概要
1987年7月21日発売。ロボットをテーマにした8本の短編から成り立つオムニバス形式のOVA。北久保弘之と森本晃司を中心とする8人のクリエイター達がそれぞれお題に沿って制作した作品で構成されている。
タイトルにもあるロボットという共通の題材を除けば、収録作品はいずれも千差万別であり、それぞれの作り手による独自の解釈と自由な発想が存分に活かされている。
どの作品も緻密でハイクオリティなアニメーションが特徴的であり、制作の背景にある1980年代後半のバブル景気を彷彿とさせるが、当然ながら各作品の完成度はそれぞれの作者の手腕によるものが最も大きい。
一部例外を除いてこれといった台詞が全く存在せず、作中での舞台や人名はほとんど明らかにされていない。発売後に組まれた月刊OUTの特集では、それぞれの作品のモチーフや用語が作者らによって記載されている。
本作のオープニングとエンディングを手掛けた大友克洋は、当時「AKIRA」のアニメ映画化の真っ只中であり、本作発売の翌年に劇場公開された。
オープニング
あらすじ
荒廃した砂漠地帯の小さな集落。そこへ一枚のポスターが風に舞い、ある少年の元に届く。それを見た少年は仰天し、慌てて村中にそのことを知らせる。人々は恐れおののき、家の戸締りを厳重にし、身を寄せ合いながら震える。そんな人々の元へ「ROBOT CARNIVAL」と書かれた巨大なロゴが迫って来る。ロゴは壮大な音楽と華やかな花火、さらに無数の可愛らしいロボットを連れて集落を潰しながらどんどん進行していく。遠く離れた崖に逃げのびた僅かな人々は、その様子を黙って眺める以外に何もできないのだった。
スタッフ
監督・シナリオ・絵コンテ-大友克洋
キャラクターデザイン・原画-福島敦子
美術-山本二三
効果-佐藤一俊
制作背景
当時制作中の「AKIRA」の監督を務めた大友克洋が同時進行で制作。20世紀フォックスのオープニングに着想を得ている。
フランケンの歯車
あらすじ
とある城の薄暗い研究所。巨大な地球儀を背負った博士が得体の知れない何かの研究に没頭していた。やがてその対象物の動きに不具合が見られ、慌てふためいた博士はそこら中のハンドルやレバーを操作して復旧を試みる。しかし、程なくしてそれは止まってしまった。研究が失敗に終わったと落胆する博士。するとどうしたことか、壊れたと思われていた研究の対象物、即ち巨大なロボットが再び息を吹き返したかのように動き出したのだった。
スタッフ
監督・シナリオ・キャラクターデザイン-森本晃司
美術-池畑祐治
効果-佐藤一俊
制作背景
森本は制作にあたって、地味な部分をいかに楽しく動かすかを意識したと語っており、終盤でロボットが動き出すシーンの研究所内の作画にその思いが表れている。タイトルにもある通り元ネタはフランケンシュタイン。
DEPRIVE
あらすじ
平和な未来都市に、宇宙船でやって来た邪悪なロボット兵団が攻めて来た。そこで一体のアンドロイドが、友達の人間の少女リームを敵に連れさられた上に倒されてしまう。
場面は一転して荒野に変わり、突如現れた青年ツムジがロボット兵を一蹴し、ロボット兵団の親玉カムラ・トルーの根城へ単身乗り込む。そこには、誘拐されたリームの姿があった。リームを巡ってカムラと格闘していくうちに、ツムジの姿は揺らいでいき、機械で出来た真の姿が露わになる。ツムジの正体は目の前でリームを奪われたあのアンドロイドだった。死闘の末、カムラを撃破したツムジはリームと共に荒野の彼方へ戻っていくのだった。
スタッフ
監督・シナリオ・キャラクターデザイン-大森英敏
美術-松本健治
効果-佐々木純一
制作背景
