プロフィール
名前 | トルカータータッソ |
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欧字表記 | Torquator Tasso |
品種 | サラブレッド |
性別 | 牡 |
毛色 | 栗毛 |
誕生日 | 2017年4月21日 |
父 | アドラーフルーク |
母 | Tucana |
母父 | Toylsome |
産地 | ドイツ |
管理調教師 | マルセル・ヴァイス(ドイツ) |
生産 | Paul H. Vandeberg |
馬主 | Gestut Auenquelle |
主な勝ち鞍 | ベルリン大賞(2020)/バーデン大賞(2021)/凱旋門賞(2021) |
概要
生産・調教ともにドイツの競走馬。
強豪ひしめく2021年凱旋門賞の優勝馬で、おもに地元ドイツで活躍している。現時点でG1・3勝。
因みに馬名は16世紀のイタリアの叙事詩人であるトルクァート・タッソが由来。
このような馬名になったのはどうやら手続き時のミスによるものらしく、由来となった詩人と同じく『Torquato Tasso』となる予定が、「r」のスペルが誤って入ってしまい、『Torquator Tasso』となってしまったようである。
評価/強み
脚質は先行~差し。レース中は中団付近に控えて、終盤で前に出て差し切る競馬を得意とする。
凱旋門賞後のインタビューなどからわかるように人懐っこく、騎手の指示に従わなかったり、騎手を振り落とそうとしたりもしない。
気候ゆえに重馬場得意な傾向のあるドイツ馬の例にもれず、本馬も重馬場が大得意な重馬場巧者。凱旋門賞では糊のようにグチョグチョの重馬場を物ともせずに勝利を収めている。
生涯/戦績
デビュー前
2017年4月21日、ベルギーのオーナーブリーダー(馬主兼生産者、日本ではメジロ牧場などが有名)、ポール・ヴァンデベルクがドイツに所有する牧場にて生を受けた。
オーナーブリーダーの元に生まれたものの本馬はセリに出され、ドイツの競走馬生産牧場「アウエンケルスタッドファーム」に購入された。
その後、女性調教師・マルセル・ヴァイスの厩舎に預託され、競走馬生活がスタート。
ちなみに、ヴァイス調教師はこの年に自分の厩舎を開業したばかりの新人調教師で、トルカータータッソはヴァイス厩舎初めての管理馬の一頭となった。
メイクデビュー~3歳時
トルカータータッソのデビューは遅く、3歳になってからであった。
陣営がデビュー戦に選んだのは、2020年5月9日のスペルドルフ賞(未勝利戦・ミュールハイム競馬場芝2000m)。R.ピエチュレク騎手を鞍上に迎え、11頭中6番人気に推されるも、4着と敗北。
次走は、1か月後の条件戦、ジョージアルヌルレネン(ケルン競馬場芝2200m)鞍上はB.ムルザバイェフに乗り替わりとなった。
8頭中2番人気であったものの、見事に勝利をおさめ、未勝利脱出を果たした。
重賞初挑戦
無事に未勝利脱出を果たしたトルカータータッソ。陣営は次走に、初の重賞かつG1初挑戦となるドイチェスダービー(ハンブルク競馬場 芝2400m)を選択。
ダービーだけあって錚々たるメンツが顔を連ねる中、条件戦で1勝したのみの本馬は完全な穴馬扱いで、単勝オッズ23.2倍、18頭中9番人気だった。
そして7月12日のダービー本番、騎手は再び乗り替わりJ.ミッチェル。道中は控えめな競馬で進むも、最終直線で一気の追い上げを見せ、並み居る他馬を交わして2着。
1着のインスウープを3/4馬身差まで追い詰めた。
初重賞で2着に食い込み、次走は9月13日のG1バーデン大賞(バーデンバーデン競馬場・芝2400メートル)。
今度は堂々の1番人気に推されるも、イギリスから遠征してきたバーニーロイとコミュニケをとらえることができずに3着。
