「儂が死んだら誰がお前達に知恵を授けてやるんじゃ!」(第一章)
「全くどうしようもないマヌケじゃ。知らん!儂ゃ知らんぞ!」(第六章)
スーツアクター:藤田健次郎
登場話数:第一章「伝説の刃」-第三十五章「ゴウキの選択」、第三十七章「ブクラテスの野望」-第四十九章「奇跡の山」
概要
宇宙海賊バルバンの幹部の一人にして、「バルバンの知恵袋」を自称する老学者。
同じくバルバンに属する妖帝イリエスと、その弟のデスフィアスの叔父でもあるが、二頭身のずんぐりした体型など、姪達との外見的な共通項はそこまで多くはない。
一人称は「わし」で、イリエスからは「叔父様」と呼ばれる。この他にもブドーからは「御老体」、バットバスからは「爺さん」、シェリンダからは「ブクラテス」、ゼイハブ船長からは「先生」と、作中でも呼ばれ方が特に多岐に亘っている。
仮にも学者なだけあって相応に博識で、組織内においては作戦参謀的な役割を担う。とりわけ、上から下までおよそ知性的とは言い難いサンバッシュ魔人団が活動していた頃には、その作戦の立案をほぼ一手に引き受けてもおり、軍団長のサンバッシュからは「樽学者の大先生」と呼ばれ重宝されている・・・のだが、その作戦が思うように行かない時などは「樽ジジィ」と罵倒されるわどつかれるわと、散々な扱いを受けることもしばしばである。
実際、博識とは言ってもその知識にはあやふやな部分も少なくはなく、立案する作戦の中には殆ど場当たりや思い付きも同然なものさえあるなど、知識の活かし方についても疑問符の付く節もない訳ではない。
とはいえ、ドレッドレッダーの力を強化した小型の樽や、タグレドーの放つ毒を消したスプレー等、作戦の助けとなるアイテムもそれなりに所持している他、長い付き合いであるゼイハブ船長が過去の戦いで瀕死の重傷を負った際には、その蘇生に尽力していたりもする等、必ずしも無能とまでは言えない側面を持ち合わせているのもまた事実である。
揺らぐ存在意義
前述の通り、サンバッシュ魔人団が健在な頃には作戦参謀として辣腕?を振るっていたブクラテスであったが、彼等の壊滅後にブドー魔人衆が作戦行動に乗り出すと、用意周到かつ愛想に欠けるブドーからは無下に扱われがちとなり、時には満座の中で(特に意識していないとはいえ)その浅知恵をあげつらわれるなど、「知恵袋」としての面目を潰されることさえあった。
おだてには弱い気質である(※)反面、このように自らを蔑ろにするかのような姿勢には人一倍憤りを覚える方であると見えるブクラテスは、やがて自らの地位の失墜を危惧する姪のイリエスと結託し、奸計を巡らせブドーを失脚へと追い込むに至る。が、彼の後を受けて台頭したイリエスと配下のイリエス魔人族の作戦行動においても、彼女からは良いように扱われるのみであり、ここでも往時のような「活躍」は到底望むべくもなかった。
そしてブクラテスの知恵袋としての地位を、決定的に揺るがすこととなったのが闇商人ビズネラの加入である。ブクラテス以上の豊富な知識、それにブドーに負けず劣らずの用意周到さを兼ね備えたビズネラは、正しくブクラテスの上位互換とも言える人材であり、バルバン内におけるブクラテスの存在意義は最早ほぼほぼ失われたも同然といっても過言ではなかった。
それでも、前述した通りゼイハブと長い付き合いであったこと、そしてイリエスの持つ魔力に利用価値があることから、ブクラテスも切り捨てられずにいたのだが・・・物語後半においてイリエス魔人族の作戦行動が原因で、ダイタニクスに致命的な事態が生じた際、その責任を取らせる形でゼイハブ達がイリエスの切り捨てに動き出すと、ただ一人蚊帳の外に置かれていたブクラテスはその意に反し、彼女の復活を手助けしようとする。
しかし、前述したブドー失脚の一件さえも先刻承知であったゼイハブにとって、この行動はさらなる背信行為に他ならず、結果ブクラテスもまた切り捨ての対象とされ、復活の儀式の場に踏み込まれた末に背後から手痛い一撃を被ることとなる。イリエスが残した魂の結晶までもバットバスによって無惨に砕かれる中、深手を負ったブクラテスは鎖で拘束された状態のまま城外へと放擲され、そのまま海の藻屑と消えたのであった・・・。
