暗闇の中、私は唯一死への光を灯した。
そんな私に再び闇を歩ませてくれたのは、貴女。
一緒に、染まろう。暗い、暗い、漆黒に。
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何も持っていない私が見つけた大切なものは、この手からあっさりと零れ落ちた。
私には家族も愛する人も残っていない。
私はこの不快で、真っ暗な世界にサヨナラする。
そして私は心地良い闇の世界へ身を委ねることにした。
でもその前に。賭けをしてみよう。
私を受け入れてくれた人に少しばかりの『お礼』を。
そんなちっぽけな私の賭けは、闇を纏った、絶対的な男を引き寄せた。
【生】を終わらせてはくれない貴方は、
私が望んでいた『愛』をくれた。
2人で歩むは、行きたかった心地良い闇の世界。
2人で手を繋いで、一緒に進もう。
あなたに出会えてよかった。
(『溺愛』冒頭より抜粋)
概要
WEB小説家『映画館』(以下、映画館氏)が小説投稿サイト「魔法のiらんど」にて発表したケータイ小説の題名。
当時は産休中であった氏が息抜きとして書き始めた事実上の処女作であったが、同作はサイトにおける2014年総合ランキング1位を記録し、これによってKADOKAWAのレーベル「魔法のiらんど文庫」より商業作品として出版されることになった。
続編である「溺愛Ⅱ」等を含め、2017年時点でシリーズ累計25万部をほこるヒット作品となった。
内容
ざっくりというと、レイプやイジメ、暴行や人格否定、恋人の裏切りといった悲惨な境遇にあっていたた主人公「ゆいか(16歳)」が、以前から彼女を好きだった極道の若頭に拾われ、嫁にされ、数々の困難を乗り越えながらも溺愛されるというもの。
俗に言う溺愛系(※)の系譜に属する。
(※作品名とは関係無し。あくまで妄想全開のシンデレラストーリーといったニュアンス。)
ゆいかを暴行・誘拐したり裏切った面々の多くは若頭により制裁ないし返り討ちにされていく。
このため、ある意味では追放ものやざまぁ系の走りともいえる内容となっている。
また、かつてのゼロ年代での大ブーム時のケータイ小説とは違い、ほとんどTL作品や少女マンガ調のノリでもある。(ただし10年代以降はほとんどのケータイ小説がこの路線となっている。)
主な登場人物
- 新見ゆいか
暴走族「白虎」の姫(※総長の恋人にしてメンバーの姐さんポジション)であったが、双子の妹(後述)の陰謀により妹のセフレから日常的に性的暴行を受けるようになった末に、恋人を妹に寝取られ、家族からは淫売のレッテルを貼られて見放されてしまう。ちなみに16歳。
普段から実の妹の悪意に晒されていて、後に望まぬ妊娠を避けるために「親の金銭を盗んで避妊薬を買っていた」と供述するほど追い詰められていた。そして、前述の一件でついに心が折れ、自殺を決意するが……。
容姿は黒髪でややつり目ぎみだが、周囲からは美少女と認識されている模様。
境遇ゆえに自己肯定感は低いが、容貌と合わせてスペックは非常に高めであり、ひた向きな性格とあいまって周囲からは自ずから信頼を得ていくタイプ。
族の有力人物であるにもかかわらず組織から守られているとは言い難い状況にあったが、その原因を自分が組織にとって異質な「女」であることから軽んじられ一部のメンバーが意図的にサボタージュしていたと見抜いており、後にかつて自分のボディーガードが義務付けられていたメンバーに対して「貴方たちにも事情があったかもしれないが、その行動が『白虎』の威信に泥を塗ったことを理解してほしい」「これから姫になる娘たちには自分のような惨めな思いをさせないでもらいたい」(意訳)と諭している。
- 新城奏
2代前の「白虎」総長にして新城組の後継者である若頭。