そして陣営は、次走を10月3日にホッペガルテン競馬場で行われるベルリン大賞に定めた。
重賞初勝利
そして、いざ始まったベルリン大賞(G1・芝2400m)。
こちらでも1番人気に支持され、いつものように中団付近に控えて最後で抜け出す競馬となった。
稍重の馬場を物ともせず、猛追を駆けてきた2番人気ディカプリオをアタマ差で交わして勝利。
重賞初制覇がG1という僥倖を手にした。
その後は、G1連勝を狙って11月8日のミュンヘン競馬場でのバイエルン大賞(G1・芝2400m)に挑戦するも2着。
この時トルカータータッソをクビ差で破ったのは、単勝23.7倍の伏兵サニークイーン。まるでダービー時の自身のような境遇の馬に、トルカータータッソは久々の敗北を味わうこととなった。
4歳時
迎えた4歳シーズン、トルカータータッソは6月6日のバーデン経済大賞(G2・ミュールハイム・芝2200m)から始動。しかし、ここでは6着と大敗してしまう。
しかし、次走のハンザ大賞(G2・ハンブルク・芝2400m)では、見事1着をつかみ取る。
このレースには、前々走でトルカータータッソを破ったサニークイーンも出走しており、そのサニークイーンに4馬身半差で雪辱を果たした。
連覇を狙うベルリン大賞では1番人気に支持されるが、このレースから翌年の凱旋門賞までG1を6連勝することになるイギリスからの遠征馬アルピニスタに2.1/2馬身差を付けられる2着に敗れる。
続くバーデン大賞(G1・バーデンバーデン・芝2400m)では1番人気に応えるGⅠ2勝目で、凱旋門賞に弾みをつけた。
凱旋門賞2021
凱旋門賞を控えたころ、事前の大手ブックメーカーのオッズでは、トルカータータッソは単勝81倍の14頭中13番人気、当日のJRAのオッズでも単勝110.5倍のブービー人気だった。
それもそのはず、凱旋門賞のメンツには
- 第242回英ダービーの勝馬であり、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスも勝利したアダイヤー
- 凱旋門賞と同じパリロンシャン芝2400mのパリ大賞で、後続を6馬身ちぎり捨てたハリケーンレーン
- 欧州最強との呼び声も高いタルナワ
- 日本馬の悲願を背負い、グランプリ3連覇のクロノジェネシスと、凱旋門賞の前哨戦、フォワ賞を勝利したディープボンド
- ヨークシャー、英オークスを大差で勝利し、鞍上に「熱いナイフでバターを切る様な感覚になった」とまで言わしめ、かつ3歳牝馬で斤量も軽いディープインパクト産駒、スノーフォール
- そのスノーフォールと同じ厩舎で、鞍上に日本のレジェンド、武豊を迎えたブルーム
などの有力馬がそろっており、これまで国外の競走に出たことがなく、ただでさえ一段低く見られがちなドイツ馬のトルカータータッソは完全に穴馬扱いだったのである。
そして2021年10月3日、14頭の駿馬が世界中からパリロンシャン競馬場に集った。
当日、パリロンシャンの馬場は、降り続いた雨でとんでもない重馬場になっており、各馬がどのようにレースを進めるかが注目された。
ゲートが開くと、武豊騎乗のブルームが先頭に立ち、日本からのクロノジェネシスが大外を回って2番手につける。
トルカータータッソは一瞬先頭集団に取りついたものの、いったん下がって中団に控え、そのままフォルス・ストレートを過ぎて最終直線に入ったところで進出を開始。
タルナワ、ハリケーンレーンが先頭争いを演じているところを外から強襲し、そのまま抜け出し先頭に立つ。
そして、栄光のゴール板を真っ先に通過した。
このレースで、トルカータータッソはドイツ馬としては2011年のデインドリーム以来となる凱旋門賞馬という名声のみならず「初めて女性馬主、女性調教師で凱旋門賞を制覇した馬」という栄誉を手にすることとなった。