全作品中、最もお題に沿った内容の王道ロボットアニメ。勧善懲悪というシンプルなテーマではありながらも、僅か10分の間にストーリーが凝縮されており、テンポの良い作品に仕上がっている。監督の大森は本作について、「見終わった後スカッとするような作品になれば良い」とコメントしている。モチーフは「ストリートオブファイヤー」と「新造人間キャシャーン」。
プレゼンス
あらすじ
科学技術が高度に発達し、人間とロボットが共存する近未来の街。男はある秘密を持っていた。それは妻子持ちでありながら、なお純粋な女性に憧れて少女のロボットを製造していたことだった。見た目は人間と変わらないが、ロボットであるが故に恋愛という感情を持たないという、切ない想いを抱きながらも、男は少女を眺めて悦に浸るのだった。そんなある日、少女は突然自主的に動き出し、プログラムされていない筈の言葉を発した。「恋をしたいの」そう言う少女に対して男は、ロボットが人格を持つなど有り得ないと否定し、遂には自らの手で少女を破壊してしまう。
時が過ぎ、孫のいる老人となった男は遠い昔のあの日のことを思い出す。結局自分は彼女のあしながおじさんにはなれなかったと呟いた時、ふと前を見るとあの少女が、それもあの頃と全く変わらない姿で立っていた。男は目に涙を浮かべながら、少女を眺めていた。
しばらくして妻が男を呼び出すが、男の姿はどこにもない。不思議に思っていると、地平線に向かって少女と手を繋ぎながら歩いていく男の姿が、ふと見えたような気がするのだった。
スタッフ
監督・シナリオ・キャラクターデザイン-梅津泰臣
美術-山川晃
効果-森賢二
登場人物
男
声-森次晃嗣
主人公。普段は父親として、また夫として、家庭を支えるサラリーマンだが、ある時は秘密の場所でロボットとの叶わぬ恋に酔いしれる一面も持ち併せている。ロボットの少女が自我を持ち始めたように想いを語り出した際、混乱と恐怖に駆られてレンチで少女を殴りつけ、再起不能にした後に涙する。
その後月日が流れて老人となり、ベランダで物思いにふけている内に、かつて自分が愛し、そして破壊した筈の少女の姿を目にする。その後の行方は不明。
少女
声-町田涼子
男が家族に内緒で造り上げた人型のロボット。外見は10代後半ぐらいの少女の姿で、緑色の髪に紅い唇、エメラルドのような目が特徴。服装はピンクを基調としており、ウエストリボン付きの蒼いフレアスカート、髪には大小のカラフルなリボン、星型の耳飾りと、ロリータファッションを連想させる。
通常は何も話さないが、ある日プログラムに内蔵されていない筈の「恋」にまつわる言葉を話し、正気を失った男によって破壊される。
その後、年老いた男の家に現れ、男の目の前でバラバラに砕け散る。最終的に男と一緒にどこかへ消えていく様子が妻に目撃されている。少女が男の幻覚だったのか、あるいは本当に甦ったのかは定かではない。
妻
声-花形恵子
娘
孫
声-藤枝成子
同僚
声-梅津秀行
通行人
街の子ども
小型メカ
声-滝沢久美子
制作背景
キャラクターの滑らかな動作、服やリボンの細かい動き、埃や水溜まりといった自然現象の表現など、隅々にまでこだわったリアルな作画が全編に渡って見られる。男の陰りを含んだ内面や屈折した感情の描写が、ロボットの少女と神秘的な世界観によって儚く美しく展開されている。監督の梅津によれば映像は映画の影響を多分に受けているという。
内容に関しては不明瞭な点が散見されるが、梅津は「観客によってその映画が多様に生きる」「あえて具体的な説明は避けたい」とし、頭を空にして見た後、自由に楽しんでほしいと語っている。また、収録作品の中では珍しく、僅かではあるが台詞が存在する。
STARLIGHT ANGEL
あらすじ