「白虎」は新城組の下部組織であったことから以前からゆいかのことは認知しており密かに好意を抱いていたが、彼女が現「白虎」総長の姫であるため諦めていた。
しかし、ある日に絶望して街を彷徨っていたゆいかを見かけて保護することになり、その際に彼女が受けてきた筆舌に尽くしがたい所業の数々を知ることになり、怒りを滾らせると同時に自身らの監督不届きを謝罪。加えて押さえつけていたゆいかへの独占欲を爆発させすったもんだの末に彼女を嫁にしてしまう。
周囲には切れ者として認識されており、妖美なオーラを漂わせているため非常にモテるが、女性関係に関しては定期的に置いているセフレを適当に抱く程度という非常にドライかつぞんざいとして知られていた。しかし、これはゆいかだけをガチ恋していためで、彼女と相思相愛になった後は三日三晩抱き続けその新妻が腰砕けになって気絶したほどの絶倫ぶりを見せた。
鬼ちk…イヤナンデモナイデス。
そして以降、自分の嫁を傷つけた者たちを地獄送りにしていくことになる。
- 田島隼人
奏の右腕的な存在。
奏の経営する会社の第一秘書にして、先代「白虎」総長。
- 結城陸
奏の経営する会社の第二秘書。メガネキャラ。
表の仕事に携わることになったゆいかの教育係となる。
- 新城蓮
関東一の暴走族「白虎」現総長であると同時に奏の実弟。
かつてゆいかに一目惚れして彼女を「白虎」の姫に就けるが、とある人物に唆され彼女を見捨ててしまう。
後にゆいかに関する悪評が全くのウソであったことを知り、彼女に許しを請うとするが……。
赤い短髪に鷹の目をした巨躯であるが、精神的に未熟な描写が多く、前述のように自身の組織を統制できているとは言い難い。このため、実質的なハニートラップに掛かったうえに兄たちOBからの信頼を失ってしまい、「白虎」の威信を揺らがせてしまう。
- 新見昴
現「白虎」の副総長にしてゆいかとまりかの実兄。ゆいか曰く「優しい兄」。
しかし、妹たちの諍いは承知はいたものの、事態が深刻になるまで手をこまねいているばかりであった。ぶっちゃけ、族の幹部であるのが不思議なレベルの優柔不断。
しかも、何故かまりかからの「ゆいかが売春をしている」という真っ赤なウソをホイホイ信じてしまい、「白虎」の他メンバーが居並ぶ中で彼女に「汚い女」「親に言って高校も自主退学させた」と罵声を浴びせてしまう。が、逆にゆいかから身体全体にある痣などのこれまで受けてきた暴行の証拠を見せつけられ、「信じた私がバカだった」と逆に見限られてしまう。
- 新見兄妹の両親
はっきりいうとただの毒親。
父親は会社経営をしているらしく裕福な様子だが、「まりかばかりを溺愛する」「ゆいかに与える衣服は妹の御下がりのみ」「長男や姉妹が反社と関係をもっていることを全く把握していなかった」「ゆいかが売春をしていたという狂言をホイホイ信じて手切れ金を投げつけて家庭から追い出す」という具合でこれで人の親か?というレベル。
メタなことをいうならゆいかの不幸を演出するためだけの舞台装置ともいえる。実際、父親や母親の内面が掘り下げられることがほぼ無い没個性状態で愚かな大人という印象を読者に残したまま本筋からはフェードアウトしていく。
もっとも、そのことが「特定の子弟への偏愛」と「他の子供への無関心」、それらからくる「視野狭窄」といった人間のエゴという部分を生々しく際立たせている。
ゆいか曰く「私さえ居なければ理想の家族」。もっとも、彼女の伴侶であると同時に街を半ば支配する奏からは「お前が望むならいつでも潰す(大意)」と吐き捨てられている。
- 西条里香
新城組と隣接する西条組の一人娘。
以前から奏のことを狙っており自分こそが彼のパートナーに相応しいと思い込んでいたケバい女。
