概要
江戸時代中期にあたる安永5年(1776年)に、鳥山石燕によって描かれ刊行された妖怪画集。
「前篇陰」「前篇陽」「前篇風」の上中下3巻があり、石燕の妖怪画集の中では最初に刊行されたものである。
室町時代からある『百鬼夜行』は、絵師によって描かれる1点物もしくは模写された絵巻物であったが、この画集は各丁に背景付き(この背景と合わせることで絵解きできる)で1体ずつ(1部は2体)描かれた妖怪画を、版画によって印刷することで一定数出版された書物であったため、現物が数多く残されている。
妖怪画に添えられているのは名前だけで特に解説はないが、有名な河童や天狗、猫又、化け狸、狐火など一般によく知られていたものや、当時としても古典であった『太平記』などで語られているもの、貞享3年(1686年)に刊行された『古今百物語評判』で紹介された妖怪などを中心に記載している。
各妖怪の姿は版木で刷るために整理された独特の筆致で描かれてるが、石燕が学んだ狩野派の妖怪絵巻や『化物づくし』『百怪図巻』からの引用も見られる。
また石燕自身が描いた絵巻物版も残されているが、どういった理由で描かれたのかはわかっていない。
続刊として『今昔画図続百鬼』『今昔百鬼拾遺』『百器徒然袋』が刊行されており、こちらはより創作の度合いが強まり、新たな妖怪を創造した上で時事ネタや風刺に故事とからめた解説がなされている。
pixivにおいてはこの書物に描かれた妖怪を描いたものと、この書物の様式をもとにしたパロディイラストが投稿されている。
掲載妖怪一覧
前篇陰
- 木魅(こだま)
- 天狗(てんぐ)
- 幽谷響(やまびこ)
- 山姥(やまうば)
- 山童(やまわろ)
- 犬神(いぬがみ)白児(しらちご)
- 猫また(ねこまた)
- 河童(かっぱ)
- 獺(かわうそ)
- 垢嘗(あかなめ)
- 狸(たぬき)
- 窮奇(かまいたち)
- 網剪(あみきり)
- 狐火(きつねび)
前篇陽
- 絡新婦(じょろうぐも)
- 鼬(てん)
- 叢原火(そうげんび)
- 釣瓶火(つるべび)
- ふらり火(ふらりび)
- 姥が火(うばがび)
- 火車(かしゃ)
- 鳴屋(やなり)
- 姑獲鳥(うぶめ)
- 野寺坊(のでらぼう)
- 海座頭(うみざとう)
- 高女(たかおんな)
- 手の目(てのめ)
- 鉄鼠(てっそ)
- 黒塚(くろづか))
- 逆柱(さかばしら)
- 飛頭蛮(ろくろくび)
- 反枕(まくらがえし)
- 雪女(ゆきおんな)
- 生霊(いきりょう)
- 死霊(しりょう)
- 幽霊(ゆうれい)
前篇風
関連イラスト
関連タグ
桃山人夜話(絵本百物語):天保12年(1841年)に刊行された比較される妖怪画集。
水木しげる:この画集を手に入れて妖怪画を描き、妖怪の存在を一般化させた妖怪漫画家。
京極夏彦:この画集をモチーフに小説を書いた妖怪ミステリー小説家。