概要
『ウマ娘プリティーダービー』に登場するウマ娘であるメジロパーマーと、ダイタクヘリオスとのカップリング。
どちらも2021年放送のアニメSeason2より登場。
イマイチ注目されないことに悩むメジロパーマーは、マチカネフクキタルから「必要なのはパートナー」と占いでアドバイスを得る。そして占い小屋を出たパーマーが、トレセン学園内の切り株に向かって愚痴を叫ぶダイタクヘリオスを目撃したのが、運命の出会いであった。
話しかけたパーマーは、最初ヘリオスのパリピ語がまるでわからなかったが、互いに逃げウマということもあってかすぐに意気投合。そして再びフクキタルに、来る天皇賞・秋での戦法について相談したところ「ただの逃げではダメ、必要なのは爆逃げ」との占いを得たことが、コンビ名誕生の瞬間であった。以後、互いに「ズッ友」を誓い合う友情を培っていく。
天皇賞・秋は(お告げを得たにもかかわらず)2人そろって爆逃げのち鮮やかに爆死。(ちなみに爆逃げコンビがそろってマケボノ状態になっている場面、よく見ると画面の端に、爆逃げにつき合ってしまった結果共倒れで爆死をかましたトウカイテイオーの脚が見えるという、史実を踏まえた描写がある。)
有馬記念でもコンビでハナを競う爆逃げをかまし、最終直線でヘリオスが「あとはまかせたー!」と脱落、パートナーをアシストする形でパーマーに逃げ切り勝ちをもたらした。
勝っても、盛大に爆死しても、変わらず自分たちの走りを貫き2人で笑い合う、バカだが明るく爽やかなコンビである。
ちなみに、パーマー役ののぐちゆりとヘリオス役の山根綺は共に青二プロ所属であり、先輩後輩にあたる。
史実
※以下の記述では、当時の旧馬齢表記(現在の表記よりも+1歳)を用いる。
メジロパーマー(1987~2012、牡・鹿毛、イラスト右)は1992年の宝塚記念・有馬記念春秋グランプリ制覇、ダイタクヘリオス(1987~2008、牡・黒鹿毛、イラスト左)は1991年・92年のマイルチャンピオンシップ連覇を果たした。どちらも隠れなき成果を残した馬である。
しかし同時に、どちらも個性的な経歴や走法を持った馬であり、数少ない同時に走ったレースで競馬ファンの印象に残るコンビ的な走りを見せたことから、「バカコンビ」などと呼ばれるようになった。
二頭の略歴
メジロパーマーは、3・4歳時はまるでパッとせず、クラシック三冠は出走すらできていない。同期のメジロマックイーンやメジロライアンほど馬主に期待されてもおらず、5歳時にようやく札幌記念(GⅢ)で初重賞を獲るも、その後障害競走に回されるという憂き目をみている。
が、1992年、平地に復帰して山田泰誠騎手と組むと、大逃げをかましてそのまま押し切るという戦法を編み出した。
ついでに、頭がピンと高く立ったままという異形の走法でも目立つ馬だった。(普通競走馬は頭を上下させてその動きを脚と連動させ、推進力に転換するのがよい走法とされている。この直立したままの走りは、ウマ娘内のパーマーでも再現されている。)
ダイタクヘリオスは、主に短距離・マイル路線で活躍した。レース中は、とにかく前に馬がいると抜いてやりたいという気質で、ほぼ常に口を割って(=口を開けて。掛かっている兆候とされる)走ることから「笑いながら走る馬」と言われていた。
また、1番人気に推されると敗北し、勝つのは2番人気以下の時ばかりという謎のジンクスがあり「競馬新聞を読めるのではないか」というジョークがあった。彼の走りに周囲が翻弄されるのか否か、古馬になってからの20戦、ヘリオスの出たレースは1回も1番人気が1着を取らなかった(なおヘリオス自身が1番人気の場合も含む…)。
出会い、宝塚記念
そんな2頭が初めて顔を合わせたのは1992年6月14日の宝塚記念である。
ハナを切ったパーマーの爆逃げに他の馬たちが振り回された結果、最終直線ではパーマーもバテているが他の馬はそれ以上にバテているという馬鹿展開が発生(レースの上がり3ハロンが39秒8かかっている)。まんまと逃げ切ったパーマーは9番人気からのGⅠ初制覇。ヘリオスは2番手追走から最後は垂れて5着だった。
