概要
鳥インフルエンザ(とりインフルエンザ)は、インフルエンザウイルスが鳥類に感染して起きる鳥類の感染症である。トリインフルエンザとも表記される。また、鳥インフルと略称されることがある。流行の時期には「鳥」で略称として通じてしまう事も。
鳥インフルエンザウイルスは、野生の水鳥(アヒルやカモなど)を自然宿主として存在している。水鳥の腸内で増殖し、鳥同士では糞を媒介に感染する。
ウイルスがニワトリ・ウズラ・七面鳥などに感染すると高確率で死亡するため、養鶏産業の天敵となっている。
また、一部のウイルス(H5N1、H7N9など)では鳥類に接触した人間(以降、ヒトと表記する。)への感染・発病が報告されており、今のところ、一般のヒトに感染する危険性は極めて低いが、ヒトのインフルエンザウイルスと混じり合い、ヒトからヒトへ伝染することができる能力を持つウイルスが生まれる(変異)ことが懸念されている。将来、それが爆発的感染(パンデミック)を引き起こす可能性がある。
世界での発生状況
日本を含むアジア、中東、アフリカ、ヨーロッパ、ロシアなど、世界中で発生している。
また、中国・香港・東南アジア・中東・アフリカでは人間への感染が報告されており、特に中国・香港・東南アジアでは死者も出ている。
鳥が罹患した場合の対応
家禽の場合基本的には農林水産省の指針「高病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」に従い、その農場の全ての鳥が処分される。
死体は焼却処分となり、施設も消毒され、当面周辺の鳥の移動が制限される。
農場主にとっては経済的にも精神的にも辛い作業であるが、処分作業自体も物理的に負担が大きいため自衛隊の災害派遣が行われ手伝うことがある。当然、派遣された自衛隊員にとっても精神的負担は大きい。
動物園で飼育されている個体も、陽性判定が出た場合は処分となる場合がある。
2022年11月に南紀白浜アドベンチャーワールドで飼育している鳥のうちアヒルやモモイロペリカンなど数羽が死亡したため、アヒルの他ダチョウ、エミューなど57羽が処分される事態になっている。
2022年12月に東武動物公園で飼育している鳥のうちヘビクイワシやコブハクチョウなど数羽が死亡したため、特に水鳥の死亡が多かった池のエリア「水鳥の楽園」で飼育していた12羽を処分する事態になっている。
ヒトの鳥インフルエンザ
先述の通り、鳥インフルエンザは鳥のインフルエンザであり、一般のヒトが感染するインフルエンザとは別物である。また、ヒトのインフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスでは、感染対象となる動物(宿主)が異なるため、一般的には鳥インフルエンザウイルスがヒトに直接感染する能力は低く、また感染してもヒトからヒトへの伝染は起こりにくいと考えられている。
しかし、大量のウイルスとの接触や、宿主の体質などによっては、ヒトに感染することもある。また、ヒトインフルエンザウイルス自体、水鳥の鳥インフルエンザウイルスが何らかの過程で変異して生まれたものだと考えられている。そのため、鳥インフルエンザから新型インフルエンザが発生する危険性も指摘されている。ヒトからヒトへ直接感染できるようにウイルスが変異すると、一般のヒトの間でパンデミックを引き起こす懸念があることから感染の動向が注視されている。
感染経路
ウイルスを持った鳥またはその排泄物に近づくことで感染する。
今のところ、ヒトからヒトへの感染はめったに起こらないとされているが、将来的にウイルスが変異するようになると、ヒトからヒトへの感染が容易に起こるようになる可能性があり、パンデミックを引き起こすおそれがある。
症状
初期では高熱・頭痛・筋肉痛・鼻水・咳・くしゃみ・下痢など、一般的なインフルエンザと同じような症状があらわれる。
しかし、鳥インフルエンザは一般的なインフルエンザに比べて全身への感染が起こりやすく(一般的なインフルエンザでは小さな子供や高齢者を除けば重症になることはほとんどない)、急速に全身の臓器が機能しなくなり、呼吸ができなくなって死に至ることが多い。
鳥インフルエンザの特徴として、「一般的に免疫が弱いと思われている子供や高齢者よりも、むしろ健康な若者・大人のほうが重篤になりやすい」という点がある。これは新種のウイルスが体内に入ってきたとき、サイトカインと呼ばれる物質が過剰に生産され、アレルギーに近い状態になることが原因と言われている(サイトカイン・ストーム)。要は、免疫が強すぎるために、かえって自分の体を傷つけてしまう、ということである。
現在、感染したヒトのうちの約60%が亡くなっており、非常に危険な病気といえる。
治療
一般的なインフルエンザと同様、タミフルやリレンザといった、ウイルスの活動を抑制する薬を服用する。また、症状に応じた治療を行う。
ただし、鳥インフルエンザは急速に進行するため、鳥インフルエンザと診断されたらすぐに入院し、早期に治療を開始する必要がある。
予防方法
- 死んだ鳥や弱っている鳥には近づかないようにする。
- 鶏肉や卵は決して生食せず、十分に加熱調理してから食べる。(これは、サルモネラ菌やカンピロバクターなどの細菌が起こす食中毒を予防するためにも重要である)
- 必要がない限り、鳥を扱っている農場や市場に入らないようにする。
- 感染が蔓延している時期は飼育している鳥と野鳥が接触しないようにする。ペットの鳥も屋内から出さないようにし、家禽や動物園で飼育している鳥の飼育エリアを網で覆ったり、屋内に移動して展示を停止するなどする。
法律上の扱い
日本では感染症法によって2類感染症に指定されている。これは、SARS・MERS・ポリオ・ジフテリア・結核と同じグループである。
また、ウイルスが変異した場合は新型インフルエンザとして処理する。
関連タグ
スペイン風邪:20世紀初頭に流行したインフルエンザ。鳥インフルエンザからの突然変異による新型インフルエンザだった事が判明している。
バードストライク:鳥インフルエンザと並び、鳥や人々に甚大な被害を及ぼす。
外部リンク
『鶏の平均体温は41度で、ウイルスは38.5度以上で死滅。だから鳥インフルエンザはでっち上げ』という情報がネット上で広まる