キョウエイボーガン
きょうえいぼーがん
生年月日 | 1989年4月27日 |
---|---|
死没日 | 2022年1月1日 |
英字表記 | Kyoei Bowgun |
性別 | 牡 |
毛色 | 鹿毛 |
父 | テュデナム |
母 | インターマドンナ |
母父 | テスコボーイ |
生産 | 尾野一義牧場(北海道浦河町) |
馬主 | 松岡正雄 |
管理調教師 | 野村彰彦 (栗東) |
主戦騎手 | 松永幹夫 |
競走成績 | 13戦5勝 |
1989年4月27日、この世に生を受ける。
父テュデナムはアイルランド産で、現役時は18戦1勝。しかしそのたった1つの勝ち鞍が英2歳G1ミドルパークステークスという、特異な競走成績を有している。その後日本で種牡馬入りし、GⅠ馬は出せなかったものの、産駒にはキョウエイボーガン以外にもホスピタリテイ(セントライト記念など11戦10勝、種牡馬として1989年の皐月賞馬ドクタースパート、母父として1998年の天皇賞(秋)を制したオフサイドトラップを輩出)などがいる。
母父はテスコボーイ。母親であるインターマドンナはキョウエイボーガンの出産を最後に用途変更・廃用となり、キョウエイボーガンは生まれてすぐ母を失った。
彼自身の血統は三流ではないが決して一流ともいえない。馬体重420kg前後の、地味で小柄な馬だった。
馬主は「キョウエイ」「インター」の冠名で知られる松岡正雄氏であり、同馬主の馬にはインターグロリア・キョウエイプロミス・キョウエイマーチなどがいる。
デビュー戦〜重賞馬入り
1991年11月末、阪神開催の新馬戦でデビュー。逃げ切りで初戦勝利を挙げる。しかし次走と翌1月に出走した条件戦では、いずれも中団からレースを運んで大敗。直後には骨膜炎(ソエ)を発症し、休養に入った。
5月に条件戦で復帰、この競走から鞍上に松永幹夫を迎えた。ここで新馬戦と同様に逃げ戦法を採ると、2着に1馬身半差を付けて勝利、2勝目を挙げた。
次走も先行し連勝すると、重賞初出走となった中日スポーツ賞4歳ステークス(現:ファルコンステークス)も逃げ切り優勝を果たした。
秋を迎え、神戸新聞杯に出走。この競走も逃げ切りで重賞2連勝となり、菊花賞に向けた「夏の上がり馬」として一躍注目を集めた。
京都新聞杯〜「運命の」菊花賞
次走の京都新聞杯で、春のクラシック二冠馬ミホノブルボン、東京優駿(日本ダービー)2着のライスシャワーと初対戦する。当日は両馬に次ぐ3番人気に支持されたが、道中で本馬と同じく逃げ馬であるミホノブルボンに先頭を譲った結果、同馬の9着と大敗を喫する。
スタートから先頭を切らなかったために、走りのリズムを崩したことが明らかと捉えた陣営は、初のGⅠ挑戦となる菊花賞を迎えるに当たり「どのような結果となっても道中でミホノブルボンに先頭は譲らない」旨の宣言を出した。
ミホノブルボンは元来スプリンター適性と目されていた馬で菊花賞の3000mという距離を不安視されていた上、ハナを切って逃げ切りという戦法を確立した4歳春以降のレースで他馬に競り掛けられた経験がなかった。ミホノブルボンは、同競走において史上5頭目のクラシック三冠達成が懸かるという事情があり、この宣言は大きな注目を集めた。
- 一方、京都新聞杯のレース後、ライスシャワーの的場均騎手は「キョウエイボーガンが菊花賞に出走すれば、ライスシャワーでミホノブルボンに勝つチャンスはある」と話していた。
菊花賞当日は前走から大きく人気を落とし、11番人気という評価となった。レースでは宣言通りミホノブルボンの先手を取って先頭に立ち、ハイペースのまま、2周目の第3コーナーまでミホノブルボン以下を先導した。その後第3コーナー出口で失速、そのまま後退し結果は16着に終わる。
一方のミホノブルボンは直線半ばでライスシャワーに交わされて2着に敗れ、三冠は成らなかった。このため競走後には、「ミホノブルボンの三冠を邪魔した」として、キョウエイボーガン陣営を非難する声も上がった。
