ミュージカル
みゅーじかる
分類
この舞台芸術は歌、芝居、ダンス等が一体となった演出を伴うものであり、舞台での演劇や、場合によっては映像化され映画およびテレビメディア等となったものを指す。エンタメ大国であるアメリカ合衆国で盛んな芸術表現のひとつで、ハリウッドでは現在でもミュージカル映画が制作され、「glee」のようなTVドラマも放送されており、ブロードウェイの舞台が代名詞として有名である。
一方、アニメの世界ではディズニーがこの形式を受け継いだ作品を継続して制作しており、現在日本でもっとも親しまれているのはおそらくこのディズニーのアニメ映画だろうと推測される。
なお、優れたミュージカル作品に与えられる著名な演劇賞に「トニー賞」が存在している。
歴史
起源は紀元前530年頃に始まったギリシャ劇とされている。
これは酒と演劇の神ディオニュソスに芸術を捧げる崇拝の儀式だが、どちらかというとコンテストに近かったらしい。
元々は合唱隊が歌うだけに留まったが、俳優が台詞を交えながら歌うようになった。
ミュージカルの起源は演劇であるという定説を裏付けるエピソードである。
そんなギリシャ劇を復興するムーブメントがルネサンス末期に興った。
王侯貴族の寵愛を受けていた芸術家たちはギリシャ劇を音楽劇としてリブートした。
これがオペラの起源である。
元々オペラは悲劇が中心だったが、次第に合間合間に喜劇が挿入されるようになった。
このコメディパートがフランスでオペラコミックとして独立し、イタリアやイギリスでも支持を得るようになる。
オペラコミックとオペラの差は、オペラではセリフにおいてもレチタティーヴォと呼ばれる旋律的なものを用いるのに対し、オペラコミックでは歌以外の台詞が挿入されている。
やがてオペラコミックは庶民に波及し、19世紀後半にはオーケストラやダンサー、ドイツ語の歌詞、台詞劇から成るオペレッタが生まれた。
やがてオペレッタはアメリカに渡り、ニューオリンズで行われていたショー的な要素と自由さ、英語の歌詞に置き換わり、この舞台芸術が完成した言われている。
オペラ等と異なる点は、この芸術は音楽を重要視するのではなく、それよりもダンスや動作などを重要視していること、幕数(場面が変化する場面)が基本的に2とオペラ等に比べ少ない(オペラの場合、正式なものであると三幕から五幕、小作品でも二幕から一幕)ことが挙げられる。
また、「歌によってドラマが進行する」のがオペラで「ドラマの結果としての感情を歌に託する」のがミュージカルという意見も存在する。
日本における状況
音楽を利用して芝居をする分野は決して最近のものではなく、能や歌舞伎が大衆的人気を得ていた。近代以降はこれらが裕福層の娯楽に置き換わってしまう。
西洋式ミュージカルが日本に持ち込まれたのは1963年のマイ・フェア・レディであり、江利チエミと高島忠夫が主演で演じられた。実はカーテンコールの発祥もこの作品である。
やがて1971年には劇団四季がミュージカルを手掛けるようになり、日本最大のミュージカル劇団として拡大していくことになる。
日本国内の上演形式は上述の劇団四季や宝塚歌劇団、音楽座、フォーリーズと言った劇団形式と東宝や梅田芸術劇場、ホリプロと言った製作会社によるプロデュース方式が中心。
専用劇場を持つ劇団四季はロングラン方式を採用しているのに対し、ほとんどのミュージカルは最大でも1か月程度で上演終了してしまうことが多い。
これは劇場やホール等の公共施設は世界的に見ても非常に潤沢である一方、契約期間が週または月単位であることが原因。
そのためロングラン公演を利用して手直しをすることが難しく、次回の上演まで年単位のスパンが空いてしまうことも少なくない。
但し全国ツアーが行われることも多く、演目によっては半年近く全国を回って上演されることも。
ミュージカルの中心地は東京と大阪が中心なのでそれ以外の地域に住むファンからすれば有難いのだが、地域によっては上演期間が1週間程度と短く早々にチケットが売り切れてしまうことがある。