何度か奏と身体の関係をもったらしいが、それは単にあまりにしつこく迫るがゆえに面倒臭がって相手にしていた(by隼人)だけであり、西条組からの正式な縁談も断られている。ちなみに、奏には名前を覚えられてさえいない・
ゆいかが奏と婚約したことを知り、逆恨みするようになる。
- 新見まりか
姉曰く、「中学生に見えかねないほどのフランス人形のような容姿に豊満なバスト。見た目は清純派天然少女という感じだけど、中身は・・・悪魔。」
その類まれな容貌でやや内向的な姉から両親の愛情を奪うようにチヤホヤされて育ったが、次第にそれ以外の周囲は姉を評価することに気が付いて急激にコンプレックスを抱き始め、次第に「ゆいかの物」を奪うことに快感を覚えるようになる。
その結果、姉を陥れるためなら嘘も脅しも買収も売春も辞さないメスガキかつサイコパスへと成長し、暴走族「黒蛇」とのパイプを得るだけでなく、そのバックである神崎組の若頭の愛人におさまるまでになる。ぶっちゃけ人格破綻者としか言いようがない。
そして、ゆいかから「白虎」総長である蓮を奪うために、自身のセフレであるチンピラを差し向けて実の姉を日常的にレ×プさせ、抵抗するとさらに暴力をふるわせ、それでも姉が屈しなかったので最終的に「姉が売春をしている」と虚偽のウワサと証拠をばら撒き、「白虎」、家庭、学校において姉の社会的抹殺を図った。
そして、念願であった蓮もNTRに成功し、有頂天にあるまりかの耳に入ってきたのは、あれだけ痛めつけたはずのゆいかが新城奏と婚約したという噂であった……
ある意味で、もっとも姉であるゆいかに依存している人物ともいえる。
なんでこんな悪事を働いておいて親にも兄にも警察にもバレなかったんだ?とか思ってはいけない。
評価
2017年に作家・評論家の小池美樹は同作と映画館氏を取材した際に10年代ケータイ小説の金字塔という煽り文を付している。こちら
そして、同作やケータイ小説サイトの強い支持が未だ多くのユーザーからされていることに触れ「ケータイ小説は表舞台からは去ったが未だ廃れてはいない(要約)」と持論した。
以前から界隈でテンプレとなっていた「姫もの」「双子もの」「極道もの」等の影響が強いが、姉である主人公に対する双子の妹「まりか」が行った所業が過激であったことが当時のサイトユーザーに影響を与え、元から過激志向であったサイトの各投稿作品がさらにに先鋭化する事態になったという。
ただし、小池は同作を「泣ける実話」系のかつてのケータイ小説とは一線を画すとしながらも、『恋空』以来の整合性より雰囲気重視なぶっ飛んだスートーリー運びは健在であるため決して万民受けする内容ではないともしている。
(この点は作者も半ば認めている。)
例として、
・冒頭で主人公が周囲から凄惨な暴行を受け家族から見放される展開になるがなぜか児相案件にならない、
・日常的に性的暴行を受けた主人公は心に傷を負うが(リアルと比較して)結構あっけなく若頭にカラダを開くなど明らかにPTSDの程度が軽い、
・主人公が事実上のセカンドレイプやリベンジポルノをかまされたのに拡散が限定された範囲にとどまる、
・街を半ば支配するヤクザ組織の指導者の一人なのに直系氏族の異性関係を把握していない、
・主人公の妹が普通なら精神科に措置入院レベルなのにそういったことにならない。
ect
※ただし、このくらいのかっ飛びぶりはケータイ小説界隈ではデフォである。基本的にはモバイル版の(ヘビィなシリアス込みの)ラブコメディという前提で拝読することをお勧めする。
関連タグ
ゆいかとまりかの関係のみに限定した場合、あり得たかもしれないifの世界線。ただし、オチはレズ堕ちかつレズレイプである。かの変態!!変態!!の元ネタ。