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未来世紀ブラジル

みらいせいきぶらじる

『未来世紀ブラジル』(Brazil)とは、1985年に公開されたテリー・ギリアム監督のSF映画。
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あらすじ編集

とある未来の、とある都市。すべての情報が《情報省》によって統括されている社会。

ワープロに一匹のハエが侵入したことで、テロ容疑リストの「タトル」が「バトル」に誤植されてしまい、一般市民のバトルが連行されてしまう。バトルの上の階に住む女性ジルは抗議するが、相手にされない。

情報省記録局に勤務するサムは、不祥事のもみ消しを求める仕事場、アンチエイジングに必死すぎる親、親の持ってくる縁談に頭を痛め、コネで検束局に昇進させられそうになるのを拒んでいた。そんなサムは最近になってを見ていた。空飛ぶ勇者になって美女を助けるという奇妙な夢を。

そして夢で見たのとそっくりな女性を見かける。それは情報省へ抗議に来ていたジルだった。

そんな折、サムの家のダクトが故障する。修理はセントラルサービスが行う法律だったが、勤務時間外なので来てくれない。そこへフリー(非合法)の修理屋を名乗る男が現れ、あっという間にダクトを直してしまう。その男こそ、当局からテロリストとして追われているタトルだった。


概要編集

テリー・ギリアム監督長編3作目。

サイバーパンクものではあるが、の書類が飛び交いコンピューターは旧式というアナログ世界観であり、レトロフューチャーな雰囲気が演出されている。一方、サムが見る夢のシーンは、ファンタジックな想像力に富んでいる。統制された社会で窮屈に生きる人間の悲喜こもごもを風刺したブラックな内容は、観る者に痛烈な印象を残す。

ジョージ・オーウェルの『1984年(小説)』を現代向けにパロディした「1984年の『1984年』」がコンセプトにある。

原題は『Brazil』だが、ブラジルが舞台の話ではなく、主題歌「ブラジルの水彩画」に由来する。


ラストにどんでん返しがあり、万人受けするラストを求めるユニバーサル・ピクチャーズとギリアム監督の間で騒動が起こった作品でもある(下記バージョン違いも参照)。

このような経緯もあり商業的には失敗したが、愛好家の支持を受けてカルト映画と化している。



キャスト編集

役名配役日本語吹き替え
サム・ラウリージョナサン・プライス島田敏
アーチボルド・"ハリー"・タトルロバート・デ・ニーロ池田勝
ジル・レイトンキム・グライスト戸田恵子
ジャック・リントマイケル・ペイリン江原正士

スタッフ・データ編集

監督 - テリー・ギリアム

製作 - アーノン・ミルチャン

脚本 - テリー・ギリアム / トム・ストッパード / チャールズ・マッケオン

撮影 - ロジャー・プラット

編集 - ジュリアン・ドイル

音楽 - マイケル・ケイメン

プロダクションデザイン - ノーマン・ガーウッド

特殊効果スーパーバイザー - ジョージ・ギブス

ミニチュアエフェクトスーパーバイザー - リチャード・コンウェイ

衣裳デザイン - ジェームズ・アシュソン

美術 - ジョン・ベアード / キース・ペイン

製作会社 - エンバシー・インターナショナル・ピクチャーズ

日本語字幕 - 戸田奈津子

日本語吹替訳 - 宇津木道子 / 演出 - 田島荘三

上映時間 - 142分(20世紀フォックス版) / 131分(ユニバーサル・ピクチャーズ版)

製作国 - イギリス

言語 - 英語


配給と公開日編集

フランス1985年2月20日20世紀フォックス
イギリス1985年2月22日20世紀フォックス
アメリカ合衆国1985年12月18日ユニバーサル・ピクチャーズ
日本1986年10月10日20世紀フォックス

関連タグ編集

映画 洋画 SF映画 カルト映画 映画の一覧

SF ディストピア サイバーパンク レトロフューチャー ブラックジョーク

メトロポリス 1984年(小説)

ダクト

救星主のブラジラ:本作を名前の由来とする日本の特撮ヴィラン。


外部リンク編集

未来世紀ブラジル - Wikipedia

映画 未来世紀ブラジル - allcinema

未来世紀ブラジルとは - はてなキーワード



バージョン違いと、その騒動編集

本作には、バージョン違いが存在する。映画には、いわゆるディレクターズ・カット版と言われる、劇場公開されたものとは異なるバージョンが存在する作品も多いが、このブラジルも例外ではない。