ブルボンの先を行き、逃げ潰れたばかりに「ブルボンに逃げさせなかった」「勝ち目がないのに妨害した」等と競馬ファンやマスコミに散々に批難されたキョウエイボーガン。
(もっとも、逃げで重賞2連勝を飾りながら、京都新聞杯ではハナを譲ったために大敗を喫したキョウエイボーガン陣営からすれば、菊花賞で挑戦者として二冠馬ミホノブルボンを逆転するためには、何が何でもハナを譲らずに逃げまくってレースの波乱を狙うことは、これしかないという必然の選択だった。)
悪役(ヒール)と呼ばれたライスシャワー以上に理不尽なバッシングを受ける事となった。
その後〜引退
その後は、年末にオープン競走で2着となった。しかし翌1993年の始動戦を15着に敗れたあと脚部不安によって1年半以上も休養を要し、1994年10月にセントウルステークスで復帰するものの8着。続くオープン競走も6着と着外に終わり、競走馬を引退した。
菊花賞でともにバッシングを受けたライスシャワーは、その後もヒールと言われながらも走り続け、天皇賞(春)を2勝したことで「淀のステイヤー」として競馬ファンの心情も大きく見直されることとなる。
しかし、菊花賞のあと勝ち鞍を挙げられなかったキョウエイボーガンには、そうした機会もなかった。振るわない現役晩年、一部からは「この馬はただミホノブルボンの邪魔になるために生まれてきたのか」とまで評されるありさまで、寂しい引退を迎えた。
キョウエイボーガンは重賞を2勝しているにもかかわらず、種牡馬にも乗馬にもなれず、生まれ育った牧場に戻る事も無く、そのまま廃用処分(食肉行き)と決まった。食肉用の廃用馬を大量に預かる兵庫県の牧場に移送され、あとは出荷されるのを待つだけであった。
だが、突如として彼に救いの手が差し伸べられた。
本馬のファンであった一般女性が消息を案じて探し回った結果この牧場にいることを突き止め、自ら買い取って身元を引き受けることを申し出たのである。
生まれてすぐ母を失ったキョウエイボーガンだったが、「もう一人の母」の元で命を繋いだのだ。
1996年から引退名馬けい養展示事業の助成金も受け、引退競走馬の福祉施設土佐黒潮牧場に送られる事となった。その後、東京都西多摩郡の「東京ホースビレッジ」、群馬県吾妻郡東吾妻町の「乗馬クラブアリサ」と繋養先を移動。
やがてボーガンを救った女性が高齢となり、経済的にも単独で支援していくことが厳しくなるという事態が発生するも、ここでも救いの手が差し伸べられる。
引退した競走馬の余生を支援する団体、NPO法人引退馬協会が受け入れを行い、ナイスネイチャやタイキシャトル、メイショウドトウと同じように、フォスターホースの一頭として余生を過ごすことが決定。
元の所有者だった女性も預託料の一部を引き受ける形で預託に参与することとなり、今後は引退馬協会の所有馬として余生を過ごすことになった。
ボーガン自身は高齢のため移動させるべきではないと判断され、そのまま「乗馬クラブアリサ」に預託されてこの世を去るまで余生を送っていた。
時折「ソフト競馬」に出走しては、元気な姿を見せていた。
そして、2021年8月。最強の騸馬「レガシーワールド」がこの世を去り、89年生まれで最後まで生きていたのは彼となった。月日が経っていることで会いに来た人たちが多くなり、「92世代最後の馬」は「嫌われた悪役」から「愛された馬」としてその晩年を過ごしていた。
運命とは数奇なものということを、彼は己の身で表したのだった。
2022年の元旦、キョウエイボーガンが息を引き取ったことが報じられた。享年32歳(満年齢)。
(通常、馬齢の加算は誕生日ではなく1月1日に全ての馬に一斉にされるため新馬齢表記だと33歳となるのだが、引退馬協会の訃報リリースでは満年齢表記を採用している。)
持病の蹄葉炎が悪化し、自立することが困難となったため9時15分頃に安楽死の措置が取られたとのこと。
数奇な運命をたどり「92世代最後の馬」となったキョウエイボーガン。
ご冥福を心よりお祈りします。
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