レース後、ヴァイス調教師は「言葉が出ない。今年の凱旋門賞を考えたら4着か5着でも喜べると思っていた。馬場が助けてくれたね」とコメント。天をも味方につけた勝利だった。
凱旋門賞後
凱旋門賞の後は、バーデン大賞で得た優先出走権を使いジャパンカップに参戦するなど複数の選択肢があったものの、来日は見送られた。年内は休養し、来年に向けて英気を養うとのことである。
5歳時
5歳シーズンの始動戦は昨年と同じくバーデン経済大賞。1番人気に推されるが昨年と同じく6着に敗退。しかし、続くハンザ大賞では2着のノーザンルーラーから3馬身を引き離して快勝した。
その後は再び凱旋門賞を目指し、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス(アスコット競馬場・G1・芝2400m)へと挑むこととなった。
6頭立てという小頭数でのレースとなったが、昨年のドバイシーマクラシック優勝馬ミシュリフ、昨年BCターフを僅差で二着のブルーム、アイリッシュダービー馬ウエストオーバーと強豪が出揃った。
しかし、本番では最低人気の伏兵・パイルドライヴァーが激走。最終コーナーから左にヨレながらも突き放し、追い込みに来たトルカータータッソを寄せ付けずに押し切られてしまった。
次走は昨年と同じく凱旋門賞へのステップレースとしたバーデン大賞だが、契約上の都合でここまで鞍を務めたピーチュレク騎手が降板。代わりにL.デットーリ騎手が凱旋門賞までの鞍上を務めることになった。
わずか4頭と超低頭数となったレースでは、トルカータータッソは前目につける競馬で、最終直線までドイチェスダービー馬のサンマルコと競り合う展開となったが、競り合いから抜け出した最後の直線で自身と同じくアドラーフルーク産駒の伏兵・メンドシーノに差し切られ2着。奇しくもその鞍上は前走までのパートナーのピーチュレク騎手だった。
凱旋門賞2022
そして再び挑むこととなった凱旋門賞。
今回は挑まれる側となったトルカータータッソ。大手ブックメーカーのオッズでは8.5倍の3番人気、JRAのオッズでは9.4倍の6番人気だった。
今回もメンバーは豪華で、
- ここまで欧州のGⅠを5連勝中の芦毛のヒロイン・アルピニスタ
- 愛チャンピオンステークスを勝ち、挑めなかったザ・ダービーの雪辱を誓う、ルクセンブルク
- 同年の仏ダービーを征したの地元フランス勢のヴァデニ
- 日本勢からは現役最強ステイヤー・タイトルホルダー、武豊騎乗の日本ダービー馬、ドウデュース、昨年に引き続き挑む、ディープボンド、出走馬最高齢の7歳である愚直なる老兵・ステイフーリッシュの4頭。
らを代表に、他にも各国から有力馬が集う豪華な様相となった。
そして馬場は昨年と同じく土砂降りの超重馬場。重馬場巧者のトルカータータッソには格好の条件だった。
レースではタイトルホルダーが逃げを打つ展開となり、トルカータータッソは2番手集団のやや後ろに控える形となった。終盤、フォルス・ストレートを超えてタイトルホルダーが失速すると一気に抜け出しを図るが、早めに抜け出したアルピニスタ、ヴァデニを追うことができず、3着に惜敗。
しかしながら2年連続の複勝内であり、重馬場巧者の面目躍如といったところだろう。
引退へ
その後はジャパンカップに予備登録していたが、回避することとなり、そのまま現役を引退して種牡馬となることが決定された。
余談だが、回避したジャパンカップには半弟のテュネスが出走し、ゲートで暴れて出走を遅らせてしまったものの、後方から追い込み9着に入る健闘を見せた。
余談
友情の勝利
凱旋門賞で鞍上を務めたのはレネ・ピーチェレク騎手だが、実は彼が使っていた鞍はジャパンカップや短期免許で来日し、アイヴォンホウやイトウに騎乗したフィリップ・ミナリク騎手のものだった。
