概要
2010年10月号から『ガンダムエース』で連載された隅沢克之による小説である。さらに同時期に連載された漫画版『新機動戦記ガンダム 敗者たちの栄光』と連動されている。
著者の隅沢は「成功する続編を作り上げるための段階的な小説」と連載開始前のインタビューで語っており、『試作的な作品』としての側面が強い。元々トレーズ・クシュリナーダ視点から過去を執筆する予定であった小説「新機動戦記ガンダムW エントリッヒ・エロイカ」の構想を代用し、さらに映像作品から数十年後の未来のストーリーも追加されたのが本作『Frozen teardrop』である。
そのため「ガンダムW続編」と銘打ってあるものの、実際には映像作品から過去の時代が描かれているため少々注意が必要であり、さらにストーリー進行において未来過去と時間軸が入り交じった作品であるため、時系列を常に意識しながら物語を読み進めなければ、全体像を把握するのが難しくなっている。
しかし上記の問題をクリアすれば、ガンダムWの世界観を掘り下げる小説としてこの上ない作品であり、例えばトレーズ独特の思想(敗者の美学)がどのように形成されたのか、未来においてTV版からの主要人物の関係性に終止符を打った(ヒイロとリリーナの婚姻、火星大統領のデュオとファーストレディーのヒルデ)等、一見の価値あり。
また本作は先の時間軸を取っていることから、モビルスーツの技術はほぼ失われた世界観となっている。しかし人型兵器は登場し、今大半は別のルーツを持つ「マーズスーツ」と呼称される。ただし一部埋蔵されていた機体や技術を復元したものは、開発したドクトルTらによって「モビルスーツ」と呼ばれている。内容は映像作品から数十年後の「マーズ・センチュリー」の時代を描いた作品で、ガンダムパイロットの波乱万丈なその後、新たな兵器(マーズスーツ)VS旧兵器(モビルスーツ)の戦い、そして若き後継者達の活躍を描いている。
2023年には『ガンダムエース』8月号にて『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop 静寂の終曲(フィナーレ)』のコミカライズ化が決定。これはFTのその後を描いたショートエピソードである。
主な登場人物
主人公。唯一他のメンバーと違ってコールドスリープしていたため年を取っていない。新たなガンダムである白雪姫に搭乗し、かつてのようにリリーナを「殺す」ために行動を開始する。
- ファザー・マックスウェル(デュオ・マックスウェル)
かつてのデュオ。戦後に平和に馴染めず生活や性格が荒れ、不義理な行動を取り続けるも、最終的に後継者や守るべきものを得て更生していく。
- ドクトルT(トロワ・バートン)
かつてのトロワ。自身に昔の名前を与えてくれたドクトルSの名前にあやかって付けられていると見られる。ちなみにTはトリトンのと読む。キャスリンとともにサーカスの興行を行っていたが、戦乱の機運を感じてガンダムの必要性を悟り、エンジニアとしての才能を活かして開発(復元)を実行に移す。相変わらず寡黙だがかつてと比べると温和になったとされ、さらにじじい呼ばわりされてムッとするなど感情がわかりやすくなった。
- W教授(カトル・ラバーバ・ウィナー)
かつてのカトル。ドクトルTとおなじく縁のあるH教授の名前を借りている。それぞれが年月の経過から容姿が老けたことが描写される中、彼だけは青年として描かれる。
- 老師・張(張五飛)
かつての五飛。ヒイロを除けば老いてなおバリバリの現役でMSパイロットをこなす化け物。かつてのガンダムエピオンをエピオンパイとして復元し、自ら搭乗する。
火星連邦政府
- リリーナ・ピースクラフト
- キュレネの風(ミリアルド・ピースクラフト)
- ルクレツィア・ピースクラフト(ルクレツィア・ノイン)
- ディズヌフ・ノイエンハイム
ラナグリン共和国
- ヴァン・クシュリナーダ
- ゼクス・マーキス上級特佐
- ステラ・ノベンタ
- ヒルデ・シュバイカー
地球圏統一国家
トレーズ・ファイル
- トレーズ・クシュリナーダ
- アイン・ユイ
- アンジェリーナ・クシュリナーダ
- サンカント・クシュリナーダ
- アオイ・クラーク
- セイス・クラーク
ピースクラフト・ファイル
- カテリナ・ピースクラフト
- サブリナ・ピースクラフト
- 指導者ヒイロ・ユイ
- マルティクス・レクス
- エリック・シャーゴールド
- ジェイ・ヌル(ドクターJ)
- D・D(プロフェッサーG)
- ソルシエール(ドクトルS)
- ヘンリー・フィーア(H教授)
- 呉王龍(老師O)
- トマス・カラント
- ヒカル・ユイ
ゼクス・ファイル
主な登場メカニック
表記揺れ
