アノマロカリス
あのまろかりす
概要
アノマロカリス(学名:Anomalocaris)は、原始的な節足動物ラディオドンタ類に分類される、約5億年前の古生代カンブリア紀に生息した古生物の種類(属)の1つである。
カンブリア紀の古生物として有名な種類であり、pixivでは同時代の三葉虫、ハルキゲニア、オパビニア等と比べ投稿数が多く、人気がある。
形態
他のラディオドンタ類と同様、柔らかい胴部に沿って並んだ鰭と鰓・眼柄に突き出した1対の複眼・放射状の歯・頭を覆い被さる3枚の甲皮・関節のある外骨格に分かれた1対の触手(前部付属肢)を持つ。
その中でアノマロカリスは、触手が長大(体長の半分ほど)・棘が三叉槍状・歯が三放射状・尾部が広い扇子状であるなど、複数の特徴を総合的に見て他の種類から区別される。
複眼はトンボに匹敵するほど数多く(16,000個)のレンズからなり、優れた視力を持つことがうかがえる。触手は関節の間が幅広く、正面に真っ直ぐ伸びる状態から口の下で渦巻状に折り曲げるほど可動域が高い。
体長は最大のものでは40cm程度あるとされ、カンブリア紀の古生物にしては飛び抜けて巨大である。
「1m以上あるカンブリア紀最大の古生物」とよく紹介されてきたが、これは不正確な比率とアノマロカリスと見間違われた別生物の化石に基づいた誤算である。
化石からは足が発見されていないため、足が無い姿で描かれることが多いが、書籍や番組によっては足がある姿で描かれることがある。
種類
アノマロカリスはカナダ・中国・オーストラリアなどから複数の種が知られるが、全身が知られ、そして正式に命名されるのも「アノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)」という1種のみである。
この種はカナダから発見され、バージェス動物群(約5億1,000~5億500万年前)に属する。体長38cmで、触手の棘はほとんどが頑丈な三叉槍状。胴部の鰭は(首の小さな3対を除いて)13対、尾部は3対の尾鰭と1本の小さく平たい突起物からなる。
この種はアノマロカリスどころか、ラディオドンタ類全般的にも最初期に記載された代表種で、ドキュメンタリーや図鑑での「アノマロカリス」はだいたい本種を表している。
(イラストはホウカリス・サロン、触手以外は推測的)
中国の澄江動物群で見つかり、長い間「アノマロカリス・サロン(Anomalocaris saron)」として一般に知られた種については、2022年以降ではアノマロカリスでない2種、ホウカリス・サロン(Houcaris saron、触手部分のみ)とインノヴァティオカリス・マオティェンシャネンシス (Innovatiocaris maotianshanensis、全身化石)に分かれるようになった。
生態
他のラディオドンタ類と同様、コウイカやエイのように両筋の鰭を波打つして海を泳いだと考えられる。この鰭は筋肉質で、流線型な体型と大きな尾鰭も兼ね備えることにより、アノマロカリスはラディオドンタ類の中でも突出した機動性を持つことが示唆される。
その頭部の特徴から明らかに優れた視力で獲物を見つかり、可動域の高い触手でそれを確保しては口まで運ぶ肉食性だが、捕食対象については議論があった。
20世紀後期では、同時代の三葉虫の一部の化石からアノマロカリスの歯に吻合する噛み跡が発見される。これを基に、アノマロカリスは長い間三葉虫が主食と考えられ、「三葉虫を捕食するアノマロカリス」の構図も図鑑やドキュメンタリーでは定番だった。しかし2000年代では、甲羅が硬い三葉虫などを捕食するには、歯の強度が足りないという説も出している。
そして2012年、これまでアノマロカリス由来と考えられた歯は、実は他のラディオドンタ類(ペイトイア)と混同した物だと判明した。本当のアノマロカリスの歯は緩い三放射構造(他のラディオドンタ類は整った十字放射)で、開口部も今までの解釈よりも小さい。これは三葉虫など大きくて硬い動物を嚙み砕けるのではなく、むしろ柔らかい小動物を食べるのに向いた形である。
この発見と前述した特徴(視力・触手の可動域・胴部の機動性)を合わせて考え直し、アノマロカリスは俊敏に海を泳いで、海中の柔らかい小動物を主食にした、というのが現在最も有力な説となっている。
発見史
アノマロカリスは最初に記載されたラディオドンタ類の1つであるが、全身化石は稀で、触手のみが多い。
