「私は…敗者になりたい」
プロフィール
地球圏統一連合軍・スペシャルズの創設者であり最高指揮官。そしてOZの総帥でもある。
階級はOZ最高階級である上級特佐。
副官であるレディ・アンをはじめ、彼を慕う士官は多く、そのカリスマ性の高さを窺わせる。
当人もそのカリスマ性に違わぬ程の能力を有しており、知略や記憶力に秀で、剣技では五飛を圧倒し、パイロットとしての能力も人外の更に向こうの技量、反応速度を持つガンダムパイロットやゼクス以上で、基本的にはトールギスとなんら変わりない性能のトールギスⅡをいともたやすく操るほど。
また、自然環境を愛する一面も持ち、ガンダム掃討のための核自爆がヒイロ・ユイによって阻止された時は「ガンダムパイロットに助けられた」と語っている。
彼を語る上で欠かせないものに、彼独自の美学感がある。
戦いに対して独自の美学を抱いており、「戦争は人間同士で行うからこそ意味がある」ものであるという持論を持つ。その為、戦闘に対して人の意思が介されず、また自らの手を血に染めない事で、人間から他者の命を奪う事への罪悪感を奪いかねないモビルドールなどの存在を嫌う。
終盤トレーズが地球上の戦力をまとめ上げて結成した世界国家軍が宇宙に上がってきた際も拠点を資源衛星MO-Ⅱに依存するのみであり、何か隠し玉の戦略兵器や戦艦でもあるのではないかと予測していたホワイトファングのカーンズを拍子抜けさせている。
戦争という手段を肯定する一方で戦争による悲劇には悲しみを抱いているらしく、後のホワイトファングとの開戦直前までの戦争に関わった犠牲者99822人の名前を全てを記憶している。
一方で、「戦いから逃避する形」での平和主義についても否定的であり、軍縮を行ってまで戦いを回避してコロニー側との和平を行おうとした連合軍総司令官ノベンタ元帥を謀殺したのもそれが理由である。
彼の考えの根源には「世界を切り開くのは敗者であるべき」という理想がある。
ここで言う「敗者」というのは己が正しいと信じた道を貫き、一つの偏った意見に自分の頭で考えず追従してしまった多数派の同調圧力に屈しない少数派、と言ったところだろうか。そのため、彼を支持する者が多い一方で自身は信念を持たず長いものに巻かれる考え方を嫌っている節がある。
彼が率いた地球の世界国家軍と宇宙のホワイトファングによる最終決戦(EVE WAR)についても、リーブラという想定外はあったものの、全ての戦いが終わった後にリリーナがコロニーと地球の和平への橋渡しとなる事を期待した上で行われたものである。非暴力主義を訴えるリリーナとは対照的に戦争という暴力に依る過程を含んでいるが、これは戦争によって生まれる悲しみや恐怖が世界中の人間が個々に平和を望む強い自我を持つ上で重要だと考えているからだと思われる。
FrozenTeardropによれば宇宙コロニーの平和的指導者ヒイロ・ユイの甥アイン・ユイとアンジェリーナ・クシュリナーダの間に生まれ、弟ヴァンと共にクシュリナーダ家で生きていた。本来は長子であるが、アンジェリーナの再婚で生まれた弟が相応しいと考えて弟を支え続けていた。
またかつては連合軍内で有効的に運用できなかった為に無用の長物と称されていたモビルスーツの有効的な運用方法を確立し、それを以てモガディシオ反乱を制圧した事でモビルスーツが世界で認められるようになった。
モガディシオ反乱制圧や第1次月面戦争等で多くの武勲を立てていたが、後にバルジ襲撃事件で弟ヴァンに敵をバルジ砲で殲滅させた事がきっかけでヴァンがコロニーへの圧政を行うほどに暴走していき、遂には彼が母親共々病院で爆殺されると言う悲劇へと繋がった。二人の死を悲しんだトレーズはそれ以降、戦死者の数と名前を憶えていくようになったと言う。
作中での活躍
ガンダムによる連合とOZに対する攻撃に対応しながら、OZを表舞台へ台頭させるためにガンダムを利用し、和平派のノベンタ元帥らを謀殺するなど、高い知略を駆使する。
この際にトレーズの策略を見抜いた張五飛に襲われる事になるが、彼に一対一、生身での決闘を申し込む。五飛はこの決闘に応じ、剣での応酬の末に五飛を降す。五飛にとってトレーズに長く縛られる、最初の敗北感を与える事となる。
その後のOZは勢力を拡大し、コロニーをも味方につけてガンダムを完全に孤立させる。一方で軍に無断でウイングガンダムを修復し私闘を行ったゼクス・マーキスに対し、OZの総帥として70機の追討部隊を差し向けた。