この作品に関しては、テリー・ギリアム監督と、ユニバーサル社の親会社でアメリカ国内の配給権を持つMCA社の社長・シドニー・J・シャインバーグとの間で起こった騒動(この件は、ジャック・マシューズ「ザ・バトル・オブ・ブラジル」という書籍に、詳細が記されている。日本でも翻訳版が発売)により、下記のバージョン違いが存在する。

  • 1:国際版142分

20世紀フォックスがヨーロッパおよび日本その他諸外国で配給した、ギリアム監督の第一決定バージョン(現在DVDなどで視聴が可能なのは、このバージョンである)。

  • 2:国際版短縮版132分

ユニバーサル社との捕捉契約により、編集のジュリアン・ドイルの手で再編集された、最初の短縮版。

  • 3:国際版短縮版ビデオバージョン135分

上記2を、エンドクレジット他を復元したもの。

  • 4:ギリアム短縮版132分

上記1を、ギリアム自身の手で再編集した短縮版。アメリカ劇場公開バージョン。ギリアム自身が再編集を行ったもの

  • 5:シャインバーグ版90分

NGフィルムをも動員し、上記1を根本的に再検討したバージョン。要は「配給元のお偉方が、作品を切った張ったして内容を変更。強引なハッピーエンドの作品に変えてしまった」バージョン。このバージョンは、最初の公開(86年)から三年後、89年にアメリカ本国でテレビ放送された。

長らく幻と呼ばれていたバージョンで、視聴はほぼ不可能だった(現在発売されているブルーレイには、「スペシャルカット版」としてこのバージョンも収録されているため、視聴が可能)。

完成直後、当初はギリアムどころか、シャインバーグ自身も見ていなかったらしい


本作は「夢」のシーンが多く登場し、その夢のシーンは現実世界との比喩でもあり、重要な要素の一つでもある。

しかし、作品自体が難解なのも確かで、あえて言うならば「アートシアター系」のような、エンタメとは異なる方向性での魅力を持った作品である

しかし、シャインバーグはこれらを斬り捨て、「わかりやすさ」を追求。更に、一般客向けにはハッピーエンドが必須とばかりに、強引にラストを変更してしまったのである


本作を視聴すればわかるが、「ブラジル」は見る人間を選ぶような、平たく言えば見た後で好き嫌いが分かれる映画である。そして、嫌いになった人間は、必要以上に介入せず、好きになった人間は、本作をギリアム監督の意に沿うようにして公開しようとした。

しかし、シャインバーグのみが作品の内容に深く介入したがっていたのだ。その結果が、5である。


ちなみに、この騒動の発端は、実はギリアム自身である

製作のアーノン・ミルチャンとギリアム監督は、当時ユニバーサル社と本作を製作する際、契約を交わしていた。

その契約の中には、

完成品は、95分以上、125分以下

という条項があった。にもかかわらず、ギリアムらは142分(上記1)で映画を完成させてしまったのだ

しかも、当時のユニバーサル社社長フランク・プライスは、自分の手掛けていた「愛と哀しみの果て」に精力的で、「ブラジル」に対して消極的だった。※

プライス社長の関心のなさと、「契約違反し17分オーバーしている」という法的根拠。それらを利用したシャインバーグは、短縮版(上記2)の制作をギリアムに命じ、捕捉契約をさせた。

そしてシャインバーグ自身も、フリーの編集者を雇い、内容的問題も同時に解決せんと、上記5のバージョン製作に乗り出したのだ


※なお、このプライス社長。のちに「ハワード・ザ・ダック」の興行的失敗で、失脚している


2のバージョンが完成しても、ユニバーサル社は難色を示した。ギリアムはシャインバーグの意見も取り入れ、自身の手による短縮版を製作。それが上記4である。


とはいえ、このシャインバーグも決して「金儲けが全て」「儲からない映画は改ざんして当然」というだけの人物ではない

本作のラストシーンのエンドクレジットでは、オリジナルに近い1や2では、拷問台とその通路が映し出される。

しかし5では、エンドクレジットは背景に白い雲が漂う青空であり、のちにギリアムはこの白い雲と青空を、4のエンドクレジットに(拷問台とともに)組み込んでいる。そして「シャインバーグの、このアイデアは良い」と、ギリアム自身ものちに述べている。

シャインバーグ自身は、決して嫌々ながら「ブラジル」に取り組んでいたわけではなく、むしろ自身こそが「この映画の最大の擁護者」であり「この映画が興行的にヒットする可能性を信じていた」のも自分だけだと言っていた。

やり方はまずかったものの、シャインバーグ自身も映画監督を興行側から擁護したいという、彼なりの情熱はあったものと思われる。その方向性は間違っていたと言わざるを得ないが。

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