概要
オルドビス紀の南半球の浅い海に生息していたとされる、細長いおたまじゃくしのような体型をした海洋生物。復元図等によっては (◉▼◉) のような何とも間の抜けt...もとい、味のある顔で造形されることもあり、これが後述するネットミームに繋がった。
発見された化石から推定される体長は約25センチ。
学名は、本種が最初に発見されたボリビアの村の名前「サカバンビラ(Sacabambilla)」と、ギリシャ語の「盾(ἀσπίς, aspis)」に由来し、「サカバンビラの盾」を意味する。
また、ギリシャ語のaspisはクレオパトラが自害に用いたコブラの一種「アスプ」を指す名詞でもあり、サカバンバスピスは「サカバンビラのコブラ」とも訳せる。
正面についた目と、そのすぐ下の口が弧を下にした半月状になっているのが特徴。目の間には二つの鼻腔があり、細かい鱗に覆われた口の下半分は柔軟に動いたと考えられている。
骨でできた楕円形の甲羅が背中とお腹を覆うようについている。甲羅はおそらく皮中に存在した。
近縁のアランダスピスより平坦な体つきで、化石の分析により3枚の尾びれを持つことが判明している。
無顎類に属する絶滅した一群である、甲冑魚と通称されるグループの一種。現在生息している無顎類にはヤツメウナギやヌタウナギなどの円口類がいるが、サカバンバスピスは彼らとそれほど近い存在だとはみなされていない。口に顎(あご)がなく、同時期の近縁種と同様に海底付近で泥をかき散らしたり、水中を漂う有機物やプランクトンを探したりして食べていたと考えられている。
ボリビア以降、アラビア、オマーン、オーストラリア中央部から化石が発見されており、その各地は当時浅い海であったことから、沿岸で暮らす生物だった模様。この生き物は大洋には出られなかったと考えられている。
なお、直接の関係はないが、1億年ほど経ったデボン紀に彼らのように体の前半を鎧で覆った板皮類というグループが現れた。
あの模型
フィンランドにあるヘルシンキ自然史博物館ではこの魚の模型が展示されているが、
- やけに小さく下に尖って微笑んでいるように見える口
- 口角部分の横にある生気のない丸い目
- 窪みもないため際立つ虚無顔
- 鱗及び背びれ以降の部分をカット
- 全体的に太短い体
全体的な再現度はあまり高くなく、展示位置もオルドビス紀ではなくデボン紀にされたため、地元民からの評価は低い。
しかし、あまりのシュールな見た目から2023年にふたば☆ちゃんねるでひとしきり流行ったあと、同年6月中旬にTwitterで爆発的な人気となった。
だが流行ったおかげで、この模型が胴体については翼甲類の特徴をまるで再現できていない一方、実はちゃんと鼻腔があったり鱗を思わせるギザギザが下唇にあったりとこの種の特徴である顔は化石標本を十分に再現できていることが明らかになる。
ちなみに、ヘルシンキ自然史博物館に勤めていたという女性は2022年にTwitterで「2年間勤めていたがこの模型の存在を今知った」とつぶやいている。
サカバンバスピスの虚無顔はこういった境遇を悟ったものかもしれないなどと想像を巡らせてしまうが、4億5千万年前からこの顔である。やめてさしあげろ
二次創作上の注意点
歴史上のサカバンバスピスをモチーフにしたキャラクターを作成することは一次創作にあたり、特に許諾を必要としない。しかし、現在話題になっているものはヘルシンキ自然史博物館に展示されている模型がモチーフになっていることが多く、こちらは二次創作物にあたるので権利者が存在する。
Twitterユーザーのうさぎメン氏がこの模型の著作権等について博物館側に問い合わせたところ、この復元模型はエストニアの古生物/地質学者であるエルガ・マーク・クリック氏が手掛けたものであるそう。
1994年にフィンランド自然史博物館で開催された恐竜に関する展覧会に合わせて製作されたものという回答が返ってきたとのこと。
エルガ氏は2016年に亡くなっているが、EUの著作権法では作者の著作権は死後70年間保護されその子孫に受け継がれるため、博物館にその権利はなく、権利者の追跡も難しいようである。しかし、博物館のガイドラインに則るのであれば、展示物の二次的な(商業)利用の場合は作者であるエルガ氏の著作物の引用であることを明記してほしい、と博物館の担当者は返答している。
博物館側は日本での注目を嬉しく思っているようで、返信は「これからもサカバンバスピスの冒険を楽しく見守っていく」と締めくくられている。
その後、日本のカプセルトイメーカーの株式会社いきもんが現在の権利保持者(エルガ氏の御子息)を探し出し、博物館と権利者双方の許諾を得て2023年10月よりデフォルメキャラクターのアクリルマスコット「サカバンバスピスとこせい的ななかまたち」を発売。同じくいきもんから2024年2月より模型を忠実に再現した「サカバンバスピス 完全公式フィギュア」を発売予定。
冒険はまだまだ続くようである。
関連イラスト
復元予想図に近いサカバンバスピス
ヘルシンキ自然史博物館のサカバンバスピス
日本人に見つかった結果
関連タグ
水を吐くフグ IKEAのサメ チンアナゴ:Twitterの魚ブームのある意味先輩。
ティクターリク:「ネットミームになった古代魚」の先輩。こっちは英語圏でミームになっていた。サカバンバスピスよりはるかに進化していた種であり、アゴの骨どころか手首や肘の骨まで備えていた。
みんなのおもちゃ:ある意味おもちゃである。
くちくいきゅう マムル:フォルムや顔のバランスがヘルシンキ自然史博物館の模型と似ている。
サカバンパスピス サカバンバスビス サカバンバンピス:ありがちな誤記。
サカバンバスピストン:SNS流行語大賞2023がやらかした誤記。