考察①EWとの設定の矛盾について
注意:この欄は、この記事を読んでいる読者による考察である。
『EW』の結末において「その後の歴史においてガンダムを含むモビルスーツと名の付く兵器が登場することはなかった」とされている。しかし本作で再びモビルスーツの登場により、その結末と矛盾しているのではないかと度々議論になるが、以下の諸説が考えられる。
- EWとは別時系列
本作自体が『EW』とは世界観が別であり、漫画版『敗者たちの栄光』の続編である可能性がFT最終巻の後書きに示唆されている。実際にリーブラをウイングゼロで破壊するミッションでTV版とEW版ともにツインバスターライフルであったが、『敗者たちの栄光』ではドライツバークバスター・ドッペルトでの破壊であった。このように敗者たちの栄光オリジナル展開も描かれているために、EWと世界観が同一でない可能性が高い。
- 黒歴史との関連性
『黒歴史』とは『∀ガンダム』に登場する用語であり、太古に封印された宇宙戦争の歴史を指している。その宇宙戦争の歴史とは『宇宙世紀』シリーズのみに留まらず、『アナザーガンダム』も含まれている。つまり最終的に全ガンダムシリーズは全て∀ガンダムの月光蝶に滅ぼされる運命であると公式によって定められている(具体的に述べれば、アフターコロニーの世界にモビルスーツである∀ガンダムが出現して、月光蝶で滅ぼされる展開である)。この「黒歴史」の世界観を背景とする∀ガンダムの登場によりEWの結末は否定される結果となった。
そのために本作では「マーズ・センチュリー」の新時代に移行する。その後の歴史を「アフター・コロニー」の旧時代であると解釈すれば、黒歴史とEWとの矛盾を解消するに至ることもできる。
- プリベンターの設定
プリベンターとはA.C.196年に発足された地球圏統一国家に置かれた秘密情報部である。
戦争の火種となりえる争いが発生すれば、秘密裏に『火消し』という名の鎮圧を目的とした組織である。トレーズ率いる世界国家軍とミリアルド率いるホワイトファングとの闘い『EVE WARS』が終結後、すでに世界では軍備縮小に向けて動き出していた。しかしプリベンターは トールギスⅢ、トーラスといった戦闘兵器『MS』を保有していたためマリーメイア軍のクーデターにも対処することが可能であった。
そのために今後も歴史上にMSが登場しないだけであって、プリベンターが戦争を未然に防ぐため、極秘にMSを保有し続けるのは十分に考えられると推測できる。
考察②作中に登場する機体はモビルスーツ?マーズスーツ?
ガンダムW世界観におけるモビルスーツとは「建設および工業労働用有腕式拡充型(宇宙)服」の総称である。一方でマーズスーツとは「火星作業用機械MTF《マーズ・テラ・フォーマー》」を戦闘用に改造した二足歩行機械の総称である。そのためにモビルスーツとマーズスーツでは開発ルーツが異なる。
EW以後の世界では全てのモビルスーツ技術を廃棄したために、FTに登場するMSはマーズスーツとなる。しかし《白雪姫》等は、解体された状態であったガンダニュウム合金製のMSを復元した機体であるために、作中では「モビルスーツ」と呼ばれている。
つまりAC歴で開発されたモビルスーツ由来の機体は全て「モビルスーツ」、火星圏で開発された機体を「マーズスーツ」と区別するのが通説である・・・はずだが、デアゴスティーニ刊『週刊モビルスーツ・バイブル』の開発系図には《白雪姫》はマーズスーツと紹介されている。
一方で『GUNDAM FIX FIGURATION METAL COMPOSITEウイングガンダムスノーホワイトプレリュード』の商品紹介ページにおいて、FTの作品解説がされており、そこでは「ヒイロがモビルスーツの《白雪姫》を駆り出撃する」と紹介されており、設定の不透明さが際立つ。
ただ、『週刊モビルスーツ・バイブル』の解説によると、《ウイングガンダムスノーホワイトプレリュード》を改修(発展)して《ウイングガンダムプロトゼロ1号機》となり、さらにFTに登場した《白雪姫》に繋がると紹介がある。しかしEW世界における全てのガンダムの原型機はウイングガンダムプロトゼロと説明があるので、この解釈には矛盾がある。一方でGUNDAM FIX FIGURATION METAL COMPOSITEの商品紹介ページにはFTの著者の元、サンライズの監修によりウイングガンダムスノーホワイトプレリュードの企画が動いたと説明があり、こちら側の情報の方が信憑性は高いであろう。
現状の情報源では、作中の登場人物が各々明言した通り(ドクトルTが4機のガンダムはモビルスーツである、一方でラナグリン共和国が保有する機体は作中でマーズスーツと呼ばれる)に受け取るのが賢明であろう。