半人半蛇
はんじんはんだ
概要
主に半分が人間、もう半分が蛇となっている存在(所謂『ナーガ』)を「半人半蛇(はんじんはんだ)」と呼んでおり、これに近い存在として、上半身が人間、下半身が馬であるケンタウロスは「半人半馬(はんじんはんば)」とも呼ばれている。
また、人間の様な手足の生えている蛇(所謂『蛇人間』)もまた「半人半蛇」に該当する存在とも見えるのだが、近年では上半身が人間、下半身が蛇である存在の方が主な例となっている。
半人半蛇の伝承は、ギリシャを始めとするヨーロッパから、インドや中国、日本等のアジアにまでと非常に幅広く、性別に関しては男性よりも女性である方が圧倒的に多い(恐らく蛇が行う脱皮による不死性と、女性が行う出産の双方が生命と結び着いたためと推測される)。
また、伝承における扱いも国によって様々で、人間を食らう恐ろしい怪物や妖怪として扱われるケースもあれば、神聖な神として崇められるケースもあったりする。
20世紀以前までは、半人半蛇は「気味の悪い存在」として忌避される傾向の方が強かった。
だが、21世紀に入ってファンタジー系作品のブーム化が進むにつれ、女性の姿をしたモンスター全体が「人魚(マーメイド)に近い萌え要素のある存在(所謂『モンスター娘』)」として認識が180度変わる形で人気が急上昇していった結果、ラミアを始めとする半人半蛇のキャラクターも人気のある存在となっていった。
半人半蛇として扱われる存在
九州各地の伝承で伝えられる海岸に出没するとされる女の妖怪。磯女子、磯姫という別名も持っており、島根県に伝わる濡れ女も共通の設定を持っている事から、同一存在ではないかとされている。
有名な妖怪である牛鬼と繋がりがあったとされている。
ギリシャ神話に登場する代表的な半人半蛇の女性の怪物。名前は「蝮の女」に由来する。
同じく半人半蛇の男性であるテュポーンを夫に持ち、彼との間にケルベロスやオルトロス、ヒュドラ、デルピュネといった怪物を生み、更には実子のオルトロスとの間にもネメアの獅子、ラードーン、スフィンクスを生んでいる。
- ゴルゴン三姉妹(ギリシャ)
ギリシャ神話に登場するステンノ、エウリュアレ、メデューサの三姉妹で構成される。ラミアの認知度が上がっていく以前は半人半蛇の中でも最も有名な存在で、特に英雄・ペルセウスによって討伐された末女となるメデューサは、ゴルゴンの代名詞的な存在であった。
- テュポーン(ギリシャ)
ギリシャ神話に登場する半人半蛇の存在の中でも始祖的な存在で、両腕には100匹もの蛇が付いていたとされている。エキドナの夫で、彼女との間にケルベロスやオルトロス、ヒュドラ等が生まれている。
半人半蛇の中でも性別が「男性」である数少ない存在。
- デルピュネ(ギリシャ)
ギリシャ神話に登場するテュポーンとエキドナの間に生まれた娘。二人の子供の中では唯一両親と同様に半人半蛇の存在であるが、一説ではエキドナの姉、もしくは同一人物だったともされている。
- ナーガ(インド)
インド神話に登場する蛇の神で、頭上に5匹の蛇を飼っているとされている。
「ナーガ」の名称は正確には種族名を指しており、それらを束ねる王はナーガラジャとも呼ばれていたとされる。
半人半蛇の中では、テュポーンと同様に数少ない「男性」とされる存在。
- メリュジーヌ(フランス)
フランスの伝承に伝わる半人半蛇の怪物の女性。普段は美しい人間の女性であるのだが、週に一度だけ本当の半人半蛇の姿に戻ってしまうとされている。
メリュジーヌを表す「女」「蛇」「水」は富と繁栄を象徴しているとされており、神聖な側面を持っているとも言える。
旧約聖書に登場したアダムと共に神によって創造された「最初の女」。しかし、アダムに従順になる事を嫌悪して逃亡し、神から再三アダムの元へ戻る要請も拒み続けた結果、下半身を蛇の姿にされてしまったとされる。その後、アダムに従順な姿勢を見せる後妻のイヴに苛立った結果、彼女に「知恵の実」を食すよう誘惑したともされている。
物語の中で半人半蛇となったとされるが、現在では殆ど普通の人間の女性、もしくは女性の悪魔としてしか描かれない珍しい存在である。
