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P-51

ぴーごじゅういち

ノースアメリカン社が開発したレシプロ戦闘機。史上最高のレシプロ戦闘機とも評される。
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概要編集

P-51とはノースアメリカン社(現在はロックウェルを経てボーイングに吸収)の開発したレシプロ戦闘機である。通称はマスタング、イギリス流発音ではムスタングとも。アメリカ大陸の荒野に生きる野生馬を指す。


当初はイギリス空軍向けに開発されたが、英国でロールス・ロイスマーリンエンジンに換装した機体が高性能を示したことが見いだされると、アメリカでも同エンジン搭載モデルが大量生産され、アメリカ・イギリス両国軍の主力戦闘機の一つとして太平洋・欧州戦線で猛威を振るった。度重なる改良により完成度を高め、最終的にはアメリカ戦闘機としてP-47に次ぐ1万5000機が生産され、アメリカ陸軍のみならず世界のレシプロ戦闘機の最高傑作機とまで呼ばれる成功をおさめている。


・・・「B-24と一緒に、おそろしく早い奴がきましたよ。見た感じがカツオ節みたいにとがった、大変な戦闘機です。なんか問題になりません。(中略)スマートな、きれいな、すばらしい奴でした」と搭乗員は言った。


<なんだろう?いったい>と、われわれは部隊本部の情報書類の中から、「敵機型式写真集」を引っ張り出してしらべてみた。みんなが、「これだ、これだ!」と叫んだのは、ノースアメリカンP51で、別名を「ムスタング」とか「アパッシュ」と呼ばれる飛行機であった。性能細目欄(データ)は空白になっていて、なにもわからない。「強敵P51ムスタング現る」である。

黒江保彦著『あゝ隼戦闘隊 -かえらざる撃墜王-』(光人社NF文庫)P417~P418より抜粋


大戦終結後もしばらくは各国で現役を務め、また中古機を再整備して販売した企業もあって、大戦当時のマーリンエンジンを搭載した機体、戦後のレシプロ航空エンジンに換装した機体、ターボプロップエンジンに改造された機体などが現在も元気に飛び続けている。俳優のトム・クルーズが自家用機として所有している事でも有名。


生い立ち編集

1939年の第二次世界大戦開始直後にアメリカに設立された英仏購入委員会は、購入契約を結んでいたカーチスP-40全機を一刻も早く就役させるため、新興のノースアメリカン社にライセンス生産を打診した。

ノースアメリカン社のキンデルバーガー社長はこれを断り、P-40を生産ラインにのせる時間内でもっとマシな戦闘機を開発・生産することを提案。

120日以内の完成を条件に委員会はノースアメリカン社に試作機を発注。その優秀な性能にRAFも満足し購入を決定。1941年11月には初回生産分がイギリスに渡りマスタングMk.Iとして就役、翌年3月10日には初出撃が行われた。


アメリカ政府はイギリスへの納入を認める代わりにマスタング2機を無償提供させたが、アメリカ陸軍航空隊(USAAF)は関心を示さず、格納庫に放置されたままだった。


各型編集

P-51編集

キンデルバーガー社長はアメリカ陸軍への売り込みを図り、マスタングMk.IはP-51の名称で実戦部隊に配備された。


A-36「アパッチ」編集

新戦闘機導入の予算を使い切ってしまったため、攻撃機開発の予算を使ってP-51の開発が続けられる事となった。

爆弾懸架装置とダイブブレーキを取り付けた攻撃機に改修され、A-36として1942年10月に就役。その爆撃精度は高く評価された。

だが、「爆弾投下後の引き起こしで空中分解した」という事故も発生しており、以降はせいぜい70度までの降下角で爆撃するように通達されている。

(そして、ベテランはそれを無視して任務を続行した)


P-51A編集

A-36からダイブブレーキと機首の機関銃を外した戦闘機型がP-51Aとして制式採用されることとなった。


P-51B/C編集

「高高度性能が悪い」。これは当時アメリカで使える液冷エンジンが、一段一速過給器のアリソンV-1710しかないためであった。


RAFがアメリカから輸入したマスタングMk.Iをテストした際、テストパイロットたちは皆、エンジンをロールスロイス「マーリン」に換装する必要があると指摘した。ロンドン駐在中だったアメリカ陸軍航空隊のトミー・ヒッチコック少佐が根回しして、4機のマスタングがロールスロイス社ハックノール工場でエンジンをマーリン68に換装された。

