呼称
「白面金毛九尾の狐」は高井蘭山『絵本三国妖婦伝』等に見られる代表的呼称である。
他の呼び名として、「金毛九尾の狐」、「三国伝来金毛玉面九尾」「九尾金毛の老狐」(『絵本玉藻伝』)「三国伝来白面九尾金毛老狐」(『玉藻前悪狐傳』)などがある。
「三国伝来」という語は仏教系の説話でも用いられるが、仏教系の「インド→中国→日本」と異なり、白面金毛九尾の狐の三国伝来は中国を出発点とする。
概要
九尾の狐の一匹。顔は白く、金色の毛並をしており、九つの尻尾を持つ。
また「玉面」とも呼ばれることから、「白」の意味は元々「美しい」という意味で与えられた表現とも考えられている。
強大な妖力の持ち主であり、その強さは全ての妖狐の中でも最強と云われている。日本では大嶽丸、酒呑童子と並ぶ日本三大妖怪と名高い。外国出身なんだけど…。
江戸時代以降、歌舞伎や人形浄瑠璃の題材としてよく採り上げられた。
中国では妲己や褒姒、インドでは華陽夫人、日本では玉藻前に化けて人々の前に現れ、世を乱した。
明代の『封神演義(封神演义)』では妲己は「千年狐狸精」が化けたものとされ尾の数についての言及はないが、それより前の元の時代に書かれた『武王伐紂平話』では九尾とされており、明代かつ『演義』より少し前に書かれた『春秋列国志伝』では九尾かつ、「千年の狐狸」である。
これが日本に持ち込まれ、玉藻前と統合される中で古い伝承では二尾であった玉藻前の尾も九尾と認識されることになる。
華陽夫人はインドの伝説に登場するマガタ国の王「斑足王」の妃として日本で設定されたキャラクターであり、インド、中国側の資料には登場しない。中国では妲己のほか褒姒も傾国の美女として知られているが、こちらも妖狐の変化とするのは日本のみの設定である。
出現の時系列
白面金毛九尾の狐の各変化とその活動を時系列順に記すと以下のようになる。
妲己(殷の最後の時代)紀元前11世紀頃
↓
褒姒(西周の12代目、幽王の時代)幽王の没年は紀元前771年
↓
華陽夫人(妲己の討伐から700年後のインド)紀元前4世紀頃
↓
若藻(吉備真備の遣唐使船に便乗し、日本に渡ってくる)紀元後8世紀
↓
玉藻前(平安時代末期、鳥羽上皇の時代)紀元後12世紀
『絵本三国妖婦伝』では妲己→華陽夫人→褒姒と順番が入れ替わっている。岡田玉山の『絵本玉藻譚』では褒姒のパートがない。
出自
彼女がどこで生まれたのか、についての古い伝承は存在しない。『封神演義』では妹分の九頭雉鶏精と玉石琵琶精と共に「軒轅墳(けんえんふん)」という場所をねぐらにしていたことが語られている。
三皇五帝の一人、黄帝の氏が軒轅氏であるが、特に黄帝との繋がりや関わりが語られることもない。
『絵本三国妖婦伝』では妲己の化けた狐の出自について壮大な設定が語られている。本書によれば天地が分かれる前から存在する宇宙の根本原理「太極」がはじめに陰と陽に分かれ、そこからさらに天地開闢が展開し、島々や大陸が形成され、鳥や獣が生じていくなか、不正の陰気が凝り固まって誕生した狐、それが彼女である。
彼女は開闢の時より年数を重ねる課程で姿を変え、全身は金色、顔は白くなり、九の尻尾を持つ「白面金毛九尾の狐」となった。
後世の創作における扱い
「白面金毛九尾の狐」の同一存在として描写されるキャラクターには以下の例がある。
- 九尾(青エク):『青の祓魔師』に登場する悪魔。アジア圏に広がる「九尾の狐」伝説のモデルとなった上級悪魔であり、華陽夫人、妲己、玉藻前といった異名を持つ。
- キャスター(Fate/EXTRA):Fateシリーズの登場キャラクター。玉藻の前を真名とするサーヴァント。古代中国で蘇妲己に成り代わった千年狐の精であり、彼女から分かたれた存在の一人であるタマモキャットの宝具にはその側面が顕われている。
関連キャラクター
- 八雲藍:東方Projectに登場する九尾の狐。原作での彼女の能力やスペルカードは狐に関する日本の呪術、山岳信仰から材をとっているが、二次創作で「白面金毛九尾の狐」と同一個体とされることがある。
- キュウコン:ポケモンシリーズ初代から登場する「きつねポケモン」。長生きすると体毛が金色になるという「金毛」要素、そして赤い瞳から放つ怪しい光で人心を自在に操る、人語を解する高い知能を持つ、1000年生きるとされる、といった「千年狐狸精」めいた特徴を持つがへんしん能力などは持たない。九人の聖者が融合して生まれたという伝説があり、キュウコンの住む山には神が訪れるとされる。リージョンフォームのアローラキュウコンは、キュウコンの同族と判明するまでは神の化身として敬われていた。基本的には「九尾の狐」の神獣としての側面がモチーフのようだ。
- スズラン(アークナイツ):アークナイツのキャラクターの元モデルとされる。
- 白面の者:『うしおととら』に登場する妖。「九尾を持つ、インド・中国・日本で猛威をふるった大妖怪」であり、上述の『絵本三国妖婦伝』の要素を取り入れたような設定も持つが、種族が妖狐とは語られておらず「白面金毛九尾の狐」やその変化たちとの同一視もされてない。
- 妲己(モンスト):『モンスターストライク』に登場するキャラクター。紫色の髪をした彼女本人が、というよりも彼女の傍らにいる狐。進化前と進化後では彼女に寄り添う一尾の小さく白い狐だが、分岐進化である神化後は『千年狐狸精 妲己』の名前になり、妲己と妖狐が合体したような姿となり、人型ではあるが髪は白髪に変わり、尻尾が9本生えている。『千年』と名が付き、そして白く9本の尻尾を持つあたり、神化後は「九尾の狐」がモチーフのようだ。余談だが、さらに上の獣神化後では進化後がベースなのか彼女と妖狐は別々のままで妖狐の姿が巨大になっている。ポーズの関係上尻尾の数は判別しづらいものの神化後と異なり、尻尾が9本あるようには見えにくい。明確な言及はされていないため不明ではあるが、進化後までには無かった白い狐の耳と尻尾が妲己本人に生えているため、妖狐が妲己に力の一部を分け与えているため尻尾が9本では無くなっているとも、神化で合体したときのみ九尾になるとも考えられる。