概要
企業(会社)が退職してもらいたいという従業員(社員)に対して、自発的に退職するように促す行為のこと。「整理解雇の4要件」などの判例がある解雇と違い法律上の規制が緩いため、会社側の勝手な都合で通告することが可能であるが、強引に迫ると退職強要として違法になることもある。
また、定年前の従業員に対して行われる退職勧奨を特に早期退職という。
退職勧奨される理由としては主に以下のものがある。
- 能力不足がある。
- 勤務態度が悪く、再三注意しても直らない場合。例えば以下のケースがある。
- 無断欠勤や正当な理由が無い遅刻・早退、無断外出を繰り返している場合
- 他の従業員に対して日常的にハラスメントを働くなど著しく協調性が無い場合
- ただし、経営者や古株従業員に問題があった場合、「職場に波風を立たせない」ためとして、逆にハラスメント被害者に対して退職勧奨を行う場合もある。
- 正当な理由が無い残業の拒否が多い場合
- 転勤や部署異動を拒否した場合
- ただし元々地域限定採用だった従業員を無理やり転勤させるのは違法とされる。
- SNS等で炎上した場合、あるいは特定の従業員が在籍しているという理由で職場にクレーム・嫌がらせが殺到した場合
- 炎上の原因がその従業員の判断による業務上のやらかしならばともかく、単に上司の指示を実行しただけだったり、会社とは無関係な私的な案件であったり、犯罪の関係者と誤認された濡れ衣だったり、面白半分のネットイナゴに目をつけられただけだったりした場合は、会社の「事なかれ主義」による不当な退職勧奨となる。
- 会社から退職勧奨を受けたかどうかにかかわらず、ネットいじめを受け職場に迷惑がかかるという理由で退職を余儀なくされた場合は、炎上・誹謗中傷に加担した相手に対し名誉毀損や侮辱罪などで立件が可能である。
- 従業員に対する不当な攻撃によって業務に支障が出ている場合は、雇用主は威力業務妨害など法的措置でもって絶対に許さない姿勢を示すべきであり、被害者に退職勧奨を行う時点でハラスメント・犯罪行為に屈したということになる。
- 病気や障害(精神障害、発達障害を含む)などがあり仕事に著しい支障をきたす場合
- ただし、障害者であることだけを理由に退職勧奨・解雇するのは障害者雇用促進法違反にあたる。一方で障害者雇用枠での採用であっても仕事に著しい支障をきたす場合は解雇が認められる場合もある。
- 企業の経営状態が悪い場合
- 会社の経営悪化を理由に「整理解雇」することもできるが、「整理解雇の4要件」(人員削減の必要性・解雇回避努力・人員選定の合理性・解雇手続の相当性)を満たすほど経営が悪化した企業はもはや倒産寸前であると考えられる。
退職勧奨は解雇と異なり強制力は無いので、拒否することも可能である。また、就業規則にも規定されていないことが多い。
退職勧奨を受けやすい職種
上記の通り、ヘッドハンティングされた従業員は具体的な成果を期待されるので退職勧奨を受けやすい。ヘッドハンティングの声掛けを受けた人はつい舞い上がりがちだが、会社の期待ほど活躍できなかった場合は、過大な評価は一転して失望に変わり退職勧奨を受けることもあるので、転職は慎重に考えるべきである。
また、外資系企業では日本企業よりも容易に退職勧奨が行われる傾向があると言われている。日本企業は職種を限定せずに一括採用し、一つの企業内であらゆる部署に異動(ジョブローテーション)を繰り返して経験を重ねていくので、上司の期待する結果を出せなかった従業員は左遷される。外資系企業は 職種別中心の採用で原則ジョブローテーションが無く、ある日部署が無くなれば(ポジションクローズ)、同じ会社内に人手不足の部署があってもクビを切られるのである。
退職勧奨されたら
会社から退職勧奨を受けた場合、その理由がどうであれ既に会社との信頼関係が破綻しつつあると考えられ、基本的には応じた方がよい場合が多い。特に会社の経営状態が悪化している場合は、会社に残っても給料の遅配や、最悪経営破綻し退職金が出ないなどさらに悪い事態も考えられる。
ただし、危険な仕事や違法な残業を拒否したという理由や、セクハラやパワハラ被害者に対する退職勧奨など、不法・不当な理由で退職を勧められた場合は、会社の落ち度があるとして退職金の割増などが受けられる場合があるので、すぐに応じず、労働問題に詳しい弁護士などに相談しよう。
「退職勧奨による退職」は通常の自己都合退職と異なり「会社都合退職」となることが多く、企業にもよるが退職金も多めに貰えることがある。また、会社都合退職であれば失業保険を早めに受け取れるというメリットもある。
なお、自閉症スペクトラム、ADHD、知的障害などの発達特性を抱えていたり、うつ病などの精神障害を発症しながら一般雇用で就労している人も多いが、障害が原因で職場トラブルを起こしている場合は、障害者手帳を取得し、障害者雇用枠で働くことも一つの方法である。
余談
よく「日本は解雇規制が厳しい国だから、滅多に解雇にならない」という誤解があるが、これは必ずしも正しいとは言い切れない。
たしかにアメリカ合衆国やイギリスのような実力主義の国々よりは厳しいものの、OECD(経済協力開発機構)に加盟している先進国の中ではむしろ緩い(解雇しやすい)方の国となっている。
ちなみに日本では大企業の解雇規制を緩くすべきという意見が多いが、中小企業に関しては現状でも十分緩く「むしろ今より厳しくすべき」という意見もある。