1942年10月からのテストの結果は素晴らしいもので、高空性能が改善され最高速度も650km/hに達した。


この結果はアメリカ陸軍航空隊とノースアメリカン社に伝えられた。

ノースアメリカン社の工場でも二段二速過給のパッカードV-1650(マーリン60のライセンス生産)に換装したマスタングのテストが始まり、高度9,000mで700km/hの最高速度を記録したのをはじめ、各種性能が飛躍的に改善されたことが判明し、P-51B/Cとしてただちに生産が始められることが決定した(BとCの違いは生産工場の違い)。

元々の長大な航続距離もあって、戦略爆撃機の長距離援護に活躍するようになった。


ビルマ方面で日本の陸海軍とも砲火を交えている。

 

P-51D編集

ティアドロップキャノピー(水滴型風防)が取り入れられ、空戦で重要な視界が改善されたP-51の決定版。機体の表面処理と層流翼の効果もあり、最高速度は同世代最高水準の703km/hを記録。全シリーズを通して最大の生産量となった。B-29を護衛して日本本土へも襲来。


4月7日硫黄島から108機のP-51が約90機のB29に随伴して初飛来した、迎撃に上がった陸海軍飛行隊は、先の尖った水冷式発動機と、胴体下、の冷却器の形状から三式戦闘機と誤認し、本機の接近を見過ごしてしまい不意を突かれ、陸軍は11機、海軍も9機を損失し、さらに午後からの襲来でも二式戦闘機2機の損失を出した。一方米側の記録では、日本側の記録以上の戦果を主張しつつも2機の損失を報じている。


4月19日にはP-51のみで60機襲来、陸軍21機・海軍29機が迎撃に上がり、結果陸軍が3機海軍も5機の損失を出し、日本側の記録では陸軍が4機撃墜3機撃破を報じた。


4 月22日もほぼ同数が襲来し、米側の記録では日本機9機撃墜を報じるが、高射砲を主因として6機の損失を出した。


4 月26日から 6月 23日の間にP-51は単独攻撃だけで9回731機が硫黄島を出撃し、撃墜59機地上撃破300以上を記録した 作戦時における26機の損失の内、現段階の検証では、日本機による撃墜が確実なのは6機のみである。


P-51D以降の型編集

以降の型では軽量化が試されたり、もしくは新型エンジンを搭載し、さらなる高性能を目指している。だが、第二次世界大戦が終結し、時代はジェット戦闘機に向き始めたため、最終量産型のP-51Hは555機でキャンセルとなった。P-51を横に2つ繋げたような姿のP-82(ツインマスタング)も、この時代の産物。


RAF「ムスタング」編集

アメリカに先駆けて採用されたRAF(イギリス王立空軍)型。基本的にはアメリカ仕様に準じる。

ムスタングMk.1編集

イギリス向けに輸出されたP-51の初期モデル。エンジンは若干出力の低いものを搭載している。

武装は12.7mm機銃を7.7mm機銃を各4挺。


ムスタングMK.1A編集

機銃を20mm機銃4挺に換装したイギリス向け第2ロット。


ムスタングMK.2/3編集

それぞれP-51B/Cのイギリス向け輸出名称。通信機・計器など一部を除いてこれに準じる。


ムスタングMk.4編集

イギリス向けP-51D。


キャバリア・ムスタング編集

デビット・リンゼー社長率いるキャバリア社では中古ムスタングを改修し、民間用スポーツ機として売り出している。これは「エグゼクティブ・ムスタング」と呼ばれ、機体構造にいたるまで分解し、古い軍装品をより新型で高性能な民生品に置き換えた上でもう一度組み見直すという、徹底的な改造を施している。


コクピット用エアベンチレータや主翼チップタンク、胴体内手荷物室など独自に細々とした改修を加えながら、約10年でおよそ20機が改造されている。


キャバリアF-51D編集

キャバリア・ムスタングに再び軍用装備を施した戦闘爆撃機。主翼ハードポイントを増設している。

1967年に国防総省と契約し、ボリビア向け軍事援助用として9機が輸出された。


キャバリア・ムスタングⅡ編集

キャバリエF-51DをCOIN機として最適化したもの。前者とは同年中に完成。

エンジンをチューンアップすると共に主翼構造を強化し、主翼ハードポイントは6か所に増えた。

1968年にエルサルバドル、1972年~73年にかけてインドネシアへ輸出。もちろんチップタンクも装備でき、エルサルバドル輸出分に装備されている。


キャバリア・ターボ・ムスタングⅢ編集

1968年にキャバリア社が提案した、キャバリア・ムスタングⅡの強化型。

エンジンをロールスロイス社製ダート510型ターボプロップエンジンに換装し、低空作戦用にエンジンやコクピットなどに装甲を施している。そのうえで性能は大幅向上し、タービンエンジンとなったことで維持費用も安くなった。


