CV:染谷俊之
概要
『HUGっと!プリキュア』第42話で登場したプリキュア。
変身者は若宮アンリ。
「アンフィニ(INFINI)」とは、フランス語で「無限」を意味する言葉である。「キュアアンフィニ! …それがボクの名前かな?」と発しているため、彼自身の命名によると思われる。
服装ははながデザインしたスケート衣装を模しており、肩部分や髪飾りに翼の意匠がある。
袖や腰部分の布の裏地、変身時の背景からして緑キュア扱いであるようだ。
覚醒経緯
若宮アンリには周囲に隠している秘密があった。
それは、以前から痛めていた足の古傷が悪化してしまったため、スケーターとしての選手生命が若くして終わるかもしれないということである。
「未来を否定し、世界の時間を止めて『永遠』を作り出す」という目的を持つクライアス社のリストルがアンリの不安を見透かして仲間になるようにスカウトした(※)こともあったが、未来を信じるプリキュア達の気持ちに鼓舞され、アンリは希望を信じて足掻き続けていた。
- ※この時、えみるに一部始終を目撃されており、結局バレてしまい「立ち聞きよくないよ」と一蹴されてしまう。
だが、現実は非情である。手術を何度か受けても足の不調は戻らなかった。
いっそのこと、クライアス社に与して時間を止めてしまえば苦しみから逃れられるかもしれない… そう考えたことも少しはあったようだが、アンリの戦友であるほまれとその友人たちが、プリキュアとしてみんなの未来を守る戦いをしていることを知っていたがゆえに、彼女たちに情けない姿を見せることは彼自身の誇りが許さなかった。
アンリは自分の現実を否定せずに受け入れ、限られた時間の中で精一杯輝く演技をし続けようと、より努力を重ね続けた。
そして第42話ではついに次の大会が最後の出場になると覚悟を固め、ついにほまれに自分の足の傷のことを告白する。ショックを受けるほまれを他所に、アンリは自分の終わらせ方は自分で決めさせてくれと言って、最後に相応しい最高の舞台を自ら作り出すために心身ともに自らを追い詰めていった。
しかしその「最後の大会」の会場へ移動している途中、交通事故に遭ってしまう。
その事故により左足の感覚が完全に失われ、一切動かすことができなくなってしまった。
足の古傷については覚悟をしていたが、この事故はそれとは何の因果関係もない単なる不運。さすがのアンリもその理不尽を受け入れることはできなかった。
「(スケーターとしての)最後は、銀盤の上でって決めていたのにな…」と絶望で泣き崩れるアンリ。アンリは自分の「最後」を自分で決めることも許されなかった。
そんな彼の前に再びリストルが現れる。リストルはアンリを抱えて彼が出場する予定だった会場に連れていく。そしてアンリは、インターネットのニュース速報で自分の事故を知った観衆の悲嘆に暮れる有様を目の当たりにする。
そしてリストルは観客達の悲観から生まれた大量のトゲパワワを媒介に猛オシマイダーを召喚してしまう。リストルは「君の未来には絶望しかない。だから我々と共に永遠を作ろう」とアンリを誘う。
アンリは自分が事故に遭ったこと以上に、自分のせいでファンを悲しませてしまっている事実に耐えられなかった。アンリの心は絶望に沈み、リストルが召喚したオシマイダーの制御を譲り受けそれを暴れさせた。クライアス社の一員として彼はついに取り込まれた。
しかし、キュアエールやプリキュア達の懸命の応援と「アンリ君は、どういう自分になりたいの?」という問いかけを聴くと、「氷上」も「王子」も関係のない「自分のスケートでみんなが笑顔になるのが嬉しかった」という希望の原点を思い出したアンリは闇の呪縛を振りほどき、ミライブレスの力を受けてなんとプリキュアの姿に変身する。
アンリの「なりたい自分」を体現するかのように、動かないはずの足は古傷さえもなかったかのように自在に動かすことができた。華麗なスケーティングを披露すると、会場のトゲパワワはアスパワワへと変わり、猛オシマイダーを圧倒。猛オシマイダー自体はミライパッドの力がないと倒せないので弱体化にとどめたが、アンリの希望とプリキュアへのエールが決め手となりプリキュアの勝利を導いた。
だが、この変身はミライブレスによる一時的な効果であり、戦闘が終わると同時にアンリの姿も足も元に戻ってしまう。
足の感覚を失いスケートをまともに滑ることもできないという「現実」はプリキュアの力でも書き換えようがない。
ジャンプ中に変身が解けたことで、不自由な体に戻ったアンリはなすすべも無く重力に任せて落ちていく。それはまるでひとときの夢から醒めたイカロスが奈落へと落ちる様のようであったが、正人の手で優しく受け止められた。
アンリのひとときの夢はもう醒めた。それを永遠のものにしようと求めるならばそれはクライアス社と同じだろう。だから、その友はアンリの現実を嘆くのではなく「なんでもできる、なんでもなれる…!」とこれからのアンリの未来に祝福の言葉を送るのであった。涙をこらえながら。
自分の原点、そして自分がどんなに変わっても傍にいてくれる友の存在を再確認したアンリは「もう一度、自分のなりたい自分を探す」とゼロから再スタートを始める。