歌詞については原点よりも改悪されているという声が上がっている。
その理由は日本語と印欧言語の音の違いを修正しきれないため。
そもそも日本語は文字に有利である一方、音となると印欧言語と比較して伝えられる情報が制限されてしまう。そのため日本語訳の担当者は如何に音節に日本語を付与するかに頭を悩ませることになる。
歌詞の意味の制限から日本のミュージカル役者は演技力に比重が置かれやすく、実際井上芳雄はモーツァルト!での経験からミュージカルは歌唱力だけでは成り立たないとコメントしている。
またブロードウェイと比較してそもそもの観劇人口が少なく、ダブルキャスト制を取り入れることが多い。
これは役者の体調管理と、役者による表現のパターンを増やすことで観客動員を促進させるため。
後述するように日本独自のシステムだが、ミス・サイゴンの日本初演や2021年版のマイ・フェア・レディ等不慮の事態に備えることができるのもメリットか。
お笑い芸人やアイドルが採用されることもあるが、特にブロードウェイ初出作品はオリジナルスタッフがオーディションに関わっているため、知名度だけで採用されているわけではないことは念頭に置いておきたい。
本田美奈子など、まさかの人材が発掘されることも。
しかしながら日本もミュージカルのローカライゼーションに努めてきた。
古くは1974年、宝塚歌劇団がベルサイユのばらを上演、当初こそは批判の声もあったが、その圧倒的なクオリティに空前絶後のベルばらブームを巻き起こした。
実は宝塚歌劇団こそが、後の2.5次元ミュージカルの走りだったのだ。
代表例である「テニスの王子様」のミュージカル(テニミュ)は大成功を収め、独立した人気を博して以降、人気漫画やゲーム等を原作としたミュージカルが2000年代後半以降盛んに作られるようになった。
また漫画原作のグランドミュージカル化も進んでおり、銀河鉄道999や北斗の拳などが挙げられる。
北斗の拳は2022年に中国での上演が予定されている他、2023年3月にはSPY×FAMILYの上演が予定されている。
また、ハリウッド映画の「レ・ミゼラブル」、ディズニーのアニメ映画「アナと雪の女王」、実写版「美女と野獣」(興行収入120億円)、「ラ・ラ・ランド」(40億円)など、ハリウッド映画という枠の上ではあるがミュージカル映画も大きな興行収入をあげている。
日本国外の状況
ブロードウェイ・ウエストエンド
ミュージカルの本場と言えば、アメリカ・ニューヨークのブロードウェイ、そしてイギリス・ロンドンのウエストエンドである。
一度上演されたら収益が落ちるまで興行されるロングラン方式を採用している。その一方で上演初日でも収益が上がらなかったら即上演終了である。しかしながらすぐブロードウェイで上演されるわけではなく事前に地方公演を行い、観客の反応から少しずつ手直しを行う。楽曲やストーリーは勿論、大規模なリストラが実施されることも。この地方公演でブロードウェイでの上演が見込めると判断された作品だけが生き残る厳しい世界である。そのため公演の質が世界一高い地区であると言われている(どっちが上かはもはや好みの問題と言われる)。実はロングラン公演が成功する作品も極僅かで、『オペラ座の怪人』『キャッツ』『レ・ミゼラブル』など、ほんのわずかな傑作だけがその栄誉にあずかる。
ミュージカル市場や人気が世界で最も大きいのはアメリカである。ブロードウェイを擁するニューヨーク以外にも、ロサンゼルス、シカゴ、ラスベガス等の市場規模の大きい大都市がいくつもあるため、市場規模は他国の追随を許さない。
また、演劇のみならず映画においても、いわゆる「MGMミュージカル」をはじめとする作品群が一世を風靡した40~50年代以来、ミュージカルの人気は非常に高い。
このように国民が広く深くミュージカルに親しんでおり、劇場街ではなく国から「ミュージカルの本場」を選ぶとするなら、やはりアメリカであるとする意見が強い。実際観客の7割が観光客である。