COIN機としてOV-10の後釜を狙ったのか、アメリカ空軍には何度となく売り込みを図っていたが、結局採用されることはなかった。他国も同様。


パイパーPA-48「エンフォーサー」編集

キャバリア社は小さな企業であり、航空機を大規模に新規生産することはできなかった。

そこでターボ・ムスタングⅢの権利をパイパー・エアクラフト社に売却し、また同時にキャバリア社も解散となったことで、デビット・リンゼーも引き続き開発に携わるようになった。


エンジンはライカミング社製T55-L-9型ターボプロップエンジンとなり、出力は向上している。主翼ハードポイントは10か所、チップタンクも引き続き装備可能と、もはやムスタングとは名ばかりの別物。実際にP-51からは一回り大きくなっており、共通部品も10%以下。もはや完全なる別物と呼んで差支えない。


が、COIN機の任務にそうまでしてムスタングを現役復帰させるよりも、新設計された専門機の方が都合がいいのは当然であり、結局どこからも受注を得ることは無かった。


エアレーサー編集

現在でも、とくにアメリカのリノ・エアレースではアンリミテッド(改造無制限)機として人気を博している。最新鋭の航空宇宙科学が惜しげもなくつぎ込まれた、文字通りのアンリミテッドとして、ジェット級を超えた大会最速級(800km/h以上)でしのぎを削りあう。


このあたりまで来ると原型を留めている部分の方が少なく、尾翼とオイルクーラーの位置を見逃すともはや最新設計の競技機と何ら変わりない。P-51と同様にシーフューリーF8Fも人気。


評価編集

P-51のアメリカにおける評価は非常に高く、「第二次大戦最優秀戦闘機」とも呼称されるが、これは「最強戦闘機」を意味するものではない。


敵であるドイツ空軍のベテランパイロットからも空戦性能重視のP-51より頑丈さと火力重視のP-47のほうが恐ろしかったといわれている。最強の称号が付くならおそらくP-47だろう。

自軍のパイロット達にもP-47の方がいいと言う者もいた。(パイロットとしては脆い機体より、頑丈な(=安全性・生存性が高い)機体の方に乗りたいよなぁ……)

空戦性能はスピットファイアの方が高いと評価する者もおり、「アメリカ海軍のF6Fの方が低速安定性に優れる分、戦力として優秀な機体だ」という声もある。


極短期間の開発によるためか、軽量化や強度の不足、燃料を満載した時の前後バランスの悪さ(胴体内燃料タンクに燃料が残っているときには空戦機動が禁止されている)、ラジエーターが飛行速度を殺ぐ上に戦闘時の弱点にまでなっている、低速時の安定性が低く離着陸が難しいなどの欠点も指摘されている。


とはいえ、本機の主任務はドイツ、日本への侵攻作戦であり、その点で最大の評価を勝ち得ている。スピットファイアの航続力では任務に適さず、P-51なら帰還できるだけの燃料を残した状態でも、新兵だらけになっていた敵戦闘機とは十分に戦えるし、ジェット戦闘機相手でも離着陸時なら撃墜可能。


さらに、「いかなる状況下でも航続距離が長い」という事実は、彼らに余裕を与えてくれたのである。このように長い航続距離を持ちながら、

・高い巡航速度

・高速性

・高高度性能

・加速性

・機動性

・生産性

・経済性

・保全性能

を併せ持つことが最優秀と云われる所以である。

要は、パイロット個々にとって最優秀とは言えずとも、必要な時に必要が数が揃い必要な性能を発揮し、軍全体にとって(今まで物足りなかった部分を埋めてくれたという意味での)最優秀というわけである。


あえて言うならば、「最優」はP-51、「最強」はP-47とも言える。


余談編集

ストライクウィッチーズの登場キャラ、シャーロット・E・イェーガー黒江綾香ドミニカ・S・ジェンタイルジェーン・T・ゴッドフリーの使用するストライカーユニット、ノースリベリオン P-51の元ネタ。こちらもマーリンエンジンを搭載したことによってスピード、航続距離、高高度性能が著しく上昇した。


南方で鹵獲されたP-51Cに搭乗し、本土の教育部隊で仮想敵役を務めた黒江保彦も有名。


架空戦記では強敵として出現する事も多いが、作品によってはイギリスとアメリカの関係が冷え込んでいたり、イギリス本土が陥落しているなどでマーリンエンジンが手に入らず、ぱっとしない機体に終わっている事もある。



関連タグ編集

アメリカ陸軍 レシプロ戦闘機 マーリンエンジン

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