未来の歴史を知るリストルは「若宮アンリの未来に希望はない」と言い切っていたが、どんな状況でも希望を見出す自由は常に残されている。たとえ体が不自由になっても心は自由でいられるのだから。
外見
上述したように、第42話冒頭ではながデザインしたアンリの大会用衣装を模したコスチュームとなっている。
ジェンダーレスなアンリの個性をちゃんと拾って、男物でも女物でもないが同時にどちらでもあるような高度なデザインとなっているが、このデザインを見せられたアンリ自身は「滑りにくそう」の一言ではなのアイデアを却下していた。
もっとも、実際にこの姿に変身した後は華麗なスケーティングを見せていたが。
モチーフは翼。翼はキュアエールの隠しモチーフであり、キュアエールの応援を受けて変身したキュアアンフィニが同じモチーフになるのは当然の帰結でもある。
世間からの反応
男性がプリキュアになった反響は凄まじく、視聴者やネット上は騒然となった。Twitterでは「初男の子のプリキュア」がトレンドワード入りを果たし、ニュースサイトでも取り上げられ、遂には放送翌日の朝日新聞朝刊で記事になった。
アニメージュ2019年1月号のアンリ役の染谷俊之と正人役の霜月紫との対談において、台本を読んだ出演者がアフレコ現場で「アンリくんがプリキュアに!」と大騒ぎになったと明かされてもいる。また、染谷は視聴者からの反響の大きさに驚くとともに、ブログにて感謝の意を示している。
ただし実際の作中では、アンリがプリキュアになったことを「男性でありながらなれた」と特別視するような演出は一切されておらず、「未来を失った者が再び立ち上がること」の方に比重が置かれていた。
本編終了後に刊行された『HUGっと!プリキュア オフィシャルコンプリートブック』ではメインスタッフの多くが「ネット上ではジェンダーのことばかりが話題になって、”誰だってなりたい自分になれる”と言う本来の意味合いが逆に伝わりにくくなってしまったのでは」と苦悩を感じていたことを告白しており、インターネット時代の難しさも語っている。
本作の企画部長にして初代作のプロデューサーである鷲尾天も、プリキュア15周年に関するインタビューを受けた際にキュアアンフィニの件を聞かれると決まって「プリキュアは初代作からずっと”女の子らしさ”というジェンダーに囚われないように進化してきたシリーズなので、今回のこともその流れを汲んだ自然な進化に過ぎない」というようなことを語っている。大人たちが「男の子のプリキュア」を特別視して騒いでいても、子供たちはそれを自然なものとして受け取って欲しいというところもあるのだろう。
余談
『HUGっと!プリキュア』までのプリキュアシリーズで男性がプリキュア的な存在になった例としては、妄想のみで登場したキュアファイヤーや、外見がどう見てもバ○トマンかつ人工のアイテムで変身したキュアセバスチャンに先例があるが、どれもコメディ的なギャグ要素の一環であった。
しかし、キュアアンフィニは本編の物語やテーマにシリアスに絡む形でネタ要素抜きで登場した初の男性プリキュアである(リオは微妙なラインだが、作中では『キュア』を冠していない)。
注意しなくてはならないのは、彼はいわゆる男の娘ではないということである。
アンリはいわゆるジェンダーレス男子として劇中で認識されているがゆえに、そのファッション的な外見は「男女の境界がない」=女性的というわけでもないという扱いとなっている。さらに言えば性自認はガチな男性。当然アンリの声優も男性である。
今回の場合はキュアフラワーのようなゲスト扱いだったが、ジェンダーフリーや多くの問題を提起してきた今作らしい、いろいろな意味で奇跡のプリキュアであった。
なお、大会の観客席にはどういう訳かキュアゴリラことFUJIWARAの原西孝幸が紛れ込んでいた。
また、プリキュアに覚醒したから足が奇跡で治ったということにしなかったことは注目に値する。
表立って話題にはなりにくいところだが、彼は史上初のハンディキャップ持ちのプリキュアとも言える。
これまでプリキュア変身者が(補修が効きやすい無機質由来の者も含めた)健常者であることが無意識の了解であったことからすれば、この点でもプリキュアの多様性のレベルを一気に上昇させたと言える。
そして第48話では世界中の老若男女が全員プリキュア化するという事態が発生し、「アンリのような美形の中性的な容姿でないそこらのオッサンやばあさん」さえプリキュアに組み込む究極の多様性を明示して視聴者にさらなる衝撃を与えた。このシーンではしっかりキュアアンフィニも登場している。詳細は当該項目参照。
関連タグ
キュアゴリラ:ある意味先輩の男性プリキュア
坂上あゆみ:普通の女の子から光の戦士(プリキュア)に変身した者。最初は多くの理由からすぐに変身が解けてしまったが、後に妖精の相棒と出会ったため正式にプリキュアとなった。
無限シルエット:無限繋がりのプリキュア。
キュアウィング:男性プリキュア初のレギュラーキャラ入りを果たした後輩。