CV:霜月紫
概要
個性的……というより奇人変人という方がしっくりくるのかもしれない愛崎家の人間の中では最も常識人で、一見すると礼儀正しい好青年。
しかし実際には、妹のえみるに対して「自分が考える理想な女子のあり方」を高圧的な態度で強要してくる毒兄気質な持ち主である。
だがえみるや、学園で一緒になることの多い若宮アンリとの交流を通じて自分の価値観が変化するほどの出来事を経験し、少しずつだが確実に性格が変わっていく。
そのため、登場初期の彼と、えみるやアンリとの固い絆を築いた物語後半の彼とではもはや別人レベルの性格の差がある。
単なる毒兄と思うことなかれ。
人物
男子が女子物、女子が男子物のファッションを身に着けるのも珍しくなくなった現代社会において、彼は守旧的な「男子は男子らしく、女子は女子らしく」というジェンダー至上主義に非常に強いこだわりを有している。
しかも彼が考える「理想の女子のあり方」は前時代的な男尊女卑思想に染まったもので、ひとことで言えば「女子は可愛らしく振舞って、男に守られていればいい」と言うもの。
ちなみに、「男子らしさ」に関しては体育会系なマッチョイズムよりも理性やリーダーシップを最重視しているようである(逆にいえば、「女子は理性・積極性・リーダーシップを持つべきではない」という考えでもある)。
愛崎兄妹の祖父が大変厳格で保守的な人物であることが正人の口から語られており、どうやら彼の思想は祖父の影響を受けている模様。
心の中でそう思っているだけならまだマシなのだが、正人は自分の偏狭な思想を他人に対して何のためらいもなく主張し、同意を求めようとする。
また、クラスメイトなどの近しい者たちが、自分が考える「男子らしさ・女子らしさ」に合致しない場合にそれを善意で警告してあげる事すらある。現代だとそれは正直なところセクハラ発言にしかならないのだが、正人にとってはこれは相手のためと本気で信じている。なので上から目線な傲慢さがどうしても隠しきれない。
正人と同学年で自由奔放なジェンダーレス男子である若宮アンリとは当然ながらウマが合わない。アンリは出会うたびに皮肉めいた口調でアンリの服装にケチをつける正人を当初は快く思っていなかった。第19話で正人がアンリに対しネクタイの締め方が女性的だと非難したとき、この様子を見ていたはなは正人に強い怒りを感じていた。
ただ、正人の方からアンリに積極的に話しかけたり、アンリを「若宮くん」と「くん」付けで呼んでいるあたり、アンリを実際そこまで嫌っている訳でもない。はなを激怒させた正人の傲慢さは正真正銘な「相手のことを思って」の言葉であって悪意は全くなく、むしろ友情と親愛ゆえの「善意」なのである。……それゆえに、質が余計に悪いのだが…………
しかし、クラスメイトなどに対するこのような「余計なお節介」はまだ常識的な範疇である。
正人が最も高圧的に接するのは、むしろ妹・えみるに対してである。彼はえみるを「自分が好む可愛いお人形」のようであるべきだと本気で考えていて、その理想に合わないような言動や態度を決して許そうとはしない。
さらに、彼は音楽一族である愛崎家の歴史と伝統に対して(おそらく両親以上に)強い誇りを持っており、えみるが家風を乱すような振る舞いをする事も良しとしない。
一方で、吉見リタ主催の女の子だってヒーローになれると銘打たれたファッションショーに対してはリタではなく参加者のえみるを注意するあたり、中学生という立場は一応わきまえている様子。
アンリとのいざこざで正人に反感を持っていたはなは、正人がえみるの兄と知らなかったこともあり、えみるを無理矢理会場から連れだそうとした彼の姿を、いじめっ子が嫌がらせをしていると見て怒りを前回の時以上に爆発させていた。
愛崎えみるとの関係
えみるは自分の生活に常に干渉していく実兄に対して強い苦手意識を抱いており、彼女が特に趣味としているエレキギター演奏を「女の子らしい可憐さや可愛さがなく、家風にも合わない」という理由だけで否定することは、えみるにとって大変なストレスとなっている。
良家で育ったえみるは「兄に対して逆らってはいけない」と言う強い刷り込みがされているようで、自分の想いや意見を兄に対して言うことができない。ただ、えみるは単純に畏怖しているだけでなく、実はもっと複雑な感情も背景にある(後述。このことは本編では言及されていないため現時点では裏設定に近い)
えみるへの正人の毒兄じみた接し方には、現場に居合わせたルールーから(当時無感情だった彼女からは想像できないほどに)怒って反論されたほど。
ただ、演者の霜月氏は「愛情が少々歪んだ方向に向かっている」と発言していることから、えみるへの正人の高圧的な態度は妹への愛情の裏返しでもあるらしい。