しかし、トレーズはゼクスが生き残る事を期待しており、ゼクスはそれに応えて生き残り(表向きは相打ちによる戦死とされた)、以後はミリアルド・ピースクラフトと名乗るようになる。
また、彼はゼクスの正体を早期に見破っており、敢えて見て見ぬふりをしていた。
加えて、ミリアルドとは幼少の頃に面識があり、死に際には彼を指して『我が永遠の友』と呼んでいた。
地球圏の掌握をほぼ完遂する一方で、前述の人間同士による戦いを理想とする考えからOZの上位組織であるロームフェラ財団によるモビルドールの導入に反対し、その為OZ総帥の座から解任させられる。
その後はルクセンブルクにある古城で幽閉生活を送り、表舞台からは完全に消えていたが、その間にガンダムエピオンを密かに開発、完成させる。
この頃レジスタンス活動に参加していたヒイロ・ユイに、自分の戦いを模索するためにとエピオンを託す。トレーズ自身もエピオンに搭乗した事はあったようだが、「私には進むべき未来は見えなかった」とも語った。
その後、リリーナ・ピースクラフトの求心力で統一国家が和平へ乗り出し始めた頃に、ホワイトファングの司令官となったミリアルドが宣戦布告宣言をした事で、それに対応すべく表舞台へ復帰。
まずは、戦う人間ではない、戦う事ができないリリーナを元首から解任させて束縛を解き、ホワイトファングとの戦争には自分が対応すると発言。
元よりそのカリスマ性により支持の強かったトレーズの力により地球の軍事力は一時的に統一され、ホワイトファングとの全面決戦へ臨む事になる。
ホワイトファングとの戦争に於いてはトールギスの余剰パーツを使って組み上げたトールギスⅡを乗機とし、統一国家総司令官として戦闘、最前線で指揮を執った。
その最中、アルトロンガンダムを駆る五飛と今度はモビルスーツによる決闘を行い、激闘の末にアルトロンガンダムのビームトライデントに貫かれ、五飛を自身の最大の理解者と述べながら戦死。この時、トレーズは10万と10人目の戦死者となった。
なお、彼の墓碑銘には「平和のための礎となり、信念のままに死す」と記されている。
死後に於いても彼が残したものは多く、マリーメイア軍の兵士は元をただせばトレーズ派の兵士が大半で、マリーメイア・クシュリナーダも、そもそもトレーズの娘である。
五飛はトレーズとの決闘の結末を受け入れられずに引きずっており、ホワイトファング残党によるガンダム奪取計画やウルカヌスをめぐる戦いを経て平和への疑念を募らせてしまったことが反乱への参画の理由となっている。
この葛藤は、マリーメイアの反乱終結直前、ブリュッセルにて自らの意志で立ち上がった人々を見るまで五飛を苦しめる事となった。
ゼクスが搭乗するトールギスⅢに関しても、トールギスⅡと同時期に造られていたものであり、武装(恐らくメガキャノン)の最終調整が遅れて終戦を迎えたために日の目を見なかった機体。
異説にはゼクスとの決戦用として用意したが、当のゼクスはガンダムエピオンに乗っていたため不要となったとも言われている。
なお、マリーメイアの母であるレイア・バートンとは、OZの教官であった頃の赴任先であるX-18999コロニーでのクーデターで司令部を自機を盾にして守り、その怪我によって入院した先で看護師をしていたのが馴れ初め。
余談だが、その時負傷の原因となったミサイルを撃ったのは幼少の頃のヒイロである。
名台詞
- 「レディ・アン。後は任せてくれたまえ」
シェンロンガンダムに苦戦するレディを静止し、自らは生身で剣を手に取る。
- 「戦い続けよう。そして勝てばいい」
嫌われ者は強くないといけない。彼の哲学が見え隠れする台詞。
- 「機械(モビルドール)が優秀であれば、私はこの世に必要ありません。 この場で優劣を競おうと思っております」
- 「モビルドールも兵士も扱うのは人間です。もう少し人間を評価し、人間を愛してもらいたいものです」
【機械は人間より優れているのか?】その答えを自ら戦場に立って審議する。
なお、20年後のガンダムシリーズでは戦争を無人機に丸投げした結果文明が崩壊しており、二期ではその無人機の一体が暴走して悪夢のような事態が発生したため、トレーズの株が上がる事となった。
- 「古き良き伝統とは人間の奥深い感情が築き上げた労りの歴史。私は戦うことが時に美しいことと考えるとともに命が尊いことを訴えて失われる魂に哀悼の意を表したい。私は人間に必要なものは絶対的な勝利ではなく、戦う姿、その姿勢と考えます。しかし、モビルドールという心なき戦闘兵器の使用を行うロームフェラ財団の築く時代は後の世に恥ずべき文化となりはしないでしょうか。」
