「ギンガマン・・・命が惜しければそのままおとなしく引っ込んでることよ。ダイタニクスが復活するまではね・・・!」(第三十四章)
「ギンガマン、あんた達の力はこんなもんなの? 今度は私の番よ。一気に片付けてあげるわ!」(同上)
データ
※1:行動隊長として指揮を執るのは第二十五章「黒騎士の決意」から
※2:ケイブンシャ刊『星獣戦隊ギンガマン大百科』より出典
概要
宇宙海賊バルバンの幹部の一人で、4つの軍団のうち「イリエス魔人族」の軍団長を務める女呪術師。
エジプトのファラオを思わせる、青と金の縞模様の衣装や、全身の至る所にあしらわれたきらびやかなアクセサリーが特徴で、顔は金色の仮面と口元のベールで二重に覆っている。
「宇宙で最強の魔術を極めた」と作中でも口にしているだけあり、手にした青い水晶球を使っての魔術・妖術、それに念動力にも長けており、移動の際にも空飛ぶ絨毯を愛用する。戦闘能力も決して低くはないものの、作中では自ら配下の作戦をサポートすべく前線に赴いた際、相対したギンガブルーの腕力に抑え込まれていたこともあり、直接の戦闘は不得手としていることが窺える。
高飛車にして狡猾な性格の持ち主であり、また自らの思うように事が運ばぬと、その要因を強引に取り除かんとする排他的な面も備えている。また、身内贔屓が過ぎるきらいもあり、叔父であるブクラテスや弟のデスフィアスを軍団の中でも特に重用し、後者が戦死した際には深い嘆きと悲しみを示している。もっとも、ブクラテスに対しては都合よく利用しながらも、思い通りに事が運ばぬや否やぞんざいに扱う辺り、サンバッシュと大して変わりなかったりもするのだが……。
そして何より強調されていたのがその強欲ぶりで、金貨や宝石といった財宝、それに幹部としての立場や手柄にはとかく目がない。その強欲ぶりたるや、ゼイハブ船長に作戦成功の報酬としての金貨を事あるごとに要求し、それが通った後でもしつこいほどに念を押してもおり、後に「魔獣ダイタニクス復活が1日遅れるごとに金貨を一枚ずつ減らす」ことが失敗続きに対するペナルティとして課せられてからは、常に残り枚数を気にしていたという筋金入りの守銭奴である。
その常軌を逸した強欲ぶりには、ゼイハブをして「始末に負えねぇ」と言わしめる程で、ゆえに彼からの信頼は4軍団長の中では最低である。あの粗忽で失敗続きであったサンバッシュよりも低い辺りからも、よほどゼイハブを始め周囲の者達が彼女を白眼視していたことが窺い知れよう。
同格の幹部の一人で、泰然自若でストイックな剣将ブドーとは前述した気質ゆえにまるで反りが合わず、彼の率いるブドー魔人衆によるギンガの光探索作戦へも、自らの地位や財産の維持のため密かに干渉を加えることもあり、やがてそうした姿勢はギンガの光を確保したブドーに対する、奸計を弄しての追い落とし工作にまで発展。首尾よく事が運んでブドーが破滅を迎えたことにより、その後任として3番目の行動隊長に任命されることとなる。
「魔術的なアプローチによりダイタニクスの封印を解く」という基本姿勢の元で展開された作戦行動は、時に封印解除の一歩手前まで行くこともあった他、ギンガマンとの戦いにおいても彼等を度々苦戦せしめる等、配下達の実力自体は決して低いものではなかったのだが、行動隊長となってからもイリエスの気質は改まるどころかなお悪化する一方であり、そうしたイリエスに対しての心証の悪さや作戦失敗の連続という結果の蓄積はやがて、決定的な窮地へと自らを追い込むこととなるのである。
イリエス魔人族
イリエスを筆頭とする魔人達の軍団。詳細は当該記事を参照。
邪帝イリエス
「ようこそ、ギンガマン。我が生け贄の街に」
第三十四章でデスフィアスも含めた全ての部下を喪い、後がなくなったイリエスがその部下達の怨念を取り込む形で変貌・強化を遂げた姿。
上方へ突き出た頭側部の飾りや両肩などに通常時の面影を残すものの、その両肩や胸には怨念を取り込んだことを示すかのように、部下達の顔が浮かび上がっており(※)、両手足も爬虫類のような体表へと変化しているなど、通常時と比して全体的に禍々しさが強調された出で立ちとなっている。
主だった能力として、部下達の怨念を「亡霊怪人」という形で具現化・使役できる他、体表の部下達の顔から砲弾や強酸性のガスを発射したり、伸縮自在な両腕や無数の触手を操る等、通常時以上の強さを発揮。耐久力も並のものではなく、ギンガマン達からの攻撃を連続で受けても即座に立ち上がる程である。
前述の亡霊怪人の使役の他にも、ギンガマンや黒騎士の転生を阻害する魔法陣を構築したり、無数の吸血トカゲを発生させたりと、行使する魔術も非常に強力なものとなっている。