(余談だがこの宝塚記念、メジロマックイーンが故障で出走回避した時点で、まだパーマーが出るのに北海道のメジロ牧場関係者の観戦がキャンセルされており、東京の関連会社「メジロ商事」の社長が確認に来ていただけだった。どんだけパーマーが期待されていなかったのかが分かる。)
天皇賞・秋、テイオー道連れ編
1992年11月1日、この年の天皇賞・秋は、前年の二冠馬トウカイテイオーが剥離骨折から約半年ぶりに復帰、同時にひとつの対決が注目を集めていた。
ダイタクヘリオスの父・ビゼンニシキは、デビューから4戦無敗でクラシックの有力馬に目されていたが、トウカイテイオーの父シンボリルドルフに3度屈し、その後間もなく引退した馬である。このため、テイオーとヘリオスの対決は父たちの名から「SB対決」とメディアに称されていた。
スタートするや、パーマーとヘリオスが爆逃げを打ち、互いにハナを激しく争う。このためとんでもないハイペースとなり、前半1000mが57秒5。後に1998年、同じ天皇賞・秋で悲劇の最期を迎える直前、1000m57秒4で通過していたサイレンススズカ並みの逃げである。
スズカの例と大きく違うのは、一部の馬たちがこの爆逃げについていってしまったことである。特にトウカイテイオーは2頭に釣られ、すぐ後ろの3番手で追走してしまった。
4角付近でパーマーが脱落、最終直線で逃げるヘリオスと追うテイオーの一騎打ちとなり、SB対決に場内は大盛り上がりとなった。1600m通過は、なんとこの年の安田記念におけるヤマニンゼファーの勝ち時計より速い。……が、そんなペースで残り400mがもつはずがない。バテたヘリオスとテイオーは追ってきた後続集団にどんどん差され揃って爆死、大外から追い込んできたレッツゴーターキン(11番人気)・ムービースター(5番人気)がワンツー。馬連1万7220円の万馬券と、「なんとびっくりレッツゴーターキン!」という名実況が生まれる大波乱のレースとなった。
爆逃げの爆逃げによる爆逃げのための有馬記念
1992年12月27日、有馬記念。この年の年末グランプリは1番人気トウカイテイオー(2.4倍)、2番人気ライスシャワー(4.9倍)、3番人気ヒシマサル(6.9倍)…と上位が挙がっていた。
ヘリオスは7番人気(23.1倍)、本来はマイルの馬だから2500mは長すぎる…その上になんと(当時は12月開催の)スプリンターズステークスからの連闘という鬼ローテっていうからね、仕方ないね。パーマーは…15番人気(49.4倍)。一応この年の春グランプリ馬なんですが…。
スタートすると大方の予想通りパーマーがハナに立ち、しばらくはスローペースを刻むが、ホームストレッチでヘリオスが上がってくるとパーマーもペースを上げ、2頭で爆逃げする展開に。観衆はまーたやってるよとしか思っておらず、今回は天皇賞・秋の教訓から無理にこれを追う馬もいなかった。一方、1番人気のテイオーはふだん好位先行のレース運びにもかかわらず、スタートで出遅れてしまい、そのまま後方でレースを進める羽目に。(実はこの時のテイオーはゲート内で脚を滑らせて腰を痛め、まるでレースになっていなかったらしい。)「何かテイオーおかしくない…?」に観衆の注意は向いていた。また他の馬たちがテイオーのマークに注力したことも、コンビの好き放題の逃げを許す一因となった。
2周目向こう正面、爆逃げコンビはどんどん後団との差を広げ、既に10数馬身の大差。テイオーはまるで上がってこない。これは今日はダメなのか、何かあったのか…じゃあ勝負は…と先頭に目をやると、もう爆逃げコンビは3角を回っている。この残り距離でいくら何でもヤバいという差がついており、しまった!となった後団の馬たちが一斉に追いにかかった。フジテレビの堺正幸アナの実況も、中立たるべきところ思わず「早く追いかけなければいけない!」と叫ぶほどだった。