海に浮かぶ夜の遊園地にて、二人の金髪と茶髪の少女が思い思いにアトラクションを楽しんでいた。しかし帰り際にボーイフレンドが親友と二股をかけていたことが判明、思いも寄らぬ失恋を経験した茶髪の少女は泣きながら園内へ駆け戻る。その際に少女が落としたペンダントを拾った一人の案内役のロボットは、持ち主の元へ届けようと後を追う。嘘をつかれた上に親友を傷つけられたことで彼氏を見はなした金髪の少女は、茶髪の少女を探しに行く。
茶髪の少女は未知の施設に迷い混んでいた。ロボットアームに掴まれ、不穏なアトラクションに乗せられて少女は助けを求める。するとそこへ案内役のロボットがペンダントを持って駆けつけて来た。しかし、ペンダントの中のかつてのボーイフレンドの写真を見た少女は拒絶し、直後に巨大なロボットに襲われそうになる。間一髪で案内役のロボットに救われるが、そのロボットの中からハンサムな青年の顔が現れる。青年に抱きかかえられ、悪のロボットの魔の手から逃れた少女は彼に見惚れる。
気がつくと、心配して探しに来た金髪の少女と出会った茶髪の少女。あれは夢だったのか、そう思っていると出口にあの青年が笑顔で立っており、少女も笑顔で駆け寄るのだった。
スタッフ
監督・シナリオ・キャラクターデザイン-北爪宏幸
美術-島崎唯
効果-森賢二
制作背景
メルヘンチックなストーリーと世界観が特徴。北爪は本作について、全編通しての主人公の感情変化とムードを重視したという。大まかなモチーフはディズニーランド。
CLOUD
スタッフ
監督・シナリオ・キャラクターデザイン・美術-マオムラド
原画-大橋学
効果-スワラプロ
制作背景
俯いたまま静かに歩き続ける小さなロボットと、絶え間無く変化する背景の雲をひたすら描いた作品。起伏のない音楽も相まって幻想的な映像に仕上がっている。
ちなみにマオムラドは大橋の別名義である。
明治からくり文明奇譚〜紅毛人襲来之巻〜
あらすじ
時は明治初期。場所は江戸の港町。
ジパングの黄金を狙う凶悪な博士が巨大なメカを操って侵攻してきた。これに対抗するべく、駒形三吉を始めとする青少年5人組は、大からくりみこし「陸蒸気弁慶」を発進させる。敵が大砲を撃てば花火筒で応戦したり、敵がバッテリー切れになったかと思えばこちらも石炭が底をついてしまうなど、両陣営とも一進一退。最終的に敵のメカを背負い投げで川に投げ落とそうとするも、からくりみこしの方も壊れてしまい、町には川の水が大量に押し寄せてしまい、大混乱。
すったもんだの大騒動の末に、ボロボロになり果ててしまった長屋に沈む夕日をバックに、三吉達の奮闘は幕を閉じる。
スタッフ
監督・シナリオ-北久保弘之
キャラクターデザイン-貞本義行
メカニックデザイン-前田真宏
美術-佐々木洋
効果-佐々木純一
登場人物
三吉
声-富山敬
本作の主人公。目明かしの息子で、典型的な江戸っ子気質の熱血漢。短気で暑苦しい性分であり、その気になれば(向こうから先制攻撃してきたとは言え)殺人も辞さないという、人としてはかなり危ない男。
元は祭り用に長屋の人々が造った大からくりみこしを勝手に動かし、悪党博士と対決する。陸蒸気弁慶では皆に指示を出す指揮官役。
最終的に町中が滅茶苦茶になってしまったが、勝負には勝ったと豪語し、ドサクサに紛れてやよいの肩に手を回して彼女の逆鱗に触れ、制裁を受けて絶叫する。
やよい
声-横山智佐
成り上がりの華族の娘。三吉を始め皆とは幼馴染である。弁慶の左腕の動作を担当する。勝気でおてんばな性格であり、三吉とはよく衝突するようで喧嘩が絶えないが、三吉は彼女に好意を抱いているらしく、両者とも何かと仲は良い様子。
ふく助
声-三輪勝恵
からくり職人の息子。小柄な体に丸眼鏡とインテリ風の外見。しかし、気が弱い上に役に立たない知識ばかり身につけているため若干頼りない。弁慶の右腕の操作を担当する。
伝次郎
声-塩沢兼人
