概要
1935年京城(現ソウル)生まれ。10歳の時に終戦となり香川県に命からがら引き揚げる。この時の壮絶な経験は複数作品で主人公の過去体験として引用されており、同時に大藪自身終生変わらなかった「国家や政治権力に対する強い嫌悪感」の最初のきっかけになっている。
早稲田大学時代に学生同人誌で発表した『野獣死すべし』が江戸川乱歩の斡旋で商業誌転載され、大きな反響を呼ぶ。この時江戸川邸へ挨拶に出向いた際に応接間で長時間待ちぼうけを食らい、ムカついたのか何なのかソファで横になって寝てしまい、ようやく(大藪が来ていることを最初聞かされていなかった)乱歩が顔を出した時には大いびきをかいていた‥‥というエピソードは(真偽の程はともかく)有名。乱歩曰く「これならあの(豪快な)作品を産めるはずだ」。
その後複数作品が映画化されるなど人気流行作家の仲間入りを果たす(結局大学は中退)が、その一方で盗作疑惑や銃刀法違反、『血まみれの野獣』のプロットが後に発生した府中三億円事件に酷似していた等のお騒がせな面もあり、文壇内でも他作家達とあまり交流を持たない一匹狼ポジションにいた。
他の代表作に『蘇える金狼』『汚れた英雄』『アスファルトの虎』『女豹シリーズ(女性が主人公の異色作)』など。
1996年に死去。享年61。
作風
過去に重く複雑な傷を持つ主人公が、己の肉体と不屈の闘志を武器に強大な敵(=権力や財力)を相手にたったひとりで孤独な戦いを挑む、というのが多くの作品におけるテンプレ。主人公を官憲側(秘密捜査官や諜報員等)に置く場合も「体制のあり方には疑問多々」「自分が得をするために権力を利用しているだけ」というアナキズム的思想を持たせるのが常。
ガン(銃)、車や航空兵器といったメカ知識、そしてエロ要素が大抵どの作品にも盛り沢山で、数ページにわたってそれらの蘊蓄が延々と続く場合もある。「大藪作品からそれらを省けば何も残らない」というのが批判的書評家の言い分だが、その根底には前述した既存悪徳権力に対する憤り、夢がなくエネルギーのぶつけ所も無い若者達の焦燥・失望・空虚感、生と死の間のギリギリの人間心理、滅びの美学といった様々なメッセージ要素が込められている。
スケールの大きい作中犯罪設定は「そこまでやるか!?」と読者を驚愕させるほどのもので、例えば、
- 銀行本店の巨大金庫から87億円(公務員初任給が1万3千円程度だった時代の)を強奪。その金を使って大手鉄道会社京急電鉄(原文ママ。おそらくモデルになっているのはこっち)グループの乗っ取りを図る(『野獣死すべし 復讐編』)
- 首相を狙撃する(『暗い春』)
などなど(全部フィクションです)。勿論死体も毎回山のように積みあがる(それも些細な理由で次々と簡単に人が殺されていく)。暴力、セックス、SMシーンは言うまでもなし。
また「ステーキ、生肉、ソーセージ、チーズなど何でもかんでもキロ単位の塊食い」が当たり前な主人公達のブッ飛びすぎる食事描写も、ファンの間ではよく話のネタにされている(大藪自身の食生活も負けず劣らず相当なものだったようで、それが原因で寿命を縮めたとも言われる)。
人物
処女作『野獣死すべし』は原稿用紙160枚の作品で、薄っぺらなアマチュア同人誌に他作品の載る余地がなくなる長さだった。本人曰く「『(全部)載せないとブッ殺す!』と編集長を脅した」。
作風のベースとなったハメットやスピレインといったアメリカハードボイルド小説だけでなく、ロシア文学など幅広いジャンルの読書家だった。少々意外なことに『お伽草紙』などの太宰治作品を高く評価しており、太宰嫌いで有名な三島由紀夫(実は大藪作品の隠れファンだった)と対談した際「太宰のいいところは認めて下さい!」と執拗に食い下がり、三島をムッとさせたことがある。
大学時代に射撃部へ入って始めた銃は実生活でも一番の趣味で、米軍キャンプで行われた射撃大会で好成績を収めたり、狩猟で野生のバッファロー約40頭を一人で仕留めた等の武勇伝がある(昔の話です)。
しかし普段(仕事時や趣味以外)はいたって温和で物静かな性格の持ち主で、作品から想像される作者像とは大きく異なっていた(という、本人をよく知る当時の作家仲間達の証言が多々ある)。家族思いで、元編集者の夫人や子供達に対してはとても良き夫・良き父親だったとも。
関連タグ
仲代達矢 松田優作 藤岡弘、 草刈正雄:大藪作品映画で主役を務めた主な俳優。