ウエストエンドを擁するイギリスは、実はアメリカに比べるとミュージカルの歴史はかなり浅い。巨匠キャメロン・マッキントッシュによれば、むしろ70年代頃までは「イギリス人がミュージカルとかwww」と嘲笑されることもあるほど、ミュージカル不毛の土地であった。
しかし、マッキントッシュをはじめとする才能あふれる人々の尽力によってレベルが上がり、80年代に『レ・ミゼラブル』『キャッツ』を世に送り出したことでミュージカル先進国の座に就いた。イギリスにおけるミュージカルはいまや一大産業である。
他国のミュージカルファンにとってこれら2地区でのミュージカル鑑賞は共通の夢であり、安からぬ旅費・観劇費を費やしてでも、観劇旅行を敢行する人が多い。
しかしどちらも制作費の高騰化(ディズニーや実写映画のミュージカル化により、ライセンス料がのしかかったため)により、近年はミュージカルスターを主役に起用して収益を確保している。
キャストは本役の他にアンダースタディと呼ばれる代役が存在する。彼らは本役が何らかの理由により出演できなくなった場合の代役である。
これは公演に穴を空けないための策であり、新人役者からすれば大いなるチャンスでもある。
...のだが、裏を返せば「本役に支障がなければ出番はない」ことでもあり、日の目を見るアンダースタディは少ない。
アジア
アジアでは市場規模こそ日本がトップだが、より盛んなのは韓国とフィリピンと言ってよい。
韓国ではミュージカル人気が高く、小説など他メディアでの人気作品のメディアミックスとして、ミュージカルが頻繁に製作されている。オリジナル作品も盛んに製作されているほか、日本をはじめとする海外作品のミュージカル化なども行われる。最近では、K-POPアイドル人気に当て込んだ、アイドル主演のミュージカルも多い。
フィリピンは、米英で人気を博した作品の上演がとにかく早く、実力派のキャストを輩出している。
名作『ミス・サイゴン』で主演を務め大人気を博したレア・サロンガ(アラジンのジャスミンの歌唱パートも担当)をはじめとして、ブロードウェイやウエストエンドの第一線で活躍できるほどの実力を備えたキャストが自国内でも出演しているためである。
その他ヨーロッパ諸国
実はイギリスを除くヨーロッパ諸国では独自のミュージカル文化が存在しない国も存在する。
近年台頭しているのがオーストリアのウィーンを中心に展開しているミュージカル。エリザベートやモーツァルト!等一部日本で上演された作品も存在する。
製作はウィーン劇場協会が一括管理している。
音楽の都と称されるだけあって楽曲のクオリティは非常に高く、歌唱力に定評のある歌手でさえも困惑するほどの難易度を誇る。
また作風も喜劇的な作品が多いブロードウェイ・ウエストエンド初出作品とは真逆であり、バッドエンド率が高い。
ゴシックな世界観や要所に出現するヨーロッパの陰、概念の擬人化など何処となくダークファンタジー的な雰囲気が漂う。
尚恋愛描写は少ない傾向にある。
フランスもまたミュージカルのローカライゼーションが比較的最近進んだ地域であり、代表作は1789-バスティーユの恋人たち-やロミオとジュリエットである。
上述した地域とは大きく異なるのがキャスト。実は「歌手」「ダンサー」「役者」にそれぞれ分担されている。
それぞれ突出したプロフェッショナルとも言え、クオリティを担保している。文楽の三業一体みたいなものか。
また大掛かりな舞台装置やアクロバティックなダンスを特徴とするスペクタクルミュージカルとも呼ばれている。
このような独自路線はグランド・オペラに端を成すものである。
特に有名な漫画原作のミュージカル作品
※宝塚歌劇団のものは除く。
日本で有名なミュージカル作品
※この中には複数の劇団で上演されている作品も存在する。
【劇団四季系】
【東宝ミュージカル系】
【宝塚歌劇団系】
【その他】