どうやら正人は「妹を自分の好みの女子像に押し込めようとしている」という自覚は全くないようで、そうではなく妹が誰からも愛される女の子になって欲しいと考えているだけのようだ(両親があまりにもぶっ飛んでいるあまり、妹には世間から白い目で見られないまっとうな人間として歩んでほしいのかもしれない)。
第15話でルールーから抗議された際は全く言い返す事が出来ずその場から逃げるように去っていることからも分かるように、妹への自分の態度が正しいという自信もあまり持っていない様子。
はなやルールーの対しては前向きなな姿を見せているえみるが兄に対してだけはビクビクしている様子は痛々しくもあるが、『アニメージュ』で語られた設定では、正人は愛崎家の跡取りとして祖父に期待されて育ち、両親が自由人かつ放任主義のため「大人にならなくてはならなかった」というバックボーンが明かされている。えみるが彼に強く言い返せないのも、家長や家柄のプレッシャーを兄に背負わせてしまっている負い目からとのこと。
本編でも第19話で「お爺様」の存在が示唆されており、正人もまたえみると同様、親族からのプレッシャーに縛られている犠牲者なのである。
本編での動向
第19話にて、前述のファッションショーをめぐるいざこざでえみるを強引に連れ帰ろうとした時、えみるをショーに誘ったアンリと口論を交えている。そのショーの出演衣装として女装で正人の前に現れたアンリに対し、正人は侮蔑の態度を隠さず罵倒したのだが、当のアンリは何も気にせず「だから何?ボクは自分がしたい格好をする。自分で自分の心に制約をかける…それこそ時間…人生の無駄!」と正人に理路整然と反論。最後には「つまらないよ!」と辛辣に突きつけた。そんなアンリに正人は何も言い返せず、憮然とした顔でその場を逃げるように立ち去るしかなかった。
「何なんだよ、えみる、あんなに楽しそうに……」と誰にも言えない本音と嫉妬を呟きながら街中を歩いていた時、「ハ~イキミ、ナイスな顔しているわね!」と彼に声をかけた敵幹部ジェロスのネガティブウェーブによってオシマイダーの素体にされてしまう。
彼が否定していた女子ヒーローたるプリキュアに最終的に助けられることになるのだが、その過程において正人を素体にしたオシマイダーは女装したままのアンリを人質にしている。だが、アンリはそのオシマイダーがアンリを逆に恐れ怖がっているかのような態度を見抜き、その華奢な体でオシマイダーをハグしながら「そうか、キミも苦しいのか。ごめんね。ボクはキミのために自分を変えられない。キミも自分の心をもっと愛して」と説得をしている。
そのオシマイダーがプリキュアによって浄化され正人が解放された後、正人はオシマイダー化された時のことをおぼろげにしか記憶していないと口では言っていたが、「綺麗だった」誰かが自分を理解しようとしててくれたことはわかっていたようだ。
そしてその後は男女子間というジェンダーの束縛にとらわれ続けた正人の気持ちに変化が訪れるようになる。
第20話では憑き物が落ちたようにえみるのエレキギターの価値観を受け入れ、えみるに「ルールーと一緒に行っておいで」とライブコンサートのチケットを2枚渡し、これまでの態度を謝罪した。えみるは最初こそ信じられないと呆然としていたが、ルールーの前では正人がえみるの自由を純粋に認めてくれたことに嬉しさのあまり号泣していた。
またその後のシーンで、この時のチケットはアンリが用意したもので、正人がえみるに向き合えたのはアンリが背中を押してくれたからだということも判明した。正人はバツが悪い表情でアンリに礼をいうが、「(ボクを呼ぶ時は)アンリでいいよ」と言ってもらえており、和解し合えた模様である。
第25話の夏祭りのシーンではアンリと共に浴衣姿で現れており、ごく自然な友人関係になっているようだ。(同時にこんなタグも活性化したようだが)
第28話では、正人本人が登場することはなかったが、えみるの回想にて、はぐたんさえも怖がらない程可愛らしい怪獣の着ぐるみを着たえみるに対して恐怖でガチ泣きする(その後着ぐるみとバレたえみるは正人に怒られた)という、幼少期の意外な一面を視聴者に暴露されていた。
第33話では浮かない顔をすることが多かったアンリを心配し気遣う姿勢を見せ、本番前に手を繋いで「キミはできる」と静かに、だが決然と言い聞かせるなど、もはや親友レベルな信頼関係を築いている様子を見せた。
正人とアンリは確かに主義主張の問題で口論になっていたが、お互い自らが信じることに対してひたむきでありそれをなかなか曲げられない意地っ張りなところは実は似ていた。
似ているところからくるシンパシーが二人の友情を短時間でここまでのレベルまで高めたのかもしれない。
またこの第33話では、えみるとルールー、アンリと正人の気持ちが並行して描かれていた。
