『日本海大海戦』とは、1969年8月公開の東宝の戦争映画。丸山誠治監督作品。
概要
義和団の乱に端を発する日露戦争の開戦、乃木希典による旅順攻略戦(二〇三高地)を経て日本海海戦に至るまでを描く東宝8.15シリーズの第3作。
常陸丸事件が描かれる一方で蔚山沖海戦は上村中将の台詞のみで処理されるなど省略が目立つが、日露戦争の主要な戦闘を忠実に描いている。
戦艦三笠の本編撮影は『青島要塞爆撃命令』の戦艦周防に続いて横須賀で記念館として復元された実際の三笠艦内で撮影しており、三笠保存会協力のもと溶接されていた大砲を可動するように復元して撮影している。
特撮
本作は円谷英二が特技監督として参加した実質的に最後の映画である。航空機の存在しない時代の海戦を再現するため、美術スタッフを総動員して107隻もの軍艦の模型を新規に制作。日本海海戦の敵前大回頭を再現するため従来より小型の3m級の模型も制作している。このサイズの模型だけでも日本海軍艦を27隻、ロシア海軍艦を23隻制作したとされる。
戦艦三笠は13m級の超大型の鋼鉄製模型も制作され、エンジンを搭載し自走も可能だった。煙突から出る煙も黒煙が多く出るように調合し当時の燃焼機関の雰囲気を再現している。
また日本海軍の下瀬火薬を表現するために松煙と火薬を何段も重ねた仕掛けを用意したとされる。
そのほか太平洋戦争時よりも火薬の威力が弱いことを考慮して、火薬ではなくフロンガスを噴出して水柱を表現している。これは井上泰幸が考案したとも三笠の艦橋に飾られている絵を見た円谷英二が発想したともいわれている。
2015年に本作の撮影で使用されたとされる6m級の戦艦三笠の模型が発見され、熊本市現代美術館で開催された「館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見せる昭和平成の技」で展示された。その後修復が行われ2020年からは須賀川特撮アーカイブセンターで保存されている。
スタッフ
製作:田中友幸
監督:丸山誠治
特技監督:円谷英二
脚本:八住利雄
音楽:佐藤勝
キャスト
前山三吉一等兵:黒沢年男
藤本軍医中尉:東山敬司
松井菊勇大尉:久保明
安保清種少佐(戦艦三笠砲術長)(一部資料では森下兵曹長・砲術下士官):佐藤允
戸塚環院長(佐世保海軍病院):清水将夫
須知源次郎中佐(近衛後備歩兵第一連隊長):安部徹
宮古島の若者・松:松山省二
永田泰次郎少佐(連合艦隊副官):高橋俊行
山県少佐(常陸丸):荒木保夫
宮古島の若者・政:佐田豊
山村彌四郎予備中佐(常陸丸):岩本弘司
宮古島の若者・善:小川安三
船頭:鈴木和夫
野村二等水兵(第一艦隊砲術兵):当銀長太郎
塚本中尉(駆逐艦漣):久野征四郎
島四等水兵(第一艦隊砲術兵):大沢健三郎
玉木候補生(戦艦三笠の士官):越後憲
松の妻:矢野陽子
菓子屋の老婆:本間文子
革命家シュリアクス:テッド・ガンサー
情報提供者イワン:ヤコブ・ジャビロ
ジョン・キャンベル船長:ハロルド・コンウェイ
参謀:ハンス・ホルネフ
駆逐艦ベドウイの将校:オスマン・ユセフ
ジノヴィー・ロジェストヴェンスキー中将:アンドリュー・ヒューズ
東郷てつ:草笛光子
(ノンクレジット)
森下兵曹長・砲術下士官(一部資料では安保清種砲術長):中島春雄
戦艦スウォーロフ艦長:A・スターク
オスカル・スタルク中将:W・ジェンケル
ナレーター:城達也
余談
当初は乃木希典を中心にした『乃木大将』として1966年に製作が発表された。監督は内田吐夢を予定していたが撮影直前に製作中止が決定。その後1968年公開の『連合艦隊司令長官山本五十六』のヒットを受けて改めて東郷平八郎と日本海海戦を中心にした企画として再スタート。脚本は『乃木大将』の八住利雄が続投している。
劇中で戦艦三笠の測距兵として登場している長谷川清は実相寺昭雄の祖父。実相寺は小道具として長谷川の勲章を提供、まさかの奇縁に円谷も驚いたという。