概要
『古事記』では、神産みにおいてイザナギとイザナミとの間に生まれたとされる。
『日本書紀』では、イザナギがカグツチを斬った際に生まれたとしている。
「オオヤマツミ」の「ツ」は助詞「の」に当たる古い語、「ミ」は神霊の意を表す。よって、神名は「偉大な山の神」の意。
一方、オオヤマツミは別名を「和多志大神(ワタシオオカミ)」といい、海の神としての性格も持ち合わせている。「ワタシオオカミ」の「ワタ」は「海」に当たる古い語、「シ」は「司る」ことを意味している。
つまり、この神は山と海を司る機能を兼ね備えた神であり、一般に山と海に神徳を発揮する有力神として広く信仰されてきたのである。
オオワタツミ「解せぬ」
神話
神話にオオヤマツミ自身についての記述はあまりなく、オオヤマツミの子と名乗る神が何度か登場する。
イワナガヒメとコノハナノサクヤビメ
降臨した天孫ニニギノミコトに対し、オオヤマツミは娘のイワナガヒメ(姉)とコノハナノサクヤビメ(妹)の姉妹を嫁がせる。しかしニニギは醜いイワナガヒメを実家に帰し、美しいコノハナノサクヤビメとのみ結婚してしまう。
オオヤマツミはそれを嘆き、「姉妹2人を嫁がせたのは、天孫が花のように繁栄し、岩のように永遠でいられるようにと誓約を立てたためだった。イワナガヒメを帰されたことで、天孫の御子の命は、木の花のようにはかないものとなろう」と告げた。このため、天孫の子孫(天皇)は普通の人間と同じく短命になってしまったという。
造酒を司る神
娘のコノハナノサクヤビメがニニギノミコトとの間に子を産むと、オオヤマツミは大層よろこび、狭名田の茂穂(“よく実った米”の意)で甘酒(天甜酒 / あめのたむざけ)を造り、天地の神々に振る舞った。これが酒造のはじめとされ、オオヤマツミは「酒解神(サケトケノカミ)」、コノハナノサクヤビメは「酒解子神(サケトケノコノカミ)」と呼ばれ、造酒の神としても祀られることとなった。
山の神は豊作の神でもあり、その穀物からつくられる酒の精霊は山の神の分身ということにもなる。そこで穀物から酒を醸造した始まりとされる神話が生まれたと思われる。
※狭名田 … 日本最古の水田。ニニギノミコトがはじめて水稲を作ったといわれている。場所は現在の鹿児島県霧島市。
オオヤマツミの子とされる神
- 天之狭土神・国之狭土神 … 山の土を司る神々。
- 天之狭霧神・国之狭霧神 … 山の霧を司る神々。
- 天之闇戸神・国之闇戸神 … 谷、または谷間の入口を守る神々。
- 大戸惑子神・大戸惑女神 … 山の傾斜面(あるいは窪地)を司る神々。
※「天」と「国」は対語で、男女、陰陽と同様であり、対神である事を示す。「サ」は接頭語。
- アシナヅチ・テナヅチ … 夫婦神。クシナダヒメの両親。
- カムオオイチヒメ(神大市比売神) … クシナダヒメの次にスサノオの妻となり、ウカノミタマ(稲荷神)と大年神を産んだ。
- イワナガヒメ … 岩の永遠性を表し、不老長生を司る神。
- コノハナノサクヤビメ … ニニギノミコトの妻で、ホデリ(海幸彦)・ホスセリ・ホオリ(山幸彦)の母。
- コノハナチルヒメ(木花知流比売) … ヤシマジヌミ(八島士奴美神)の妻で、フハノモヂクヌスヌ(布波能母遅久奴須奴)の母。フハノモヂクヌスヌの子孫が大国主である。
オオヤマツミを祀る神社
全国の大山祇神社(山積神社 / 大山積神社 / 大山津見神社含む)。
その他、全国の三島神社(三嶋神社)はオオヤマツミの神霊を勧請したもの。オオヤマツミを主神とする三島系の神社は一万余を数える。
代表的な神社としては、三島神社や大山祇神社の総本社とされる大山祇神社(愛媛県今治市大三島)や、これも三島神社の総本社とされる三嶋大社(静岡県三島市)が有名である。
これ以外の神社として、大山阿夫利神社(神奈川県伊勢原市)や梅宮大社(京都市右京区)でも主祭神として祀られているほか、浅間神社等にも配神されていることがある。
別名・表記揺れ
大山津見神 / 大山津見 大山祇神 / 大山祇 大山積神 大山祇御祖命 和多志大神 酒解神
関連タグ
オオヤマクイ(大山咋神) … オオヤマツミの孫で、同じく山の神とされている。
高崎くす子 … オオヤマツミの娘という設定のキャラクター。