コンテンツに関する警告
この記事は『Go!プリンセスプリキュア』の第38話の重大なネタバレがあります。
また、カナはるファンにはショッキングな可能性が大きいため、苦手な方は見るのをおやめください。
はい
詳細
『Go!プリンセスプリキュア』とは「自分の夢を自分の力で叶えるために、みんなで協力しあう」というのをモチーフにした、夢を追う子供たちへの応援的要素が入った教育的側面はもちろん、カナタ王子と春野はるかの恋の行方というラブロマンスというB面もある、バトルヒロインアニメ……
……だと思われた。
だが、第38話「怪しいワナ…!ひとりぼっちのプリンセス!」の展開により、それが根底から覆されることとなる。
以下、ネタバレにつき閲覧注意
この回の何がショックだったかというと、「敵の精神攻撃に主人公が心折れかける」→「大切な人の言葉を支えに立ち上がる」→「その大切な人が戦場に駆けつけてくれる」という王道逆転フラグを積み重ねた上で、その大切な人が主人公を、傷ついてほしくないという一心から発した言葉によって主人公を決定的に傷つけ逆転フラグをへし折るという超展開が用意されていた。
フラグが丁寧に積み重ねられ、それが予想外の方向から折られるまでの流れを段階的に振り返ってみる。
フラグ1――敵の精神攻撃に心折れかかる主人公
プリンセスプリキュアの中心であるキュアフローラを倒すべく、クローズは、黒須という男子学生に化けて工作を行い、はるかの仲間たち(みなみ、きらら、トワ、ゆい)が「自分の夢のために一時的に学園から離れる」ように仕向け、はるかも仲間たちを笑顔で送り出した。
そして学園に一人残されたはるかを森の中へ誘いだし、クローズは正体を現して攻撃する。プリキュアは全員揃ってこそ本来の力を発揮する。様々な試練を乗り越えてきたキュアフローラも、たった一人では大幹部のクローズにはそう簡単に勝つことはできない。
クローズははるかを孤立させ、仲間の救援が来ないところで倒そうと考えたわけだが、ことさら狡猾なのは、はるか自身が仲間たちの夢を応援する形で学園から送り出し、それによって不利な状況に持ち込まれてしまった、という既成事実を作ることだった。
みなみは「自分が学園から離れるとプリキュア活動に弊害が出るかも」と懸念していたし、トワに至っては黒須に疑いの目を向けてさえいた。しかしはるか自身がそんな仲間たちを説得して学園から送り出したのだ。
つまり、はるかが孤軍奮闘する危機的状況は、「みんなの夢を守りたい」というはるかの気持ちによって生み出されたもの。しかし、「だれかの夢を守り、応援したって自分が損をし、追い詰められるだけ……。」はるかに心の奥底でそう自覚させることこそがクローズの意図だったのだ。
フラグ2――大切な人の言葉を支えに立ち上がる
クローズは「夢はお前を追いつめる、仲間達の大事な夢は、お前を絶望させる悪夢だ」 と罵倒し続けるが、はるかは「離れていても私は仲間たちに支えられている」 と真っ向から否定する。
はるかは夢が孤独を生むことを誰よりもわかっている。「プリンセスになりたい」などという自分の夢を笑わない理解者は滅多にいない。だからこそはるかは、自分の夢を「理解してくれる」というただそれだけのことに、救いを感じる。
仲間たちは自分の夢を優先していても、決してはるかの夢を軽くは見ない。ただそれだけのことに、はるかは心底感謝しているのだ。
そして、はるかの子供っぽい夢を理解してくれる人々は、誰もが自分の夢を持っていた。強い夢を持つ人は、他人の夢を簡単に嘲笑ったりしないことをはるかは理解している。だから「みんなの夢を守る」ことははるかにとって大切なことなのだ。
はるかは仲間たち――特に、幼い日の自分の背中を押してくれたカナタのことを脳裏に浮かべながら、クローズに苦戦しつつも立ち向かっていく。
