概要
食パン電車とは、寝台特急形電車581・583系より改造された近郊形電車419・715系及び113・115系先頭車化改造車の通称である。
誕生の背景
当時の国鉄地方路線は「汽車型ダイヤ」と呼ばれる長大編成不等時隔ダイヤが設定されており、使用車両も戦前から戦後に製造された旧型客車を使用していた。
1982年に広島地区にて短編成による等時隔頻繁運転の電車型ダイヤへ転換した結果、利用者から好評をもって迎えられたため、国鉄はこれを全国の地方都市圏に拡大していくことになった。
そのためには大量の電車が必要になるが、九州や東北地区などは交流で電化されており、北陸地区に至っては交直が入り乱れる区間であるため、都市圏で使用されている直流型電車を転用することはできない。そのため、交流電源にも対応した新型車両の417系・713系が開発された。しかし、当時の国鉄は既に財政難に陥っており、これらの新製車は試作車が作られただけで終わってしまった。
そこで国鉄は急行列車の廃止によって運用を失っていた急行形電車を近郊型へ改造して交流路線への投入を始めた。
続いて以下の理由で余剰車が発生していた581・583系も活用することが提案され、本形式の誕生に繋がったのである。
余剰の理由
- 新幹線開通・延伸に伴い、特急列車が削減
- 座席がボックスシートなので、他特急形と比べると設備面で見劣りし、昼行特急運用から早々に撤退。
- 昼行運用減少後は夜行運用が中心となるが、3段式B寝台車なのでこちらも客車列車と比べると設備面で見劣りしている他、夜行運用も衰退しつつあったため、運用範囲を狭めて行った。
主な改造
ここでは両形式共通の改造箇所を記載する。
当時の厳しい国鉄の予算上「使えるものは可能な限り使用する方針」で改造されている。そのため、種車の構造由来の制約（狭いままのドアやデッドスペース）など、傍から見れば「手抜き」とも思える設計上の様々な問題・妥協点が見え隠れする仕様となっている。これは、種車車齢から「8年持てば良い（全検2回分）」と想定されたためである。
扉増設
種車は扉が折り戸が1つであったが、改造時後方にもう1つ折り戸が追加された。が、近郊車としては前例がない程狭く、幅僅か700mmである。その上、極力台枠構造を改造せずに済む様に（台枠強化・改造はコストが高騰する）台車ボルスタ部を避けて設置され、先頭車は極端に中央に寄った奇妙な扉配置となった。なお改造が公表された当時の新聞記事では、3ドア化される計画があった旨が報道されていた。
戸閉回路変更
これに伴い、全運転台から扉を操作出来る様になった。
一部窓を開閉可能に
種車は開閉不可能であったが、片側3枚を4分割ユニット窓として、混雑時の換気の面を良くした。なぜ片側3枚のみかというと、元々冷房が付いていたから。
座席改造
寝台への転換機能は必要ないため、ボルトで固定。荷棚も中・上段寝台の寝台舟に取付けられているものをそのまま使用している。
扉付近はロングシートとされ、寝台を撤去。荷棚を新設した。
洗面所封鎖
一般列車に寝台列車用の大規模な洗面台は必要ないが、強固に作られた構造物撤去には手間がかかるため、一部構造を撤去した上でカバーを被せ、デッドスペースとした（JR移行後に一部が再改造で撤去し空スペースとなった車もある）。なお、こちらも改造が公表された当時の新聞記事では洗面台跡地にロングシートを新設する計画が報道されていた。
中間車に運転台を増設
種車の中間車妻面を片側撤去。運転台を溶接して中間車を改造。しかし、妻面が切妻のまま、元から屋根が高いこともあって、あの「食パン列車」の異名が付いた。それでも、デビュー当時は「国鉄ひょうきん族」とも呼ばれた。クハ418・715-100には補助電源装置が装備されていなかったため、153系などの冷房装備から10年強で廃車となり、まだ十分使用可能な廃車発生品MGを、脈流対策を施したうえで転用した。
歯車比変更
特急時代の高速運行向け歯車比（3.5）では運用に適さないため、101系廃車発生品と交換して、5.6に引上げた。これも本来は通勤の歯車比で、起動力・加速度が高い反面、最高速度が100km/hに制限されるなど、必ずしも最適ではなかったが、“間に合わせ”ならこれで十分とされた。一方で、重い車重と大きな起動力に物言わせて、故障した列車の救援･牽引に駆り出された例もあったとか。
流石に後年となると他急行・近郊型が110km/hを出せるにもかかわらず、100km/h限定ということから、優等列車や高速貨物から「逃げ切ること」が出来ず、ダイヤ構成上でも足かせとなっていたが。
デッキ部分廃止
普通列車用ということで、デッキ扉・夜間乗務員室及び構造を可能な範囲で撤去した。もっとも、風洞や配線関係で撤去出来ない部分も多く、飛び飛びに座席や仕切り、クーラー室内機（モハ418・714）があるなど、改造前の面影を残す異様な部分も多い。
片側パンタグラフ撤去
普通列車用とされたため、直流区間高速運行時離線対策であった副パンタグラフを撤去した。後に一時的にではあるが七尾線などの架線霜取り運行のために復活させたこともある（長続きはせず、短期間で再び撤去された）。
関西版「食パン電車」
JR西日本113・115系先頭車化改造車にも「食パン電車」と良く似た車両がある。
関連タグ
419系 715系 食パン 魔改造 111系 113系 115系