この邪帝としての能力と、「倒されても魂を宝石へと変え、それを元に何度でも復活できる」というゼイハブにも秘匿していたもう一つの奥の手を引っ提げ、作戦成功の暁には金貨を倍にするという、ゼイハブから提示された破格とも言える提案を快諾したイリエスは意気揚々と出陣。市街地に前述の魔法陣を構築すると、その範囲内にいた人々に吸血トカゲを寄生させ、彼等から得た9000人分の血をダイタニクスへと送り込むことで復活を遂げさせようとする。
当然、こうした行動をギンガマンが邪魔しに入ることも先刻承知であり、イリエスはかつて肉弾戦で不利に立たされた経験も踏まえ、
「闇に葬られし我が一族、今一度力を与えよ!!」
との詠唱とともに邪帝としての姿を現すと、魔法陣による効果とおびただしい数の吸血トカゲの群れとの合わせ技をもって、転生できないリョウマ達の接近を阻み、一時撤退に追い込んでみせた。
放っておけばあと数時間のうちに街の住人が全滅するという状況の中、リョウマ達は魔法陣を破壊しイリエスの魔術を破るべく、「たとえ誰かが倒れても構わず広場を目指す」決死の突撃を敢行。これにイリエスも亡霊怪人を繰り出して応戦し、次々と足止めに及んでは窮地に追い込むが、ただ一人残ったリョウマに魔法陣へと肉薄されてしまう。
このまま魔法陣を破壊されるかに見えたイリエスであったが、ここでリョウマに対し星獣剣を構えた勇太を差し向けるという、彼の心理面をも突いた一手でその動きを一時封じてみせる。しかしリョウマも、その勇太に影がないことから幻影であると看破し、炎のたてがみでこれを打ち消すと、イリエスからの触手攻撃に苦しめられながらも一瞬の隙をついてこれを突破、見事魔法陣を破壊してみせたのであった。
自らの命を賭けた最高の魔術を破られ怒りに燃えるイリエスは、転生して向かってきたギンガマンや黒騎士の攻撃を次々喰らいながらも、その度即座に立ち上がるというタフさを発揮。さらにはバルバエキスに頼らず自らの魔術で巨大化するという離れ業までやってのけると、バルバンの4人の行動隊長で唯一となる巨大戦を挑む。相対した超装光ギンガイオーとブルタウラスを伸びる両腕で翻弄し、一度はこれらを地に伏させる程の強さまでも見せつけた。この戦闘での深刻な負傷が原因で、ゴウタウラスは一時的に戦線を離脱し療養を余儀なくされる。
とはいえ、彼女の優勢もここまで。ギンガマンからの呼びかけでギガライノスとギガフェニックスが同時出撃すると、彼等の連続攻撃に圧倒された末に銀河大獣王斬りによって最期を迎えることとなる。
こうして肉体は滅び去ったものの、前述の通りこれでイリエスが完全に死んだはずもなく、その魂が転じた宝石はブクラテスが回収。彼による復活の儀式で再び元の姿を取り戻す……はずだったのだが、その目論見はゼイハブの非情な刃の前に敢え無く潰えることとなる。
「先生、俺は大抵のことには目を瞑る……たとえてめえとイリエスがブドーを陥れたってな!」
「だが今度だけは別だ。先生、長い付き合いだったが残念だぜ」
前述の「破格の提案」の時点で、イリエス(とブクラテス)の命運は既に決していた。彼女の欲深さと小狡さ、そしてブドーを陥れた際に垣間見せた、「任命された軍団の方針に手も口も出さない」という掟すら破るほどの不義理は、最早ゼイハブにとって看過しかねる域にまで達しており、作戦の成否にかかわらず2人の切り捨ては既定路線となっていたのである。
かくして、宝石と化していたイリエスの魂もバットバスによって粉々に打ち砕かれ、魔人族の作戦による不完全な封印解除の繰り返しで生じつつあった、ダイタニクスの身体の腐敗を防ぐために利用されるという、正しく因果応報な末路を迎えたのであった。
その強大な魔力は、ゼイハブ達の睨んだ通りダイタニクスの腐敗を抑える格好となったが、のみならずその心臓が動き出すという副次的な効果までももたらしており、イリエスの後釜に収まったバットバスとその配下達に、「ダイタニクスの心臓への一点集中」という明確な指針を定めさせることともなった。
(※)内訳としては、胸部にデスフィアス、右肩には上から順にバルキバルキ・ガーラガーラ・ワンガワンガ・メルダメルダ、左肩にはこれまた上から順にモルグモルグ・ヒエラヒエラ・ゲルトゲルトといった配置となっている。部下の中ではメドウメドウのみその中に含まれていないが、おそらくはギンガマンとの戦闘で散った訳ではないことも関係していると見られる。
余談