(※ 実際、サンバッシュからは前述した通り散々な扱いを受けながらも、一方では折に触れておだてられ気を良くする場面も散見されており、自身も「サンバッシュの方がまだ可愛気があった」と、ブドーと比較してぼやいてもいる)
復讐の樽学者
「ゼイハブ。儂は知っとるぞ、お前を倒す方法を・・・黒騎士を使って、いつか必ずお前を倒す!」(第四十一章)
こうして、非情な切り捨ての果てに物語より姿を消したかに見えたブクラテスであったが、程なくして思わぬ形でその表舞台へとカムバックすることとなる。
このことはバットバス魔人部隊が、ゴウタウラスの心臓を確保すべく作戦行動を起こした際に明らかとなる。辛くも生還し再び姿を現したとはいえ、深手を負って長らく漂流の身にあったこと、それにゼイハブからの切り捨てで味わわされた絶望と憎悪から、かつては血色の良かった肌や髪もすっかり色褪せ、その影響か顔立ちも酷く険しいものへと転じていた。
長年の信頼関係を裏切られたことや、かつて故郷の星を滅ぼされていた恨みから、漂流の間ゼイハブへの復讐心を募らせていたブクラテスは、前述の作戦行動に乗じバルバンを出し抜く形でゴウタウラスの身柄を抑えると、それを盾にとってヒュウガを自らの復讐のための道具とすべく協力を迫ったのである。
「本当か嘘か、一種の賭けじゃな。じゃが、この賭けに乗らなければ、ゴウタウラスは死ぬぞ。そして、 おまえもいずれギンガマン共々ゼイハブに倒されることになるじゃろう」
「・・・黒騎士、乗るしかないんじゃ。儂につけ」(第三十八章)
結果、ヒュウガを引き込むことに成功したブクラテスは、その手始めとして彼にアースを捨てさせ、さらに共同で新たな武器・ナイトアックスを作り上げると、ゼイハブ打倒とバルバンの乗っ取りに向けた行動を、いよいよ本格化させていくこととなる。
しかし、そのナイトアックスを使いこなすための鍛錬も進まぬうちに、バルバンは悲願であった魔獣ダイタニクスの完全復活に漕ぎ着けており、この危機的状況を前にブクラテスは鍛錬が不十分なヒュウガを、自ら前線に赴いたゼイハブへとぶつけざるを得なくなるのだが、危惧していた通り現状のヒュウガではゼイハブには遠く及ばず、助けに入ったギンガレッド共々絶体絶命の窮地に追い込まれる羽目になってしまう。そしてその場こそ辛くも逃れたとはいえ、ここでブクラテスがゼイハブ相手に手の内を明かしてしまったことが、後に巡り巡って思わぬ事態を引き起こすこととなる。
ともあれ、このことでバルバンにも自らの生存と蠢動とを知られたブクラテスは、ヒュウガ共々追われる身となりながらも、ヒュウガがナイトアックスを使いこなせるよう、「星の命」と呼ばれる謎の石を練習台とし、これを砕くという明確な目標を彼に与える。
その星の命が一体何なのか、そしてそれを砕くことがどうゼイハブ打倒に繋がるのか、訝しむヒュウガに対しても「全てを教えて寝首をかかれては困る」と伏せたままとし、また彼の負傷を手当する際にも「勘違いするな」と念を押す辺りからも窺えるように、当初はヒュウガをあくまで「自身の復讐の道具」としか見ていなかったブクラテスであったが、長い間苦楽を共にしている内に表には出さないとはいえ、徐々にではあるが互いに確かな信頼感情(絆)が芽生えていくこととなる。
そして物語も最終盤に至り、なおもヒュウガが星の命を砕くに至らぬ中、シェリンダが放った斥候により潜伏場所を突き止められたブクラテスとヒュウガは、バットバスからの奇襲にあって分断され、生き埋めとされた洞窟から辛くも脱出したブクラテスは待ち受けていたシェリンダの凶刃により致命傷を負わされてしまう。すんでのところでヒュウガの乱入により止めを刺されるには至らなかったものの、死期を悟ったブクラテスは、ここに至ってようやくこれまでの鍛錬の意義、そしてゼイハブに隠された秘密を明かすこととなる。
かつての戦いの折に、ゼイハブの蘇生にブクラテスが関わっていたことは前述した通りであるが、その際ブクラテスはゼイハブの故郷の星の命を彼の右胸に埋め込んでおり、それによってゼイハブは不死に等しい身体を得ていた。ブクラテスはそれを逆手に取り、今やゼイハブの命そのものとも言える星の命を砕くべく、ナイトアックスを作り出しそれを振るうことのできる手駒を確保することで、復讐を達しようとしていたのである。そして鍛錬の完遂を期し、ブクラテスは自らが持っていた星の命をヒュウガに差し出すのだが・・・