半人半蛇で描かれるようになった存在
本来は半人半蛇の姿では無かったのだが、後世に渡って半人半蛇として扱われる様になったり、あるいは半人半蛇の人気が高まっていった事で擬人化の際にその様な姿になっている。
半人半蛇となった理由は、いずれも「蛇」に関連があり、また大半の性別が女性(雌)である点も起因していると言える。
両目が宝石になっているとされる上半身が女性の姿をしたドラゴン。名称はラテン語で「蝮」を意味する語「ヴィペラ」が由来となっている。
本来は翼の生えたドラゴンや蛇の姿をしていたとされているが、後世になるにつれて半人半蛇の姿という伝承が伝わっていく事になった。
- 清姫(日本)
和歌山県の道成寺に伝わる「安珍・清姫伝説」に登場する美少女。かつては「花姫(はなひめ)」とも呼ばれていた。「美しい女性から蛇に変身する」という特性から、いつしか半人半蛇の女性として描かれる様になったともされている。
なお、清姫に関しては様々な形での逸話があるが、現在は所謂「ヤンデレ属性」として有名になってしまっている。
- 女媧(中国)
中国神話に登場する世界万物を創造し、土と縄で泥人形から人間を創造した女神(地母神)。
元々は蛇の身体に人間の顔という気味の悪い姿であったが、次第に半人半蛇の姿で描かれる様になったとされている。
- ティアマト(メソポタミア/バビロニア)
メソポタミア神話及びバビロニア神話に伝わる全ての神々を生み出したとされる地母神で、生命の母と言える海を司る女神でもある。名は「塩水」を意味しており、「淡水」の意味を持つアプスーの妻とされている。伝承の中において、頭部に角が生え、身体が手足を持たない蛇の様な姿であった事から、半人半蛇で描かれる様になったとされている。
- ヒュドラ(ギリシャ神話)
ギリシャ神話に登場したテュポーンとエキドナの間に生まれた子供の一匹。九つの頭を持った蛇の姿をしており、怪物をも殺せる程の強力な毒を備えている。英雄・ヘラクレスとの戦いに敗れた後、化け蟹のカルキノスと共にヘラによって星座になったとされている。
なお、星座における名称の「ハイドラ(Hydra)」は、ミズヘビの女性形を現しており、即ちヒュドラの性別も「雌」となる事から、半人半蛇の姿で描かれる様にもなったとされている。
- 蛟(中国/日本)
中国や日本において蛇や龍の一種とされる怪物で、水神ともされている。雉と蛇が交わって生まれた存在や水中で500年の年月を生きた蛇の進化した姿等、様々な説がある。
半人半蛇となった伝承は特にないが、モンスターの擬人化等において、稀に半人半蛇の姿で描かれる事がある。
- 伏羲(中国)
中国神話に登場する女媧の兄。または夫ともされている。
女媧と共に人間を創造した後、釣りや料理、家畜の飼い方、そして武器の創造といった数々の知恵を人間達に与えたとされている。
元々は女媧と同様に蛇の身体に人間の頭であったが、次第に半人半蛇の姿で描かれる様になったとされている。
- 八岐大蛇/ヤマタノオロチ(日本)
日本神話でも特に有名な八つの頭を持った大蛇で龍ともされており、本来は山神や蛟と同じ水神だったとも言われている。若い女性達を生贄に捧げるよう人々を脅していた所、酒に弱いという弱点に目を付けたスサノオノミコトによって討伐される。体内には天叢雲剣(あめのむらくも)と呼ばれる剣が宿っていた。
半人半蛇となった伝承は特にないが、人間の女性との間に子をなしたという伝承があり、それがかの有名な鬼である酒呑童子とされている。この事もあってか、モンスターの擬人化等において、稀に半人半蛇の姿で描かれる事がある。
- ラミア(ギリシャ)
ギリシャ神話に登場する、現在において半人半蛇の代名詞ともいえる存在。元はゼウスに見初められる程の美しい女性であったが、それに嫉妬したヘラによって怪物の姿に変えられてしまい、自分の子供であるスキュラまで怪物にされた結果、復讐心から人間の子供を食らう怪物になり果ててしまったとされている。
意外だが、実はラミアは本来、半人半蛇の存在ではない。本来はセンザンコウに近い全身に鱗が生えた四足歩行の獣の様な姿であったが、いつしか現在の半人半蛇の姿が定着していったとされる。