概要
1980年代に製作が予定されていたウルトラシリーズの劇場映画。
諸々の事情により製作はされず、お蔵入りとなった没作品である。
監督と脚本は、『ウルトラマン』の「故郷は地球」「真珠貝防衛司令」、『ウルトラセブン』の「勇気ある戦い」、そして『シルバー仮面』などを手掛けた実相寺昭雄と佐々木守の黄金タッグが担当し、円谷プロと日本アート・ギルド・シアター=ATGが共同製作するというメンツ。
舞台は初代『ウルトラマン』放送当時の1966年だが、『ウルトラマン』の続編・新作というわけではなく、設定を受け継ぎつつ科特隊などのキャストを総変更した、今日言うところのリブート作品に近い立ち位置だった。
しかし現在に至るまで新たなキャストの情報は不明のままであり、キャスティングさえ行われない、かなり早い段階で企画中止となっていた可能性がある。
お蔵入りの原因ははっきりとは明らかになっていないが、よく言えばクセの強すぎる、悪く言えば脚本家の思想が前面に出すぎている脚本にあったのではないか、というのが大方の見方である。
その内容はというと、縄文文化礼賛、天皇制批判、東久邇宮稔彦王や幣原喜重郎など実在の個人に対しての中傷に近い表現などが含まれており、佐々木氏の政治的思想が色濃く反映されたものであった(佐々木氏は連合赤軍を支援し東アジア反日武装戦線に接近していたこともあるという筋金入りの左翼であった)。
そういった内容の作品に使われることでウルトラマンのイメージダウンにつながる可能性があると判断されたからかもしれない。
非商業主義的な芸術作品を追求し学生運動期の若者から支持を集めたATGが、特撮作品とは縁遠いにもかかわらず製作に加わっていたのも、ある意味当然であった。
製作中止後、脚本だけが1984年に刊行されている。また後に一部のアイディアのみを抽出し、『ウルトラQザ・ムービー星の伝説』として映画化されている。
あらすじ
第一次世界大戦、第二次世界大戦、大国による植民地政策、ヤルタ協定、ポツダム宣言、靖国神社、学生運動等、現実の歴史が反映された1967年の日本。
原子力発電所が噴出した海水に飲み込まれそうになったり、新しく作られる国際空港建設予定地で地盤沈下が発生するという異常現象が多発した。
そして、東京タワーが謎の怪獣イスラゴンに襲撃される。科学特捜隊とウルトラマンが出動し、事態は解決される。
これらの事件を起こしていたのは、火の玉のような姿の宇宙人「カナンガ星人」。イスラゴンはカナンガ星人が母星から連れてきた怪獣だった。土偶の姿で活動するカナンガ星人は、古事記や日本書紀以前の古代日本の言語を使用しており、その内容を理解できるのは古代日本の研究者である美矢子という女性のみだった。
星人からコンタクトを受けた美矢子は、カナンガ星人の目的が、人類の宇宙開発を辞めさせることにある事を知る。今から2~30年後の未来において、急速な宇宙開発を行うようになった人類は、なんと宇宙各地の惑星の植民地化に乗り出していた。それを阻止するため、彼らは宇宙を代表してやってきたのだった。
証拠として彼らは、イスラゴンの胸にある過去と未来を映す鏡を見せる。そこに映し出された未来世界には、戦争の惨禍を忘れ去り、愛国心教育を声高に叫ぶようになり、ついには再軍備へと進み始めた日本、そして宇宙植民地化を推進する地球人の姿が映っていた。
カナンガ星人は、美矢子およびその体にウルトラマンという宇宙人を宿すハヤタ隊員以外の人類を虐殺するつもりだった。
近い将来、地球人が侵略者になるという事実は、ウルトラマンにも衝撃を与えた。
「地球人が力を持ったら、お前のM78星雲もきっと植民地にされてしまうぞ。それでもいいのか!」
「地球人は全宇宙人の敵だ!」
カナンガ星人の言葉に苦悩するウルトラマンは、イスラゴンとの戦いで戦意を喪失し、変身解除してしまう。
しかし、ハヤタと行動を共にしていた美矢子が、イスラゴンが起こした土砂崩れに巻き込まれ死んでしまった。美矢子を失った怒りからハヤタは戦意を回復させウルトラマンに再変身。イスラゴンを倒すのだった。
戦闘後、ウルトラマンはカナンガ星人と対話する。
「もし地球人がお前の言う通りの道を歩もうとしたら、私は全力を挙げてそれを阻止する」
「悲しいことだが、そんな日が来たら、私の持つすべての力は地球人に向かって発揮されるだろう」
もし地球人類が宇宙の侵略者となった時には、全能力を駆使して地球人を絶滅させると、ウルトラマンは約束する。
その強い決意を汲んだカナンガ星人は、ひとまず地球攻撃を中止。人類の監視役をウルトラマンに任せ、宇宙へと帰っていくのだった。
余談
- 作品の導入部は、科特隊を演じた黒部進・桜井浩子・小林昭二・毒蝮三太夫・二瓶正也が本人役で登場し、今作での再演を求められるも「もう歳だから無理だ」「若い人に譲るよ」と断り、彼らに代わって、リキャストされた新たな科特隊が登場するというメタフィクション全開のものであった。
- 2024年現在に至るまで、ウルトラシリーズにおいて、ウルトラ戦士の人間体や防衛隊員のリキャストが行われたことはない。もし今作が実現していればそれが前例となって、水戸黄門のようにハヤタ役を複数の俳優が引き継いでいくようなシリーズになっていたのかもしれない。
- 劇中、日本が右傾化する未来を映すシーンでは、さだまさしの『防人のうた』(映画『二百三高地』の主題歌)と谷村新司の『群青』(映画『連合艦隊』の主題歌)がそのまま流れ、しかも登場人物が「フォークシンガーが戦争映画の主題歌を歌うなんて!」と愕然とするという、両者への名指しの批判と言ってよい一幕がある。
- しかしその一方、当時の雑誌『スコラ』では、本作の主題歌をそのさだが担当する予定であると報じられていた。『スコラ』のライターが勘違いしていたのか、あるいはこんな描写を入れておきながら本当にさだへオファーしていたのか、実際のところは謎である。