学名「Anomalocaris」はギリシア語で「奇妙なエビ」を意味する。これは、1892年で最初に見つかったアノマロカリスの触手化石がコノハエビという甲殻類の腹部と解釈されたからである(ちなみにコノハエビは名前に反してエビではないため、「最初はエビの尻尾と考えられた」というよく見る説明も厳密には不正確である)。
当初、各種のラディオドンタ類の歯・触手・その他の体組織がバラバラで発掘され、それぞれ別の生物の化石とされていた(胴体→ナマコの「ラガニア」、歯→クラゲの「ペイトイア」、触手→コノハエビの「アノマロカリス」)。これらは独立の動物ではなく、ラディオドンタ類の体の一部と判明したのは1980年代以降である。
(上のイラストは順に1980年代・1996年・2010年代後期版の復元像の特徴を有する)
しかし1980年代のアノマロカリスの復元像は、他のラディオドンタ類との特徴を混同して組み立てられたキメラ復元で、触手以外の部分が全部ペイトイア/ラガニア由来のずんぐり体型である。そのうち胴体は1996年に、歯は前述した通り2012年に修正された。それ以降では2014年の再記載を始めとして、頭部の甲皮や胴部の鰓が発見され、今のラディオドンタ類で一般的と考えられる特徴を持つ姿になった。
媒体でよく見る、背面がシンプルで鰓や甲皮を持たない姿は概ね1996年版に近い。
アノマロカリスにまつわる誤解
アノマロカリスはその奇妙な姿で知名度が高い一方、媒体では様々な不正確な情報(後から否定された旧学説ではなくただの誤解や出鱈目)に曲解されることがしばしばある。よく見られるものは次の通り。
- "アノマロカリス=ラディオドンタ類/アノマロカリス類"
- "カギムシ(有爪動物)に近い"
- これはおそらく「節足動物は葉足動物に起源」「葉足動物はかつて全て有爪動物と考えられた」「ラディオドンタ類とカギムシは脳が似ている」などの情報をごちゃ混ぜて生み出した出鱈目(脳は他のラディオドンタ類によるもので、アノマロカリスのは未発見)。
- 脳の構造は確かに多少似ているがそれっきりで、しかもこれは単にカギムシと節足動物の共通祖先(すなわち葉足動物)の原始的な特徴の名残であり、別にアノマロカリスやラディオドンタ類全般が節足動物よりカギムシに近いことを示唆するわけではない。また、「両者は口が似ている」としばしば言われるが、実際には起源・構造とも全く比較出来ない別物である(ラディオドンタ類のは口そのもの由来の硬い歯、カギムシのは口周辺の外皮組織由来の柔らかい突起)。
- "三葉虫すら食べれない腐肉食/プランクトン食の軟弱物"
- "周りの餌を食い尽くして絶滅" "歯が弱すぎて絶滅"
- 出鱈目以外何もない。アノマロカリスの絶滅原因は未だに本格的な研究もなされておらず、不明である。そもそもこんな原因で絶滅ってなんだ…。
主な登場作品
ドキュメンタリー
- 生命40億年はるかな旅(1994~1995)
- 第2話ではCG復元のアノマロカリスと、アノマロカリスのロボットでその食性や泳ぎ方を検証する様子が放送される。アノマロカリスが日本で一躍有名になったきっかけとも言える番組。また、1994-1995年放送であるにもかかわらず、復元像は当時では未公表のはずの1996年版の復元を強く反映している。
- The Shape of Life(2001)
- 日本未放送。CG復元のアノマロカリスが三葉虫を捕食する様子が放送される。復元像は1996年版。
- ウォーキングwithモンスター〜前恐竜時代 巨大生物の誕生(2005)
- CG復元の(当時では)アノマロカリス(と考えられたホウカリスとインノヴァティオカリスを混ぜたキメラ復元)が三葉虫を捕食する様子や、2匹のそれが闘争し、負けて負傷した個体の傷口がミロクンミンギアに襲われる様子が放送される。
- 日経スペシャル カンブリア宮殿(2006~)
- 番組のロゴのキャラクターがアノマロカリス。
- Earth: Making of a Planet(2011)
- 日本未放送。CG復元のアノマロカリスが三葉虫を捕食する様子が放送される。復元像は1996年版に近いが首あたりの鰭がオミットされる。
- 生命大躍進(2015)
- ダーウィンが来た!
- 2021年4月18日放送の『大進化!最強アノマロカリス』では、前述した『生命大躍進』と同様な姿のCG復元が放送される。