えみるがアンリに「あなたがお兄様をあの時抱きしめてくれたことで、わたしたちは救われたのです。」とアンリに真摯に礼を述べていたり、アンリが「何を言われても、たった一人の友達(ルールー)がわかってくれるならそれでいい、か」とえみるを評した時に正人が隣にいるなど、アンリとえみるの気持ちは同じであるというような演出がなされていた。
そう考えると、二人の関係はえみるとルールーのように、世間一般でいう友情をもはや超えたレベルにまで到達しつつあると言えるのかもしれない。
またこの話ではアンリは世間の期待に応えてジェンダーレスのアイコンであり続けることに苦しみを抱えていることが遠回しな表現ながら描写されており、そういう意味ではアンリもまたジェンダーの束縛に縛られていたようだ。なぜ、アンリが19話で正人の苦しみに強く共感したのかの一端も窺えるだろう。
第41話ではルールーとの別れを意識して心を病んだえみるが気になり、ビューティーハリーをアンリと共に訪れる。
はなたちが先に元気づけようとして失敗したため、「やはり兄の出番だろう」と無理矢理推薦され何か面白いことをしようとする。
が、元々生真面目なタチなので「ふとんが……ふっとんだ!」と彼にとって精一杯な面白いこと(アンリ談)であるダジャレを言い、場を一気に凍てつかせた。
だが仲間達のそのような気遣いはえみるにとってはよりプレッシャーになり、自分が我慢しないとルールーだけでなく周囲に迷惑をかけると心を自ら締め付けたえみるは、アスパワワを失いミライクリスタルを消失させてしまう。その後遺症が彼女は声が出なくなってしまい、倒れ伏してしまう。
その後、倒れたえみるを自宅に運び込むと、そこに祖父がかけつけてくる。祖父はえみるがツインラブとして活動していることをつい最近知ってそれを止めさせようとここにきたのだが、えみるが倒れて声まで出なくなったことには流石に狼狽。しかし「えみるは自分が支配する愛崎家以外の社会で生きるべきではない」という自分の本音を隠しきれず、えみるを低俗なアイドル活動に誘い込んだ連中がえみるを苦しめたからこんなことになったと証拠もなく攻め立ててくる。
そして「エレキギターなどやめて元の素直な可愛らしいえみるに戻ってくれ(要約)」とかつての正人そのままな主張をしてきた。声の出ないえみるはその言葉に反論することもできず・・・
その横暴な祖父の言葉に対して、はながえみるに代わって反論しようとするが、それより先に正人が祖父に食ってかかる。
「家族だからって人の心を縛らないでください! 自分ではない誰かの心に触れて新しい扉を開くこと、それは家族にも誰にも止められない! だってボクたちの未来はボクたちのものだから!」
「えみる、声を出していいんだ! 自分の思ったことを叫んでいいんだ! ギュイーンとソウルがシャウトするのです!」
兄のその激励によって、えみるは心の奥底に湧き上がる感情を言葉にならない叫びとしてシャウトし、声を取り戻す。
アンリやはなたち、そしてえみるという自分と価値観が全く違う人間と触れ合い成長した少年は自分を愛することを知り、輝く未来をつかみ取ろうとする妹の力になるべく理解者になれるようになったのである。
第42話ではアンリを何かと気にかけるシーンが見られ、またプリキュアの応援を受けて彼自身が起こした奇跡に立ち会った。
また、力を使い果たして落下しリンクに激突しかけたアンリを身を呈して助け、改めて彼のパートナーぶりを見せつけることとなった。
最終回の第49話での2030年では振付師になったアンリのアイスステージを家族とともに鑑賞していた。
関連タグ
プリキュア内
プリキュア HUGっと!プリキュア 愛崎えみる 兄妹 若宮アンリ
水嶌みつよし:前作に登場した、お嬢様がエレキギターを弾くのを良しとしない繋がり。ただし否定する理由はあくまで執事としての立場上のものにすぎず、彼自身の価値観では否定感情を持っていなかった。
美翔和也、明堂院さつき、青木淳之介、四葉ヒロミチ、海藤わたる、カナタ王子:プリキュアの兄達。
プリキュア外
教子:身内に対してジェンダーの押し付けをしていた、悪役に利用されるが最終的に改心した等の部分が共通する。なお、悪役の中の人は10〜11作前の赤キュアである。
朝霧要:容姿や言動から彼を連想する人が少なからずいる模様で、当初は正人が登場した際のネット実況では大抵は「サイトの兄貴」呼ばわりされていた。あくまで良かれと思って自分の価値観を妹に押しつけていた正人とは違い、こちらはストレスの憂さ晴らしで日頃から妹を虐待していた上に現在進行形で改心していない等、正人以上にタチが悪い毒兄である(とは言え、父親からの虐待で歪んだと言う点では哀しいとも言えなくもないが)。