ミナリク騎手とピーチェレク騎手は親友で、ピーチェレク騎手はジャパンカップの際も調教担当として一緒に来日していたという。
ミナリク騎手は前々から「凱旋門賞に出たい」と話していたが、2020年に落馬事故に遭遇。一時期意識不明の重体となる重傷を負い、命を取り止めたものの引退を余儀なくされてしまった。
騎手を引退する際、ミナリク騎手は自分の愛用していた鞍をピーチェレク騎手に譲り、そしてピーチェレク騎手は、凱旋門賞に出たがっていた親友の鞍で凱旋門賞を勝利。
まさに友情の末の勝利であった。
ちなみに、その鞍はジャパンカップで来日した際、美浦トレセンで購入したものであり、北海道に本社を置く馬具メーカー、「ソメスサドル」が製作したものとなっている。
実はかわいいトルカータータッソ
凱旋門賞では、勝利馬が馬主、調教師、騎手とともに、輓馬の引く特設ステージでインタビューを受けるのが恒例である。
普通の馬であれば大人しく立っているのだが、トルカータータッソは違った。
まずは鞍上を務めたピーチェレク騎手をねぎらうように顔を擦り付け、続いて向かって左で手綱を取るヴァイス調教師とさらにその隣の馬主にも頬ずりをした。
調教師や騎手、さらには馬主との絆の深さをうかがえる場面であり、日本の競馬ファンたちからは「かわいい」という評価が寄せられ、一時期Twitterでは、「トルカータータッソ」と入力すると「かわいい」というサジェストが出てくるようになった。
曾祖父の無念
トルカータータッソの血統をたどると、母方の曾祖父にドイツの伝説的強豪馬アカテナンゴがいるが、そのアカテナンゴは1986年の凱旋門賞に出走した事がある。因みにアカテナンゴは凱旋門賞に臨む一月前にドイツのGⅠレースであるバーデン大賞を5馬身差の大差で制しており、此処までGⅠ4連勝を含む12連勝を記録。その為か国外レース未出走ながら5番人気を獲得していた。
しかし結果はキングヘイローやキョウエイマーチの父親であるダンシングブレーヴの7着で入線という敗戦を喫した為、トルカータータッソは曾祖父アカテナンゴの無念を晴らした形となった。
また、殿負け(14着)を喫したディープボンドは母方の曾祖父がそのダンシングブレーヴであり、ある意味二重でアカテナンゴの雪辱を果たしている。
30年前の有馬記念の番狂わせとの関連...?
トルカータータッソが勝利の栄誉を手にした2021年の凱旋門賞。
このレースの結果は2着が2番人気のアイルランドのタルナワ、3着が1番人気のイギリスのハリケーンレーンであった。
図らずもトルカータータッソはまるで1991年の有馬記念を世紀の大番狂わせとして制覇した馬の様な結果を作っている。
この時も優勝したダイユウサクはブービーの14番人気、2着が1番人気のメジロマックイーン、3着が2番人気のナイスネイチャという着順である(因みにダイユウサクのレース内容はスタートから中団に位置を取り、最終直線で追い込みをかけて制するという、トルカータータッソとほぼ全く同じ戦法だった)。
また、登録ミスによって『ダイコウサク』となる予定が『ダイユウサク』となってしまうという馬名に関する共通項も存在する。
重馬場◎
トルカータータッソが2021年の凱旋門賞を制したというのは日本においては驚かれており、日本国内におけるトルカータータッソの凱旋門賞のオッズは単勝110.5倍の穴馬。しかし、情報を駆使して見事引き当てた猛者もいた。
というのもドイツ馬は重馬場に強いとされており、先述したように凱旋門賞当時は糊のような重馬場だった為、そこを調べれていれば取れた可能性が高かったのである。
いつの時代でも、競馬では情報収集が大切であることがわかる話となった。
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