花火職人の息子。ボーッとしていて表情の変化がほとんどなく、煮え切らない性格。その性質は敵に攻撃されている真っ最中でありながらも呑気に鼻をほじっている程。対決で用いられた花火筒は、元々伝次郎の家の物に三吉が細工を施した代物である。弁慶では足の操作を担当。
大丸
声-西尾徳
大工の息子。大柄な体格で筋肉で物を考える。弁慶のボイラーに石炭を焚べる役を担当するが、石炭が切れてしまい、弁慶の表面の板を剥がして場を持たせた。三吉と共に花火筒で敵を迎え撃つが、博士を狙い撃ちしようとする三吉にツッコミを入れるなど、暴走気味の彼よりは比較的常識人である。
ジャン・ジャック・ボーカーソン三世
声-James・R・Bowers
外国から侵略に来た、天才を自称するマッドサイエンティスト。精神状態がおかしく、挙動不審。東方見聞録の文面を勘違いし、江戸にあると思い込んでいる黄金を求め、「我が愛しのティンカー・ベル号」を乗り回し町を破壊する。三吉達の陸蒸気弁慶と交戦するも敗れ、リベンジを誓いつつよろよろと海の向こうへ帰って行った。
制作背景
全作品中最も分かりやすい単純明快なスラップスティックコメディであり、SF作品が大半を占める中、「和」の要素を全面に出した異色作。監督の北久保は自分が今までに感じた、大きなもの、民衆、祭り、発狂、といったイメージが作る上で影響を与えたと振り返っている。逃げ惑う人々や崩れていく町並み、そして巨大なメカの描写など、極めて精巧で且つダイナミックな作画が随所に見られる。また、終盤の三吉と博士が唖然とするシーンは「サルタン防衛隊」のクライマックスのオマージュであると後に北久保が明かしている。
キャラクターの名前や明確な台詞と会話が存在する唯一の作品である。
ニワトリ男と赤い首
あらすじ
深夜になると街は巨大な怪物の影に覆われ、街中を異様な機械の群れが徘徊し始める。その様子を偶然目撃してしまった一人の酔っぱらいは、魔の宴会の番人であり、一輪車に乗ったロボットのニワトリ男に追われるはめに。スクーターで必死に逃げ惑う酔っぱらいと何処までも追いかけるニワトリ男を他所に、機械の怪物達の祝祭は激しさと狂気を増していく。
スタッフ
監督・シナリオ・キャラクターデザイン-なかむらたかし
美術-沢井裕滋
効果-佐々木純一
制作背景
禍々しくも神秘的な映像が特徴。なかむらは制作にあたって、ある写真集の鉄屑のオブジェを見て、機械が壊されて鉄屑になって新たなオブジェを形作る所にあたたか味と色気を感じたと語っている。その他にも影響されたイメージはあったようだが、なかむらは「あるんだけど教えない」として明らかにしていない。
怪物達の宴会を始めとする全体的な雰囲気は「ファンタジア」の一編「禿山の一夜」を、酔っぱらいとニワトリ男のチェイスシーンは「イカボード先生の怖い森の夜」を連想させる。
エンディング
あらすじ
夜。進行を続けていた巨大なロゴは、やがて砂漠地帯の真ん中で停止した。そして、かつてそのカーニバルが人々に拍手で迎えられていた栄光の日々の回想が流れる。陽が上がり、再び動き始めた途端、寿命が尽きたのかその巨体は崩壊し、砂漠に散った。
ラクダを連れた旅人がその残骸を見つけ、小さな綺麗な金属球を子ども達への土産に持って帰った。その夜、家に着いた旅人がその球をテーブルに置いてみると、中から優しい光と愉快な音楽と共に、小さくて愛らしい踊り子のロボットが現れた。その様子に子ども達は大喜び。しかし、直後にそれは眩い光を放って大爆発し、さらに空から落下してきた巨大な「THE END」の文字に家が押し潰され、幕引きとなる。
スタッフ
監督・シナリオ・絵コンテ-大友克洋
キャラクターデザイン・原画-福島敦子
美術-山本二三
効果-佐藤一俊
総合スタッフ
演出助手-木村哲
検査-滝口佳子
撮影監督-森田俊昭
音響監督-本田保利
撮影-トランスアーツ