欲をかいたがために余計なことをして、バルバンという組織の足を引っ張る結果になった点はサンバッシュ魔人団のバクターと同じであるが、彼女の行動はより致命的なものであった。
ギンガマンに先んじてギンガの光を発見・入手した怒涛武者がそのままギンガの光を持ち帰っていれば、バルバンの目的である『ダイタニクスの復活』はその時点で達成され、ギンガマンを倒して地球を宝石にすることが可能だった。そこにイリエスが事実上の妨害を企てたことで、ダイタニクス復活のチャンスを棒に振ってしまった上、失脚したブドーも戦死。さらにギンガの光はギンガマンの手に渡り、彼らのパワーアップを招くことになる。
この他、イリエス魔人族の作戦で中途半端な封印解除が繰り返された結果、ダイタニクスは肉体(背中)が腐食してしまい弱体化。そのため、ゼイハブ達はせっかく復活させたダイタニクスを身限り別の魔獣に乗り換える決断をすることになる。
また、バルバンを追放されたことを恨んだブクラテスはゼイハブに対する復讐を目論み(これに関しては逆恨みも同然だが)、ゼイハブは最大の秘密にして弱点である「星の命」の存在をヒュウガに知られることになる。ブクラテスが用意したナイトアックスは結果的にゼイハブを倒すには至らなかったが、地球魔獣の打倒・消滅には大きく貢献している。
要するに、バルバンが壊滅する原因のほぼ全てをイリエスが作ったとも言える。
備考
ネーミングはプロデューサーの髙寺成紀によるもので、他の幹部達と同様に海や水棲生物に関連する語句である、「入り江」に由来したものとなっている。
デザインは妖帝・邪帝の各形態とも野崎明が担当。同じ女幹部であるシェリンダとはパッと見の印象が変わるよう、面のキャラクターとして考案されている。当初はバイオテクノロジー系の怪物然としたプランも提示されるなど、方向性の定まらなさゆえに二転三転の繰り返しであったものの、模索の末にエジプト風の妖術師的なフォルムへと落ち着き、そこからさらに魔人族のコンセプトも見えてきたという。
そうした初期のデザインの模索の中では、邪帝イリエスのような怪物に近いアイディアも提示されていたようで、それが実際の邪帝イリエスのデザインに直結しているかは定かではないが、デザイン作業に当たっては元来の女性的なテイストを残しつつも獣性・凶暴化したフォルムにどう落とし込むか、そして全ての軍団員をどんなバランスで入れ込むか、いつもと違った視点で取り組んだことを後に述懐している。
演者のうち、CV担当の高島は本作がスーパー戦隊シリーズへは初めての、そして2023年現在唯一の参加作品である。夫で特撮テレビドラマへの出演経験も多数持つ銀河万丈とは対照的に、高島のキャリアの中で特撮テレビドラマへの出演機会は極めて稀であり、本作以外では『ウルトラマンレオ』(マイティ松本夫人役)や『スターぼうず』(ジョセフィーヌ役)程度に留まっている。また、高島の代表作の一つとして『名探偵コナン』があるが、本作で絡みの多かったブクラテス役の茶風林とは同作でも共演している。
スーツアクターは蜂須賀昭二が担当。所謂「女形」は、同じくスーツアクターで双子の兄である蜂須賀祐一が得意としているが、本作での祐一は少年戦士であるギンガイエローを担当している。ちなみに昭二も兄ほどではないが、メインとするヒーローショーでのスーツアクトも含め、女性キャラクターを演じる機会は比較的多い方ではある。
本作の後日譚に当たるOV『星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー』でも他の幹部達とともに復活、2大戦隊と相まみえている。ここではギンガピンクと激戦を繰り広げており、特に敵味方の女性キャラ同士での因縁や関係性が設定されていなかった本作において、こうした女性キャラ同士での対決というシチュエーションは極めて稀なケースとも言える。
関連タグ
他作品の関連項目
女将軍ゼノビア:『科学戦隊ダイナマン』の登場人物の一人。私利私欲の強さゆえに同胞を陥れ、組織そのものに損害を与えたという点でイリエスと共通している。
10サイのロボゴーグ:『天装戦隊ゴセイジャー』の登場キャラクターの一人。たとえ撃破されても、第三者を介することで復活が可能な能力を持ち、なおかつそれを同じ組織に属する仲間によって阻まれる形で最期を迎えたという共通項を有する。
ダラダラ、破壊神ジャグール:いずれも他の特撮テレビドラマに登場する、他者の能力やその姿を取り込んだ姿を持つ怪人達。このうち前者は怪人ではなくヒーローという相違点はあるものの、その体表に取り込んだ相手の顔が浮かび上がった禍々しい姿の持ち主という点で、邪帝イリエスとの共通項を持つ。