最終直線、2000mを過ぎ、俺の距離はここまでだというようにヘリオスが脱落。1頭残ったパーマーは追ってきたレガシーワールド(5番人気)をハナ差しのぎ切り、春秋グランプリ制覇を達成した。
1¼馬身差の3着はレガシーワールド共々2番手集団でレースを進めていたナイスネイチャが入って前残り決着となり、上位人気馬の総崩れに実況も「ヒシマサルも、トウカイテイオーも、そしてライスシャワーも、どうしたんでしょうか!?」と呆気に取られていた。
馬連は3万1550円。同年の宝塚記念馬が勝ったのに万馬券という珍事が発生した。
ダイタクヘリオスはこの有馬記念限りで競走馬を引退。こうしてわずか半年ながら、競馬ファンの記憶に残るレース運びと、当てた人には美味しすぎる高配当(そして多数の購入者の悲鳴)を残して、爆逃げコンビは解散したのである。
余談、もう一つの爆逃げコンビ
そんな爆逃げコンビがターフを去って長い年月が過ぎた2009年。
もう一つの爆逃げコンビがエリザベス女王杯が行われる淀の地にて爆誕した。
クィーンスプマンテは父ジャングルポケット、母センボンザクラ、母父にサクラユタカオーを持つが、このとき既に5歳の古馬。クラブ馬であるため、規定の関係上でそろそろ引退も見えており、競走成績も主な勝ち鞍がオープン特別というパッとしない馬であった。
テイエムプリキュアはその名前から分かる通り、テイエムオペラオーなどで知られる竹園オーナーの馬。2005年の阪神ジュベナイルフィリーズを勝利した立派なG1ホースだが、それ以降三年は全く勝てず年明けの日経新春杯をラストランとするつもりが大逃げで勝ってしまったがために陣営は現役続行を表明。以後はまたしても負けが続き、「引退時期を見誤った馬」と見られていた。
しかもこの二頭は前走の京都大賞典にてパーマー&ヘリオスの秋天のごとく、揃って大逃げを打ち仲良く撃沈している。
この年のエリザベス女王杯には2冠牝馬ブエナビスタ、2年前の雪辱を誓うカワカミプリンセス、前年覇者リトルアマポーラ、フランスからの遠征馬シャラナヤと強豪揃いの様相。とてもじゃないがこの二頭は勝てない。そう思われていた。
レースが始まると、まずスプマンテが逃げ、プリキュアがそれを追う形となる。
ブエナビスタら有力各馬は後方待機。ここまでは想定通りだった。
大逃げはリスキーな戦法。放っておけばそのうちパーマーとヘリオスのように仲良く撃沈する…誰しもがそう思っていただろう。
しかし第2コーナーを回った辺りで暗雲が漂う。先行した2頭から後続が大きく引き離されているのだ。1000mを通過してタイムは1分00秒5…至って普通のタイムだ。
しかし、誰も仕掛けようとしない。そろそろ仕掛けてもいいのに誰も仕掛けない。
「…いや、仕掛けろよ!?何故誰も行かないんだ!?」…観客の多くはそう思ったに違いない。
そんな中、先を行く2頭は悠々と走り、気がつくとその差はおおよそ20馬身。そのまま最終コーナーを過ぎ、直線でスパートを掛ける2頭。流石にまずいと思ったか、ブエナビスタが3番手集団を抜け出し追い込み、上がり3ハロン32.9秒という衝撃的ダッシュで食い下がるが間に合わない。
そのまま2頭はワンツーフィニッシュ。クィーンスプマンテは大金星を掴み、テイエムプリキュアは僅差でそれに続く形となった。
当然の如く馬券は大荒れ。配当は単勝7710円、馬連10万2030円、三連単154万5760円という、史上に残る大波乱であった。誰もが想像しなかった光景に
「これが競馬だ!これが競馬のおそろしさ!!」
と馬場鉄志アナウンサーが叫んだ。まさにその通りの内容である…
クィーンスプマンテはその後香港カップに遠征し10着となり、これを最後に現役を引退。大金星を挙げたエリ女が最後の勝ち鞍となった。
一方、テイエムプリキュア陣営はこの結果を見てはまたもや引退を先延ばし。更に引退時期を見失ってしまうのだった…。