本項ではどちらも紹介する。
1968年版
後発のほぼ同名作品が公開されてからは「東宝版」または「三船版」と区別されることがある。
『日本のいちばん長い日』に続く東宝8.15シリーズの第2作として公開。主演の三船敏郎以下東宝の映画スターが総出演し、山本五十六が連合艦隊司令長官に着任してから、1943年4月に戦死するまでを描く。
本作は1966年11月に『山本五十六』というタイトルで、三船敏郎主演で製作発表された。
しかしその翌年に東宝を震撼させる出来事が起こった。なんと黒澤明が20世紀フォックスで『トラ・トラ・トラ!』の製作発表を行い、さらに特技監督として円谷英二にオファーを出したのである。
黒澤の書いた準備稿を呼んだ円谷は依頼を断っているが、これにより脚本が東宝の手に渡り、阿川弘之の『山本五十六』の影響が強い脚本から東宝は内容が重複することを懸念した。
須崎勝弥が書いた脚本は橋本忍の『太平洋の鷲』、淵田美津雄・奥宮正武の『ミッドウェー』『機動部隊』、反町栄一の『人間山本五十六』、高木惣吉の『山本五十六と米内光政』を参考としつつもオリジナル脚本として進められ、真珠湾攻撃に関する描写は最低限にとどめる形となった。
東宝の過去作品『太平洋の鷲』の事実上リメイクのような作品であるが、元海軍軍人らの著書で史実の裏付けを固め、反町の『人間山本五十六』から山本五十六の人間性の描写も取り入れた。
終盤の海軍甲事件は円谷英二最後の空戦特撮であり、機銃座の窓越しに墜落するP-38を合成するなど新たな撮影手法も試みられ、徐々に高度を下げながら密林に消えていく一式陸攻の姿を詩的に描いている。
スタッフ
製作:田中友幸
脚本:須崎勝彌、丸山誠治
監督:丸山誠治
特技監督:円谷英二
音楽:佐藤勝
キャスト
- 山本五十六:三船敏郎
- 船頭 喜太郎:辰巳柳太郎
- 江藤勇吉(憲兵曹長):荒木保夫
- 鈴木次郎(憲兵軍曹):堤康久
- 郷里の友人B:佐田豊
- 郷里の友人A:若宮忠三郎
- 芸者:豊浦美子
- 辻陸軍参謀:中谷一郎
- 陸軍少佐参謀A:伊吹徹
- 陸軍少佐参謀B:黒部進
- 木村圭介(木村大尉):黒沢年男
- 米内海軍大臣:松本幸四郎
- 渡辺戦務参謀:平田昭彦
- 黒島先任参謀:土屋嘉男
- 藤井政務参謀:藤木悠
- 和田通信参謀:佐原健二
- 佐々木航空参謀:田島義文
- 大和の通信士:丸山謙一郎(一部資料では暗号長と記載)
- 参謀(長門):坂本晴哉(一部資料では航海参謀と記載)
- 畑陸軍大臣:今福正雄
- 永野軍令部総長:柳永二郎
- 及川海軍大臣:北龍二
- 福留第一部長:向井淳一郎
- 富岡第一課長:岡部正
- 宇垣参謀長:稲葉義男
- 野上一飛曹:太田博之
- 源田航空参謀:佐藤允
- 草鹿参謀長:安部徹
- 高野大尉:久保明
- 伊集院大尉:加山雄三
- 伊藤軍令部次長:宮口精二
- 南雲機動部隊司令長官:藤田進
- 航海参謀:伊藤久哉
- 通信参謀:桐野洋雄
- 機関参謀:草川直也
- 山口少将:峯島英郎
- 近衛総理大臣:森雅之
- 近江三曹:小鹿敦(一部資料では近江一曹と記載)
- 飛行長(赤城):岡豊
- 航海長(赤城):鹿島邦義
- 操舵員(赤城):堺左千夫
- 早川艦長:緒方燐作(一部資料では赤城艦長と記載)
- 米山飛曹長:西条康彦
- 大森二飛曹:阿知波信介
- 矢吹友子:酒井和歌子
- 木村澄江:司葉子
- 網元 喜蔵:清水元
- 漁村の男:日方一夫
- 漁村の男:権藤幸彦(一部資料では大和の伝令と記載)
- 漁村の男:篠原正記(一部資料では大和トップ見張員と記載)
- 三上中尉:田村亮
- 利根索敵機偵察員:大沢健三郎(一部資料では本田三飛曹と記載)
- 利根索敵機操縦員:西川明
- 山本付の参謀:勝部義夫
- 陸軍将校(ラバウル):渋谷英男(一部資料ではラバウル基地の幕僚と記載)
- 赤城の鑑橋見張員:由起卓也
- 岩国航空隊司令:村上冬樹
- 本田三飛曹:池田秀一
- 寺井三飛曹:山本明
- 野村三飛曹:本橋敏和
- 三島三飛曹:渡辺国夫
- 記者:越後憲三
- 平出大本営報道部長:加東大介
- 百武司令官:石山健二郎
- 今村司令官:佐々木孝丸
- 加藤(ラバウルの参謀):森幹太(一部資料ではラバウル基地の幕僚と記載)
- 白井一水:小柳徹
- 駆逐艦の兵士:松島武(一部資料では吉田一水と記載)
- 駆逐艦の兵士:三浦仁(一部資料では三浦一水と記載)
- 駆逐鑑の班長:大前亘(一部資料では主計班長と記載)
- 駆逐艦の当直士官:久野征四郎
- 栗田司令官:清水将夫
- 翔鶴の伝令:桂伸夫