「ピンチになってもくじけず信念を貫く」というフローラの健気な姿を見たテレビの前のちびっ子達と大きいお友達は誰もが、メンタルの強さで絶望的状況を跳ね返すプリキュア王道パターンが、今作ではこの38話で描かれるだろうとキュアフローラを応援していた。
フラグ3――その大切な人が戦場に駆けつけてくれる
そこに、パフとアロマからはるかの危機を聞かされたカナタが駆けつける。ボロボロになりながらも独りで果敢に戦うキュアフローラの痛々しい姿に強いショックを受けるカナタ。
記憶を失う以前の彼であれば、「キュアフローラならば、こんな状況でも逆転できる」と信じられただろう。しかし記憶喪失中の今のカナタが目にした光景は「最近自分に懐いてくれている元気な女の子が、傷だらけになりながら恐ろしい怪人を相手に戦い、今にも殺されてしまいそう」にしか見えないのだ(記憶を失ったカナタが登場した35話から直前の37話まで、カナタはプリキュアたちの戦いを目撃しているが、この三話分はそこまで苦戦していなかった)。
一方のはるかは、カナタが来てくれたことで士気が向上。「なぜこんなに傷ついてまで戦うんだ」 と尋ねるカナタの様子に多少の違和感を感じつつ、はるかは肩で息をしながらも笑顔を浮かべて答える。
「カナタが支えてくれたから」
離れていても、自分の夢を応援してくれている人がいる――はるかはそれを「支え」と表現する。彼女がここまで頑張れるのは、カナタがはるかの夢を応援しているからだ。
そもそもはるかが夢を持ち続けられたのも、幼少期に出会ったカナタが自分の子供っぽい夢を笑わず、素晴らしいものだと言ってくれた上に、「夢を忘れないで」と願ってくれたおかげである。カナタと何年も会えなくても、「プリンセスの夢」を持つことを願っている人がどこかにいると信じられることが、はるかに大きなモチベーションを与え続けていた。
そのカナタが駆けつけてくれたのだから、「みんなの夢を守る、強く、優しく、美しいプリンセス」を目指す自分が立ち上がって戦わないわけにはいかないのだ。
ここまでの展開を踏まえれば、「記憶を失ったカナタがはるかの決意に再度触れたことで、断片的に過去のことを思い出す」等、状況が好転するようなパターンを予想できるだろう。
だが、そんな奇跡は起こらなかった。
それどころかはるかの言葉を聞いたカナタは、「何も覚えていないけれど、かつての自分がおかしなことを吹き込んだせいで、目の前の女の子が死にそうになっている」と解釈してしまったのだ。
今のカナタには、はるかが抱く「プリンセスへの夢」に対して思い入れがあるわけではない。カナタの胸中では、かつての自分はとんでもないことをしてしまったのではないかという罪悪感、今の自分ははるかの支えになれる存在ではないという無力感、それでも黙って見ているわけにはいかないという焦燥感など、様々な感情が渦巻く。
「あの男の言う通りだ。夢……夢が君を追い詰める」
そして…、禁断の言葉。
混沌と混乱に陥ったカナタは、はるかと自分を「解放」するため、禁断の言葉を放ってしまう。
「はるか、もういい。もう頑張らなくていい。
これ以上、君が傷つく必要はない!
君をそうさせているその原因が、ボクにあるというのなら……
ボクのせいで君が夢に縛られているのなら……
ボクが間違ってたんだ……
夢が……君を傷つける……」
自分の言葉が呪いとなっているなら、それを解くには逆の呪いをかければいい。記憶を失っていたカナタは、はるかをプリキュアの使命から解放するために、かつてのカナタ王子がはるかを支えた言葉を否定する言葉を放とうとしていた。
カナタが口にしようとしていることを察したはるかは悲壮な顔で「やめて!」 と叫ぶ。しかしカナタは止まらない。はるかをプリキュアの使命から、目の前の危険な戦いから解放してあげられるのは、自分しかいないのだから。
カナタははるかが逃げられないように肩を押さえつけ、まっすぐに目を見ながら、今の自分の純粋な本心を語る。
「夢なんて……、そんなものもういらない。はるか、君は……
プリンセスになんてなるな!