「・・・それはお前の――星の命なんじゃないのか?」
「復讐の為に何もかも捨てるのやめろ。砕くのはゼイハブの星の命だけで十分だ」(第四十九章)
鍛錬の日々の合間にも、不自然なまでに大事そうに星の命を扱っていたその姿を見ていたヒュウガは、ブクラテスが砕かせようとしていた星の命の素性を看破してみせると、彼の復讐心を理解しながらも「星を守る戦士」として、その境遇に寄り添う姿勢を示したのであった。
このヒュウガの態度を前に、ブクラテスにも何らか思うところがあったようだが、両者が完全に分かり合う暇も与えられぬまま、執拗な追撃を続けていたシェリンダ率いる一団が再び潜伏場所の小屋を包囲。ここに至ってゴウタウラスを解放したブクラテスは、なおも共に逃げるよう促すヒュウガに対し、
「逃げろ、黒騎士。お前にはどうしてもゼイハブを倒してもらわねば・・・!」
「行くんじゃ。アースを捨てたことを、無駄にするな!」(第四十九章)
と、隠し持っていた爆弾を示しつつゼイハブ打倒を託すと、小屋に踏み込んできたヤートット達を道連れに自爆。壮絶な最期を遂げるに至った。
備考
最後の最後でその素性や背景を窺わせる要素が示されたとはいえ、悪の道に走るのみならず姪っ子可愛さに同胞までも陥れるなど、その行動原理は本質的には悪人のそれであり、ゼイハブへの復讐もまたその延長線とも言える、身勝手かつ逆恨みも同然なものであった。
とはいえ、物語終盤における描写はそうしたブクラテスの、単なる悪人とは言い難い複雑な側面を浮き彫りにし、同時に物語中盤にて黒騎士ブルブラックを通して描いてきた、復讐という行為に対する本作なりのスタンスが、ヒュウガとの関わり合いによって補強される格好となったのもまた事実である。ヒュウガ役の小川輝晃も関連書籍において、「ブクラテスは、ある意味ヒュウガに存在価値を与えてくれた人物」とのコメントを残している。
デザインは野崎明が担当。「真っ二つに折れた樽の中から現れる」というイメージで考案されたものであると後年のインタビューで語っており、知恵袋的な存在であることを念頭に置いて頭髪には本のページを捲った際のような意匠が盛り込まれている他、外観にも中世の哲学者風の、貴族的な模様や装飾が配されている。
デザイン画稿では、襟のストライプ模様が緑と茶とされている他、顎には薄っすらと髭のような表現も見られるが、造形段階においてこれらの箇所には変更が加えられており、ストライプ模様は(恐らくはイリエスとの共通項を意識してか)緑と金に改められた他、顎髭についてもオミットされている。
ネーミングも、やはり知恵袋的な存在であることを意識して「Book(本)」と「ソクラテス」をかけあわせたものであることが、放送当時の公式サイト上にて言明されていた。
CV担当の茶風林は、スーパー戦隊シリーズへの参加は本作が初となるが、東映特撮に範囲を広げると前年放送の『ビーロボカブタック』(スパイドン役)から、2年連続でのレギュラー出演を果たした格好ともなった。
関連タグ
ブロブの膜イン ウィルソン:いずれもスーパー戦隊シリーズの他作品の登場キャラクター達で、ブクラテスとはCV担当を同じくする他、後者については所持するアイテムが『ギンガマン』に因んだものともされている
エホンボーマ:『高速戦隊ターボレンジャー』に登場する敵怪人の一体。ブクラテスと同様に、本をモチーフとしている点で共通項を持ち合わせている
ドゴルド:『獣電戦隊キョウリュウジャー』の登場キャラクターの一人。敵組織の幹部でありながら、自業自得な振る舞いが災いして組織内での立場を悪化させた一方、因縁がある戦隊メンバーの一人と心通わせて最期を遂げ、ファンからの評価が二分されるなど、複数の共通項を有する
クバル:『動物戦隊ジュウオウジャー』の登場キャラクターの一人。ブクラテスと同様に故郷の星を滅ぼされ、敵組織に降ったという過去の持ち主であり、後に組織の首領への復讐を企図する点でも共通しているが、その顛末については様々な意味で対照的なものとされている。
黒ひげ危機一発:第一章にて、樽に擬態していたブクラテスがシェリンダに剣で刺され、それに驚いて本来の姿を表すというくだりが、この玩具を想起させると指摘する向きも存在する