おとろし
おとろし
『画図百鬼夜行』に解説文が一切ないために、詳細は不明。もとは妖怪絵巻『化物づくし』に「おどろおどろ」の名で描かれていたものだが、『画図百鬼夜行』や『百怪図巻』では「おとろし」とされている。
妖怪研究家・多田克己はこの名称の変化について、『化物づくし』では名前を踊り字(繰り返しを表す記号)のくの字点を用いて「おとろ〱」と書いているため、これを「おとろし」と誤読したものとしている。
もっとも「おどろおどろ」は「気味が悪い、恐ろしい」を意味する「おどろおどろしい」の名詞化した名、「おとろし」は「恐しい」の上方訛りであるため、どちらの名でも意味において大差はない。
また、この妖怪のようにぼうぼうとした長髪のことを「棘髪(おどろがみ)」というが、多田や妖怪研究家・村上健司は、この意味も「おどろおどろ」の名に込められているとしている。『化物づくし』や『百怪図巻』にもやはり解説文はなく、詳細は不明である。
また、『百怪図巻』『画図百鬼夜行』のいずれも、おとろしを「わいら」と並べて描いており、「わい」が恐れを意味する「畏(わい)」に通じることから、「恐い(わいら)」「恐ろしい(おとろし)」を具現化した2体で一対の妖怪とする解釈もある。
熊本県八代市の松井文庫所蔵品である妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』では、名称は毛一杯(けいっぱい)とされている。
妖怪図鑑などで一般に認知されている生態としては、神社に悪意を持つ人間や不信得者が侵入すると鳥居の上からドシン!と落ちて驚かす妖怪とされている。
こんな重そうでおどろおどろしい見た目の存在がいきなり上から落ちてくるのだから溜まったものではない。
しかし、神域を守っている以上、むしろ神獣や聖霊かもしれず、だとすれば「上から来るぞ!気をつけろ!」などと警戒するのは失礼千万だろう。
似ている立場の存在では、例えば陰摩羅鬼も、仏域を守る役割があるとされる。
水木しげる作品
『ゲゲゲの鬼太郎』においては「おどろおどろ」名で、長く伸ばした髪を相手に突き刺して血を吸うという、吸血鬼の一種として描かれた。
- 水木の作品にはアメコミの影響が強く見られるが、髪の毛が人を襲うというモチーフもその一つで、鬼太郎シリーズに登場する妖怪ではおどろおどろのほか夜叉が存在する。また、アニメ版では4期89話「髪の毛地獄!ラクシャサ」が知られている。
原作では毛生え薬を発明した科学者が、自身を実験台にしたところおどろおどろと化してしまう。当初は血液銀行から輸血用の保存血を購入して凌ぎ、その間に元の姿に戻る研究を進めようとしていた。しかしまずい上に値段が高いので後が続かなくなり、次第に子供を誘拐しては、死なない程度に血を奪うようになる。
殺人こそ犯さなかったものの、自分の犯罪や変化が世間に知れることを恐れ、子供たちを霊界送りにして返さないでいた。
科学者の息子、正太郎から事情を聞かされた鬼太郎は、とにかく子供たちを返すよう説得しようとしたが、おどろおどろは自分の名誉のためなら何人犠牲になろうと構わないと叫び、鬼太郎に襲い掛かる。しかし逆に鬼太郎に血を吸い尽くされて返り討ちとなった。
子供たちは鬼太郎の手で無事霊界から救出されたが、父を失った正太郎は鬼太郎を罵り、石をぶつける。鬼太郎はただ「うむ……。」と頷き、ゲゲゲの森へと帰っていった。
アニメシリーズでも原作を踏まえて、科学者のなれの果てという設定で登場することが多い。
1期鬼太郎では毛生え薬の副作用で、3期鬼太郎では不老の研究の結果、妖怪に変わってしまったという設定で子供の血を吸って生きる。5期鬼太郎では大学教授として人間社会に潜伏する妖怪として登場した。
6期鬼太郎では不老不死細胞を発明した科学者が世間からインチキ呼ばわりされて追い詰められ、自分の身体で人体実験したために妖怪となった。
人間の時は理性があるが、妖怪になると理性を失い血を求めて人間を襲ってしまう。科学者は何とか理性を振り絞って衝動を抑えようとしたが果たせず、良心の呵責に耐えかねて自分を殺してくれるよう鬼太郎に依頼する。だが、彼の娘はそれに反対しており、その結果、6期でもトップクラスに後味悪い結末を迎えることに…
また6期設定の小説版でも前述の科学者が変化したものとは異なるおとろしのエピソードがあるが、その正体は――。
その他「おとろし」名義でモブキャラとして登場する場合もある。
侍戦隊シンケンジャー
第十一幕「三巴大騒動」、第十二幕「史上初超侍合体」に登場した外道衆「ウシロブシ」がおとろしの伝承となったという設定。大きな牙を剥いた顔を模った鎧武者姿で、刀で相手を切り捨てることに悦びを感じる危険なアヤカシである。
滝川さり『おどろしの森』
おとろしの正体を長崎県に住まう妖怪「おどろし」が伝聞によって変化したものと解釈している。
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