近くに渡って少しずつ成長を積み重ねたサトシが隣にいたことで悪い印象ばかりが浮き彫りになってしまい、序盤以降は具体的な成長もどんどん見られなくなったため、下記のシリーズ終了もあって彼を戦犯・親の仇のように嫌うユーザーも続出してしまった。
ヒロイン役であるコハルの扱い
本作のヒロインとされている少女コハルは、当初ポケモンにもサトシ達にも興味がなく関わってこないという異例のキャラで、一か月以上登場しない時もあったため、存在意義を見出せないとする視聴者が多かった。実際、担当声優からも「出番が無い」と言われた程。
一方、二年目より相棒のイーブイと出会って以降はその価値観が大きく変わり始め、冷めた性格も明るくなり自ら物語に関わっていくようになる等、ある意味ゴウより真っ当に新米トレーナーとしての道を歩み始め、評判も回復していった。
しかし、彼女のテーマであるイーブイの進化先の模索については、打ち切り漫画の如く有耶無耶にされる形で終わってしまっている。
ガラル地方チャンピオン・ダンデの過剰な優遇
マスターズトーナメント編最大の問題点。
アニポケではポケモンWCSの存在により、ガラル最強から世界最強のトレーナーへと昇格したダンデだが、劇中の殆どでは圧倒的なレベル差によるゴリ押しという単調な魅せ方ゆえ、視聴者からは伝わらないとの声が多かった。
このような書き方でワタル、アラン、カルネなどのチャンピオンクラスの歴代キャラクターに圧勝したせいで視聴者からの印象は最悪で、特にアラン、カルネ戦は両者をかませ犬にした冒涜しているとしか思えない試合内容で大炎上した。
ダンデ関係の脚本の杜撰さは目に余るものがあり、それまでの描写・作品で彼にしっかり好感を持てていたファンにも悪い印象が植え付いてしまった。
逆サトシリセット
今作のサトシは集大成を謳っているのに対し、過去の手持ちポケモンを再会して尚使わない。
過去の手持ちポケモンはほぼ必ずリーグで敗北していたにも拘らず、最近ゲットした新無印の手持ち(特にルカリオはリオルとしてタマゴから生まれて間もない個体)だけでチャンピオンクラスの相手を倒しており、悪い意味でご都合主義且つ酷い主人公補正だと批判されることが多い。
今まで主人公らしからぬ戦歴のままシリーズが20年以上積み重なっていたため、今回の過剰な躍進に違和感を抱いてしまった視聴者が多かったのである。
肝心の面子もサトシの見せ場をほぼバトル面に集中させた弊害で、日常面における出番や掘り下げが例年より少なかった事も原因の1つであった。
総集編の頻度増加と、制作陣体制の悪化
同じく終盤は、上記内容の薄っぺらさから、描写と尺が明らかに不足していることが指摘されていた。加えて新世代の発売が迫り、放送できる残り話数が限られているにも拘らず、総集編の放送頻度が目に見えて増加していった。
放送当初はCOVID-19の制限などによる影響が大きかった時期であり、それが原因ではないかという擁護も存在するが、その一方で、尺不足との意見が目立ち始めた終盤では既に政府が制限緩和に方針転換しており、理由付けとしては薄いと見られるとの批判も存在する。
製作陣のやる気のなさはSNSでも見られ、作画監督のわっぱは「そんなに総集編嫌なら、過去話数でも見てあの日の感動を思い出しに行けば良い」というツイートを投稿し、更に炎上した(後に自分達スタッフのことももう少し考えてほしいと加えつつも、発言については謝罪している)。
全地方舞台による弊害
これは視聴者によっては意見が分かれるが、全地方舞台や一話完結にすることにより中途半端で内容が薄い感じになるため、視聴者の中には従来のように最初からガラル地方だけを舞台にした物語を作ればいいのではという声も存在した。
結果としてガラル出身の人物とポケモンの一部がまともに登場・活躍できておらず、モブキャラクターを除けば一度も出ていないものが多く、結果一部のガラルキャラクターやポケモン達は次作に出番を持ちこす事態になった。
ポケモンに限った話ではないが「歴代が登場する集大成作品・記念作品」は、キャラクターや要素の詰め込みすぎで個々の印象や活躍が薄くなるという悪習がついて回り、新無印もその轍を踏む形になってしまったのは否めない。
同じく旅路線を廃止した一話完結式のサン&ムーンと比較しても、毎回出先のゲストポケモンに焦点にあたる一方でサトシやゴウの主要ポケモンのメイン回や掘り下げ描写が少なく、レギュラーの方に愛着が持ち辛かった事も上記顰蹙を買った一因とみられる。
評価とその後の展開
これらの影響からアニポケシリーズ屈指の賛否両論作となっており、完結から2年以上が過ぎた現在でも尚、遺憾と無念を燃やし続けている声がネット上で見られる程。
同時に不評時の息切れ感や、実質サトシがほぼポケモンマスターに近い地位となった事で、「サトシ引退説」も今まで以上に囁かれ始める。
そして新作が発表されても新シリーズの発表が一切無いまま、一月経った2022年12月16日。
翌年3月までの最終章をもって、サトシを主人公にしたシリーズを本当に終わらせる事が発表され、その歴史に幕を閉じる結果となった。
ただし、終わったのはあくまでサトシの物語であり、ポケモンのTVアニメ自体は新たな舞台や主人公達のもと新生されている。
そちらは作品として全面的なリニューアルを測っているが、冨安監督以下多くのスタッフが続投で、作風やクオリティ自体は良くも悪くも左程変わっていないという意見もちらほら。
公式には「カメラを切り替えて」と仄めかされたこのリセットが、やるべき事をやりきった末の大団円か、これ以上続けるのに限界が来たが故の逃避か、どちらに捉えるかはあなた次第。