- 電探員:伊藤実(一部資料では翔鶴電探員と記載)
- ガダルカナルの病兵:宇野晃司
- ガダルカナル島の参謀:鈴木和夫
- 参謀(ガダルカナル):宇留木康二
- ガダルカナル島の参謀:山本廉
- 森崎中尉:江原達怡
- 一式陸攻の機長:船戸順
- 陸軍大尉:岩本弘司
- 有馬水雷長:橘正晃
- ナレーター:仲代達矢
余談
当初はドーリットル空襲と第一次ソロモン海戦の描写もあり、前者についてはB-25が都市を爆撃する特撮シーンが撮影されたがカットされ、スチル写真のみが現存している。後者については巡洋艦「鳥海」艦長役の緒方燐作がクレジットされている形で名残がある。
一部資料では緒方は赤城艦長役で、鳥海艦長役は津田光男とされている。
脚本上では本来の目標である輸送船団を攻撃することなく引き返した三川軍一を山本が批判する描写もあった。
真珠湾攻撃やミッドウェー海戦のシーンは『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』や『太平洋の翼』を流用している。そのためミッドウェー海戦のシーンに紫電改やP-51が映り込んでいる。
撮影に使用された九九式艦上爆撃機の模型が有川貞昌を通じて原口智生が譲り受けており現存している。
2011年版
正式なタイトルは『聯合艦隊司令長官 山本五十六』と「連」が旧字体になっている。
先行する1968年版に対し「東映版」、「役所版」と区別されることがある。
明確な原作がなかった1968年版に対し、半藤一利の『聯合艦隊司令長官 山本五十六』を原作とし、終戦の日に近い8月中旬公開の1968年版に対し開戦の月である12月(ただし8日ではなく下旬)に公開された。
大まかな時系列は1968年版と同一で、山本五十六が連合艦隊司令長官に着任してから戦死するまでを描いているが、日独伊三国同盟に反対するなど不戦を訴える場面が強調され、1968年版では主体的に描かれることがなかったガダルカナル島の戦いなども盛り込んでいる。
山本が水饅頭や汁粉を好んでいたなどの人物像の描写や、昭和期の戦争映画ではあまり取り上げられることがなかったメディアが軍の過激派と呼応して世論を扇動したという描写は評価が高い一方、「太平洋戦争70年目の真実」という副題が大袈裟である、CGを多用した戦闘描写は1968年版のアナログ特撮や俳優による生身のアクションに劣るなど批判の声もあった。
無名時代のあばれる君が本名名義で出演していることでも知られる。
スタッフ
- 監修・原作:半藤一利『聯合艦隊司令長官 山本五十六』(文藝春秋刊)
- 特別協力:山本義正
- 製作:大下聡、木下直哉、遠藤茂行、日達長夫、平城隆司
- 企画:吉田正樹、丸橋哲彦、中川隆、泉英次、河越誠剛
- プロデューサー:小滝祥平
- 脚本:長谷川康夫、飯田健三郎
- 音楽:岩代太郎
- 特撮監督:佛田洋
- 配給・宣伝:東映
- 監督:成島出
キャスト
- 山本五十六:役所広司
- 堀悌吉:坂東三津五郎
- 米内光政:柄本明
- 井上成美:柳葉敏郎
- 三宅義勇:吉田栄作
- 山口多聞:阿部寛
- 宇垣纏:中村育二
- 黒島亀人:椎名桔平
- 南雲忠一:中原丈雄
- 永野修身:伊武雅刀
- 及川古志郎:佐々木勝彦
- 牧野幸一少尉(零戦搭乗員):五十嵐隼士
- 有馬慶二(赤城航空隊零戦搭乗員):河原健二
- 秋山裕作(東京日報記者):袴田吉彦
- 真藤利一(東京日報記者):玉木宏
- 草野嗣郎(東京日報編集長):益岡徹
- 宗像景清(東京日報主幹):香川照之
- 谷口志津(小料理屋「志津」の女将):瀬戸朝香
- 神埼芳江(「志津」の常連客のダンサー):田中麗奈
- 高橋嘉寿子(山本の姉):宮本信子
- 山本禮子(山本の妻):原田美枝子
- 小料理屋「志津」の常連客:橋爪淳、重松収
- 門倉総司(ガダルカナル夜間砲戦で戦死する司令官):平賀雅臣
- その他:大方斐紗子、古張裕起
主題歌・テーマソング
- 主題歌「眦」歌:小椋佳(ユニバーサルミュージック) / 作詞:小椋佳 / 作曲:加藤武雄、末﨑正展 / 編曲:加藤武雄
- ラブ・テーマ「誰が為に鐘は鳴る」歌:まきちゃんぐ(バップ) / 作詞・作曲:まきちゃんぐ / 編曲:佐藤準
余談
海軍省庁舎は現存していないため、外観の似ている法務省旧本館で撮影している。
時代考証は半藤が監修しており、艦内の食器に至るまで正確さに徹している。
2011年11月16日創刊「グランドジャンプ」で創刊号から第17号(2012年7月18日発売)までコミカライズが連載された。作画は坂木原レム。