なるんじゃない!」
この言葉がダメ押しとなり、はるかの心は打ち砕かれる。
キュアフローラの変身は強制的に解除され、彼女は戦うことのできないただの女の子に戻されてしまったのだ。
クローズは無防備なはるかを攻撃することはせず、勝負はついたとばかりにその場を立ち去る。彼女が二度とキュアフローラとして戦えないだろうことを看破してのことだ。
その証拠に、今まさにはるかの絶望を吸収し、絶望の森の繁殖が今まで以上に活発化している。後は放っておけばいい。カナタのおかげで、クローズは真の意味で勝利できたのだ。
「誰だか知らねぇが、よくやってくれたぜ……。これで目的は達成だ」
危険な敵は去っていった。そして、戦えなくなったはるかはもう危険な目に遭う必要はない。それは、カナタが望んだ通りのことだ。
しかし心を折られたはるかの顔は、冗談でもなんでもなく下記のとおり。
魔女か、さもなくば3年前の仮面ライダーの怪人でも生み出しかねない表情を浮かべ、はるかはカナタのそばから走り去ってしまう。
余波
この時のカナタのセリフは当然、視聴者の間で物議を醸した。
もちろん、カナタのセリフに怒りを覚える視聴者も「はるかが自分のために傷ついている」と考えた彼が、はるかの身を案じて発した言葉であることは理解している。
しかし、視聴者が今まで知っていた「カナタ王子」というキャラクターのイメージが、このエピソードで根底から打ち砕かれた。
ただ、この時のカナタは記憶喪失である。
お人好しな性格や、生まれついての優雅な立ち居振る舞いのような「表層的な部分」は体に染み付いたものとして残っていたが、自己のアイデンティティだった「夢を大切にする思い」は失われてしまっていた(特にこの38話では、はるカナショック以前のシーンでそのことが強調されている)。
記憶を失ったこの青年は、我々が知るプリンス・ホープ・グランド・カナタとは別人なのである。そのあたりを甘く考えていた視聴者もいたのではないだろうか。
カナタが、はるかとの絆であった「夢の大切さ」にこだわりを持たないことは、かつてのカナタ王子を知る視聴者には残念に映るかもしれない。しかし自分の夢を忘れたカナタが、夢そのものを大切に思うことはありえないのである。「夢を大切にする」という思いは、生まれながらに誰もが持つ先天的なものではない。夢を大切にする思いは強い夢を持つ者にしか生まれないというのは、どうしようもない現実である。
夢を忘れてしまったカナタが「見知らぬ誰かの夢を守るためにはるかが傷つく必要なんてない」と考えるのは仕方がないことだろう。まして、「かつての自分」がはるかが戦うことを願っていたというのなら、過去の自分を否定もしてしまう。
さらには、はるかたちからディスダークの脅威やプリキュアの使命を聞かされてはいても、カナタにとってはどこか知らない国の出来事としか思えない。
何にせよ、問題のセリフを放った時のカナタが「ごく普通の女子中学生が、過酷な戦いを強いられている」と考えてしまったのは確かである。それならばプリキュアなんて危険なことは今すぐ辞めさせるべきと考えてしまうのも仕方がないことである。
過去作を例に挙げれば『フレッシュプリキュア!』の終盤、主人公の桃園ラブが母親のあゆみに自分の正体を明かした時、「自分が頑張らないと地球は大変なことになる」と説明しても、あゆみは「娘に危険な戦いをさせるわけにいかない」と涙ながらに止めようとした(その後娘たちの想いを尊重し、最終的に送り出している)。今回のカナタの行動も根源的には同じようなものである。
本作のテーマは「夢」である。夢というのは約束されたものではなく、障害や試練も多いものであることは、本作のみならず1時間前の作品の主役の父のエピソードでも語られているとおりである。