- 「また、戦わずにはいられない人間性を無視する完全平和を称えるなど宇宙コロニーの思想はその伝統を知らぬ無知が生み出す哀れな世迷い言として感じておりました。しかし、その境遇の中から私の理想を超えた新しい戦士が生まれました。それがガンダムのパイロットたちなのです。彼らの純粋性に満ち溢れた感情の前に伝統は霞んで見えることでしょう。守るべきものを失い、さらに守ってきたものに裏切られた戦士は歴史上敗者なんです。しかし彼らにその認識はない。それどころか彼ら自身はまだ戦う意志に満ち溢れているのです。」
- 「美しく思われた人々の感情は常に悲しく、重んじた伝統は弱者達の叫びの中に消え失せ、戦いにおける勝者は歴史の中で衰退という終止符を打たなければならず若き息吹は敗者の中より培われていく」
25話のモビルドール至上主義と保守的体制を推し進めようとするロームフェラ財団に逆境に諦めず闘い続けるガンダムパイロット達を引き合いに異論を唱えた台詞。そして、デルマイユの「何が言いたい?」という問いに対し「私は…敗者になりたい」へと続く。
- 「戦うことを忘れ着飾った銃では、たとえ敵の胸板を撃ち抜いたとしても私に感動を与えない。無垢なものは無軌道なのではない、自由なのだ、心が」
デルマイユからOZ総帥解雇を言い渡され、幽閉が決定された時のセリフ。なお、12年後のガンダムシリーズでは本当に文字通り着飾った銃を使って組織の創設者を殺害し、権力を独占しようと反乱を起こした悪党が登場したため、またもやトレーズの株が上がる事となった。
- 「聞きたいかね? 昨日までの時点では、99,822人だ」
五飛に「貴様の野望のために何人の人間が犠牲になったと思っている」と言われて。
この手の質問に素で答えた人物はそうそう居ないであろう。
しかもその犠牲になった人間の名前を全て暗記しているらしく、加えて自身は「それしか出来ない」と、せめてもの償い以下の行為だと捉えている節がある。
五飛との決闘の途中でレディ・アンに今回の戦闘での戦死者を訊ねると、『ホワイトファングは82名、自軍は105名』と報告を受け「後で戦死者の名前を教えてくれ」と告げ再び決闘に挑むが・・・
再世篇では90万人増えている(後述)。
- 「ミリアルド、先に逝っているぞ…」
最期の言葉。この言葉と共に、トレーズは10万と10人目(小説ではちょうど10万人目)の戦死者となったのであった…
余談
名前の由来はフランス語の「13」
小説版であるFrozenTeardropではその名前の由来が語られている。
その墓碑銘には『平和のための礎となり、信念のままに死す』と記されている。
しかし・・・戦死者10万と10人目(小説ではちょうど10万人目が自分)を覚えている当たり、東方不敗と同類なんでは?
関連イラスト
関連項目
ヒイロ・ユイ 張五飛 ゼクス・マーキス ミリアルド・ピースクラフト レディ・アン
ガンダムファイト:『一対一の実力で戦って勝敗を決める』『リングの地球が荒廃する事で戦いの空しさを市民に見せつけられる』と言った観点からある意味「トレーズの思想を最も穏健的に実現した戦争」では?と度々名前が挙がる前作の代理戦争。
ソレスタルビーイング:後年に製作されたガンダムシリーズ作品に登場した主人公が所属する組織。「紛争根絶」を掲げ、それに反する行為をする組織・団体・国家を武力で排除する事を目的として創設された組織であり創設者の真意はともかく、実動部隊の人員は汚れ役を引き受ける事を自覚しその覚悟も持っていた点で思想が似通っている。
デリング・レンブラン:後年のガンダム作品のキャラ。「戦争は人と人が殺しあうもの」と主張する点はトレーズと同じである。
煉獄杏寿郎:眉毛の形が似ていると一部の視聴者から話題になった。
ギルバート・デュランダル:『TV版で戦死した独自の思想を持つ政治家が、続編の劇場版で死後も強い影響力を持ち続けたのが裏目に出て、本人の意思に反する形で思想を独裁者に曲解されて悪用され、戦争の火種を新たに生む』というまさに歴史は繰り返すような事態が発生してしまった。皮肉にもトレーズと同じキャストの人物はデュランダルの思想に早期から反対の意思を示していた人物でもある。
沖矢昴:中の人が同じ。仮面をつけた人気キャラと声が同じなとある人物の仮の姿。