だがしかし、夢を止めようとするのは、本作のディスピアのような悪人ばかりではない。例えば「芸能界に入りたいという子供の夢を、将来を危惧して止める親」のように、夢を否定してでもその人の身を案じる人もいるのである(その行為の善し悪しはともかく、少なくともその人なりの善意ではある)。
はるかにとっては、他人の悪意ではなく「善意」が自分の夢を否定した時、どう立ち向かうのかという大きな壁が立ちふさがることなった。それは次の第39話で語られる。⇒復活のF(フローラ)
ちなみに第38話の初回放送は2015年10月25日。翌週11月1日は全日本大学駅伝中継のためにニチアサキッズタイム全体が放送休止となり、ファンは第39話が放映される11月8日までの2週間を悶々とした思いで過ごすこととなった。⇒まるでレイニー止め
この件が影響したかは不明だが、以降新型コロナウイルスの影響で放送スケジュールが乱れたために自粛出来なかった『ヒーリングっど♥プリキュア 』を除き、駅伝跨ぎでの前後編構成のエピソードの放送を自粛している。
また、プリキュア五大失言の1つであるようだが、残り4つはなぎさの「あなたなんてプリキュアってだけで友達でも何でもないんだから!」やりんの「あんた他に友達いないの?」、美希の「せつななんて子、もともといなかったのよ!」、そしていおなの「私はあなたを許さない!絶対によ!」があるが、この失言は「善意」からきた失言である。
スタッフ、キャストの反応
カナタの再登場から38話に至る流れについては、シリーズディレクターの田中裕太、シリーズ構成の田中仁ともに「どこかではるかに試練を与えなければ、彼女は先に進むことが出来ない」と考えており、そこへABC担当プロデューサー・土肥繁葉樹の「等身大の女子中学生なら、身近な小さい出来事こそ絶望につながるのでは?」というアドバイスがあって、件の脚本が仕上がったという。
続く39話の展開を踏まえた上で作られた38話であったが、実際に放映されてみると、「はるカナショック」が与える精神的ダメージはスタッフ、キャストをも平等に襲ったようだ。
Twitter上では田中裕太が「絶望した…俺が…」と落ち込み、浅野真澄は「いっそのこと(カナタを)固いもんでなぐれ」と憤った(いわゆる「ショック療法で記憶喪失を治せ」という荒療治のこと)。雑誌インタビューでも立花慎之介は「こうやって知らず知らずのうちに人を傷つけることがあるんだろうな」と痛感した旨を明かし、田中仁は「ズーンとしてしまった」と衝撃の大きさを語った。
投稿に関する注意
カナタの失言に怒りを覚えたユーザーにより、Pixivではみなみ達がカナタに制裁を加えるという穏やかではないテイストのイラストが増加した。上記のようにカナタの発言は仕方ないどころか解釈次第では当然とさえ言えるものでもあるのだが。
(実際に作中でイラストのような事態が起こらなかったことは幸いだったとも言える)
前作『ハピネスチャージプリキュア!』におけるブルーにも言えることだが、こういった「自分が気に入らないキャラを作中のキャラに制裁させる」という行為は、制裁させている、また制裁しているキャラの性格を改悪しているも同然であり、(絵師の思惑とは裏腹に)制裁キャラに対して閲覧者が不快感を持つ可能性も十分にある――というか、ブルーに関しては「pixivのブルー叩きが悪意ありすぎて気持ち悪い」という意見が実際に外部から出ている。
関連タグ
プリキュアシリーズにおけるショック繋がり : ファルセットショック / レジーナショック / トワイライトショック / ロックショック / バケニャーンショック
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花は再び咲き誇る : 復活のF(フローラ)